44 / 69
第二部
43:傲慢な来訪者
しおりを挟む
いつもであれば昼過ぎの時間帯はあまり人がいない森の訪れなのだが、今日に限ってはそれなりに店内に人の姿がある。
元の世界でもこの世界でも、年の最初の日ぐらいはのんびり過ごしたいということだろう。別にお正月という文化はないけれども。
「ローザちゃん! 今年も美味い料理をよろしく頼むぜっ!」
「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」
今年もこの店に通う冒険者達の楽しみの一つは、きっと彼女の料理となるに違いない。ローザの返事を聞いた彼ら彼女らからは小さく歓声があがっていた。
「そういえば、ティエラさんはどこに行ったんでしょうか?」
そんな中、リエルがふと疑問を口にする。朝から姿を見かけていないし、祭事の見物人の中にもその姿はなかったからだ。彼女がわざわざ儀式を見にくるとも思えないけれども。
「あの子なら、隣街で買い出しがあるとか言って朝早くから出掛けて行ったよ」
「売るのも買うのも、手は抜かない方ですからねー……」
売る時は最大限に。買う時は最小限に。これこそが商人のモットーである。年明けでのんびりしているわけもなくいつも通りのティエラだったので安心した。
一人で出かけて行ったようだが、護身道具も持っているし魔法だって使えるので心配は無用だろう。行商人で留守の期間が多いとはいえ、彼女だって家への蓄えは必要だ。
「毎年、このぐらいの時期になると行商に出かけていくから、またしばらく会えなくなりそうだなぁ」
「そうなると、ちょっとだけ寂しくなりますねー……」
「職業柄仕方ないことなんだけどね」
せっかく知り合ったというのにもうすぐしばしの別れと知り、リエルはちょっと残念そうな顔になる。
そんな彼女を見てシノは肩を竦めてみせた。一年の半分は村に居ないような人物なのだから、むしろ今知り合えたことを幸運に思っておくべきかもしれない。
「今日は依頼もないし学校もないから、ティエラが戻ってくるまで暇になっちゃうなぁ」
「かといって家でゴロゴロしていたら、また誰かが飛び込んできそうな予感が……」
ちょっと前にファルマが訪問してきた事を思い出したのか、リエルが苦笑しつつ言う。あれはまさに平穏を引き裂く出来事だったが、今となってはいい経験と思い出となっている。
あれから悪い噂は聞いていないしその後は順調だとは思うが、またこちらから出向くことも考えておいたほうがいいだろうか。
そうしてしばらく物思いに耽っていたが、あまり入り浸り過ぎるのもよくないと思い、
「よし、たまには村の外に散歩でも――――――」
シノは席から立ち上がると、店の入り口へと目を向けた。それならばとリエルも続こうとしたその瞬間、
『――――――遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ!』
店の外から突然大きな声が聞こえ、驚いた二人は思わず立ち止まってしまった。ローザはもちろん、店内の皆も一体何事かとざわざわし始める。
声の方角からして村の中央からだろうか。幼い少女のような声だったが、その物言いにはどこか傲慢さが見え隠れしている気がした。
『私は火の大精霊イフリート様に仕えるが一人、セリア! 精霊リエルよ、この村にいるのであれば出てきなさいっ!』
続けて聞こえてきた言葉に、一同は更に驚いた。なんと声の主はリエルを名指ししてきたのだ。皆の視線が一斉に集まる中、件の彼女は神妙な面持ちをしていた。
「え!? リエルを名指しって、一体どういう――――――」
「……まさかっ!」
シノはすぐに事情を訊こうとしたのだが、その前にリエルは店を飛び出して行ってしまった。普段は見せない様子に呆気に取られてしまったが、我に返ったシノはその後を追う。
突然のことに理解が追い付かないローザは、困惑したような表情でその背中を見送るしかないのであった。
◇
急いで村の中央へとやってきたシノは、そこで対峙している二人の人物を目の当たりにする。
一人は先ほど店から飛び出していったリエルなのだが、問題はもう一人のほうだ。恐らく、先ほど大声で喋っていた人物に間違いないだろう。
「まさか追いかけてくるなんて思いませんでしたよ……セリアさん」
「ふんっ、わざわざ探し回った意味が少しはあったというものね」
広場の中央にある噴水のてっぺんに腰かけている人物――――――セリアと呼んだその少女をじっと睨みながら、リエルは言葉をかけた。
それに対して、若干傲慢っぽい物言いでセリアは返してみせる。どうやら、友人同士という感じではなさそうだ。
金髪のサイドテールに真紅の瞳。リエルより一回り小柄な体格をしており、赤いビキニアーマーのような格好の上から黒いマントを羽織っている。
見た目からして完全に子どものようなのだが、さっきの声の主だとするならば彼女も精霊なのだろう。
「スピリティアから出て行ったと思えば修行の旅だなんて……アンタは昔から、行動力だけは一人前よね」
「私は現状の自分に満足していないからこそ、精霊としての修行を決めたまでですよ! 故郷に甘んじているわけにはいきませんから」
リエルの物言いからすると、修行を志す者は意外にも少数派だということか。大多数の精霊はスピリティアで自由きままに暮らしていたりするのかもしれない。
まだ一、二か月ほどしか一緒に過ごしてはいないが、リエルがその少数派であることはいくらなんでもわかる。
だが、セリアはそんな彼女をどこかあざ笑っているかのように見えた。そしてその最中、追いかけてきたシノが到着する。
「はぁ……はぁ……急に飛び出していくから何事かと思ったよ……」
「ご、御免なさいシノさん」
「……それで、あそこに座ってる彼女は一体誰なの?」
「あの人はセリアさん。私の……先輩というかなんというか……」
シノの問いかけに対して、リエルは少しだけ言葉を濁した。なんだかハッキリと先輩とは認めたくないような感じだ。件の彼女からは相変わらず傲慢で嫌味な雰囲気が漂っているし、その気持ちは少しわかる気もする。
「失礼な奴ね。れっきとした先輩よ。セ・ン・パ・イ! 能力も半人前の上に、態度だって半人前なのかしら?」
セリアが発した言葉にちょっとむかっ腹が立った。それも、リエルではなくシノの方がだ。
彼女が頑張っているのはここ最近ずっと傍にいた自分が誰よりも知っているし、それを小馬鹿にされるのはさすがに黙っていられないのだろう。
「たとえ半人前でも、だからこそ頑張ってるんじゃない! あなたは既に力を持ってるのかもしれないけど、だからといって見下すのは頂けないよ」
「シ、シノさん。そんな庇って頂かなくても! セリアさんの方が強いのは事実なので……」
「だって、言わせたままだと悔しいじゃない!」
一応リエルも、先輩であるセリアの方が強いのは認めているようで、それを聞いた彼女は偉そうに胸を張ってみせた。
それと同時にセリアの興味は別なところへ向いたようである。視線をリエルからシノに移すと、品定めするような目つきで眺め始めた。
「ふーん……アンタ、ペリアエルフね? 風の噂程度にしか聞いたことはなかったけど、ほんとに居たなんて驚いたわ」
「お褒め頂いたようでどうも。私はシノ。この村で教師をしている冒険者だよ」
「教師って……生まれに対して、似つかわしくないんじゃないの?」
「誰が何になろうと勝手でしょ。私がやりたいからやってることなんだから」
「私がアンタの立場なら、種族を山車に掲げて玉の輿狙うぐらいやるんだけれどなー」
シノの素性を知ったセリアはそれを自分に置き換えて、実に欲望にストレートな意見を述べてみせる。若干呆れてしまったが、精霊にも色々な人物がいるということだろう。皆が皆、リエルのように根っからの善人なわけではないようだ。
それからしばらくシノの様子を観察していたセリアだが、何かを思い立ったのか噴水のてっぺんから飛び降りると彼女の目の前へと着地。
上げた顔には不敵な笑みが浮かんでおり、
「――――――よし決めた。シノ、私と勝負しなさいっ!!!」
そのままシノを指差しながら、そんなことを言い出したのである。事実上の決闘申し込みだ。
申し込まれた彼女は当然として、周囲で様子を見ていた村人からも驚きの声があがる。突然やってきておいて大声でリエルを呼びだしたと思ったら今度はシノに決闘の申し込みとは非常識にもほどがある。
これにはリエルが黙っていなかったようで、即座に二人の間に割って入った。
「な、何言い出してるんですかセリアさん! あなたは力はあっても常識がなさすぎます!」
「五月蠅いわねー……単純な興味よ。ペリアエルフが実際にどの程度強いのか見てみたいってだけ」
「でも初対面の人に決闘だなんて……」
「それともアンタは、彼女が負けるって思うほど信用してないわけ? 同じ村に住んでるのに?」
なんとか止めようとしたものの、上手い具合に煽ってきたセリアに対して二の句が継げなくなってしまう。
決闘をやめて欲しいと言っているのに何故シノが負ける前提の話になっているのかはリエル的にも納得いかないようだが。
どうせここでやめようとしてしまえば更に煽りを食らうに決まっているのだし、それならば――――――
「――――――いいよ。その申し出、受けてあげる」
「シノさんっ!?」
シノは決闘の申し出を承諾し、リエルは声を裏返らせながら驚いてしまった。彼女なら断ると思っていたので意外だったのだろう。このまま居座られて何か悪さをされても迷惑なだけだし、早く用事を終わらせて帰ってもらったほうがいいという考えだ。
返答を聞いたセリアは、ふふんと満足そうに笑っている。決闘が出来て嬉しいとは、実は戦闘狂だったりするんじゃないだろうか。ビキニアーマーといえば、ファンタジー世界では戦士がよく身に着けていた気がするし、通ずる何かがあるのかもしれない。
「話は決まったようね。アンタが勝ったら、私は大人しく引き下がってあげるわ。ただし――――――」
「……私が負けたら?」
「――――――リエルをスピリティアに連れ帰らせてもらうわっ!」
そしてなんとセリアが告げた勝敗後の条件は、その場がざわつくには十分な内容であった。
勝てば何事もなかったかのように収まるのだが、負ければリエルはこの村を去らなければならなくなったのだから。
ようやくクラド村の一員として馴染み始めた頃だったというのに、それはあまりにも可哀想だと思う。当然のように皆は抗議をするが、セリアは聞く耳をもたないようだ。これは勝負だから仕方がないということか。
リエルはシノの腕を掴んでまで心配そうな表情を向けてきていたが、
「大丈夫だよ。絶対に勝ってみせるから!」
自信満々にそう言われてしまっては引き下がる他なかった。ここで引き止めてしまえばそれこそセリアの言った通りになってしまう。
二人が頷いたのを確認したセリアはそれを肯定と受け取ったのか周囲を見回すと、
「ここだと村がめちゃくちゃになりかねないから、外でやるわよ。先に行って待ってるから」
そう言って村の入り口の方へと走って行ってしまった。村で戦うとマズいというのはとりあえず分かっているようで一安心だ。
シノもすぐに後を追うかと思われたが、一旦自宅の方へと足を向ける。相手がどんな手を使ってくるかもわからないのだし、準備は必要だろう。
こうしていつになく緊迫した空気が村を包み込む中、リエルの残留を賭けた戦いが幕を開けようとしているのであった。
元の世界でもこの世界でも、年の最初の日ぐらいはのんびり過ごしたいということだろう。別にお正月という文化はないけれども。
「ローザちゃん! 今年も美味い料理をよろしく頼むぜっ!」
「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」
今年もこの店に通う冒険者達の楽しみの一つは、きっと彼女の料理となるに違いない。ローザの返事を聞いた彼ら彼女らからは小さく歓声があがっていた。
「そういえば、ティエラさんはどこに行ったんでしょうか?」
そんな中、リエルがふと疑問を口にする。朝から姿を見かけていないし、祭事の見物人の中にもその姿はなかったからだ。彼女がわざわざ儀式を見にくるとも思えないけれども。
「あの子なら、隣街で買い出しがあるとか言って朝早くから出掛けて行ったよ」
「売るのも買うのも、手は抜かない方ですからねー……」
売る時は最大限に。買う時は最小限に。これこそが商人のモットーである。年明けでのんびりしているわけもなくいつも通りのティエラだったので安心した。
一人で出かけて行ったようだが、護身道具も持っているし魔法だって使えるので心配は無用だろう。行商人で留守の期間が多いとはいえ、彼女だって家への蓄えは必要だ。
「毎年、このぐらいの時期になると行商に出かけていくから、またしばらく会えなくなりそうだなぁ」
「そうなると、ちょっとだけ寂しくなりますねー……」
「職業柄仕方ないことなんだけどね」
せっかく知り合ったというのにもうすぐしばしの別れと知り、リエルはちょっと残念そうな顔になる。
そんな彼女を見てシノは肩を竦めてみせた。一年の半分は村に居ないような人物なのだから、むしろ今知り合えたことを幸運に思っておくべきかもしれない。
「今日は依頼もないし学校もないから、ティエラが戻ってくるまで暇になっちゃうなぁ」
「かといって家でゴロゴロしていたら、また誰かが飛び込んできそうな予感が……」
ちょっと前にファルマが訪問してきた事を思い出したのか、リエルが苦笑しつつ言う。あれはまさに平穏を引き裂く出来事だったが、今となってはいい経験と思い出となっている。
あれから悪い噂は聞いていないしその後は順調だとは思うが、またこちらから出向くことも考えておいたほうがいいだろうか。
そうしてしばらく物思いに耽っていたが、あまり入り浸り過ぎるのもよくないと思い、
「よし、たまには村の外に散歩でも――――――」
シノは席から立ち上がると、店の入り口へと目を向けた。それならばとリエルも続こうとしたその瞬間、
『――――――遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ!』
店の外から突然大きな声が聞こえ、驚いた二人は思わず立ち止まってしまった。ローザはもちろん、店内の皆も一体何事かとざわざわし始める。
声の方角からして村の中央からだろうか。幼い少女のような声だったが、その物言いにはどこか傲慢さが見え隠れしている気がした。
『私は火の大精霊イフリート様に仕えるが一人、セリア! 精霊リエルよ、この村にいるのであれば出てきなさいっ!』
続けて聞こえてきた言葉に、一同は更に驚いた。なんと声の主はリエルを名指ししてきたのだ。皆の視線が一斉に集まる中、件の彼女は神妙な面持ちをしていた。
「え!? リエルを名指しって、一体どういう――――――」
「……まさかっ!」
シノはすぐに事情を訊こうとしたのだが、その前にリエルは店を飛び出して行ってしまった。普段は見せない様子に呆気に取られてしまったが、我に返ったシノはその後を追う。
突然のことに理解が追い付かないローザは、困惑したような表情でその背中を見送るしかないのであった。
◇
急いで村の中央へとやってきたシノは、そこで対峙している二人の人物を目の当たりにする。
一人は先ほど店から飛び出していったリエルなのだが、問題はもう一人のほうだ。恐らく、先ほど大声で喋っていた人物に間違いないだろう。
「まさか追いかけてくるなんて思いませんでしたよ……セリアさん」
「ふんっ、わざわざ探し回った意味が少しはあったというものね」
広場の中央にある噴水のてっぺんに腰かけている人物――――――セリアと呼んだその少女をじっと睨みながら、リエルは言葉をかけた。
それに対して、若干傲慢っぽい物言いでセリアは返してみせる。どうやら、友人同士という感じではなさそうだ。
金髪のサイドテールに真紅の瞳。リエルより一回り小柄な体格をしており、赤いビキニアーマーのような格好の上から黒いマントを羽織っている。
見た目からして完全に子どものようなのだが、さっきの声の主だとするならば彼女も精霊なのだろう。
「スピリティアから出て行ったと思えば修行の旅だなんて……アンタは昔から、行動力だけは一人前よね」
「私は現状の自分に満足していないからこそ、精霊としての修行を決めたまでですよ! 故郷に甘んじているわけにはいきませんから」
リエルの物言いからすると、修行を志す者は意外にも少数派だということか。大多数の精霊はスピリティアで自由きままに暮らしていたりするのかもしれない。
まだ一、二か月ほどしか一緒に過ごしてはいないが、リエルがその少数派であることはいくらなんでもわかる。
だが、セリアはそんな彼女をどこかあざ笑っているかのように見えた。そしてその最中、追いかけてきたシノが到着する。
「はぁ……はぁ……急に飛び出していくから何事かと思ったよ……」
「ご、御免なさいシノさん」
「……それで、あそこに座ってる彼女は一体誰なの?」
「あの人はセリアさん。私の……先輩というかなんというか……」
シノの問いかけに対して、リエルは少しだけ言葉を濁した。なんだかハッキリと先輩とは認めたくないような感じだ。件の彼女からは相変わらず傲慢で嫌味な雰囲気が漂っているし、その気持ちは少しわかる気もする。
「失礼な奴ね。れっきとした先輩よ。セ・ン・パ・イ! 能力も半人前の上に、態度だって半人前なのかしら?」
セリアが発した言葉にちょっとむかっ腹が立った。それも、リエルではなくシノの方がだ。
彼女が頑張っているのはここ最近ずっと傍にいた自分が誰よりも知っているし、それを小馬鹿にされるのはさすがに黙っていられないのだろう。
「たとえ半人前でも、だからこそ頑張ってるんじゃない! あなたは既に力を持ってるのかもしれないけど、だからといって見下すのは頂けないよ」
「シ、シノさん。そんな庇って頂かなくても! セリアさんの方が強いのは事実なので……」
「だって、言わせたままだと悔しいじゃない!」
一応リエルも、先輩であるセリアの方が強いのは認めているようで、それを聞いた彼女は偉そうに胸を張ってみせた。
それと同時にセリアの興味は別なところへ向いたようである。視線をリエルからシノに移すと、品定めするような目つきで眺め始めた。
「ふーん……アンタ、ペリアエルフね? 風の噂程度にしか聞いたことはなかったけど、ほんとに居たなんて驚いたわ」
「お褒め頂いたようでどうも。私はシノ。この村で教師をしている冒険者だよ」
「教師って……生まれに対して、似つかわしくないんじゃないの?」
「誰が何になろうと勝手でしょ。私がやりたいからやってることなんだから」
「私がアンタの立場なら、種族を山車に掲げて玉の輿狙うぐらいやるんだけれどなー」
シノの素性を知ったセリアはそれを自分に置き換えて、実に欲望にストレートな意見を述べてみせる。若干呆れてしまったが、精霊にも色々な人物がいるということだろう。皆が皆、リエルのように根っからの善人なわけではないようだ。
それからしばらくシノの様子を観察していたセリアだが、何かを思い立ったのか噴水のてっぺんから飛び降りると彼女の目の前へと着地。
上げた顔には不敵な笑みが浮かんでおり、
「――――――よし決めた。シノ、私と勝負しなさいっ!!!」
そのままシノを指差しながら、そんなことを言い出したのである。事実上の決闘申し込みだ。
申し込まれた彼女は当然として、周囲で様子を見ていた村人からも驚きの声があがる。突然やってきておいて大声でリエルを呼びだしたと思ったら今度はシノに決闘の申し込みとは非常識にもほどがある。
これにはリエルが黙っていなかったようで、即座に二人の間に割って入った。
「な、何言い出してるんですかセリアさん! あなたは力はあっても常識がなさすぎます!」
「五月蠅いわねー……単純な興味よ。ペリアエルフが実際にどの程度強いのか見てみたいってだけ」
「でも初対面の人に決闘だなんて……」
「それともアンタは、彼女が負けるって思うほど信用してないわけ? 同じ村に住んでるのに?」
なんとか止めようとしたものの、上手い具合に煽ってきたセリアに対して二の句が継げなくなってしまう。
決闘をやめて欲しいと言っているのに何故シノが負ける前提の話になっているのかはリエル的にも納得いかないようだが。
どうせここでやめようとしてしまえば更に煽りを食らうに決まっているのだし、それならば――――――
「――――――いいよ。その申し出、受けてあげる」
「シノさんっ!?」
シノは決闘の申し出を承諾し、リエルは声を裏返らせながら驚いてしまった。彼女なら断ると思っていたので意外だったのだろう。このまま居座られて何か悪さをされても迷惑なだけだし、早く用事を終わらせて帰ってもらったほうがいいという考えだ。
返答を聞いたセリアは、ふふんと満足そうに笑っている。決闘が出来て嬉しいとは、実は戦闘狂だったりするんじゃないだろうか。ビキニアーマーといえば、ファンタジー世界では戦士がよく身に着けていた気がするし、通ずる何かがあるのかもしれない。
「話は決まったようね。アンタが勝ったら、私は大人しく引き下がってあげるわ。ただし――――――」
「……私が負けたら?」
「――――――リエルをスピリティアに連れ帰らせてもらうわっ!」
そしてなんとセリアが告げた勝敗後の条件は、その場がざわつくには十分な内容であった。
勝てば何事もなかったかのように収まるのだが、負ければリエルはこの村を去らなければならなくなったのだから。
ようやくクラド村の一員として馴染み始めた頃だったというのに、それはあまりにも可哀想だと思う。当然のように皆は抗議をするが、セリアは聞く耳をもたないようだ。これは勝負だから仕方がないということか。
リエルはシノの腕を掴んでまで心配そうな表情を向けてきていたが、
「大丈夫だよ。絶対に勝ってみせるから!」
自信満々にそう言われてしまっては引き下がる他なかった。ここで引き止めてしまえばそれこそセリアの言った通りになってしまう。
二人が頷いたのを確認したセリアはそれを肯定と受け取ったのか周囲を見回すと、
「ここだと村がめちゃくちゃになりかねないから、外でやるわよ。先に行って待ってるから」
そう言って村の入り口の方へと走って行ってしまった。村で戦うとマズいというのはとりあえず分かっているようで一安心だ。
シノもすぐに後を追うかと思われたが、一旦自宅の方へと足を向ける。相手がどんな手を使ってくるかもわからないのだし、準備は必要だろう。
こうしていつになく緊迫した空気が村を包み込む中、リエルの残留を賭けた戦いが幕を開けようとしているのであった。
0
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命
遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる