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第8話
最後の試練
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二十分後、中央・南の大通り――
「Jッ、まとめて吹っ飛ばせッ!」
「ヨッシャッ!」
俺の指示に、Jが五人ほどで群れていたゾンビにショットガンを撃ち込む。頭部に放たれた弾丸は、ゾンビ達の身体を吹き飛ばした。
俺達が目指しているのは銃砲店だ。病院で消費した弾薬と、ワンランク上の武器を手に入れるためである。
「ハック、ドア前を確保しろッ! レイカはハックの援護だッ!」
「はいッ」
「うん、分かったッ」
力強く頷くと、ハックがマシンガンを撃ちながら、銃砲店のドア前に陣取る。そんな彼に襲い掛かろうとするゾンビを、レイカのライフルが撃ち抜いていった。
(後は数を減らせば……)
段取りを頭の中で整える。
と、その時――
「アァ~ッ……!」
真横から聞こえる不気味な声。俺は咄嗟に銃を右側に突き出すと、迷うことなくトリガーを引いた。そのまま、声が聞こえなくなるまで連射する。バタバタと倒れる音に、俺は戦闘の終了が近いことを悟った。
「兄弟、終わったぜ」
一つ息を吐いたところで、Jが声を掛けてきた。
「周りのゾンビは片付けたぜ。これなら暫くは大丈夫だろ」
「そうか……」
短く答えると、俺は一肩の力を抜いた。そうして気分を落ち着けると、彼のほうへと向き直った。
「それじゃ、宝探しと行こうか」
そう言うと、俺はハックとレイカが確保しているドアへと向かった。
「お疲れさん」
「うん、そっちもね」
俺の言葉に、レイカが笑みを浮かべて返す。
「よし……じゃあ、中に入るか」
俺は僅かに緊張感を高め、銃を構えた。中に敵が居ないとは言い切れないのだ。
「ハック、頼む」
「わ、分かった」
大きく頷くと、ハックはドアノブを掴んだ。それに続き、Jとレイカも銃を構えた。
直後――
『ガチャリッ!』
ハックが勢い良くドアを開ける。同時に、俺達は銃口を前に向けた。
「…………」
しかし、覚悟に反して敵の存在は感じられなかった。耳を澄ましてみたりもしたが、何の物音も聞こえなかった。
「大丈夫そうか?」
「みたいだね」
「それじゃ、一応、俺とJで警戒しよう。二人は早めに弾と武器を集めてくれ」
『分かった』
三人の声が揃う。それに対し頷き返すと、俺から店内に足を踏み入れた。
「…………」
静まり返る店内。板張りの床を踏みしめる音だけが、辺りに響き続けていた。
「――、武器と弾あったよ」
その言葉に振り返ると、レイカがカウンターの奥を指差していた。たしかに、そこには棚に飾られている武器と箱に入れられた弾が置かれていた。
「レイカ、ハック、頼む」
俺の指示に頷くと、二人はカウンターの中に入り、手持ちのバックの中に弾を詰め込み始めた。
「――、ハンドガンとマグナムの弾ッ」
「ああ、ありがとう」
「J、ショットガンの弾だよ」
「サンキュー」
作業途中だろうが、まずは俺達の安全が先と言わんばかりに、弾を手渡してくれる。感謝の気持ちと共に、それを装填すると、俺は周りの警戒に戻った。
そうすること十分ほど、二人の作業は終わったようだ。
「取り残しはないか?」
「うん、ガッツリと頂いたよ」
Vサインと笑顔で答えるレイカ。そんな彼女に俺も笑みを浮かべると、Jに視線で店から出ることを伝えた。
「よし、無線施設まで走るぞッ。順番を守れよッ」
「OK」
「了解」
「大丈夫ッ」
三人が頷くのを見届けると、俺は軍用無線施設に向かって走り出した。
三十分後、軍用無線施設――
「冗談だろ……?」
Jが呟く。そう思うのも仕方がないほど現れた敵の数は多かった。
見慣れたノーマルや犬のゾンビを始めとして、武器持ちまで出てきている。ハッキリ言って、四人で戦いを挑む連中じゃない。
「こんなに出てくるはずないのに……」
ハックも驚きを隠せないようだ。となると、未だ侵入者によるシステムの改変は続いているらしい。
しかし、今となっては関係ない。もう目の前の難題をクリアすること以外、考えることなどないのだ。
「俺とハックで全体の足止めをする。その間にレイカは犬と武器持ちを仕留めてくれ。Jは近付いてきた敵を片っ端からブッ倒すんだッ」
最善と思える指示を出す。
「オーケー。地獄絵図にしてやるぜッ」
「経験値の高さを見せ付けてあげるよッ」
「任せてよ。一匹も逃がさないんだからッ」
そんな俺に、三人は笑顔と気迫で応えてくれる。それだけで、自分の中に巣食う恐怖感が薄れたのを感じた。
「よし、行くぞッ!」
気合いを入れると、俺はハンドガンを抜き取り、足早に近付いてくるゾンビ犬と武器持ちの動きを牽制する。ハックも隣でマシンガンを巧みに使い、迫り来る敵の足を止めていた。
そうしている間に、レイカのライフル弾が強敵の急所を貫いていく。Jのショットガンも、確実に敵の数を減らしていた。
だが、物量に物を言わせた敵の前進を完璧に止めることは出来ず、ジリジリと俺達は後退せざるを得なかった。
(クソッ、どうにかしないと……)
このままでは飲み込まれるだけだ。何とか踏み込む作戦を考えなければならない。
そこへ――
『ダダダダダダダッ!』
連続した銃撃音が聞こえてきた。それに伴い、中程に居たゾンビがバタバタと倒れる。
最初、他のプレイヤーかと思った。だが、放たれた銃弾は俺達の周りにまで撃ち込まれた。
「兵士ゾンビだッ!」
ハックが危機感を含んだ口調で言う。それを聞いて目を凝らすと、確かに軍服を着たゾンビが、手にしたアサルトライフルを構えていた。
「隠れろッ!」
反射的に指示を出すと同時に、他のメンバーを近くの遮蔽物に押し込む。あんな物を持ったヤツと真正面から撃ち合いするのは、愚の骨頂でしかない。
「厄介なのが出てきやがったな」
Jが苦々しく呟く。俺も同意見だった。あれだけ連射できる武器が相手では、特攻を仕掛けることも出来ない。
(どうするか……)
思案しながら、俺は少しばかり顔を出して様子を伺う。だが、その瞬間に連続で吐き出された弾丸が襲い掛かり、傍まで来ていたゾンビと一緒に遮蔽物を削っていった。
それは、本来なら焦りを与える光景。しかし、俺にとってはヒントとなった。
「J、足の速さには自信あるんだよな?」
「ん? まあ少しはな」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか?」
「……何か、嫌な予感が止まらねえんだけど」
そう言う彼に、俺は不敵な笑みを浮かべながら、思い付いた考えを説明した。
まず、Jと俺が全速力で飛び出す。どちらを狙うにしろ、兵士ゾンビはライフルを乱射するだろう。そうなれば、周りのゾンビは確実に倒れる。同時に、それはゾンビ犬や武器持ちへの牽制にもなるのだ。危険度が高すぎるかもしれないが、弾薬も節約できる最善の策でもある。
「俺達の安全は度外視か?」
「ここに来てビビっても仕方ないだろ」
「まあ、そうだけどよ」
何だかんだと言っているが、Jの表情は既に覚悟を決めた人間のソレだった。彼とて理解しているのだ。この馬鹿げた作戦に賭けるぐらいしか方法がないことに。
「レイカとハックは、その間に犬と武器持ちを頼む」
「うん、分かった……気を付けてね」
レイカの言葉に、俺は微笑みと頷きで返した。
「J、準備は?」
「いつでもオーケー」
そのセリフを受け、俺も前傾姿勢を取り飛び出す準備を整える。
「三つ数えたら行くぞ」
「了解」
Jが頷くのを見て、俺は一度だけ深呼吸をする。そうして気分を落ち着けると、覚悟を決めた。
「1……2……3ッ!」
強く地面を蹴り、一気に飛び出す。
『ダダダダダダダッ!』
アサルトライフルが俺に向けて激しく火を吹く。だが、同時に飛び出した人影に迷いが生じたのか、銃弾が俺を捉えることはなかった。
(よし、成功だ)
狙い通り、兵士ゾンビの放った弾丸は、周りの連中をタダの屍に変えていた。そして、その隙にレイカの攻撃も着々と決まっているようだった。
「J、続けていくぞッ!」
「おう、いつでも来なッ!」
「1……2……3ッ!」
再び、全速力で飛び出す。今度は迷うことなく俺に狙いを定めたのか、幾度か足元を銃弾が抉っていった。
(危ねえだろうがッ!)
遮蔽物に身を隠しながら、俺は心の中で毒づいた。だが、そのお陰か厄介なゾンビ犬と武器持ちは大体が片付けられたようだ。
(この調子でいければ……)
希望が芽生える。それに任せて、俺は合図を出すと一気に飛び出した。
追いかけてくる銃弾。死との短距離走に勝つべく、俺は必死に足を動かす。
(今だッ)
タイミングを計り、遮蔽物に向かって頭から飛び込む。これで、かなりの数を減らせた。そう思っていた。
だが――
『パンッ、パパンッ!』
突如、鳴り響く銃声。それは、まったく予期せぬ方向からであり、俺の考えにはなかったものだった。
その直後、俺の左足に異変が起こった。
まず、まったくと言っていいほど力が入らなくなった。まるで、ずっと正座をしていたかのような感覚だ。
次に高熱。異変の中心地から、燃え上がるような熱感が俺の足に広がっていった。
そして最後に――
「――――ッ!」
言葉にならないほどの激痛。足からのものだというのに、頭の先まで響くような強烈な痛みだった。
(洒落に……ならねえぞッ!)
満足に動かない身体で無理矢理に這い、何とか遮蔽物の影に身を隠す。霞む視界で痛みの原因である足に目を向けると、太股が血に染まっていた。
撃たれた――半ば理解していたことではあったが、現実として認めると、さらに痛みが増したように思えた。
(調子に乗るもんじゃないな……)
注意を怠った自分のせいだ。最悪の自業自得である。
「兄弟ッ!」
Jの声が遠くから聞こえる。それで意識がボヤけていることに気付いた俺は、頭を振って強引に繋ぎ止めた。
「待ってろ、すぐに行くッ!」
そう言うと、Jが俺の方へと駆け出そうとする。あまりに危険な行動だ。させるわけにはいかない。
「来るんじゃないッ!」
俺は声を張り上げて制止した。目視したわけじゃないが、俺の周りにはウェポンゾンビが居るはずだ。飛び出せば、兵士ゾンビとの同時攻撃に晒されてしまう。俺の怪我のために、Jまで危険な目に遭わせるわけにはいかない。
(でも、俺が動けないんじゃ……)
いずれにしろ、Jにも被害が及ぶだろう。彼一人で今の兵士ゾンビを相手にすることは出来ないのだから。
「レイカッ! ヤツを始末してくれッ!」
「ダメッ! もう弾が無いのッ!」
絶体絶命だ。利用するために生き延びさせていたのが、こんなことで裏目に出るとは。
(何か、打開策を……)
痛みでハッキリしない頭を何とか働かせる。
群れていたゾンビは、かなり数を減らせている。だが、兵士ゾンビを始めとした武器持ちの敵が複数いるため、迂濶に動くことは出来ない。
「――、待っててッ! すぐに行くからッ!」
「ダメだッ! 来るなッ!」
反射的にレイカを制する。彼女が来てくれれば傷を癒すことが出来るが、俺の元へ辿り着く前に撃ち殺されてしまうだろう。
(一か八か……やるしかないか)
出来れば避けたい愚策。でも、現状では俺にしか出来ないことだ。
(お荷物になるなんて、我慢できないんだよッ!)
覚悟を決めると、俺は痛みを捩じ伏せて立ち上がった。
兵士ゾンビが俺を捉える。
自分へと向けられる銃口。
俺もマグナムを構える。
慎重に、しかし迅速に狙いを定める。
そして――
「――――ッ!」
重なる銃声。
声にならない俺の苦鳴。
左肩を見れば、太股と同じように鮮血で赤く染まっていた。
大きな代償。しかし、それを払っただけの成果は手に入れた。連続で放ったマグナムの弾丸が、兵士ゾンビと武器持ちのゾンビーーー合計三体を片付けたのだ。
「兄弟ッ!」
激痛に倒れ込む俺を見て、三人が駆け寄ってくる。それを止める理由も気力もなくなった俺は、歯を食い縛って静かに痛みを堪えた。
「――、ちょっと待っててねッ」
俺の傍に来るや否や、レイカが回復アイテムを使う。直後、燃えるような熱感は温もりに代わり、気を抜けば意識を持っていかれそうになる激痛も、次第に和らいでいった。
「兄弟、どうだ?」
「ああ……落ち着いたよ」
やはり、こういったところはゲームのようだ。アイテムを使って一分も経っていないが、もう痛みも熱感もなくなっていた。
「まったく……無茶するんだから」
レイカが責めるような、安堵したような口調で言う。
「ゴメン。でも、怪我人を増やすわけにもいかなかったから」
他の誰かに任せ、結果として兵士ゾンビを倒せずに怪我を負わせてしまったら最悪の状況になってしまう。それだけは、どうしても避けたかったのだ。
「だからってよ……」
不満げなJだったが、それ以上は何も言わなかった。レイカとハックも、俺が無事だったことのほうが嬉しいのか、特に文句を言うようなことはしなかった。
「さあ、気を取り直して行こうぜ。ここをクリアすれば、ゴールは目の前だ」
完全回復した俺は、力強く立ち上がる。
そして、全員で走り出すと、無線施設へと突入したーーー
「Jッ、まとめて吹っ飛ばせッ!」
「ヨッシャッ!」
俺の指示に、Jが五人ほどで群れていたゾンビにショットガンを撃ち込む。頭部に放たれた弾丸は、ゾンビ達の身体を吹き飛ばした。
俺達が目指しているのは銃砲店だ。病院で消費した弾薬と、ワンランク上の武器を手に入れるためである。
「ハック、ドア前を確保しろッ! レイカはハックの援護だッ!」
「はいッ」
「うん、分かったッ」
力強く頷くと、ハックがマシンガンを撃ちながら、銃砲店のドア前に陣取る。そんな彼に襲い掛かろうとするゾンビを、レイカのライフルが撃ち抜いていった。
(後は数を減らせば……)
段取りを頭の中で整える。
と、その時――
「アァ~ッ……!」
真横から聞こえる不気味な声。俺は咄嗟に銃を右側に突き出すと、迷うことなくトリガーを引いた。そのまま、声が聞こえなくなるまで連射する。バタバタと倒れる音に、俺は戦闘の終了が近いことを悟った。
「兄弟、終わったぜ」
一つ息を吐いたところで、Jが声を掛けてきた。
「周りのゾンビは片付けたぜ。これなら暫くは大丈夫だろ」
「そうか……」
短く答えると、俺は一肩の力を抜いた。そうして気分を落ち着けると、彼のほうへと向き直った。
「それじゃ、宝探しと行こうか」
そう言うと、俺はハックとレイカが確保しているドアへと向かった。
「お疲れさん」
「うん、そっちもね」
俺の言葉に、レイカが笑みを浮かべて返す。
「よし……じゃあ、中に入るか」
俺は僅かに緊張感を高め、銃を構えた。中に敵が居ないとは言い切れないのだ。
「ハック、頼む」
「わ、分かった」
大きく頷くと、ハックはドアノブを掴んだ。それに続き、Jとレイカも銃を構えた。
直後――
『ガチャリッ!』
ハックが勢い良くドアを開ける。同時に、俺達は銃口を前に向けた。
「…………」
しかし、覚悟に反して敵の存在は感じられなかった。耳を澄ましてみたりもしたが、何の物音も聞こえなかった。
「大丈夫そうか?」
「みたいだね」
「それじゃ、一応、俺とJで警戒しよう。二人は早めに弾と武器を集めてくれ」
『分かった』
三人の声が揃う。それに対し頷き返すと、俺から店内に足を踏み入れた。
「…………」
静まり返る店内。板張りの床を踏みしめる音だけが、辺りに響き続けていた。
「――、武器と弾あったよ」
その言葉に振り返ると、レイカがカウンターの奥を指差していた。たしかに、そこには棚に飾られている武器と箱に入れられた弾が置かれていた。
「レイカ、ハック、頼む」
俺の指示に頷くと、二人はカウンターの中に入り、手持ちのバックの中に弾を詰め込み始めた。
「――、ハンドガンとマグナムの弾ッ」
「ああ、ありがとう」
「J、ショットガンの弾だよ」
「サンキュー」
作業途中だろうが、まずは俺達の安全が先と言わんばかりに、弾を手渡してくれる。感謝の気持ちと共に、それを装填すると、俺は周りの警戒に戻った。
そうすること十分ほど、二人の作業は終わったようだ。
「取り残しはないか?」
「うん、ガッツリと頂いたよ」
Vサインと笑顔で答えるレイカ。そんな彼女に俺も笑みを浮かべると、Jに視線で店から出ることを伝えた。
「よし、無線施設まで走るぞッ。順番を守れよッ」
「OK」
「了解」
「大丈夫ッ」
三人が頷くのを見届けると、俺は軍用無線施設に向かって走り出した。
三十分後、軍用無線施設――
「冗談だろ……?」
Jが呟く。そう思うのも仕方がないほど現れた敵の数は多かった。
見慣れたノーマルや犬のゾンビを始めとして、武器持ちまで出てきている。ハッキリ言って、四人で戦いを挑む連中じゃない。
「こんなに出てくるはずないのに……」
ハックも驚きを隠せないようだ。となると、未だ侵入者によるシステムの改変は続いているらしい。
しかし、今となっては関係ない。もう目の前の難題をクリアすること以外、考えることなどないのだ。
「俺とハックで全体の足止めをする。その間にレイカは犬と武器持ちを仕留めてくれ。Jは近付いてきた敵を片っ端からブッ倒すんだッ」
最善と思える指示を出す。
「オーケー。地獄絵図にしてやるぜッ」
「経験値の高さを見せ付けてあげるよッ」
「任せてよ。一匹も逃がさないんだからッ」
そんな俺に、三人は笑顔と気迫で応えてくれる。それだけで、自分の中に巣食う恐怖感が薄れたのを感じた。
「よし、行くぞッ!」
気合いを入れると、俺はハンドガンを抜き取り、足早に近付いてくるゾンビ犬と武器持ちの動きを牽制する。ハックも隣でマシンガンを巧みに使い、迫り来る敵の足を止めていた。
そうしている間に、レイカのライフル弾が強敵の急所を貫いていく。Jのショットガンも、確実に敵の数を減らしていた。
だが、物量に物を言わせた敵の前進を完璧に止めることは出来ず、ジリジリと俺達は後退せざるを得なかった。
(クソッ、どうにかしないと……)
このままでは飲み込まれるだけだ。何とか踏み込む作戦を考えなければならない。
そこへ――
『ダダダダダダダッ!』
連続した銃撃音が聞こえてきた。それに伴い、中程に居たゾンビがバタバタと倒れる。
最初、他のプレイヤーかと思った。だが、放たれた銃弾は俺達の周りにまで撃ち込まれた。
「兵士ゾンビだッ!」
ハックが危機感を含んだ口調で言う。それを聞いて目を凝らすと、確かに軍服を着たゾンビが、手にしたアサルトライフルを構えていた。
「隠れろッ!」
反射的に指示を出すと同時に、他のメンバーを近くの遮蔽物に押し込む。あんな物を持ったヤツと真正面から撃ち合いするのは、愚の骨頂でしかない。
「厄介なのが出てきやがったな」
Jが苦々しく呟く。俺も同意見だった。あれだけ連射できる武器が相手では、特攻を仕掛けることも出来ない。
(どうするか……)
思案しながら、俺は少しばかり顔を出して様子を伺う。だが、その瞬間に連続で吐き出された弾丸が襲い掛かり、傍まで来ていたゾンビと一緒に遮蔽物を削っていった。
それは、本来なら焦りを与える光景。しかし、俺にとってはヒントとなった。
「J、足の速さには自信あるんだよな?」
「ん? まあ少しはな」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか?」
「……何か、嫌な予感が止まらねえんだけど」
そう言う彼に、俺は不敵な笑みを浮かべながら、思い付いた考えを説明した。
まず、Jと俺が全速力で飛び出す。どちらを狙うにしろ、兵士ゾンビはライフルを乱射するだろう。そうなれば、周りのゾンビは確実に倒れる。同時に、それはゾンビ犬や武器持ちへの牽制にもなるのだ。危険度が高すぎるかもしれないが、弾薬も節約できる最善の策でもある。
「俺達の安全は度外視か?」
「ここに来てビビっても仕方ないだろ」
「まあ、そうだけどよ」
何だかんだと言っているが、Jの表情は既に覚悟を決めた人間のソレだった。彼とて理解しているのだ。この馬鹿げた作戦に賭けるぐらいしか方法がないことに。
「レイカとハックは、その間に犬と武器持ちを頼む」
「うん、分かった……気を付けてね」
レイカの言葉に、俺は微笑みと頷きで返した。
「J、準備は?」
「いつでもオーケー」
そのセリフを受け、俺も前傾姿勢を取り飛び出す準備を整える。
「三つ数えたら行くぞ」
「了解」
Jが頷くのを見て、俺は一度だけ深呼吸をする。そうして気分を落ち着けると、覚悟を決めた。
「1……2……3ッ!」
強く地面を蹴り、一気に飛び出す。
『ダダダダダダダッ!』
アサルトライフルが俺に向けて激しく火を吹く。だが、同時に飛び出した人影に迷いが生じたのか、銃弾が俺を捉えることはなかった。
(よし、成功だ)
狙い通り、兵士ゾンビの放った弾丸は、周りの連中をタダの屍に変えていた。そして、その隙にレイカの攻撃も着々と決まっているようだった。
「J、続けていくぞッ!」
「おう、いつでも来なッ!」
「1……2……3ッ!」
再び、全速力で飛び出す。今度は迷うことなく俺に狙いを定めたのか、幾度か足元を銃弾が抉っていった。
(危ねえだろうがッ!)
遮蔽物に身を隠しながら、俺は心の中で毒づいた。だが、そのお陰か厄介なゾンビ犬と武器持ちは大体が片付けられたようだ。
(この調子でいければ……)
希望が芽生える。それに任せて、俺は合図を出すと一気に飛び出した。
追いかけてくる銃弾。死との短距離走に勝つべく、俺は必死に足を動かす。
(今だッ)
タイミングを計り、遮蔽物に向かって頭から飛び込む。これで、かなりの数を減らせた。そう思っていた。
だが――
『パンッ、パパンッ!』
突如、鳴り響く銃声。それは、まったく予期せぬ方向からであり、俺の考えにはなかったものだった。
その直後、俺の左足に異変が起こった。
まず、まったくと言っていいほど力が入らなくなった。まるで、ずっと正座をしていたかのような感覚だ。
次に高熱。異変の中心地から、燃え上がるような熱感が俺の足に広がっていった。
そして最後に――
「――――ッ!」
言葉にならないほどの激痛。足からのものだというのに、頭の先まで響くような強烈な痛みだった。
(洒落に……ならねえぞッ!)
満足に動かない身体で無理矢理に這い、何とか遮蔽物の影に身を隠す。霞む視界で痛みの原因である足に目を向けると、太股が血に染まっていた。
撃たれた――半ば理解していたことではあったが、現実として認めると、さらに痛みが増したように思えた。
(調子に乗るもんじゃないな……)
注意を怠った自分のせいだ。最悪の自業自得である。
「兄弟ッ!」
Jの声が遠くから聞こえる。それで意識がボヤけていることに気付いた俺は、頭を振って強引に繋ぎ止めた。
「待ってろ、すぐに行くッ!」
そう言うと、Jが俺の方へと駆け出そうとする。あまりに危険な行動だ。させるわけにはいかない。
「来るんじゃないッ!」
俺は声を張り上げて制止した。目視したわけじゃないが、俺の周りにはウェポンゾンビが居るはずだ。飛び出せば、兵士ゾンビとの同時攻撃に晒されてしまう。俺の怪我のために、Jまで危険な目に遭わせるわけにはいかない。
(でも、俺が動けないんじゃ……)
いずれにしろ、Jにも被害が及ぶだろう。彼一人で今の兵士ゾンビを相手にすることは出来ないのだから。
「レイカッ! ヤツを始末してくれッ!」
「ダメッ! もう弾が無いのッ!」
絶体絶命だ。利用するために生き延びさせていたのが、こんなことで裏目に出るとは。
(何か、打開策を……)
痛みでハッキリしない頭を何とか働かせる。
群れていたゾンビは、かなり数を減らせている。だが、兵士ゾンビを始めとした武器持ちの敵が複数いるため、迂濶に動くことは出来ない。
「――、待っててッ! すぐに行くからッ!」
「ダメだッ! 来るなッ!」
反射的にレイカを制する。彼女が来てくれれば傷を癒すことが出来るが、俺の元へ辿り着く前に撃ち殺されてしまうだろう。
(一か八か……やるしかないか)
出来れば避けたい愚策。でも、現状では俺にしか出来ないことだ。
(お荷物になるなんて、我慢できないんだよッ!)
覚悟を決めると、俺は痛みを捩じ伏せて立ち上がった。
兵士ゾンビが俺を捉える。
自分へと向けられる銃口。
俺もマグナムを構える。
慎重に、しかし迅速に狙いを定める。
そして――
「――――ッ!」
重なる銃声。
声にならない俺の苦鳴。
左肩を見れば、太股と同じように鮮血で赤く染まっていた。
大きな代償。しかし、それを払っただけの成果は手に入れた。連続で放ったマグナムの弾丸が、兵士ゾンビと武器持ちのゾンビーーー合計三体を片付けたのだ。
「兄弟ッ!」
激痛に倒れ込む俺を見て、三人が駆け寄ってくる。それを止める理由も気力もなくなった俺は、歯を食い縛って静かに痛みを堪えた。
「――、ちょっと待っててねッ」
俺の傍に来るや否や、レイカが回復アイテムを使う。直後、燃えるような熱感は温もりに代わり、気を抜けば意識を持っていかれそうになる激痛も、次第に和らいでいった。
「兄弟、どうだ?」
「ああ……落ち着いたよ」
やはり、こういったところはゲームのようだ。アイテムを使って一分も経っていないが、もう痛みも熱感もなくなっていた。
「まったく……無茶するんだから」
レイカが責めるような、安堵したような口調で言う。
「ゴメン。でも、怪我人を増やすわけにもいかなかったから」
他の誰かに任せ、結果として兵士ゾンビを倒せずに怪我を負わせてしまったら最悪の状況になってしまう。それだけは、どうしても避けたかったのだ。
「だからってよ……」
不満げなJだったが、それ以上は何も言わなかった。レイカとハックも、俺が無事だったことのほうが嬉しいのか、特に文句を言うようなことはしなかった。
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