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第二部
42:年明けに潜む者
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クリスマスが過ぎると次は何があるだろうか?
――――――――そう、年明けである。
まさにこの時期はお正月になるわけだが、クリスマス同様この世界にはもちろんそういう行事は存在していない。
シノ的には色々と行事を取り入れても何かと面倒だと思ったのか、お正月は別に取り入れていないのだがその代わり、村では三百年以上続いている年明けの祭事があった。
それが行われる場所は、村外れにある小さな洞窟。シノが以前、あの設定集に載っていた魔法の試し撃ちをしていた場所だ。
「今年もどうぞよろしくお願い致します、シノさん」
「はい。恙無く行わせて頂きますね」
そして、その祭事の進行を務めるのが他でもないシノ自身だ。大精霊に対してこの一年の安寧を祈るといった内容で、彼女は巫女のような役割を担っている。
ちなみにこれはクラド村だけの風習ではなく他の村や街でも行われており、大精霊というのはそれだけ敬われている存在ということだろう。
「やはり大精霊様は偉大な存在なのですね。私も精進しなければ!」
「その時は、私がリエルに祈りを捧げる立場になっちゃうねー」
「な、なんだかそう考えると逆に私が恐れ多いような気がしてきます……」
元いた世界では神様だの仏だの言われても、実体がないので胡散臭さの塊のような感じだったが、ここでは大精霊がそれに該当するため、その存在が実感できる。
姿こそ見たことはないにせよ世界の原作者である自分が作ったも同然なのだし、居ない者に祈りを捧げているわけではない。
(やっぱりここは、村の中とは違って独特の空気が漂ってるよね)
紅白の巫女装束を纏って祭事場を訪れていたシノはそんな感想を抱く。周囲には村長を含む関係者数人がおり、準備を進めていた。
居るのはそれだけではなく、洞窟奥の広場には数十人ほどの見物人の姿もある。もちろん何人かの冒険者に護衛を頼んではいるのだが、そうしてまで見に来るだけの価値はあるということか。
広場の中央には小さな祭壇が築かれており、それを囲むように地水火風の大精霊を象った石像が置かれている。普段は何もない円形の空間はいつしか神聖な空気に満ち溢れていた。
「それでは、今年の祝詞の儀を執り行います」
村長の言葉に一同は頷くと、儀式を行うためそれぞれの配置へとつく。一人ずつが石像の前で片膝をついて手を組み、祈るような姿勢をとった。
シノは祭壇の真正面に立ち、村長はその後ろで神社で神主などが使っているアレ――――――神楽鈴のような棒を頭上で構えている。
やがて儀式が始まると、シノの言葉と共に一定のリズムで村長が棒を振るって音を鳴らし始めた。
「人を支えし大地よ。命を抱く水よ。文明を起こす火よ。癒しを運ぶ風よ。此度の一年も全ての人々を、どうか見守り下さい……」
鈴の音と共に、透き通った声が洞窟の広場へとしばらくの間響き渡る。
彼女はただ言葉を発しているわけではなく、声に魔力を宿らせているので、言葉が続くたびに地水火風それぞれの石像が淡い光を放っていた。
その光景を、周囲の人達はただただ息を呑んで見守っている。特にシノに関しては儀式の間ずっと儚くも美しい表情をしていたため、男性陣はそれに見とれていたようにも思える。
というか、シノが男性陣から告白を受ける要因の一つはこれであるといえるかもしれない。普段の彼女とはまるで別人かのような雰囲気だ。
「それでは……」
言葉を終えたシノは一礼の後、祭壇に置かれていた盃を手に取るとその中身を一気に飲み干した。中身はお神酒のようなもので、この儀式の為だけに仕込まれた特別なものであり、凄まじく強い酒になっている。
話によると五十度超えは下らないとのことで、彼女は一番最初にこの儀式を担当した際にぶっ倒れてしまったらしい。今でこそ慣れはしたが、普通の人が飲んでいいようなものではないと思う。
やがてシノは顔色を変えないまま盃を元の位置へ戻すと大きく息をつき、皆を振り返って再度一礼してみせた。
「ありがとう御座いました。これでこの年も、クラド村は大精霊の加護によって守られることでしょう」
儀式が終わった後に関係者や見物人から拍手が起こり、彼女はそれに笑顔で応える。ちょっと顔に赤みが差している気もするが、多分大丈夫だろう。
そんな中、見物人の一人であったリエルがシノの元へと一目散に駆け寄ってきた。
「シノさん! すっごく綺麗でした! まるで女神様のようでしたっ!」
「あ、ありがとうリエル……改めて言われると、なんだか恥ずかしいなぁ」
「そんなことありませんよ! シノさんは今この瞬間、間違いなく誰よりも綺麗です!」
よほど儀式の巫女姿が気に入ったのか、嵐のような勢いで褒められてシノは思わず照れてしまう。神聖な儀式なのでどうしてもあんな風になってしまうのだが、それが普段の彼女とのギャップを生んでしまっているのだろうか。
気持ちが抑えきれないリエルはとりあえずなだめておき、シノは皆と一緒に洞窟を後にした。
それから一度村長の家へ寄ると、奥さんに手伝われながら巫女装束を片付ける。また来年の出番の時まで眠ることになるだろう。
「毎年シノさんに引き受けて頂いて、申し訳なく思えてしまいますわねぇ」
「いえいえ。私も好きでやっているようなものなので」
「そう言って頂けると幸いですよ。それでは、お気を付けてお帰りください」
そうして村長夫妻に見送られると、シノは森の訪れへと足を運んだ。
リエルは先に行ってしまったようで、いつものように店の手伝いをしていることだろう。
「ただいまー! 巫女様のお帰りだよー」
店に着いたシノは、開口一番テンション高めにそう言ってみせる。顔に出てないだけで、実は普通に酔っているのではないだろうか?
が、特に誰も気にしていないようで、皆も普通の対応を返してきた。こういうことにはもはや慣れっこのようだ。
「お勤めお疲れ様でしたシノさん。もうすっかり巫女が板についてきた感じですか?」
「何十年もやってるとさすがに、ね。あのどギツイお酒だけは覚悟がいるけれども」
シノはそう言いつつ苦笑交じりに、ローザから受け取った酔い覚まし用の飲み物を飲んでいる。あのようなお酒を一気に飲んでおきながら、ワリと平然としている彼女も彼女でどうかとは思うのだが。自分がこの村。もといこの世界に来る前まで巫女を務めていた人は大変だったのかなぁなんてたまに考えたりもする。
「大精霊様に、きっと祈りは届いていますよ。私が言うのですから間違いありません!」
「まさにその大精霊に属する子がいるんだから説得力はあるよねー」
「これなら、今年のクラド村はより一層安泰になりそうですね!」
つい去年までは魔物避けの結界もなかった村だが、今年になって結構変わったのが実感できる。そこへ更に精霊の守りが加わったとなれば一安心といったところか。
年始めの昼下がり。森の訪れには少し安心の色が増えたいつも通りの風景が流れていくのだった。
◇
一方その頃。クラド村から少し離れた街道を歩いている小さな人影があった。
黒いマントにフードを頭までかぶっているため顔はわからないが、それが謎の威圧感を感じさせている。
「結局、あの街にも居なかったわね……」
溜め息交じりの声は幼い少女のようで、十代前半の子どもだといっても違和感がない。本当に子どもだったら危ないのだが、本人はなんてことない様子。
その人物は、後方にジェネスの街が見える中しばらく歩いていたのだが、ふいにその足を止めた。
「ん……? この感じは、まさか……!」
何かを感じ取ったのか、その人物は神妙な様子で前方を見据える。その先に見えているのは、もちろんクラド村。
しかし、村に張ってある結界に反応したというわけではなさそうだ。それならジェネスにだって張ってあるのだしこんな反応はしないだろう。
「こんな辺境の地に来てたとはね……わざわざ王都まで行くんじゃなかったわ」
どうやらこの人物は何かを探すために王都まで足を延ばしていたらしい。だとすれば、とんだ回り道だったに違いない。
だが、さっきの溜め息をチャラにでもするかのようにクックックと含み笑いをしてみせると、
「――――――ようやく追いついたわよ、リエル!!!」
リエルの名を口にしたその人物はすぐさま走り出し、クラド村を一直線に目指していくのであった。
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まさにこの時期はお正月になるわけだが、クリスマス同様この世界にはもちろんそういう行事は存在していない。
シノ的には色々と行事を取り入れても何かと面倒だと思ったのか、お正月は別に取り入れていないのだがその代わり、村では三百年以上続いている年明けの祭事があった。
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そして、その祭事の進行を務めるのが他でもないシノ自身だ。大精霊に対してこの一年の安寧を祈るといった内容で、彼女は巫女のような役割を担っている。
ちなみにこれはクラド村だけの風習ではなく他の村や街でも行われており、大精霊というのはそれだけ敬われている存在ということだろう。
「やはり大精霊様は偉大な存在なのですね。私も精進しなければ!」
「その時は、私がリエルに祈りを捧げる立場になっちゃうねー」
「な、なんだかそう考えると逆に私が恐れ多いような気がしてきます……」
元いた世界では神様だの仏だの言われても、実体がないので胡散臭さの塊のような感じだったが、ここでは大精霊がそれに該当するため、その存在が実感できる。
姿こそ見たことはないにせよ世界の原作者である自分が作ったも同然なのだし、居ない者に祈りを捧げているわけではない。
(やっぱりここは、村の中とは違って独特の空気が漂ってるよね)
紅白の巫女装束を纏って祭事場を訪れていたシノはそんな感想を抱く。周囲には村長を含む関係者数人がおり、準備を進めていた。
居るのはそれだけではなく、洞窟奥の広場には数十人ほどの見物人の姿もある。もちろん何人かの冒険者に護衛を頼んではいるのだが、そうしてまで見に来るだけの価値はあるということか。
広場の中央には小さな祭壇が築かれており、それを囲むように地水火風の大精霊を象った石像が置かれている。普段は何もない円形の空間はいつしか神聖な空気に満ち溢れていた。
「それでは、今年の祝詞の儀を執り行います」
村長の言葉に一同は頷くと、儀式を行うためそれぞれの配置へとつく。一人ずつが石像の前で片膝をついて手を組み、祈るような姿勢をとった。
シノは祭壇の真正面に立ち、村長はその後ろで神社で神主などが使っているアレ――――――神楽鈴のような棒を頭上で構えている。
やがて儀式が始まると、シノの言葉と共に一定のリズムで村長が棒を振るって音を鳴らし始めた。
「人を支えし大地よ。命を抱く水よ。文明を起こす火よ。癒しを運ぶ風よ。此度の一年も全ての人々を、どうか見守り下さい……」
鈴の音と共に、透き通った声が洞窟の広場へとしばらくの間響き渡る。
彼女はただ言葉を発しているわけではなく、声に魔力を宿らせているので、言葉が続くたびに地水火風それぞれの石像が淡い光を放っていた。
その光景を、周囲の人達はただただ息を呑んで見守っている。特にシノに関しては儀式の間ずっと儚くも美しい表情をしていたため、男性陣はそれに見とれていたようにも思える。
というか、シノが男性陣から告白を受ける要因の一つはこれであるといえるかもしれない。普段の彼女とはまるで別人かのような雰囲気だ。
「それでは……」
言葉を終えたシノは一礼の後、祭壇に置かれていた盃を手に取るとその中身を一気に飲み干した。中身はお神酒のようなもので、この儀式の為だけに仕込まれた特別なものであり、凄まじく強い酒になっている。
話によると五十度超えは下らないとのことで、彼女は一番最初にこの儀式を担当した際にぶっ倒れてしまったらしい。今でこそ慣れはしたが、普通の人が飲んでいいようなものではないと思う。
やがてシノは顔色を変えないまま盃を元の位置へ戻すと大きく息をつき、皆を振り返って再度一礼してみせた。
「ありがとう御座いました。これでこの年も、クラド村は大精霊の加護によって守られることでしょう」
儀式が終わった後に関係者や見物人から拍手が起こり、彼女はそれに笑顔で応える。ちょっと顔に赤みが差している気もするが、多分大丈夫だろう。
そんな中、見物人の一人であったリエルがシノの元へと一目散に駆け寄ってきた。
「シノさん! すっごく綺麗でした! まるで女神様のようでしたっ!」
「あ、ありがとうリエル……改めて言われると、なんだか恥ずかしいなぁ」
「そんなことありませんよ! シノさんは今この瞬間、間違いなく誰よりも綺麗です!」
よほど儀式の巫女姿が気に入ったのか、嵐のような勢いで褒められてシノは思わず照れてしまう。神聖な儀式なのでどうしてもあんな風になってしまうのだが、それが普段の彼女とのギャップを生んでしまっているのだろうか。
気持ちが抑えきれないリエルはとりあえずなだめておき、シノは皆と一緒に洞窟を後にした。
それから一度村長の家へ寄ると、奥さんに手伝われながら巫女装束を片付ける。また来年の出番の時まで眠ることになるだろう。
「毎年シノさんに引き受けて頂いて、申し訳なく思えてしまいますわねぇ」
「いえいえ。私も好きでやっているようなものなので」
「そう言って頂けると幸いですよ。それでは、お気を付けてお帰りください」
そうして村長夫妻に見送られると、シノは森の訪れへと足を運んだ。
リエルは先に行ってしまったようで、いつものように店の手伝いをしていることだろう。
「ただいまー! 巫女様のお帰りだよー」
店に着いたシノは、開口一番テンション高めにそう言ってみせる。顔に出てないだけで、実は普通に酔っているのではないだろうか?
が、特に誰も気にしていないようで、皆も普通の対応を返してきた。こういうことにはもはや慣れっこのようだ。
「お勤めお疲れ様でしたシノさん。もうすっかり巫女が板についてきた感じですか?」
「何十年もやってるとさすがに、ね。あのどギツイお酒だけは覚悟がいるけれども」
シノはそう言いつつ苦笑交じりに、ローザから受け取った酔い覚まし用の飲み物を飲んでいる。あのようなお酒を一気に飲んでおきながら、ワリと平然としている彼女も彼女でどうかとは思うのだが。自分がこの村。もといこの世界に来る前まで巫女を務めていた人は大変だったのかなぁなんてたまに考えたりもする。
「大精霊様に、きっと祈りは届いていますよ。私が言うのですから間違いありません!」
「まさにその大精霊に属する子がいるんだから説得力はあるよねー」
「これなら、今年のクラド村はより一層安泰になりそうですね!」
つい去年までは魔物避けの結界もなかった村だが、今年になって結構変わったのが実感できる。そこへ更に精霊の守りが加わったとなれば一安心といったところか。
年始めの昼下がり。森の訪れには少し安心の色が増えたいつも通りの風景が流れていくのだった。
◇
一方その頃。クラド村から少し離れた街道を歩いている小さな人影があった。
黒いマントにフードを頭までかぶっているため顔はわからないが、それが謎の威圧感を感じさせている。
「結局、あの街にも居なかったわね……」
溜め息交じりの声は幼い少女のようで、十代前半の子どもだといっても違和感がない。本当に子どもだったら危ないのだが、本人はなんてことない様子。
その人物は、後方にジェネスの街が見える中しばらく歩いていたのだが、ふいにその足を止めた。
「ん……? この感じは、まさか……!」
何かを感じ取ったのか、その人物は神妙な様子で前方を見据える。その先に見えているのは、もちろんクラド村。
しかし、村に張ってある結界に反応したというわけではなさそうだ。それならジェネスにだって張ってあるのだしこんな反応はしないだろう。
「こんな辺境の地に来てたとはね……わざわざ王都まで行くんじゃなかったわ」
どうやらこの人物は何かを探すために王都まで足を延ばしていたらしい。だとすれば、とんだ回り道だったに違いない。
だが、さっきの溜め息をチャラにでもするかのようにクックックと含み笑いをしてみせると、
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