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第二部
46:旅立ちと出戻り
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精霊セリアとの闘いから一夜が明け、村はいつも通りの平凡な雰囲気を取り戻していた。
彼女はまたスピリティアまで遥々帰るのだと思うとご愁傷様な感じはあるが、あちらから吹っ掛けてきたことなのだし、こちらが気にしても仕方のないことだろう。
「ティエラは、ちょうど出掛けてたのがある意味幸いしたよねー」
「多分、セリアさんとは圧倒的に反りが合わなさそうですからね……」
一挙一動に冷静に突っ込みを入れまくるティエラとそれに反発しまくるセリアで収拾がつかなくなりそうだ。それらを最終的に何とかするのは結局シノの役目になりそうなので、そうならなくてよかったと内心ホッとする。
いつものように日課を終えた二人はそんな彼女の様子を見るため、魔法道具店へとやってきていた。
「こんにちは、ティエラさん!」
「やっほー、ティエラ。……って、また随分忙しそうだね」
店内に入った二人はティエラの姿を見つけたが、件の彼女は店の奥で何やらゴソゴソと動いている。よく見ると傍らには大きなリュックが置かれており、それはいつも彼女が使っている旅の愛用品だ。
リエルは首を傾げていたが、シノはそれを見て何かを察したらしい。
「ごきげんよう、お二人とも。見ての通り、出掛ける準備をしているのですよ」
「出掛ける準備……?」
「あ、そうか……次は冬の行商だっけ。というか、今冬はずいぶん早く出かけるんだね?」
「私が商品を卸している所からお呼びがかかりましたので、予定が早まったんですよ。前回が北の王都方面だったので、今度は南の方面ですね」
「そ、それはまた大変な旅路ですね……」
南といえば、王国でも三本の指に入る大きさの雪原都市フローレスがある常雪の地方だ。この時期に商売を行う場所としては絶好の環境だろうし、彼女も気合が入っているように見えた。
思えばティエラが村に帰ってきてからそれなりに経っていたのだし、むしろ今までの中では村に居た期間が結構長かった方だろう。
「今度は何を目玉商品にするつもりなの?」
「それはさすがに明かせません。一応、冬季向けの商品とだけ言っておきましょうか」
「いざお披露目の時に、またドジやらかしたりしないでよー?」
「しませんよそんなこと! シノは私を一体なんだと思っているのですか」
「……やれば出来るドジな子?」
「な、なんだか結構な言われようですね……これも長年の付き合いならではなんでしょうか」
「否定こそできませんけど……改めて言われるとちょっとだけムッとします」
いざ別れの時となっても、さすが数十年の仲といったところか。いつもの調子が崩れる様子はない。
シノに至っては、ティエラがいついかなる時でも完璧だなんてありえない! などと凄く失礼なことを考えていそうではあるが。当の彼女もなんとなく察しているのか、シノを見る目が若干ジト目気味である。
「既に方々への挨拶は済ませましたので、昼頃には発とうと思ってます」
「昨日買い出しに行ってたのにもうそこまで終わってるとは……仕事が早いねー」
「商機は逃がせませんからね! リエルはともかくとしてシノは私の留守中、頼みましたよ」
「もちろん! 厄介事を村には持ち込ませないように目を光らせておくから」
「私も、精一杯シノさんをサポートしておきますね!」
また会えなくなるのは少し寂しくもあるが、それが行商人である彼女の生業だ。旅先での土産話などもまた聞かせてもらえるだろうし、楽しみに待っておくことにしよう。
それからしばらくすると準備を終えたのか、大きなリュックを背負ってティエラが立ち上がった。
「よいしょっ……と! では港まで行きますので、そこまで付いてきて頂けますか?」
世界有数の大きさを誇る都市だけあってか往来客もかなり多いため、フローレス行きの船は二日に一度出ている。今日はちょうどその日だし、昼の出航には十分間に合うだろう。二人はティエラを見送るために港へと同行することにした。
自宅兼店舗を出た彼女は扉を振り返ると、閉店中の札を掛け直す。次にこれが開店中に戻るのは一体いつになることやら。
◇
クラド村の港へやってきた三人は、ちょうど入ってきて出航待ちになっている船を目にする。
どうやらタイミング的にはバッチリだったようだ。この寒い季節に、海に面する港で待つというのもあまりよろしくない。
ティエラは既に船の乗組員らと話しており、実に手馴れている感じだ。商人用の乗船券などがあるらしいが、詳しいことは不明である。乗船の話を取り付けたのか、彼女がこちらへと戻ってきた。
「さて、それでは行ってきます! 春頃には帰って来る予定ですので」
「いってらっしゃい、ティエラ! お土産期待して待ってるよー」
「道中お気を付けてくださいね、ティエラさん!」
ティエラは二人と片手ずつの握手を交わすと、笑顔で頷いてみせる。やはりこういうところは、どこか見た目相応の少女のような一面があった。
乗組員らに会釈をされて船へと乗り込んでいく彼女を、シノとリエルは手を振って見送る。
しばらくすると汽笛が鳴り響き、フローレスのある南地方への船が出航した。その音を聞いてビクッと肩を震わせたリエルを見て、シノは少しだけ笑ってしまう。どうやら、船にはあまり慣れていないようだ。
「あっ、見てくださいシノさん!」
船が港からどんどん離れていく最中、リエルに言われて指差す方向をシノが見る。そこには、後方デッキ部分から顔を出してこちらに手を振っているティエラの姿があった。
そんな彼女を見て、やっぱり毎度村を離れるのは名残惜しいんだなぁと思ってしまう。再度手を振って見せると、遠目でも笑顔になったのがわかった。
そのまま数分ほど見送っていると、ついに船はほとんど見えなくなってしまう。これで彼女の見送りは終了だ。
「よし! それじゃあ村へ帰ろっか、リエル」
「はい!」
年の始めなのでまだまだ浮かれ気分は抜けないが、何かしらの依頼はそろそろ入ってきているだろう。戻ったらローザに確認してみよう。そんなことを考えつつ、シノはリエルと共に港を後にした。
ちなみに、行きも帰りも野盗とかには出くわしてなどいない。さすがにこの冷える時期では、待ち伏せてなどいられないし仕事にもならないということか。
そのまま特に何事もなくクラド村まで帰ってきた二人だったが、村の入り口付近まできたところで突然その足を止めた。
「……ん? あれってもしかして……」
神妙な面持ちのリエルが見据える先――――――村の入り口に、見覚えのある人物がいたからである。金髪のサイドテールに黒マントを羽織った小柄な体格。昨日の今日なのだから見間違えるはずもない。
「セリア……だよね。どうしてまたクラド村に……?」
勝負に負けたのだから潔く退散するという約束だったはずなのだが、何故また来ているのだろうか。二人の疑問はその一点に尽きる。もしかしてまだ諦めきれずに再戦を申し込みにきていたりして。
さすがにそんなことを言い出したら開口一番にお仕置きする用意があるのだが、正直あまり気は進まない。
とりあえず彼女に向かって歩を進めていると、あちらも二人が近づいてきたことに気付いたようだ。
「……あっ! アンタ達やっと帰ってきたのね、遅いじゃない!」
「別に、待ち合わせてる覚えは全くないんだけれど……」
「そうですよ! それに、どうしてまた戻ってきてるんですか!?」
相変わらず若干の傲慢さは見え隠れしてこそいるが昨日ほどの勢いはなく、どことなく元気がないようにも感じられた。
もしかして本当に泣きの一回でも申し込みにきたのだろうか? などと思っていると、
「重要なことを忘れてたのよ……それで、戻ってくるしかなかったっていうか……」
今度は本当に元気なさげな感じで言ってみせた。若干姿勢も項垂れている。昨日のあの態度はいったいどこへいったというのか。
重要なことと言われてもイマイチ見当がつかないシノであったが、その隣でリエルが「あっ」と声をあげた。まさに昨日、彼女が何か忘れていると思っていた答えがそれだったからである。
「――――――――精霊の契約!」
二人の精霊が同時に言った言葉を聞き、シノも合点がいったという表情になった。
むしろ、当たり前すぎて忘れていたといったほうが正しいかもしれない。この世界におけるその設定を作った本人ならではというのもあるけれど。
「人と戦って敗北した精霊は、力を貸し与える契約を交わさなければならない……。それはもちろん、昨日のあの勝負に関しても例外ではありません」
「あ、それって相手が大精霊じゃなくても有効だったんだね……」
「当然です! 精霊というのは、それだけの覚悟を持って人と接しているのですから」
恐らくセリアは実質無敵の能力を持っているからこそ、今まで人に負けたことがなかったのだろう。
だからこそ負けた時の決まりごとも忘れてしまっていたということか。こんなので本当に大精霊の後継になれるのか改めて心配になってくる。
「あぁぁぁ……どうしてこんなことになっちゃったのよぉーーーーっ!!!」
自業自得という言葉がこれほど似合う人物と状況も珍しい。そんな精霊セリアの心の底からの叫びが、クラド村の入り口に響き渡ったのであった。
彼女はまたスピリティアまで遥々帰るのだと思うとご愁傷様な感じはあるが、あちらから吹っ掛けてきたことなのだし、こちらが気にしても仕方のないことだろう。
「ティエラは、ちょうど出掛けてたのがある意味幸いしたよねー」
「多分、セリアさんとは圧倒的に反りが合わなさそうですからね……」
一挙一動に冷静に突っ込みを入れまくるティエラとそれに反発しまくるセリアで収拾がつかなくなりそうだ。それらを最終的に何とかするのは結局シノの役目になりそうなので、そうならなくてよかったと内心ホッとする。
いつものように日課を終えた二人はそんな彼女の様子を見るため、魔法道具店へとやってきていた。
「こんにちは、ティエラさん!」
「やっほー、ティエラ。……って、また随分忙しそうだね」
店内に入った二人はティエラの姿を見つけたが、件の彼女は店の奥で何やらゴソゴソと動いている。よく見ると傍らには大きなリュックが置かれており、それはいつも彼女が使っている旅の愛用品だ。
リエルは首を傾げていたが、シノはそれを見て何かを察したらしい。
「ごきげんよう、お二人とも。見ての通り、出掛ける準備をしているのですよ」
「出掛ける準備……?」
「あ、そうか……次は冬の行商だっけ。というか、今冬はずいぶん早く出かけるんだね?」
「私が商品を卸している所からお呼びがかかりましたので、予定が早まったんですよ。前回が北の王都方面だったので、今度は南の方面ですね」
「そ、それはまた大変な旅路ですね……」
南といえば、王国でも三本の指に入る大きさの雪原都市フローレスがある常雪の地方だ。この時期に商売を行う場所としては絶好の環境だろうし、彼女も気合が入っているように見えた。
思えばティエラが村に帰ってきてからそれなりに経っていたのだし、むしろ今までの中では村に居た期間が結構長かった方だろう。
「今度は何を目玉商品にするつもりなの?」
「それはさすがに明かせません。一応、冬季向けの商品とだけ言っておきましょうか」
「いざお披露目の時に、またドジやらかしたりしないでよー?」
「しませんよそんなこと! シノは私を一体なんだと思っているのですか」
「……やれば出来るドジな子?」
「な、なんだか結構な言われようですね……これも長年の付き合いならではなんでしょうか」
「否定こそできませんけど……改めて言われるとちょっとだけムッとします」
いざ別れの時となっても、さすが数十年の仲といったところか。いつもの調子が崩れる様子はない。
シノに至っては、ティエラがいついかなる時でも完璧だなんてありえない! などと凄く失礼なことを考えていそうではあるが。当の彼女もなんとなく察しているのか、シノを見る目が若干ジト目気味である。
「既に方々への挨拶は済ませましたので、昼頃には発とうと思ってます」
「昨日買い出しに行ってたのにもうそこまで終わってるとは……仕事が早いねー」
「商機は逃がせませんからね! リエルはともかくとしてシノは私の留守中、頼みましたよ」
「もちろん! 厄介事を村には持ち込ませないように目を光らせておくから」
「私も、精一杯シノさんをサポートしておきますね!」
また会えなくなるのは少し寂しくもあるが、それが行商人である彼女の生業だ。旅先での土産話などもまた聞かせてもらえるだろうし、楽しみに待っておくことにしよう。
それからしばらくすると準備を終えたのか、大きなリュックを背負ってティエラが立ち上がった。
「よいしょっ……と! では港まで行きますので、そこまで付いてきて頂けますか?」
世界有数の大きさを誇る都市だけあってか往来客もかなり多いため、フローレス行きの船は二日に一度出ている。今日はちょうどその日だし、昼の出航には十分間に合うだろう。二人はティエラを見送るために港へと同行することにした。
自宅兼店舗を出た彼女は扉を振り返ると、閉店中の札を掛け直す。次にこれが開店中に戻るのは一体いつになることやら。
◇
クラド村の港へやってきた三人は、ちょうど入ってきて出航待ちになっている船を目にする。
どうやらタイミング的にはバッチリだったようだ。この寒い季節に、海に面する港で待つというのもあまりよろしくない。
ティエラは既に船の乗組員らと話しており、実に手馴れている感じだ。商人用の乗船券などがあるらしいが、詳しいことは不明である。乗船の話を取り付けたのか、彼女がこちらへと戻ってきた。
「さて、それでは行ってきます! 春頃には帰って来る予定ですので」
「いってらっしゃい、ティエラ! お土産期待して待ってるよー」
「道中お気を付けてくださいね、ティエラさん!」
ティエラは二人と片手ずつの握手を交わすと、笑顔で頷いてみせる。やはりこういうところは、どこか見た目相応の少女のような一面があった。
乗組員らに会釈をされて船へと乗り込んでいく彼女を、シノとリエルは手を振って見送る。
しばらくすると汽笛が鳴り響き、フローレスのある南地方への船が出航した。その音を聞いてビクッと肩を震わせたリエルを見て、シノは少しだけ笑ってしまう。どうやら、船にはあまり慣れていないようだ。
「あっ、見てくださいシノさん!」
船が港からどんどん離れていく最中、リエルに言われて指差す方向をシノが見る。そこには、後方デッキ部分から顔を出してこちらに手を振っているティエラの姿があった。
そんな彼女を見て、やっぱり毎度村を離れるのは名残惜しいんだなぁと思ってしまう。再度手を振って見せると、遠目でも笑顔になったのがわかった。
そのまま数分ほど見送っていると、ついに船はほとんど見えなくなってしまう。これで彼女の見送りは終了だ。
「よし! それじゃあ村へ帰ろっか、リエル」
「はい!」
年の始めなのでまだまだ浮かれ気分は抜けないが、何かしらの依頼はそろそろ入ってきているだろう。戻ったらローザに確認してみよう。そんなことを考えつつ、シノはリエルと共に港を後にした。
ちなみに、行きも帰りも野盗とかには出くわしてなどいない。さすがにこの冷える時期では、待ち伏せてなどいられないし仕事にもならないということか。
そのまま特に何事もなくクラド村まで帰ってきた二人だったが、村の入り口付近まできたところで突然その足を止めた。
「……ん? あれってもしかして……」
神妙な面持ちのリエルが見据える先――――――村の入り口に、見覚えのある人物がいたからである。金髪のサイドテールに黒マントを羽織った小柄な体格。昨日の今日なのだから見間違えるはずもない。
「セリア……だよね。どうしてまたクラド村に……?」
勝負に負けたのだから潔く退散するという約束だったはずなのだが、何故また来ているのだろうか。二人の疑問はその一点に尽きる。もしかしてまだ諦めきれずに再戦を申し込みにきていたりして。
さすがにそんなことを言い出したら開口一番にお仕置きする用意があるのだが、正直あまり気は進まない。
とりあえず彼女に向かって歩を進めていると、あちらも二人が近づいてきたことに気付いたようだ。
「……あっ! アンタ達やっと帰ってきたのね、遅いじゃない!」
「別に、待ち合わせてる覚えは全くないんだけれど……」
「そうですよ! それに、どうしてまた戻ってきてるんですか!?」
相変わらず若干の傲慢さは見え隠れしてこそいるが昨日ほどの勢いはなく、どことなく元気がないようにも感じられた。
もしかして本当に泣きの一回でも申し込みにきたのだろうか? などと思っていると、
「重要なことを忘れてたのよ……それで、戻ってくるしかなかったっていうか……」
今度は本当に元気なさげな感じで言ってみせた。若干姿勢も項垂れている。昨日のあの態度はいったいどこへいったというのか。
重要なことと言われてもイマイチ見当がつかないシノであったが、その隣でリエルが「あっ」と声をあげた。まさに昨日、彼女が何か忘れていると思っていた答えがそれだったからである。
「――――――――精霊の契約!」
二人の精霊が同時に言った言葉を聞き、シノも合点がいったという表情になった。
むしろ、当たり前すぎて忘れていたといったほうが正しいかもしれない。この世界におけるその設定を作った本人ならではというのもあるけれど。
「人と戦って敗北した精霊は、力を貸し与える契約を交わさなければならない……。それはもちろん、昨日のあの勝負に関しても例外ではありません」
「あ、それって相手が大精霊じゃなくても有効だったんだね……」
「当然です! 精霊というのは、それだけの覚悟を持って人と接しているのですから」
恐らくセリアは実質無敵の能力を持っているからこそ、今まで人に負けたことがなかったのだろう。
だからこそ負けた時の決まりごとも忘れてしまっていたということか。こんなので本当に大精霊の後継になれるのか改めて心配になってくる。
「あぁぁぁ……どうしてこんなことになっちゃったのよぉーーーーっ!!!」
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