ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

文字の大きさ
50 / 69
第二部

49:ミナカワ家の一夜

しおりを挟む
 間も無く日が暮れるという時間帯。家へと戻ってきたシノとリエルは、セリアに屋内を案内していた。
 一人で住んでいたにしろ二人で住み始めるようになったにしろ、その家の大きさにやはり彼女は驚いているようだ。

「……シノ。アンタって実は結構な金持ちだったりする?」

「住み始めた当初はお金が全くなかったから、この家は貰ったものなんだけど……」

「冒険者として村に住むという条件で貰ったと聞いてますよ」

「何その条件!? どうりで他の住民には冒険者感がないと思ったわ……」

 精霊であるセリアの視点からでも、クラド村には冒険者が少なく見えているらしい。
 先日、村の中央から大声で呼び立てたのも、普通の人間ぐらいしか住んでいないとわかっていたからなのだろうか。。

「二階の部屋がまだ二つほど空いてたはずだから、好きな方を使ってもいいよ」

「わかったわ。じゃあ、ちょっと見てくるわね」

 シノの言葉に頷いたセリアは、すぐさま二階へと駆けてゆく。体格のせいもあるだろうが、その様子を見ているとやっぱりどこか子どもっぽく見えてしまう。
 こっそり様子を窺っていると、階段を上がった廊下沿いにある部屋のうち、リエルとは反対側の角部屋を選んだようだ。

「これで残り一部屋になりましたね、シノさん」

「さすがにもう埋まる予定はないけどねー」

「となると……子供部屋になったりするんでしょうか?」

「まだ相手もいないのに、それはさすがに気が早いっ」

 ちょっとした冗談を言い合いつつ、二人は台所へと移動する。
 部屋を確認しにいったセリアは少し置いておくとして、そろそろ夕食時なので準備をしなければならない。
 メニューについてしばらく考えていたシノだったが、やがて何か思いついたようで、

「よし、ここはアレにしよう。私が作っちゃうから、リエルはお風呂の方頼めるかな?」

「はい! では、台所はお任せしますね」

 リエルと手分けすることにした。新しく人を(精霊だけれども)家に迎えたのだから、あまり手間はかけないほうがいい。
 こうしてシノは料理を。リエルはその他の家事を。セリアは自身の部屋の準備を。それぞれのやることに取り掛かり始めた。

 それから三十分ほどが過ぎた後。部屋の準備を終えたらしいセリアが下の階へと降りてくる。時をほぼ同じくして、他の二人もやることを終えたようだった。

「やっと家具の移動が終わったぁ……って、何だか良い匂いがするわね」

「お、タイミングバッチリだね。夕御飯出来てるよ!」

「この状態でも、相変わらず美味しそうですねー……」

 シノが作った夕食が用意してあるテーブルへと移動した二人は、それを見て感心する。チキンライスの上にオムレツが乗ったもの――――――――紛うことなきオムライスだ。
 しかし、まだ完璧な状態ではないのは明らかである。今のままだとただ上にオムが乗っているだけだ。

「さて、それでは……」

 シノはおもむろに小さなナイフを取り出すと、乗っているオムレツへと素早く切れ目を入れていく。
 その瞬間、切れ目を中心にまるで雪崩のように半熟の中身が綺麗に両脇へと滑り落ち、ライスを覆い尽くした。そしてソースをかけてあげれば、オムライス完全体の完成である。何が完全体なのかはさておき。

「わぁ……!」

 それを見たセリアは思わず目をキラキラさせて、まんま子どものような反応を見せていた。
 ちなみにこれはローザの直伝。シノが半年近くも練習して会得した職人の技だ。いよいよ本家にも追いついてきたといったところか。
 完璧なオムライスの光景にしばらく見とれていたセリアも、ふと我に返ったようだ。

「な、何よ! 見とれてちゃ悪い!?」

「ううん。作った料理を褒めて貰えるのはやっぱり嬉しいなーって」

「これを食べたら、もうシノさんには逆らえませんよ!」

「なんか、それだけ聞くと凄く怪しい何かにしか聞こえないわよ……」

 逆らえなくなっているリエルが得意げに言って見せる。彼女的には、シノに逆らう気など微塵もないとは思うのだけれど。
 あまり話し込んでいてもせっかくの料理が冷めてしまうので、三人はそれぞれのスプーンを手に取ると、

「――――――いただきます!」

 同時に言葉を合わせ、料理娘直伝のオムライスを食べ始めたのだった。
 二人にとっては割と日常的な味ではあるのだが、これを初めて食べたセリアはというと、

「何これ、美味しい……!」

 相変わらず目をキラキラさせながら夢中で食べ続けていた。その光景はもう完全に子どもにしか見えない。
 かくいうシノも、あの直伝オムライスを初めて食べた時は似たような反応になっていたのであまり人の事は言えないのだが。

「家はでかいし料理は上手いし私を家に迎え入れるしし……アンタは一体なんなのよぉ……!」

 褒めているのか怒っているのかよくわからない事を言いながらも食べ進めているセリア。なんだか若干涙声っぽくなっているのは気のせいだろうか。

「長らく一緒に居ましたけど、こんなセリアさんを見たのは初めてですね……」

「ちょっと反抗期っぽいだけで、根は素直でいい子なんだと思うよ」

 彼女ならば絶対に「ま、まぁまぁの味ねっ!」とか言うと思っていたのだがそうでもなかったようだ。シノの見立て通り、別に性格が悪いというわけではないのだろう。
 そのまま十分ほどかけて食べ終えた三人は、すぐさま風呂場へと向かった。
 やっぱりその広さに驚いていたセリアであったが、二人から三人に増えたところで狭くなるようなものではない。
 三人並んで湯舟に浸かると、すぐさま今日の疲れを癒す。中でもセリアに関しては色々な意味で疲れたことだろう。

(そういえば、三人並んで湯に浸かるなんてことは今までなかったなぁ……)

 元の世界では一人っ子だったし、親子揃って入浴というのも記憶にはない。女三人ではあるのだけれど、なんだか新鮮な感じだ。ちょっと形こそ違うとは思うが、女子会っぽくもあるかもしれない。
 そんなことを思っているとシノの隣にいたセリアがいつの間にか離れ、広い湯舟をスィーっと行ったり来たりし始めた。
 顔の上半分だけを出しているその姿は、なんだか潜水艦っぽく見える。人間だった頃にも実物を見たことなどないけれど。

「セリアさん、ちゃんと浸かってないと疲れが取れませんよ?」

「ふふーん、私は疲れ知らずだから別にいいのよー」

「ほんと、色々と自由な子だよね……精霊というよりも妖精みたいというか」

「失礼ね。あんなそこいらを漂ってるような小物とは違うわよ」

 体格からしてもそう見えてしまうのだが、二人は口には出さずとりあえず黙っておく。
 そのまま彼女が時折生み出す湯舟の小さな波を受けながら、一同はしばし癒しのひと時を満喫した。
 それから三十分ほどが過ぎて三人は風呂場を後にすると、シノの部屋兼リビングへと向かう。
 ちなみにセリアに合うような寝間着はさすがに持っていなかったため、子ども達に贈る用で買っておいた赤チェック柄の子どもサイズ服を着ている。多分すぐに着なくなると思われるので、彼女用の服も何か見繕ったほうがいいと思う。
 あとはそれぞれの部屋へ戻って寝るだけなのだが、


「せっかくだから……今日ぐらいは三人で寝てみない?」


 シノが突然このようなことを言い出した。つい数か月前まではずっと一人だったのだし、家に人が増えてやりたいことも増えたのだろう。
 三人で並んで寝るというのはずーっと昔のまだ小さい頃に覚えこそあるが、こういう形では初めてのことだ。

「シノさんさえよければ、私は良いですよ!」

「なんでアンタはちょっと嬉しそうなのよ……」

 リエルは快諾したが、セリアは若干唸りつつも考え込んでいた。
 つい昨日は敵同士(?)だったはずなのに、今は同じ布団で寝ようとしている。良く言うのならお人好しであり、悪く言うならば警戒心が無い。
 村の皆ならばそんなシノの性格も熟知しているのだが、来たばかりのセリアにとってはさすがにまだ慣れないようだ。パッと見だけではどこにでもいる普通の女性にしか見えないのだから、無理もないが。

「……わかったわよ。今日だけだからね!」

 やがてセリアは若干吹っ切れた感じで承諾してみせた。彼女も彼女でお人好しな気はする。
 顔を見合わせて笑った二人は先にベッドの方へと向かい、肩を竦めながらもセリアがそれに続く。
 一人で寝るには大きめのベッドに潜り込むと、三人が川の字になって並んだ。もちろん真ん中はシノで、その左右にリエルとセリアがいる。

「――――――それじゃあ……おやすみ、二人共」

「おやすみなさい!」

「……おやすみ」

 それぞれが言った後にシノは電灯に手をかざすと灯りを消した。今までは手で触れて消していたのだが、力が強まるとこういうこともできるようになって便利である。
 窓から差し込む雪明かりだけで照らされる室内の雰囲気は、まさに冬の夜といった感じだ。
 しばらくすると三人揃って寝息が聞こえ始め、シノ宅改めてミナカワ家の一夜はこうして静かに過ぎていった。

 そしてその翌朝、シノがセリアをいつのまにか抱き枕にしていたせいで怒られたのはまた別の話である。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

処理中です...