ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

43:傲慢な来訪者

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 いつもであれば昼過ぎの時間帯はあまり人がいない森の訪れなのだが、今日に限ってはそれなりに店内に人の姿がある。
 元の世界でもこの世界でも、年の最初の日ぐらいはのんびり過ごしたいということだろう。別にお正月という文化はないけれども。

「ローザちゃん! 今年も美味い料理をよろしく頼むぜっ!」

「は、はいっ! 精一杯頑張ります!」

 今年もこの店に通う冒険者達の楽しみの一つは、きっと彼女の料理となるに違いない。ローザの返事を聞いた彼ら彼女らからは小さく歓声があがっていた。

「そういえば、ティエラさんはどこに行ったんでしょうか?」

 そんな中、リエルがふと疑問を口にする。朝から姿を見かけていないし、祭事の見物人の中にもその姿はなかったからだ。彼女がわざわざ儀式を見にくるとも思えないけれども。

「あの子なら、隣街で買い出しがあるとか言って朝早くから出掛けて行ったよ」

「売るのも買うのも、手は抜かない方ですからねー……」

 売る時は最大限に。買う時は最小限に。これこそが商人のモットーである。年明けでのんびりしているわけもなくいつも通りのティエラだったので安心した。
 一人で出かけて行ったようだが、護身道具も持っているし魔法だって使えるので心配は無用だろう。行商人で留守の期間が多いとはいえ、彼女だって家への蓄えは必要だ。

「毎年、このぐらいの時期になると行商に出かけていくから、またしばらく会えなくなりそうだなぁ」

「そうなると、ちょっとだけ寂しくなりますねー……」

「職業柄仕方ないことなんだけどね」

 せっかく知り合ったというのにもうすぐしばしの別れと知り、リエルはちょっと残念そうな顔になる。
 そんな彼女を見てシノは肩を竦めてみせた。一年の半分は村に居ないような人物なのだから、むしろ今知り合えたことを幸運に思っておくべきかもしれない。

「今日は依頼もないし学校もないから、ティエラが戻ってくるまで暇になっちゃうなぁ」

「かといって家でゴロゴロしていたら、また誰かが飛び込んできそうな予感が……」

 ちょっと前にファルマが訪問してきた事を思い出したのか、リエルが苦笑しつつ言う。あれはまさに平穏を引き裂く出来事だったが、今となってはいい経験と思い出となっている。
 あれから悪い噂は聞いていないしその後は順調だとは思うが、またこちらから出向くことも考えておいたほうがいいだろうか。
 そうしてしばらく物思いに耽っていたが、あまり入り浸り過ぎるのもよくないと思い、

「よし、たまには村の外に散歩でも――――――」

 シノは席から立ち上がると、店の入り口へと目を向けた。それならばとリエルも続こうとしたその瞬間、



『――――――遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ!』



 店の外から突然大きな声が聞こえ、驚いた二人は思わず立ち止まってしまった。ローザはもちろん、店内の皆も一体何事かとざわざわし始める。
 声の方角からして村の中央からだろうか。幼い少女のような声だったが、その物言いにはどこか傲慢さが見え隠れしている気がした。



『私は火の大精霊イフリート様に仕えるが一人、セリア! 精霊リエルよ、この村にいるのであれば出てきなさいっ!』



 続けて聞こえてきた言葉に、一同は更に驚いた。なんと声の主はリエルを名指ししてきたのだ。皆の視線が一斉に集まる中、件の彼女は神妙な面持ちをしていた。

「え!? リエルを名指しって、一体どういう――――――」

「……まさかっ!」

 シノはすぐに事情を訊こうとしたのだが、その前にリエルは店を飛び出して行ってしまった。普段は見せない様子に呆気に取られてしまったが、我に返ったシノはその後を追う。
 突然のことに理解が追い付かないローザは、困惑したような表情でその背中を見送るしかないのであった。


 ◇


 急いで村の中央へとやってきたシノは、そこで対峙している二人の人物を目の当たりにする。
 一人は先ほど店から飛び出していったリエルなのだが、問題はもう一人のほうだ。恐らく、先ほど大声で喋っていた人物に間違いないだろう。

「まさか追いかけてくるなんて思いませんでしたよ……セリアさん」

「ふんっ、わざわざ探し回った意味が少しはあったというものね」

 広場の中央にある噴水のてっぺんに腰かけている人物――――――セリアと呼んだその少女をじっと睨みながら、リエルは言葉をかけた。
 それに対して、若干傲慢っぽい物言いでセリアは返してみせる。どうやら、友人同士という感じではなさそうだ。
 金髪のサイドテールに真紅の瞳。リエルより一回り小柄な体格をしており、赤いビキニアーマーのような格好の上から黒いマントを羽織っている。
 見た目からして完全に子どものようなのだが、さっきの声の主だとするならば彼女も精霊なのだろう。

「スピリティアから出て行ったと思えば修行の旅だなんて……アンタは昔から、行動力だけは一人前よね」

「私は現状の自分に満足していないからこそ、精霊としての修行を決めたまでですよ! 故郷に甘んじているわけにはいきませんから」

 リエルの物言いからすると、修行を志す者は意外にも少数派だということか。大多数の精霊はスピリティアで自由きままに暮らしていたりするのかもしれない。
 まだ一、二か月ほどしか一緒に過ごしてはいないが、リエルがその少数派であることはいくらなんでもわかる。
 だが、セリアはそんな彼女をどこかあざ笑っているかのように見えた。そしてその最中、追いかけてきたシノが到着する。

「はぁ……はぁ……急に飛び出していくから何事かと思ったよ……」

「ご、御免なさいシノさん」

「……それで、あそこに座ってる彼女は一体誰なの?」

「あの人はセリアさん。私の……先輩というかなんというか……」

 シノの問いかけに対して、リエルは少しだけ言葉を濁した。なんだかハッキリと先輩とは認めたくないような感じだ。件の彼女からは相変わらず傲慢で嫌味な雰囲気が漂っているし、その気持ちは少しわかる気もする。

「失礼な奴ね。れっきとした先輩よ。セ・ン・パ・イ! 能力も半人前の上に、態度だって半人前なのかしら?」

 セリアが発した言葉にちょっとむかっ腹が立った。それも、リエルではなくシノの方がだ。
 彼女が頑張っているのはここ最近ずっと傍にいた自分が誰よりも知っているし、それを小馬鹿にされるのはさすがに黙っていられないのだろう。

「たとえ半人前でも、だからこそ頑張ってるんじゃない! あなたは既に力を持ってるのかもしれないけど、だからといって見下すのは頂けないよ」

「シ、シノさん。そんな庇って頂かなくても! セリアさんの方が強いのは事実なので……」

「だって、言わせたままだと悔しいじゃない!」

 一応リエルも、先輩であるセリアの方が強いのは認めているようで、それを聞いた彼女は偉そうに胸を張ってみせた。
 それと同時にセリアの興味は別なところへ向いたようである。視線をリエルからシノに移すと、品定めするような目つきで眺め始めた。

「ふーん……アンタ、ペリアエルフね? 風の噂程度にしか聞いたことはなかったけど、ほんとに居たなんて驚いたわ」

「お褒め頂いたようでどうも。私はシノ。この村で教師をしている冒険者だよ」

「教師って……生まれに対して、似つかわしくないんじゃないの?」

「誰が何になろうと勝手でしょ。私がやりたいからやってることなんだから」

「私がアンタの立場なら、種族を山車に掲げて玉の輿狙うぐらいやるんだけれどなー」

 シノの素性を知ったセリアはそれを自分に置き換えて、実に欲望にストレートな意見を述べてみせる。若干呆れてしまったが、精霊にも色々な人物がいるということだろう。皆が皆、リエルのように根っからの善人なわけではないようだ。
 それからしばらくシノの様子を観察していたセリアだが、何かを思い立ったのか噴水のてっぺんから飛び降りると彼女の目の前へと着地。
 上げた顔には不敵な笑みが浮かんでおり、


「――――――よし決めた。シノ、私と勝負しなさいっ!!!」


 そのままシノを指差しながら、そんなことを言い出したのである。事実上の決闘申し込みだ。
 申し込まれた彼女は当然として、周囲で様子を見ていた村人からも驚きの声があがる。突然やってきておいて大声でリエルを呼びだしたと思ったら今度はシノに決闘の申し込みとは非常識にもほどがある。
 これにはリエルが黙っていなかったようで、即座に二人の間に割って入った。

「な、何言い出してるんですかセリアさん! あなたは力はあっても常識がなさすぎます!」

「五月蠅いわねー……単純な興味よ。ペリアエルフが実際にどの程度強いのか見てみたいってだけ」

「でも初対面の人に決闘だなんて……」

「それともアンタは、彼女が負けるって思うほど信用してないわけ? 同じ村に住んでるのに?」

 なんとか止めようとしたものの、上手い具合に煽ってきたセリアに対して二の句が継げなくなってしまう。
 決闘をやめて欲しいと言っているのに何故シノが負ける前提の話になっているのかはリエル的にも納得いかないようだが。
 どうせここでやめようとしてしまえば更に煽りを食らうに決まっているのだし、それならば――――――


「――――――いいよ。その申し出、受けてあげる」

「シノさんっ!?」


 シノは決闘の申し出を承諾し、リエルは声を裏返らせながら驚いてしまった。彼女なら断ると思っていたので意外だったのだろう。このまま居座られて何か悪さをされても迷惑なだけだし、早く用事を終わらせて帰ってもらったほうがいいという考えだ。
 返答を聞いたセリアは、ふふんと満足そうに笑っている。決闘が出来て嬉しいとは、実は戦闘狂だったりするんじゃないだろうか。ビキニアーマーといえば、ファンタジー世界では戦士がよく身に着けていた気がするし、通ずる何かがあるのかもしれない。

「話は決まったようね。アンタが勝ったら、私は大人しく引き下がってあげるわ。ただし――――――」

「……私が負けたら?」

「――――――リエルをスピリティアに連れ帰らせてもらうわっ!」

 そしてなんとセリアが告げた勝敗後の条件は、その場がざわつくには十分な内容であった。
 勝てば何事もなかったかのように収まるのだが、負ければリエルはこの村を去らなければならなくなったのだから。
 ようやくクラド村の一員として馴染み始めた頃だったというのに、それはあまりにも可哀想だと思う。当然のように皆は抗議をするが、セリアは聞く耳をもたないようだ。これは勝負だから仕方がないということか。
 リエルはシノの腕を掴んでまで心配そうな表情を向けてきていたが、


「大丈夫だよ。絶対に勝ってみせるから!」


 自信満々にそう言われてしまっては引き下がる他なかった。ここで引き止めてしまえばそれこそセリアの言った通りになってしまう。
 二人が頷いたのを確認したセリアはそれを肯定と受け取ったのか周囲を見回すと、

「ここだと村がめちゃくちゃになりかねないから、外でやるわよ。先に行って待ってるから」

 そう言って村の入り口の方へと走って行ってしまった。村で戦うとマズいというのはとりあえず分かっているようで一安心だ。
 シノもすぐに後を追うかと思われたが、一旦自宅の方へと足を向ける。相手がどんな手を使ってくるかもわからないのだし、準備は必要だろう。

 こうしていつになく緊迫した空気が村を包み込む中、リエルの残留を賭けた戦いが幕を開けようとしているのであった。
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