ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

49:ミナカワ家の一夜

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 間も無く日が暮れるという時間帯。家へと戻ってきたシノとリエルは、セリアに屋内を案内していた。
 一人で住んでいたにしろ二人で住み始めるようになったにしろ、その家の大きさにやはり彼女は驚いているようだ。

「……シノ。アンタって実は結構な金持ちだったりする?」

「住み始めた当初はお金が全くなかったから、この家は貰ったものなんだけど……」

「冒険者として村に住むという条件で貰ったと聞いてますよ」

「何その条件!? どうりで他の住民には冒険者感がないと思ったわ……」

 精霊であるセリアの視点からでも、クラド村には冒険者が少なく見えているらしい。
 先日、村の中央から大声で呼び立てたのも、普通の人間ぐらいしか住んでいないとわかっていたからなのだろうか。。

「二階の部屋がまだ二つほど空いてたはずだから、好きな方を使ってもいいよ」

「わかったわ。じゃあ、ちょっと見てくるわね」

 シノの言葉に頷いたセリアは、すぐさま二階へと駆けてゆく。体格のせいもあるだろうが、その様子を見ているとやっぱりどこか子どもっぽく見えてしまう。
 こっそり様子を窺っていると、階段を上がった廊下沿いにある部屋のうち、リエルとは反対側の角部屋を選んだようだ。

「これで残り一部屋になりましたね、シノさん」

「さすがにもう埋まる予定はないけどねー」

「となると……子供部屋になったりするんでしょうか?」

「まだ相手もいないのに、それはさすがに気が早いっ」

 ちょっとした冗談を言い合いつつ、二人は台所へと移動する。
 部屋を確認しにいったセリアは少し置いておくとして、そろそろ夕食時なので準備をしなければならない。
 メニューについてしばらく考えていたシノだったが、やがて何か思いついたようで、

「よし、ここはアレにしよう。私が作っちゃうから、リエルはお風呂の方頼めるかな?」

「はい! では、台所はお任せしますね」

 リエルと手分けすることにした。新しく人を(精霊だけれども)家に迎えたのだから、あまり手間はかけないほうがいい。
 こうしてシノは料理を。リエルはその他の家事を。セリアは自身の部屋の準備を。それぞれのやることに取り掛かり始めた。

 それから三十分ほどが過ぎた後。部屋の準備を終えたらしいセリアが下の階へと降りてくる。時をほぼ同じくして、他の二人もやることを終えたようだった。

「やっと家具の移動が終わったぁ……って、何だか良い匂いがするわね」

「お、タイミングバッチリだね。夕御飯出来てるよ!」

「この状態でも、相変わらず美味しそうですねー……」

 シノが作った夕食が用意してあるテーブルへと移動した二人は、それを見て感心する。チキンライスの上にオムレツが乗ったもの――――――――紛うことなきオムライスだ。
 しかし、まだ完璧な状態ではないのは明らかである。今のままだとただ上にオムが乗っているだけだ。

「さて、それでは……」

 シノはおもむろに小さなナイフを取り出すと、乗っているオムレツへと素早く切れ目を入れていく。
 その瞬間、切れ目を中心にまるで雪崩のように半熟の中身が綺麗に両脇へと滑り落ち、ライスを覆い尽くした。そしてソースをかけてあげれば、オムライス完全体の完成である。何が完全体なのかはさておき。

「わぁ……!」

 それを見たセリアは思わず目をキラキラさせて、まんま子どものような反応を見せていた。
 ちなみにこれはローザの直伝。シノが半年近くも練習して会得した職人の技だ。いよいよ本家にも追いついてきたといったところか。
 完璧なオムライスの光景にしばらく見とれていたセリアも、ふと我に返ったようだ。

「な、何よ! 見とれてちゃ悪い!?」

「ううん。作った料理を褒めて貰えるのはやっぱり嬉しいなーって」

「これを食べたら、もうシノさんには逆らえませんよ!」

「なんか、それだけ聞くと凄く怪しい何かにしか聞こえないわよ……」

 逆らえなくなっているリエルが得意げに言って見せる。彼女的には、シノに逆らう気など微塵もないとは思うのだけれど。
 あまり話し込んでいてもせっかくの料理が冷めてしまうので、三人はそれぞれのスプーンを手に取ると、

「――――――いただきます!」

 同時に言葉を合わせ、料理娘直伝のオムライスを食べ始めたのだった。
 二人にとっては割と日常的な味ではあるのだが、これを初めて食べたセリアはというと、

「何これ、美味しい……!」

 相変わらず目をキラキラさせながら夢中で食べ続けていた。その光景はもう完全に子どもにしか見えない。
 かくいうシノも、あの直伝オムライスを初めて食べた時は似たような反応になっていたのであまり人の事は言えないのだが。

「家はでかいし料理は上手いし私を家に迎え入れるしし……アンタは一体なんなのよぉ……!」

 褒めているのか怒っているのかよくわからない事を言いながらも食べ進めているセリア。なんだか若干涙声っぽくなっているのは気のせいだろうか。

「長らく一緒に居ましたけど、こんなセリアさんを見たのは初めてですね……」

「ちょっと反抗期っぽいだけで、根は素直でいい子なんだと思うよ」

 彼女ならば絶対に「ま、まぁまぁの味ねっ!」とか言うと思っていたのだがそうでもなかったようだ。シノの見立て通り、別に性格が悪いというわけではないのだろう。
 そのまま十分ほどかけて食べ終えた三人は、すぐさま風呂場へと向かった。
 やっぱりその広さに驚いていたセリアであったが、二人から三人に増えたところで狭くなるようなものではない。
 三人並んで湯舟に浸かると、すぐさま今日の疲れを癒す。中でもセリアに関しては色々な意味で疲れたことだろう。

(そういえば、三人並んで湯に浸かるなんてことは今までなかったなぁ……)

 元の世界では一人っ子だったし、親子揃って入浴というのも記憶にはない。女三人ではあるのだけれど、なんだか新鮮な感じだ。ちょっと形こそ違うとは思うが、女子会っぽくもあるかもしれない。
 そんなことを思っているとシノの隣にいたセリアがいつの間にか離れ、広い湯舟をスィーっと行ったり来たりし始めた。
 顔の上半分だけを出しているその姿は、なんだか潜水艦っぽく見える。人間だった頃にも実物を見たことなどないけれど。

「セリアさん、ちゃんと浸かってないと疲れが取れませんよ?」

「ふふーん、私は疲れ知らずだから別にいいのよー」

「ほんと、色々と自由な子だよね……精霊というよりも妖精みたいというか」

「失礼ね。あんなそこいらを漂ってるような小物とは違うわよ」

 体格からしてもそう見えてしまうのだが、二人は口には出さずとりあえず黙っておく。
 そのまま彼女が時折生み出す湯舟の小さな波を受けながら、一同はしばし癒しのひと時を満喫した。
 それから三十分ほどが過ぎて三人は風呂場を後にすると、シノの部屋兼リビングへと向かう。
 ちなみにセリアに合うような寝間着はさすがに持っていなかったため、子ども達に贈る用で買っておいた赤チェック柄の子どもサイズ服を着ている。多分すぐに着なくなると思われるので、彼女用の服も何か見繕ったほうがいいと思う。
 あとはそれぞれの部屋へ戻って寝るだけなのだが、


「せっかくだから……今日ぐらいは三人で寝てみない?」


 シノが突然このようなことを言い出した。つい数か月前まではずっと一人だったのだし、家に人が増えてやりたいことも増えたのだろう。
 三人で並んで寝るというのはずーっと昔のまだ小さい頃に覚えこそあるが、こういう形では初めてのことだ。

「シノさんさえよければ、私は良いですよ!」

「なんでアンタはちょっと嬉しそうなのよ……」

 リエルは快諾したが、セリアは若干唸りつつも考え込んでいた。
 つい昨日は敵同士(?)だったはずなのに、今は同じ布団で寝ようとしている。良く言うのならお人好しであり、悪く言うならば警戒心が無い。
 村の皆ならばそんなシノの性格も熟知しているのだが、来たばかりのセリアにとってはさすがにまだ慣れないようだ。パッと見だけではどこにでもいる普通の女性にしか見えないのだから、無理もないが。

「……わかったわよ。今日だけだからね!」

 やがてセリアは若干吹っ切れた感じで承諾してみせた。彼女も彼女でお人好しな気はする。
 顔を見合わせて笑った二人は先にベッドの方へと向かい、肩を竦めながらもセリアがそれに続く。
 一人で寝るには大きめのベッドに潜り込むと、三人が川の字になって並んだ。もちろん真ん中はシノで、その左右にリエルとセリアがいる。

「――――――それじゃあ……おやすみ、二人共」

「おやすみなさい!」

「……おやすみ」

 それぞれが言った後にシノは電灯に手をかざすと灯りを消した。今までは手で触れて消していたのだが、力が強まるとこういうこともできるようになって便利である。
 窓から差し込む雪明かりだけで照らされる室内の雰囲気は、まさに冬の夜といった感じだ。
 しばらくすると三人揃って寝息が聞こえ始め、シノ宅改めてミナカワ家の一夜はこうして静かに過ぎていった。

 そしてその翌朝、シノがセリアをいつのまにか抱き枕にしていたせいで怒られたのはまた別の話である。
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