ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

文字の大きさ
46 / 69
第二部

45:空に響いた勝敗

しおりを挟む
 精霊セリアと決闘することになったシノだったが、彼女はあらゆる攻撃を防ぐ能力を持っており、普通に考えれば勝ち筋など見えない戦いを強いられていた。
 だが、シノには何か考えがあるようで、不安など感じさせない表情でセリアと向き合っている。

「……今度こそ、反撃開始だよ!」

 続けてシノはそう言い放つと、何かの詠唱を行った後に魔法を発動してみせた。彼女の背丈ほどの大きさの白い魔法陣から波動のようなものが発生し、セリア目掛けて飛んでいく。が――――――

「……?」

 当たったには当たったのだが、だからといって何かが起こる様子はなく、審判のリエルも首を傾げている。まさかこれも効かなかったということなのだろうか?
 その光景を見て今度こそ大笑いしそうになったセリアが何か言おうとした次の瞬間――――――



「――――――ん? え、ちょっ何これうわあぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!?」



 平原に彼女の悲鳴が響き渡ったかと思えば、シノの目の前からその姿が消えてしまった。否――――――消えたのではなく、真上に物凄い勢いで吹き飛んでいったのが確認できた。
 シノ以外の誰もが状況を理解できていない中、五十メートルほどの高さまで飛んでいったセリアが今度は真っ逆さまに落下してくるのが見える。そしてそのまま彼女は、能力も発動しないまま地面へ大の字になって叩きつけられた。

「い、一体何が起こったんですか!?」

「いわゆる奥の手、ってヤツかな」

 リエルが驚いて訊ねる傍ら、シノはなんてことはないという表情をしていた。考えてもみれば実に単純なことだったからだ。
 彼女に対する直接攻撃が効かないのであれば、それ以外の方法ならばダメージが通るということ。そしてその考えは見事に的中した。

(まさか、昔ゲームで見た方法が実際に活きる場面がくるなんて思わなかったけどね……)

 打撃も魔法も効かないが、相手自体を持ち上げて叩きつけたら効いた。みたいな敵がいたことをシノは思い出していた。そして、セリアはまさにそれに該当していたのである。
 今しがたシノが使ったのはまさに相手を周りの空間ごと掴んで吹き飛ばす魔法で、系統としては重力を操る魔法を発展させたものに近い。もちろんこれはシノのオリジナル魔法の一つだ。
 自身に対する直接攻撃ではないため、能力で防ぐこともできなかったらしい。シノにとってはある意味賭けに近かったが、結果としては大成功だったようだ。


「痛ぁーい……こんなの反則よ、反則!」


 むくりと起き上がったセリアの目には若干涙が浮かんでいた。こうして見ると、まるで子どものようである。
 反則と言われても、そちらの能力も大概反則級な気もするんだけどなぁとシノは思っていた。あまり手荒なことは続けたくないし、これで降参してくれないものだろうか。

「セリアさん! お願いですから、もう勝負は止めてください!」

「あんたは黙ってなさいリエル! こ、こんな一撃どうってことないわよっ!」

 まさかの弱点を突かれてしまったのだしこれ以上の勝負は意味がないと判断したのか、リエルが降参を提案するもセリアは無視。それを見たシノは大きくため息をつくと、再度魔法を発動させる。今度は上に吹き飛ぶのではなく、まるでジェットコースターかのように空中をぐわんぐわん移動し始めた。
 
「ぎゃあぁぁぁぁーーーー!!!! やめてやめて! 降参よ! 降参でいいから下ろしてぇーっ!!!」

 同時にさっきまでの強がりの姿勢が一瞬で崩れ去り、彼女は慌てふためきながらも降参を認める。安全装置も何もない絶叫マシーンを空中でさせられているようなものだし、怖くない方がおかしい。直接ではなく間接的なダメージは相当なものだったようだ。

「うん、その言葉が聞きたかったよ」

 どこかで聞いたようなセリフと共にシノは魔法を解除すると、セリアの身体がゆっくりと降りてくる。地面についた直後、彼女はその場にへたり込んでしまった。まだ目には涙が浮かんでいる。
 子ども(かどうかは分からないが)の精霊相手とはいえ大人気なかったかなーとシノが思っていると、


「こ、今回はギリギリ私の負けにしておいてあげるわ! だけど次はこうはいかないから! 覚えてなさいよぉーっ!!!」


 秒で立ち上がったセリアはなんだか悪役の捨てセリフのような言葉を残して、ジェネスの方へと走り去っていってしまった。
 勝敗を告げようと思っていたリエルは呆気に取られてその姿を見送り、シノもぽかんとしている。とりあえずは、勝ったという認識でいいということだろう。これでリエルは晴れて、クラド村に残ってもいいということが決定したのだから。

「ふぅ……ひとまずは、一件落着って感じかな?」

「セリアさんも帰ってくれたみたいですし、勝利ですよ! 勝利!」

 大きく息をついて伸びをしたシノの傍らで子どものように喜ぶリエル。条件が条件なのだし、無事に勝つことが出来て喜びもひとしおといった感じか。
 仲良く手を繋いで村の入り口の方へ戻ると、見物していた村人達から喜びの出迎えを受ける。

「やったなシノさん! 厄介なお嬢ちゃんだったが、無事に帰ってくれてホッとしたぜ!」

「リエルお姉ちゃんがいなくならなくてよかったー! ありがとー先生!」

 皆に囲まれてちょっと照れ臭くなりつつも、シノ達は静かになった戦場を後にするのであった。


 ◇


 森の訪れへと戻ってきた二人は、ローザに戦勝報告をする。彼女は胸を撫で下ろして心底安心したようだ。
 活躍を見れなくてちょっと残念そうにこそしていたが、アレは見ているだけで怖い気がするので、見ないほうがいいと思う。

「成程……精霊にも、色んな方がいらっしゃるんですね」

「セリアさんは精霊の中でも、割と高慢ちきなところがあるので」

「なんだか、あんまり敬われてない感じがするけど……」

「一応は先輩なので最低限は、という感じですね……」

 セリアが傲慢だというのはリエルも感じているようだ。見た目が小柄なせいで、どうしても悪ガキっぽく見えてしまうけれども。
 だが、あれでもリエルより強い力を持っているそうなのだから、世の中というのはわからないものである。

「私も彼女も同じ大精霊様に仕えているので、競争意識というのもあるのかもしれません」

「あ、そうだったんだ。それにしては、ライバル心燃やしすぎな気もするけどなぁ」

「昔から、イフリート様のお眼鏡に適おうと何かと必死な人だったので……」

 大精霊になる過程としては、誰かの下で仕えてその後継となる場合とそうでない場合の二通り存在する。
 リエルは別に後釜を狙っているわけではないのだが、方法としてはセリアが圧倒的に近道なのだろう。例えるならば、上司にすり寄って出世を狙うような感じかもしれない。精霊社会も色々と大変なようだ。

「あんな子が次世代のイフリートの枠に収まる可能性があるって考えるとなんだかなぁ……」

「あ、あはは……。まぁ、あと千年以上も後のことですし、その間にセリアさんも変わってくれますよきっと」

「精霊って、親兄弟がいないんですよね? 叱ってくれる人がいないと野放しな気がしますけど……」

「私達にとっての親が大精霊様なので、言う時は言って下さると思いますよ」

 大精霊のお叱りを受けるなんて相当とんでもないことのように思えるが、一連の流れを見た限りではセリアがそれに該当しかねない。
 本当に出世街道を無事に渡れているのだろうか? 他人事ながらちょっと心配になってくる。
 叱られて涙目になっているであろうその様子を想像してしまったのか、三人は顔を見合わせて苦笑した。

「……さて! そろそろおやつ時ですし、何かお作りしましょうか?」

「待ってました! 早く早く!」

 ローザが手をぱちんと打ち合わせて話を変えると、今度はシノが子供のようになってしまう。
 そんな彼女の様子に思わず笑ってしまいながら、リエルも好きなお菓子を頼もうとしていたのだが、

(……あれ? 何か忘れてるような気が……)

 ふとした疑問が彼女の頭をよぎり、小さく首を傾げる。
 確かにセリアとの勝負には勝ったし、彼女は約束通り撤退していったので別にいいのだが、何か重要なことを見落としている気がしたのだ。それも自分にとってではなく、負けたセリアにとって重要なことを。

「今季のリンゴはとっても出来が良くてですね――――――」

「――――――それじゃあ是非ともリンゴたっぷりのアップルパイを!」

 瞳をキラキラさせながら注文するシノとそれに応えるローザをよそに、リエルの疑問は結局解消されないまま、この日は過ぎていくのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...