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第二部
45:空に響いた勝敗
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精霊セリアと決闘することになったシノだったが、彼女はあらゆる攻撃を防ぐ能力を持っており、普通に考えれば勝ち筋など見えない戦いを強いられていた。
だが、シノには何か考えがあるようで、不安など感じさせない表情でセリアと向き合っている。
「……今度こそ、反撃開始だよ!」
続けてシノはそう言い放つと、何かの詠唱を行った後に魔法を発動してみせた。彼女の背丈ほどの大きさの白い魔法陣から波動のようなものが発生し、セリア目掛けて飛んでいく。が――――――
「……?」
当たったには当たったのだが、だからといって何かが起こる様子はなく、審判のリエルも首を傾げている。まさかこれも効かなかったということなのだろうか?
その光景を見て今度こそ大笑いしそうになったセリアが何か言おうとした次の瞬間――――――
「――――――ん? え、ちょっ何これうわあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!?」
平原に彼女の悲鳴が響き渡ったかと思えば、シノの目の前からその姿が消えてしまった。否――――――消えたのではなく、真上に物凄い勢いで吹き飛んでいったのが確認できた。
シノ以外の誰もが状況を理解できていない中、五十メートルほどの高さまで飛んでいったセリアが今度は真っ逆さまに落下してくるのが見える。そしてそのまま彼女は、能力も発動しないまま地面へ大の字になって叩きつけられた。
「い、一体何が起こったんですか!?」
「いわゆる奥の手、ってヤツかな」
リエルが驚いて訊ねる傍ら、シノはなんてことはないという表情をしていた。考えてもみれば実に単純なことだったからだ。
彼女に対する直接攻撃が効かないのであれば、それ以外の方法ならばダメージが通るということ。そしてその考えは見事に的中した。
(まさか、昔ゲームで見た方法が実際に活きる場面がくるなんて思わなかったけどね……)
打撃も魔法も効かないが、相手自体を持ち上げて叩きつけたら効いた。みたいな敵がいたことをシノは思い出していた。そして、セリアはまさにそれに該当していたのである。
今しがたシノが使ったのはまさに相手を周りの空間ごと掴んで吹き飛ばす魔法で、系統としては重力を操る魔法を発展させたものに近い。もちろんこれはシノのオリジナル魔法の一つだ。
自身に対する直接攻撃ではないため、能力で防ぐこともできなかったらしい。シノにとってはある意味賭けに近かったが、結果としては大成功だったようだ。
「痛ぁーい……こんなの反則よ、反則!」
むくりと起き上がったセリアの目には若干涙が浮かんでいた。こうして見ると、まるで子どものようである。
反則と言われても、そちらの能力も大概反則級な気もするんだけどなぁとシノは思っていた。あまり手荒なことは続けたくないし、これで降参してくれないものだろうか。
「セリアさん! お願いですから、もう勝負は止めてください!」
「あんたは黙ってなさいリエル! こ、こんな一撃どうってことないわよっ!」
まさかの弱点を突かれてしまったのだしこれ以上の勝負は意味がないと判断したのか、リエルが降参を提案するもセリアは無視。それを見たシノは大きくため息をつくと、再度魔法を発動させる。今度は上に吹き飛ぶのではなく、まるでジェットコースターかのように空中をぐわんぐわん移動し始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁーーーー!!!! やめてやめて! 降参よ! 降参でいいから下ろしてぇーっ!!!」
同時にさっきまでの強がりの姿勢が一瞬で崩れ去り、彼女は慌てふためきながらも降参を認める。安全装置も何もない絶叫マシーンを空中でさせられているようなものだし、怖くない方がおかしい。直接ではなく間接的なダメージは相当なものだったようだ。
「うん、その言葉が聞きたかったよ」
どこかで聞いたようなセリフと共にシノは魔法を解除すると、セリアの身体がゆっくりと降りてくる。地面についた直後、彼女はその場にへたり込んでしまった。まだ目には涙が浮かんでいる。
子ども(かどうかは分からないが)の精霊相手とはいえ大人気なかったかなーとシノが思っていると、
「こ、今回はギリギリ私の負けにしておいてあげるわ! だけど次はこうはいかないから! 覚えてなさいよぉーっ!!!」
秒で立ち上がったセリアはなんだか悪役の捨てセリフのような言葉を残して、ジェネスの方へと走り去っていってしまった。
勝敗を告げようと思っていたリエルは呆気に取られてその姿を見送り、シノもぽかんとしている。とりあえずは、勝ったという認識でいいということだろう。これでリエルは晴れて、クラド村に残ってもいいということが決定したのだから。
「ふぅ……ひとまずは、一件落着って感じかな?」
「セリアさんも帰ってくれたみたいですし、勝利ですよ! 勝利!」
大きく息をついて伸びをしたシノの傍らで子どものように喜ぶリエル。条件が条件なのだし、無事に勝つことが出来て喜びもひとしおといった感じか。
仲良く手を繋いで村の入り口の方へ戻ると、見物していた村人達から喜びの出迎えを受ける。
「やったなシノさん! 厄介なお嬢ちゃんだったが、無事に帰ってくれてホッとしたぜ!」
「リエルお姉ちゃんがいなくならなくてよかったー! ありがとー先生!」
皆に囲まれてちょっと照れ臭くなりつつも、シノ達は静かになった戦場を後にするのであった。
◇
森の訪れへと戻ってきた二人は、ローザに戦勝報告をする。彼女は胸を撫で下ろして心底安心したようだ。
活躍を見れなくてちょっと残念そうにこそしていたが、アレは見ているだけで怖い気がするので、見ないほうがいいと思う。
「成程……精霊にも、色んな方がいらっしゃるんですね」
「セリアさんは精霊の中でも、割と高慢ちきなところがあるので」
「なんだか、あんまり敬われてない感じがするけど……」
「一応は先輩なので最低限は、という感じですね……」
セリアが傲慢だというのはリエルも感じているようだ。見た目が小柄なせいで、どうしても悪ガキっぽく見えてしまうけれども。
だが、あれでもリエルより強い力を持っているそうなのだから、世の中というのはわからないものである。
「私も彼女も同じ大精霊様に仕えているので、競争意識というのもあるのかもしれません」
「あ、そうだったんだ。それにしては、ライバル心燃やしすぎな気もするけどなぁ」
「昔から、イフリート様のお眼鏡に適おうと何かと必死な人だったので……」
大精霊になる過程としては、誰かの下で仕えてその後継となる場合とそうでない場合の二通り存在する。
リエルは別に後釜を狙っているわけではないのだが、方法としてはセリアが圧倒的に近道なのだろう。例えるならば、上司にすり寄って出世を狙うような感じかもしれない。精霊社会も色々と大変なようだ。
「あんな子が次世代のイフリートの枠に収まる可能性があるって考えるとなんだかなぁ……」
「あ、あはは……。まぁ、あと千年以上も後のことですし、その間にセリアさんも変わってくれますよきっと」
「精霊って、親兄弟がいないんですよね? 叱ってくれる人がいないと野放しな気がしますけど……」
「私達にとっての親が大精霊様なので、言う時は言って下さると思いますよ」
大精霊のお叱りを受けるなんて相当とんでもないことのように思えるが、一連の流れを見た限りではセリアがそれに該当しかねない。
本当に出世街道を無事に渡れているのだろうか? 他人事ながらちょっと心配になってくる。
叱られて涙目になっているであろうその様子を想像してしまったのか、三人は顔を見合わせて苦笑した。
「……さて! そろそろおやつ時ですし、何かお作りしましょうか?」
「待ってました! 早く早く!」
ローザが手をぱちんと打ち合わせて話を変えると、今度はシノが子供のようになってしまう。
そんな彼女の様子に思わず笑ってしまいながら、リエルも好きなお菓子を頼もうとしていたのだが、
(……あれ? 何か忘れてるような気が……)
ふとした疑問が彼女の頭をよぎり、小さく首を傾げる。
確かにセリアとの勝負には勝ったし、彼女は約束通り撤退していったので別にいいのだが、何か重要なことを見落としている気がしたのだ。それも自分にとってではなく、負けたセリアにとって重要なことを。
「今季のリンゴはとっても出来が良くてですね――――――」
「――――――それじゃあ是非ともリンゴたっぷりのアップルパイを!」
瞳をキラキラさせながら注文するシノとそれに応えるローザをよそに、リエルの疑問は結局解消されないまま、この日は過ぎていくのであった。
だが、シノには何か考えがあるようで、不安など感じさせない表情でセリアと向き合っている。
「……今度こそ、反撃開始だよ!」
続けてシノはそう言い放つと、何かの詠唱を行った後に魔法を発動してみせた。彼女の背丈ほどの大きさの白い魔法陣から波動のようなものが発生し、セリア目掛けて飛んでいく。が――――――
「……?」
当たったには当たったのだが、だからといって何かが起こる様子はなく、審判のリエルも首を傾げている。まさかこれも効かなかったということなのだろうか?
その光景を見て今度こそ大笑いしそうになったセリアが何か言おうとした次の瞬間――――――
「――――――ん? え、ちょっ何これうわあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!?」
平原に彼女の悲鳴が響き渡ったかと思えば、シノの目の前からその姿が消えてしまった。否――――――消えたのではなく、真上に物凄い勢いで吹き飛んでいったのが確認できた。
シノ以外の誰もが状況を理解できていない中、五十メートルほどの高さまで飛んでいったセリアが今度は真っ逆さまに落下してくるのが見える。そしてそのまま彼女は、能力も発動しないまま地面へ大の字になって叩きつけられた。
「い、一体何が起こったんですか!?」
「いわゆる奥の手、ってヤツかな」
リエルが驚いて訊ねる傍ら、シノはなんてことはないという表情をしていた。考えてもみれば実に単純なことだったからだ。
彼女に対する直接攻撃が効かないのであれば、それ以外の方法ならばダメージが通るということ。そしてその考えは見事に的中した。
(まさか、昔ゲームで見た方法が実際に活きる場面がくるなんて思わなかったけどね……)
打撃も魔法も効かないが、相手自体を持ち上げて叩きつけたら効いた。みたいな敵がいたことをシノは思い出していた。そして、セリアはまさにそれに該当していたのである。
今しがたシノが使ったのはまさに相手を周りの空間ごと掴んで吹き飛ばす魔法で、系統としては重力を操る魔法を発展させたものに近い。もちろんこれはシノのオリジナル魔法の一つだ。
自身に対する直接攻撃ではないため、能力で防ぐこともできなかったらしい。シノにとってはある意味賭けに近かったが、結果としては大成功だったようだ。
「痛ぁーい……こんなの反則よ、反則!」
むくりと起き上がったセリアの目には若干涙が浮かんでいた。こうして見ると、まるで子どものようである。
反則と言われても、そちらの能力も大概反則級な気もするんだけどなぁとシノは思っていた。あまり手荒なことは続けたくないし、これで降参してくれないものだろうか。
「セリアさん! お願いですから、もう勝負は止めてください!」
「あんたは黙ってなさいリエル! こ、こんな一撃どうってことないわよっ!」
まさかの弱点を突かれてしまったのだしこれ以上の勝負は意味がないと判断したのか、リエルが降参を提案するもセリアは無視。それを見たシノは大きくため息をつくと、再度魔法を発動させる。今度は上に吹き飛ぶのではなく、まるでジェットコースターかのように空中をぐわんぐわん移動し始めた。
「ぎゃあぁぁぁぁーーーー!!!! やめてやめて! 降参よ! 降参でいいから下ろしてぇーっ!!!」
同時にさっきまでの強がりの姿勢が一瞬で崩れ去り、彼女は慌てふためきながらも降参を認める。安全装置も何もない絶叫マシーンを空中でさせられているようなものだし、怖くない方がおかしい。直接ではなく間接的なダメージは相当なものだったようだ。
「うん、その言葉が聞きたかったよ」
どこかで聞いたようなセリフと共にシノは魔法を解除すると、セリアの身体がゆっくりと降りてくる。地面についた直後、彼女はその場にへたり込んでしまった。まだ目には涙が浮かんでいる。
子ども(かどうかは分からないが)の精霊相手とはいえ大人気なかったかなーとシノが思っていると、
「こ、今回はギリギリ私の負けにしておいてあげるわ! だけど次はこうはいかないから! 覚えてなさいよぉーっ!!!」
秒で立ち上がったセリアはなんだか悪役の捨てセリフのような言葉を残して、ジェネスの方へと走り去っていってしまった。
勝敗を告げようと思っていたリエルは呆気に取られてその姿を見送り、シノもぽかんとしている。とりあえずは、勝ったという認識でいいということだろう。これでリエルは晴れて、クラド村に残ってもいいということが決定したのだから。
「ふぅ……ひとまずは、一件落着って感じかな?」
「セリアさんも帰ってくれたみたいですし、勝利ですよ! 勝利!」
大きく息をついて伸びをしたシノの傍らで子どものように喜ぶリエル。条件が条件なのだし、無事に勝つことが出来て喜びもひとしおといった感じか。
仲良く手を繋いで村の入り口の方へ戻ると、見物していた村人達から喜びの出迎えを受ける。
「やったなシノさん! 厄介なお嬢ちゃんだったが、無事に帰ってくれてホッとしたぜ!」
「リエルお姉ちゃんがいなくならなくてよかったー! ありがとー先生!」
皆に囲まれてちょっと照れ臭くなりつつも、シノ達は静かになった戦場を後にするのであった。
◇
森の訪れへと戻ってきた二人は、ローザに戦勝報告をする。彼女は胸を撫で下ろして心底安心したようだ。
活躍を見れなくてちょっと残念そうにこそしていたが、アレは見ているだけで怖い気がするので、見ないほうがいいと思う。
「成程……精霊にも、色んな方がいらっしゃるんですね」
「セリアさんは精霊の中でも、割と高慢ちきなところがあるので」
「なんだか、あんまり敬われてない感じがするけど……」
「一応は先輩なので最低限は、という感じですね……」
セリアが傲慢だというのはリエルも感じているようだ。見た目が小柄なせいで、どうしても悪ガキっぽく見えてしまうけれども。
だが、あれでもリエルより強い力を持っているそうなのだから、世の中というのはわからないものである。
「私も彼女も同じ大精霊様に仕えているので、競争意識というのもあるのかもしれません」
「あ、そうだったんだ。それにしては、ライバル心燃やしすぎな気もするけどなぁ」
「昔から、イフリート様のお眼鏡に適おうと何かと必死な人だったので……」
大精霊になる過程としては、誰かの下で仕えてその後継となる場合とそうでない場合の二通り存在する。
リエルは別に後釜を狙っているわけではないのだが、方法としてはセリアが圧倒的に近道なのだろう。例えるならば、上司にすり寄って出世を狙うような感じかもしれない。精霊社会も色々と大変なようだ。
「あんな子が次世代のイフリートの枠に収まる可能性があるって考えるとなんだかなぁ……」
「あ、あはは……。まぁ、あと千年以上も後のことですし、その間にセリアさんも変わってくれますよきっと」
「精霊って、親兄弟がいないんですよね? 叱ってくれる人がいないと野放しな気がしますけど……」
「私達にとっての親が大精霊様なので、言う時は言って下さると思いますよ」
大精霊のお叱りを受けるなんて相当とんでもないことのように思えるが、一連の流れを見た限りではセリアがそれに該当しかねない。
本当に出世街道を無事に渡れているのだろうか? 他人事ながらちょっと心配になってくる。
叱られて涙目になっているであろうその様子を想像してしまったのか、三人は顔を見合わせて苦笑した。
「……さて! そろそろおやつ時ですし、何かお作りしましょうか?」
「待ってました! 早く早く!」
ローザが手をぱちんと打ち合わせて話を変えると、今度はシノが子供のようになってしまう。
そんな彼女の様子に思わず笑ってしまいながら、リエルも好きなお菓子を頼もうとしていたのだが、
(……あれ? 何か忘れてるような気が……)
ふとした疑問が彼女の頭をよぎり、小さく首を傾げる。
確かにセリアとの勝負には勝ったし、彼女は約束通り撤退していったので別にいいのだが、何か重要なことを見落としている気がしたのだ。それも自分にとってではなく、負けたセリアにとって重要なことを。
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