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22 丑の日
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「なに寝言、言ってるんですか? 馬鹿も休み休み言ってください」
来月の後半ぐらいから1ヶ月ほど留守にすると告げると、案の定、逢坂からは猛烈な嫌味を食らった。
「今年の夏は街に旅行客もかなり戻ってきていて、せっかくの稼ぎ時だっていうのに。貴方、此の所とことん仕事を舐めてますよね」
だが自分はここ何年も完全にフリーな休みを取っていなかったこと。それぞれの店も設備のメンテナンスを兼ねて1週間ほど休業にすればいいと。そんなことを言い連ねて、何とか強引に休みをもぎ取る。まあ最後は、「俺は社長だ、俺がルールだ」的な発言をして、無理やり説き伏せたのだけれど。
「特別手当、絶対に払ってくださいよ」
「もちろんだ。今月に加えて、来月には夏のボーナスとしてきっちり払ってやる」
随分と気前のいい。その太っ腹ぶりに逢坂はすぐに何かを察して、ジロリと睨みつけてきた。
「……また株で当てたんですか?」
口角だけで笑った五十嵐の顔が全てを物語っている。
実は。本田が生活費として納めてくれている金額の大部分、プラス、自分も同額を足して開設した口座でアメリカ株を運用したら、この2ヶ月程でほぼ15倍になったのだ。
一緒に住み始めて間もない頃、五十嵐が新しい投資先として検討していた銘柄のひとつを見て、
「あ、この会社、いつの間にかナスダックに上場したんだ」
と、横から本田が何気なく呟いた。
「知っているのか?」
「うん。このベンチャー会社の社長、随分前に医療器具の Convention で会ったことがあるんだ。ブースにはまだ未完成の試作品しかなかったけど、なかなかユーモアのある人でね。その時に開発途中だった技術の可能性を延々と聞かされてさ。まあ確かに聞く限り全く不可能な話じゃなくて、もしあれが実現したら医療業界だけじゃなくて色んな分野にも応用できるなって思ったんだけど。結局あれって、完成したのかな?」
と、学問や仕事関連では抜群に記憶力のいい本田が褒めていたので、試しにその株を買ってみたのだ。これが何と大当たり。ある世界的に有名な超大手企業が共同開発を申し出て、特許が取れる公算が高まった途端、元値が低かったこともあり見る見るうちに10バガー……どころか元値の12倍近くまで爆上がりをみせたのだ。もちろん五十嵐は売り時を逃さずに、早々に一度利益を確定させた。
五十嵐が個人的に以前から所有する株も、堅実どころからの年間配当金を含め、日々の売り買いでも着実に儲けているし、本当はその収入だけで十分生活が出来るのだ。ちなみに株投資に手を出したのはかなり前からで、この豊潤な資金があったからこそ、世間が自粛で外出を控えた時期も何とか会社を維持することが出来た。
逢坂は面白くなさそうに大きくため息を吐くと、やがて渋々ながらも容認した。
「では貴方が留守の間、必要に応じて佐々木マネージャーに私の補佐をしてもらいます。必然的に彼の仕事量が増えますので、彼にも少しボーナスの上乗せをしてください」
「もちろんだ」
「あと貴方が提案した通り、どの店も来月末の月曜から木曜日、4日間を休みにします。その間、定期清掃を入れますので。今回は徹底的に、床のワックス掛け、エアコンの清掃、カーペットの洗浄等、業者にフルオーダーします。ついでにキッチンの設備点検。あとは各店の改善、改装要望をすぐに調査しますので、もし妥当であればそれも一緒に業者を入れます」
「好きにしてくれ。ただ改装関連は最低限でな。何らかの修繕費用が嵩みそうなら却下だ」
「もちろんです。あと、必ず常に連絡がつくようにしておいてください。もし何かあったらすぐに呼び戻しますので、そのつもりで」
「分かっている。オンラインで出来る仕事は、今まで通りちゃんとリモートでやるから」
「そんなのは当たり前です。まったく……私も色々と忙しいんですよ。いま一件、弁護を引き受けている案件だってあるっていうのに……」
逢坂は弁護士資格を持っているので、定期的に断れない筋からの依頼が舞い込んでくる。いわゆる警察、公安が常に監視対象にしている団体の方たちだ。
ちくちくと小言を言われながらも何とか休みを確保した五十嵐は、ホッと胸を撫で下ろした。
こういう時、仕事の出来る男は頼りになる反面、貧乏くじを引かされて気の毒だ。元凶であるにも拘わらず、五十嵐は呑気にそう思った。
その日の晩、仕事から帰ってきた本田に自分も休みが取れたと意気勇んで報告すると、彼はその行動の早さに唖然としながらも、
「そうなの? じゃあ飛行機のチケット、2列並びで探さなきゃね」
とあっさり受け入れてくれた。
「ただ私が仕事をしている間、かなりの時間を独りで行動させることになると思うけど、それは大丈夫? アメリカは日本と違って少し物騒だから、心配なんだけど」
「それは平気だ、子供じゃあるまいし。それに俺も、何だかんだリモートワークで忙しいと思うし。たとえ外出するにしても、アメリカは何度か行ったことがあるから、まあ、なんとかなるさ」
「そうなんだ? どこ?」
「ニューヨークとラスベガス、あとニューオリンズ。それぞれ2週間程だけど、店の参考にするために旅行したんだ」
「そっか、じゃあ、大丈夫かな? まあ、圭吾は英語も喋れるし、何より堂々としていて物怖じしないからね」
こうして本田は、盆休み後に、五十嵐を伴ってアメリカに旅立つことを快く了承した。
ようやく長かった梅雨が明けたと思ったら、一気に猛烈な暑さが襲ってきた。
7月後半からずっと、日中の最高気温は35度を上回っている。
月が変わって8月。
今月の半ばから約1ヶ月、逢坂に無理をさせることが分かっているから、今のうちに少しでも休みを取らせておこうと、五十嵐はここ最近ずっと精力的に働いていた。すると思ったより、本田との生活がすれ違うようになってしまった。辛うじて朝の珈琲は淹れ続けているが、夜もかなり遅い時間……時には朝方に帰宅することも増えたので、必然的に恋人との会話もスキンシップもめっきり減っている。
本田は本田で長期職場を空けることで皺寄せがいく同僚医師の夏休み交代に入ったりと、こちらもまた忙しく働いている。なのでもちろん、五十嵐に構っている暇なんてない。
そんな中、久しぶりに二人揃って明日は休日というこの日、五十嵐と本田はデートも兼ねて外に食べに行くことにした。
「やっぱり今夜は鰻かな」
「丑の日か?」
「そう。先週、食べ損ねたから」
「いやいや、今年は2回あるから、3日後も丑の日だぞ」
そんなことを言いながら向かった先は、家から徒歩10分ほどで行ける現代和モダンのお店。ミシュランガイドにも度々取り上げられた人気のうなぎ処だ。近所にある鰻屋は老舗を中心に何軒か贔屓にしているが、この店は今日が初めてだった。
「うわ!」
この店で1番の人気だという御膳を頼んだら、活きた鰻を見せられて驚いた。クネクネと桶の中で動くそれを、「これから捌いて調理するから、少しお時間をいただきます」と店員が言う。キレのある青森の冷酒で乾杯し、供された小鉢をつつきながら待つこと40分。1匹を白焼きとうな重、2つの異なった方法で調理してくれるので、なかなか満足度の高い夕食だった。
「アメリカに行く日程なんだけど、羽田を木曜日の夕方に出発して、サンフランシスコ到着が同じ日付の朝の9時頃。で、私は金曜、土曜は学会だから、その間、圭吾は好きに観光しておいて。その後は日曜日の午前中の便でボストン行きだから」
食事中、改めて本田から詳細な日程を説明されて、五十嵐はうんうんと頷いた。今回の五十嵐の渡米は完全にプライベート、本田の仕事に我儘で付随していくのだから、都合のいいように日程を組んでくれて構わないと事前に伝えてある。
「あとボストンで私が仕事をしている間なんだけど。どこかへ出かけるのなら、利便性と防犯の面でも車が運転出来たほうがいいんだ。車自体は私のジープが今も親の家に保管してあるから、それを自由に使ってくれて構わない。けど、運転するのにもちろん、向こうで有効な License が必要だよ」
「そうだな。じゃあ国際運転免許証を取っておくよ」
「うん。それがいいと思う。ただアメリカは日本と違って右側通行だから、その点は注意してね。圭吾は運転が好きみたいだから、大丈夫そうだけど」
「そればっかりは慣れだろうな。でも向こうでも車が使えるのは正直ありがたいから……」
こんな話をしていると、一気にアメリカ行きが現実味を帯びてくる。
2時間近くかけてゆっくりと食事と会話を楽しんだ後、五十嵐がクレジットカードを出した。要らないと言ったのに本田が律儀に結構な額の生活費を毎月入れてくれるから、五十嵐が負担すべき生活費と併せて共同貯金を作り、二人が一緒の時はそこから全て支払いをしようと話し合って決めたのだ。その金の大部分を株の運用にも回しているので、合計額は目減りするどころか、通帳の一番左の数字は目まぐるしくカウントアップしている。
「ご馳走さん」
カウンターの奥にいる料理人に礼を言って店の外に出る。途端、体にまとわりつくような蒸し暑さが二人を襲った。もう夜も10時を過ぎたというのに、気温がそれほど下がっていないのだ。風がなくて湿度が異様に高いので、本当に不快としか言いようがない。家までそんなに離れていないというのに、五十嵐と本田の背中にはうっすらと汗が滲んでしまう程だった。
「暑い……日本って、こんなに暑い国だった?」
「年々上がってんだよ。今日の昼間なんて、体感温度にしたら43度だったらしいぞ。人の体温より暑い気温なんて、ずっとサウナに入っているようなもんだろ」
「言えてる」
玄関のドアを開けてようやく、二人は一息つけた。快適に設定された涼しい空気を、気兼ねなく思いっきり胸に吸い込む。
とにかく早くスッキリしたくて、五十嵐はリビングに入るなり、ランダムテレコのグレーTシャツを脱ぎ捨てた。次いで本田のフレンチリネンのシャツに手を伸ばし、おもむろにそのボタンを外し始める。
焦ったのはいきなりそんなことをされた本田だ。
「圭吾? 何して……?」
「一緒にシャワーを浴びようぜ。ショウも早く汗を流したいだろ? 前みたいに、俺が隅々まで綺麗に洗ってやるからな」
「は? え!!」
これは明確な誘い文句だった。確かに最近接触が減っていたけれど、ここまであからさまに、欲望を隠さずに言われるのは初めてだ。
「え、ちょ……」
面食らいながらもはっきりと拒絶できないのは、本田も少なからず欲求不満だったからか。流されるままにずるずると、バスルームに連れ込まれてしまった。
「ん……」
オーバーヘッドのシャワーからぬるめのお湯が降り落ちると同時に、五十嵐の唇が重なってきた。
キスしながら、五十嵐の大きな手が性急に肌を弄ってくる。まるで汗を洗い流すように、首筋、肩、脇、そして胸元を念入りに撫でられて、本田の体にも火がついた。
風呂場での行為はどうしても、強烈だった前回の感覚を思い出してしまう。この先の期待に二人とも下半身が反応してしまい、緩く勃ち上がっていた。
硬くなったソコを擦り付け合い、頭上から降り注ぐ水滴を浴びながらキスを交わす。絡み合う唾液の音は、シャワーの音が掻き消してくれた。
五十嵐が突然シャワーの水を止め、手のひらにボディソープを溜めて軽く泡立てる。それをゆっくりと広げるようになすり付けられ、本田は泡だらけになったその体で、今度は五十嵐に抱きついた。
「ふぅ……ん……」
二人で泡を分け合うように抱き合って、腕や背中を洗い合う。五十嵐の指が肩甲骨から腰、そして臀部を撫でまわし、やがてその狭間にまで忍び込んできたが、しっかりと力強い腕に腰を抱かれている本田には逃げようがなかった。
石鹸の滑りがあるから痛くはない。ただ違和感がすごくて、自然と腰がくねってしまうのを我慢できなかった。
「んん……」
鼻にかかった呻き声は、全て五十嵐の口腔に吸い込まれた。もう男の逞しい胸に添えるだけになった本田の手は、それでも何かに縋ろうとしてか、赤子のように僅かに開閉しながら指先で男の乳首を弾く。
五十嵐はふっと笑うと、本田の耳朶を軽く喰みながら囁いた。
「握って」
言うなり右手首を取られて、擦り付け合っていた下半身に導かれる。互いのモノを一緒に扱くよう促されて、本田は酩酊したように従った。
「ぅぅん」
慣れた自分の手淫であっても、後ろに入れられた指の刺激が邪魔をして上手くできない。さらには壁のタイルに背を押しつけられて、片足を持ち上げられた。五十嵐の外腿に引っ掛けるようにして、下ろせないように固定される。
「いやっ、あ」
足を広げ、完全に無防備になった尻の間。丁寧に慣らすように中を洗われて、長い指が時折、背中がビリビリと波立つ程の性感帯を掠めた。
「あ、ああっ……、んっ……」
首元に顔を埋めた五十嵐が、鎖骨を甘噛みする。本田は溺れる人が必死に息をするように、首をのけ反らせて喘いだ。腰が揺れるのを止められない。
「うっ」
ボディソープが足され、指が2本に増える。さらなる圧迫感に息を飲んで咄嗟に指を締め付けたが、その抜き差しを止めることは出来なかった。
再び降り始めたシャワーの水に体の泡を洗い流されても、本田を翻弄する愛撫の手は続いたままだ。
「気持ちいいか?」
まるで麻薬のように。耳元で囁かれる五十嵐の欲望に満ちた低い声が、本田の思考力をゼロにする。無意識のまま本能で首を縦に振ると、さらに抜き差しが早くなった。
「ひっ! あっ、あっ。もう、でるっ」
「もうちょっと我慢して。ほら、しっかり前も扱いて」
「うっ、ううぅ」
嗜められて、両手でしっかりと握りなおす。だが本田が必死になって扱けば扱くほど、その動きに合わせるように後ろの抽送も早くなった。散々翻弄されて、やがて、
「ひああぁ」
いきなりハンドシャワーで勢いよくソコに水を叩きつけられて、本田はあられもなく鳴き声を上げた。
「ふぅーー」
「はあ、はあ」
共に吐き出した欲望は、すぐさま水に流されて排水溝に消えていった。
宣言された通り隅々まで綺麗に体を洗われて。
「ほら、ベッドに行くぞ。ちゃんと立って」
「無理……」
本田は、ぐったりと五十嵐の胸に寄りかかった。
来月の後半ぐらいから1ヶ月ほど留守にすると告げると、案の定、逢坂からは猛烈な嫌味を食らった。
「今年の夏は街に旅行客もかなり戻ってきていて、せっかくの稼ぎ時だっていうのに。貴方、此の所とことん仕事を舐めてますよね」
だが自分はここ何年も完全にフリーな休みを取っていなかったこと。それぞれの店も設備のメンテナンスを兼ねて1週間ほど休業にすればいいと。そんなことを言い連ねて、何とか強引に休みをもぎ取る。まあ最後は、「俺は社長だ、俺がルールだ」的な発言をして、無理やり説き伏せたのだけれど。
「特別手当、絶対に払ってくださいよ」
「もちろんだ。今月に加えて、来月には夏のボーナスとしてきっちり払ってやる」
随分と気前のいい。その太っ腹ぶりに逢坂はすぐに何かを察して、ジロリと睨みつけてきた。
「……また株で当てたんですか?」
口角だけで笑った五十嵐の顔が全てを物語っている。
実は。本田が生活費として納めてくれている金額の大部分、プラス、自分も同額を足して開設した口座でアメリカ株を運用したら、この2ヶ月程でほぼ15倍になったのだ。
一緒に住み始めて間もない頃、五十嵐が新しい投資先として検討していた銘柄のひとつを見て、
「あ、この会社、いつの間にかナスダックに上場したんだ」
と、横から本田が何気なく呟いた。
「知っているのか?」
「うん。このベンチャー会社の社長、随分前に医療器具の Convention で会ったことがあるんだ。ブースにはまだ未完成の試作品しかなかったけど、なかなかユーモアのある人でね。その時に開発途中だった技術の可能性を延々と聞かされてさ。まあ確かに聞く限り全く不可能な話じゃなくて、もしあれが実現したら医療業界だけじゃなくて色んな分野にも応用できるなって思ったんだけど。結局あれって、完成したのかな?」
と、学問や仕事関連では抜群に記憶力のいい本田が褒めていたので、試しにその株を買ってみたのだ。これが何と大当たり。ある世界的に有名な超大手企業が共同開発を申し出て、特許が取れる公算が高まった途端、元値が低かったこともあり見る見るうちに10バガー……どころか元値の12倍近くまで爆上がりをみせたのだ。もちろん五十嵐は売り時を逃さずに、早々に一度利益を確定させた。
五十嵐が個人的に以前から所有する株も、堅実どころからの年間配当金を含め、日々の売り買いでも着実に儲けているし、本当はその収入だけで十分生活が出来るのだ。ちなみに株投資に手を出したのはかなり前からで、この豊潤な資金があったからこそ、世間が自粛で外出を控えた時期も何とか会社を維持することが出来た。
逢坂は面白くなさそうに大きくため息を吐くと、やがて渋々ながらも容認した。
「では貴方が留守の間、必要に応じて佐々木マネージャーに私の補佐をしてもらいます。必然的に彼の仕事量が増えますので、彼にも少しボーナスの上乗せをしてください」
「もちろんだ」
「あと貴方が提案した通り、どの店も来月末の月曜から木曜日、4日間を休みにします。その間、定期清掃を入れますので。今回は徹底的に、床のワックス掛け、エアコンの清掃、カーペットの洗浄等、業者にフルオーダーします。ついでにキッチンの設備点検。あとは各店の改善、改装要望をすぐに調査しますので、もし妥当であればそれも一緒に業者を入れます」
「好きにしてくれ。ただ改装関連は最低限でな。何らかの修繕費用が嵩みそうなら却下だ」
「もちろんです。あと、必ず常に連絡がつくようにしておいてください。もし何かあったらすぐに呼び戻しますので、そのつもりで」
「分かっている。オンラインで出来る仕事は、今まで通りちゃんとリモートでやるから」
「そんなのは当たり前です。まったく……私も色々と忙しいんですよ。いま一件、弁護を引き受けている案件だってあるっていうのに……」
逢坂は弁護士資格を持っているので、定期的に断れない筋からの依頼が舞い込んでくる。いわゆる警察、公安が常に監視対象にしている団体の方たちだ。
ちくちくと小言を言われながらも何とか休みを確保した五十嵐は、ホッと胸を撫で下ろした。
こういう時、仕事の出来る男は頼りになる反面、貧乏くじを引かされて気の毒だ。元凶であるにも拘わらず、五十嵐は呑気にそう思った。
その日の晩、仕事から帰ってきた本田に自分も休みが取れたと意気勇んで報告すると、彼はその行動の早さに唖然としながらも、
「そうなの? じゃあ飛行機のチケット、2列並びで探さなきゃね」
とあっさり受け入れてくれた。
「ただ私が仕事をしている間、かなりの時間を独りで行動させることになると思うけど、それは大丈夫? アメリカは日本と違って少し物騒だから、心配なんだけど」
「それは平気だ、子供じゃあるまいし。それに俺も、何だかんだリモートワークで忙しいと思うし。たとえ外出するにしても、アメリカは何度か行ったことがあるから、まあ、なんとかなるさ」
「そうなんだ? どこ?」
「ニューヨークとラスベガス、あとニューオリンズ。それぞれ2週間程だけど、店の参考にするために旅行したんだ」
「そっか、じゃあ、大丈夫かな? まあ、圭吾は英語も喋れるし、何より堂々としていて物怖じしないからね」
こうして本田は、盆休み後に、五十嵐を伴ってアメリカに旅立つことを快く了承した。
ようやく長かった梅雨が明けたと思ったら、一気に猛烈な暑さが襲ってきた。
7月後半からずっと、日中の最高気温は35度を上回っている。
月が変わって8月。
今月の半ばから約1ヶ月、逢坂に無理をさせることが分かっているから、今のうちに少しでも休みを取らせておこうと、五十嵐はここ最近ずっと精力的に働いていた。すると思ったより、本田との生活がすれ違うようになってしまった。辛うじて朝の珈琲は淹れ続けているが、夜もかなり遅い時間……時には朝方に帰宅することも増えたので、必然的に恋人との会話もスキンシップもめっきり減っている。
本田は本田で長期職場を空けることで皺寄せがいく同僚医師の夏休み交代に入ったりと、こちらもまた忙しく働いている。なのでもちろん、五十嵐に構っている暇なんてない。
そんな中、久しぶりに二人揃って明日は休日というこの日、五十嵐と本田はデートも兼ねて外に食べに行くことにした。
「やっぱり今夜は鰻かな」
「丑の日か?」
「そう。先週、食べ損ねたから」
「いやいや、今年は2回あるから、3日後も丑の日だぞ」
そんなことを言いながら向かった先は、家から徒歩10分ほどで行ける現代和モダンのお店。ミシュランガイドにも度々取り上げられた人気のうなぎ処だ。近所にある鰻屋は老舗を中心に何軒か贔屓にしているが、この店は今日が初めてだった。
「うわ!」
この店で1番の人気だという御膳を頼んだら、活きた鰻を見せられて驚いた。クネクネと桶の中で動くそれを、「これから捌いて調理するから、少しお時間をいただきます」と店員が言う。キレのある青森の冷酒で乾杯し、供された小鉢をつつきながら待つこと40分。1匹を白焼きとうな重、2つの異なった方法で調理してくれるので、なかなか満足度の高い夕食だった。
「アメリカに行く日程なんだけど、羽田を木曜日の夕方に出発して、サンフランシスコ到着が同じ日付の朝の9時頃。で、私は金曜、土曜は学会だから、その間、圭吾は好きに観光しておいて。その後は日曜日の午前中の便でボストン行きだから」
食事中、改めて本田から詳細な日程を説明されて、五十嵐はうんうんと頷いた。今回の五十嵐の渡米は完全にプライベート、本田の仕事に我儘で付随していくのだから、都合のいいように日程を組んでくれて構わないと事前に伝えてある。
「あとボストンで私が仕事をしている間なんだけど。どこかへ出かけるのなら、利便性と防犯の面でも車が運転出来たほうがいいんだ。車自体は私のジープが今も親の家に保管してあるから、それを自由に使ってくれて構わない。けど、運転するのにもちろん、向こうで有効な License が必要だよ」
「そうだな。じゃあ国際運転免許証を取っておくよ」
「うん。それがいいと思う。ただアメリカは日本と違って右側通行だから、その点は注意してね。圭吾は運転が好きみたいだから、大丈夫そうだけど」
「そればっかりは慣れだろうな。でも向こうでも車が使えるのは正直ありがたいから……」
こんな話をしていると、一気にアメリカ行きが現実味を帯びてくる。
2時間近くかけてゆっくりと食事と会話を楽しんだ後、五十嵐がクレジットカードを出した。要らないと言ったのに本田が律儀に結構な額の生活費を毎月入れてくれるから、五十嵐が負担すべき生活費と併せて共同貯金を作り、二人が一緒の時はそこから全て支払いをしようと話し合って決めたのだ。その金の大部分を株の運用にも回しているので、合計額は目減りするどころか、通帳の一番左の数字は目まぐるしくカウントアップしている。
「ご馳走さん」
カウンターの奥にいる料理人に礼を言って店の外に出る。途端、体にまとわりつくような蒸し暑さが二人を襲った。もう夜も10時を過ぎたというのに、気温がそれほど下がっていないのだ。風がなくて湿度が異様に高いので、本当に不快としか言いようがない。家までそんなに離れていないというのに、五十嵐と本田の背中にはうっすらと汗が滲んでしまう程だった。
「暑い……日本って、こんなに暑い国だった?」
「年々上がってんだよ。今日の昼間なんて、体感温度にしたら43度だったらしいぞ。人の体温より暑い気温なんて、ずっとサウナに入っているようなもんだろ」
「言えてる」
玄関のドアを開けてようやく、二人は一息つけた。快適に設定された涼しい空気を、気兼ねなく思いっきり胸に吸い込む。
とにかく早くスッキリしたくて、五十嵐はリビングに入るなり、ランダムテレコのグレーTシャツを脱ぎ捨てた。次いで本田のフレンチリネンのシャツに手を伸ばし、おもむろにそのボタンを外し始める。
焦ったのはいきなりそんなことをされた本田だ。
「圭吾? 何して……?」
「一緒にシャワーを浴びようぜ。ショウも早く汗を流したいだろ? 前みたいに、俺が隅々まで綺麗に洗ってやるからな」
「は? え!!」
これは明確な誘い文句だった。確かに最近接触が減っていたけれど、ここまであからさまに、欲望を隠さずに言われるのは初めてだ。
「え、ちょ……」
面食らいながらもはっきりと拒絶できないのは、本田も少なからず欲求不満だったからか。流されるままにずるずると、バスルームに連れ込まれてしまった。
「ん……」
オーバーヘッドのシャワーからぬるめのお湯が降り落ちると同時に、五十嵐の唇が重なってきた。
キスしながら、五十嵐の大きな手が性急に肌を弄ってくる。まるで汗を洗い流すように、首筋、肩、脇、そして胸元を念入りに撫でられて、本田の体にも火がついた。
風呂場での行為はどうしても、強烈だった前回の感覚を思い出してしまう。この先の期待に二人とも下半身が反応してしまい、緩く勃ち上がっていた。
硬くなったソコを擦り付け合い、頭上から降り注ぐ水滴を浴びながらキスを交わす。絡み合う唾液の音は、シャワーの音が掻き消してくれた。
五十嵐が突然シャワーの水を止め、手のひらにボディソープを溜めて軽く泡立てる。それをゆっくりと広げるようになすり付けられ、本田は泡だらけになったその体で、今度は五十嵐に抱きついた。
「ふぅ……ん……」
二人で泡を分け合うように抱き合って、腕や背中を洗い合う。五十嵐の指が肩甲骨から腰、そして臀部を撫でまわし、やがてその狭間にまで忍び込んできたが、しっかりと力強い腕に腰を抱かれている本田には逃げようがなかった。
石鹸の滑りがあるから痛くはない。ただ違和感がすごくて、自然と腰がくねってしまうのを我慢できなかった。
「んん……」
鼻にかかった呻き声は、全て五十嵐の口腔に吸い込まれた。もう男の逞しい胸に添えるだけになった本田の手は、それでも何かに縋ろうとしてか、赤子のように僅かに開閉しながら指先で男の乳首を弾く。
五十嵐はふっと笑うと、本田の耳朶を軽く喰みながら囁いた。
「握って」
言うなり右手首を取られて、擦り付け合っていた下半身に導かれる。互いのモノを一緒に扱くよう促されて、本田は酩酊したように従った。
「ぅぅん」
慣れた自分の手淫であっても、後ろに入れられた指の刺激が邪魔をして上手くできない。さらには壁のタイルに背を押しつけられて、片足を持ち上げられた。五十嵐の外腿に引っ掛けるようにして、下ろせないように固定される。
「いやっ、あ」
足を広げ、完全に無防備になった尻の間。丁寧に慣らすように中を洗われて、長い指が時折、背中がビリビリと波立つ程の性感帯を掠めた。
「あ、ああっ……、んっ……」
首元に顔を埋めた五十嵐が、鎖骨を甘噛みする。本田は溺れる人が必死に息をするように、首をのけ反らせて喘いだ。腰が揺れるのを止められない。
「うっ」
ボディソープが足され、指が2本に増える。さらなる圧迫感に息を飲んで咄嗟に指を締め付けたが、その抜き差しを止めることは出来なかった。
再び降り始めたシャワーの水に体の泡を洗い流されても、本田を翻弄する愛撫の手は続いたままだ。
「気持ちいいか?」
まるで麻薬のように。耳元で囁かれる五十嵐の欲望に満ちた低い声が、本田の思考力をゼロにする。無意識のまま本能で首を縦に振ると、さらに抜き差しが早くなった。
「ひっ! あっ、あっ。もう、でるっ」
「もうちょっと我慢して。ほら、しっかり前も扱いて」
「うっ、ううぅ」
嗜められて、両手でしっかりと握りなおす。だが本田が必死になって扱けば扱くほど、その動きに合わせるように後ろの抽送も早くなった。散々翻弄されて、やがて、
「ひああぁ」
いきなりハンドシャワーで勢いよくソコに水を叩きつけられて、本田はあられもなく鳴き声を上げた。
「ふぅーー」
「はあ、はあ」
共に吐き出した欲望は、すぐさま水に流されて排水溝に消えていった。
宣言された通り隅々まで綺麗に体を洗われて。
「ほら、ベッドに行くぞ。ちゃんと立って」
「無理……」
本田は、ぐったりと五十嵐の胸に寄りかかった。
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憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
妖精です、囲われてます
うあゆ
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僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
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妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
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ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
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