奇跡な男(ひと)

仁木 羽陽

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23 Go all the way

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 ぐったりと力の抜けた体を五十嵐に支えられて体まで拭いてもらい、本田はそのままベッドルームに連れて行かれた。

「ほら」

「……ありがと」

 裸のままベッドの端に腰掛けた本田に、五十嵐が冷えたミネラルウォーターのボトルを差し出してくる。それを受け取ってゴクゴクと喉を潤した彼は、ようやく一息ついて、半分残ったそれを男に返した。
 五十嵐が残りの全てを飲み干して、空になったボトルをサイドテーブル代わりのアイアンウッドチェアに放り投げる。

 いつの間にかベッドの上に放り出されていた潤滑剤とコンドームの束を、本田は極力視界に入れないように目を逸らした。潤滑剤は本田の不安を取り除くためか、医者である彼なら絶対に知っているであろう、アメリカの最大手医療メーカーが開発した定評のあるジェリーだ。

 ゆっくりと覆い被さってくる五十嵐にキスされながらベッドに押し倒されて、本田の背中がマットレスに当たる。二人とも一度果てているからか、始まりは穏やかだった。

「大丈夫か?」

「うん……」

 これまで風呂場でのことか、それとものことについて聞いているのか。どうにも判断がつかないが、とりあえず頷いておく。

 向かい合った添い寝のような体勢で、啄むようなキスを繰り返して。
 頭を引き寄せるように腕枕をしてきた男の指と、顔の横で手を繋いで指を絡ませる。もう片方の自由な男の手が、ゆったりと脇腹やお腹周りを撫でてくるので少しくすぐったかった。

 本田は過去、女性とベッドを共にした時も、こんなに心のこもった細やかな愛撫をした記憶がない。まるで教科書に載っているような手順を踏んで、どこか冷静な頭で、人体の構造や生理反応を無意識に観察している節があった。

 今まで勉強と仕事にかまけて、大した恋愛経験があるわけではない本田にとって、恋人としての『正しい在り方』というものがいまいちよく分からない。けれどいま確かなことは、こうして五十嵐と抱き合うことは、すごく満ち足りた気分になれるということだった。

 男として異性をリードしなくていいという義務感プレッシャーの無さというか、逆に、対等に扱われながらも甘やかしてもらえる心地良さは格別なものがあった。

 互いの想いをちゃんと伝え合って約3ヶ月。少し強引なところもあったけれど、五十嵐は十分に気を遣ってくれていたと思う。
 何かが変わるかもしれない期待と、それ以上の不安。それらが綯い交ぜになって少し腰が引けるが、絶対に後悔しないことだけは確信している。こうなったら覚悟を決めて、先に進むしかないだろう。

 焦ったいキスを繰り返す男の下唇に軽く噛み付いて、本田も五十嵐の頭をかき抱いた。横で添い寝していた男の体が、本格的に乗り上げてくる。

「んっ」

 広い背中に手を回す。舌を吸い合うことに夢中になっていたら、乳首を親指で潰すようにして転がされた。もう片方の手は脇腹を伝って太腿へ。足の間に五十嵐の体を挟んでいるから、いいように内腿の際どい部分をくすぐられた。だが肝心なところには決して触ってくれない。その焦ったさに、本田の腰が物欲しそうにくねった。

 本田の緩い腕の拘束をすり抜けて、五十嵐の頭が徐々に下に降りていく。
 唇から続く啄むようなキスが、首筋から鎖骨、胸元に散りばめられた。胸の尖りを舌と唇を使って吸われ、その擽ったさに身を捩ると、ようやく男の指が下半身に絡んできた。

 燻っていたとろ火をもう一度熾すように丁寧に煽られて、本田はただ身悶えるしかなかった。
 いつの間にチューブを絞り出したのか、滑りのある指で再び後孔をまさぐられ、条件反射でキュッと入り口が窄まる。だが風呂場で存分に解されたソコは、たいした抵抗もせずに男の長い中指を受け入れた。

「ふぅうう、んんっ」

 すっかり勢いを取り戻した前方は、五十嵐の舌の餌食になった。ねっとりと舐め上げられ、時々むような口淫をされて、自然と下半身に力が入る。

 その直接的な感覚に恍惚としてチラリと下を見れば、人のモノを舐め上げる五十嵐の切れ長の目と合った。
 まるで見せつけるように。妖艶に微笑む唇から覗く濡れた大きな舌が、丸い先端に押し付けられる。

「ああっ!」

 これはまずい。また自分ばかりが追い詰められている。そう思った本田は、最後の男の意地で身を起こした。

「おい?」

 何事かと僅かに身を離した五十嵐の前で蹲り、身を屈めて、今度は自分がされていたように口で男のモノを育てる。

 まさか自分が。ベッドの上で。
 膝立ちの男の前に四つん這いになり、自ら進んで男性器に奉仕するとは思いもしなかった。けれど同じ男として、征服欲ではないけれど、好きな相手を自分の手で気持ちよくしてやりたい気持ちは本田にもある。

 どこが男の性感帯だっけ?

 と、頭の中で必死に医学書を広げながら、何とか舌を動かす。女性とする時はもうちょっと冷静でいられるのに、五十嵐が相手だとどうにも上手くいかなかった。

 えーっと、とりあえず自分の気持ちのいいところを……

「んん?!」

 油断していたら、さらに潤滑ジェリーをたっぷりと纏った指が2本、後孔を押し広げながら入ってきた。前屈みになったことで必然的に浮いた臀部の狭間に、背中越しに五十嵐の長い手が伸びている。
 グチュグチュと聞こえる音が卑猥で、今すぐ耳を塞ぎたい思いだった。

「続けて」

 頭上から。興奮したような低い声に促され、本田は必死になって頭を動かした。だけど専念はさせてくれず、背後に回ったいたずらな指が本田を翻弄する。角度的に浅いところばかり弄られて、知らず腰が揺れていた。

 もっとちゃんとした刺激が欲しくて、我慢が出来ない。本田が思わず自分の昂まりに手を伸ばしかけた、その時だった。

 五十嵐に強引に、四つん這いのまま後ろを向くように姿勢を変えさせられた。今度は背後に回った男の目に、下肢の全てを曝け出す形になる。恥ずかしさに咄嗟に体を引こうとしたら、力強い腕にガッチリと腰を掴まれた。

「ひっ、んんぅ」

 いきなり、一番長い指が一気に根元まで入ってきた。大きく何度も抜き差しを繰り返し、それが2本、やがて3本と増えていく。纏わりつく肉壁を押し広げるかのように、時々なかで指がバラバラに動いた。
 こうなると本田はもう、されるがままだった。枕に頭を押し付けて尻を高く突き出し、身悶えることしか出来ない。小刻みに揺する振動も加えられ、何度も五十嵐の指が前立腺いい所を掠めていった。

 執拗に後腔を嬲られて、内部が蠕動を繰り返して異物に絡みつく。本田の全身にしっとりと汗が滲んできた頃、

「う゛っ!」

「力を抜いて」

 指とは比べようのない質量のモノを押し付けられて、本田は呻いた。さらに追加で直接ジェリーを垂らされているのか、粘度を持ったものが隙間を伝い落ちていく。その滑りを借りて、ことさらゆっくりと五十嵐のモノが押し入ってきた。

「あっ、あっ、あ」

 決して急がずに、傷付けないように時間をかけて。やがてソレは、何とか根元まで本田の中に収まった。

「大丈夫か? ほら、ちゃんと息をしろ」

「はぁ、はぁ」

 言われるがまま、凄まじい圧迫感を少しでも和らげようとして、浅い呼吸を繰り返す。だがそれも落ち着いてきた頃、ゆるゆると背後の男が抽送を開始した。

「やっ、ああぁ……あーぅう」

 本田はまたしてもあられもない鳴き声を上げた。

「すっげ、きっつ……」

 普段慎ましく閉じているところを目一杯広げられ、擦られる感覚は強烈だった。

 挿入時から力を無くしかけていた前方の兆しに、五十嵐が腰を抱えるようにして手を伸ばし、扱き上げる。後ろを突き上げられるリズムと、その手淫のスピードが重なると、途端、何とも知れない不思議な感覚が湧き起こった。

 苦しい中にも、背中の中心がビリビリと波立つような何か。例えるなら砂利の中に、光り輝く砂金を見つけた時のような。

 それが快感だと気付く間もなく、敏感な鈴口を五十嵐の親指の腹と爪で抉られて、本田は「ひゅ」と息を飲んで仰け反った。結果、キツく締め付けることになった男のモノが、さらに力強く内部の弱いところを突いてくる。

「っ!!」

「くっ」

 目の前が霞むような浮遊感に、声もなく体がブルブルと震えた。同時に背後の男も息を詰め、強く打ち付けられていた腰の動きが止まる。

 次の瞬間。二人は重なったまま、崩れ落ちるようにしてマットレスに沈んだ。



 荒い息を整えながら、本田はぼんやりと、五十嵐が使い終わった避妊具コンドームの処理をするのを横目で見つめていた。

 凄かった。何か色々と。

「ほら、こっち来いよ」

 すぐに戻ってきた彼が、腕枕をしてくれる。力強い腕に抱き込まれて、無性に安堵感を覚えた。

 しばらくベッドの上で事後の余韻に浸って、互いの昂ぶった気持ちが十分落ち着いた後、五十嵐がバスタブに湯を張って再び体を洗ってくれた。
 もともと本田に対しては世話焼きなところのある五十嵐だが、今日はとことん甘やかしてくれるらしい。疲れている本田に代わって色々な汚れを納得いくまで洗い流してくれ、最後の仕上げに体まで拭いてくれる。
 そうして彼は、本田をバスルームに残して先に出て行った。

 初めての経験をした恋人が、色々と自分でも処理したいだろうと思っての気遣いだろうか。ありがたくその時間を有効に使って、本田はようやく一息吐いた。

 ベッドルームに戻ると、汚れたシーツは既にきちんと取り替えられていた。悠々と寝そべっている五十嵐の横に潜り込んで、寝心地の良い体勢を探す。

「大丈夫か?」

「うん」

「良かったか?」

「……うん」

 やはり男として、セックスの技巧、そして相性は気になるらしい。まだ男を受け入れていた場所の違和感が消えないけれど、確かに気持ち良くなれる要素は充分にあった。

 本田が素直に肯定すると、五十嵐も満足そうに笑ってその胸に抱き寄せられた。チュッと優しくキスをされて、徐々に眠たくなってくる。

 明日は久しぶりの、二人揃っての休みだ。ウトウトと微睡みながら、一緒に何をして過ごそうかと考えつつ、本田は穏やかな眠りについた。
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