5 / 46
似てるけど世界で一番嫌いな奴②
しおりを挟む森野さんとは、出会いから最悪だった。
私が中学に上がる頃に両親が正式に離婚し、母親に引き取られた。
父親の度重なる浮気に、母親が三行半を叩き付けたのだ。
父親と離婚した母親に連れられて、私達親子は母親の実家に身を置く事になった。元々、引っ込み思案だった私は、友達と離れるのが本当に嫌だった。
でも、住んでいた家は売り出される事が決まっていたので、私には選択肢は無かった。
母親に連れられて、私達親子は母親の実家に身を寄せる。
祖父母は優しくて、シングルマザーになって多忙になった母親に代わり、私を可愛がってくれた。
母親は私を育てる為に、病院に働きながら看護師の資格を取った。
昼間は病院で看護師助手として働き、夜は看護学校へ通う生活をしていた。
なので食事は祖母が作ってくれ、私自身も、毎日疲れたような顔をした母親に迷惑を掛けないようにと、勉強や家の手伝いを率先してやった。
「明日海、あんまり無理するんじゃないよ」
文句も言わず良い子にしていた私を心配して、祖父が良く頭を撫でては言ってくれていた言葉。
祖父は寡黙な人だったけど、私の事を良く見てくれて、励ましてくれた。
逆に祖母は明るくて、いつもニコニコしている人だった。
料理上手で、私は祖母の作る煮物が大好きだった。
特に春になると作ってくれるフキの煮物は絶品だった。
いつも喧嘩していた両親と暮らしていた頃より、祖父母との穏やかな生活はとても幸せだった。
運良く中学入学から転居したので、友達も早く出来た。
そんな中でも、野木綾子(通称、あこ)と大矢由香(通称、ゆか)とは3人コンビと言われる位に仲が良く、何をするにも何処に行くのも一緒だった。
でも、あこの好きな木本君が私を好きな事が分かり、その関係に亀裂が入る。
いつも一緒に居たのに、これは本当に辛かったな…。
そんな時、私の心を救ってくれたのが、カケルさんの歌声だった。
そして小学校2年生の夏。
祖父が病で倒れ急死した。
その後を追うように、祖父の死から半年で祖母も病で他界してしまう。
大好きな祖父母をいっぺんに亡くし、私は失意のどん底に居た。
その傷が癒えないまま、母親の仕事の関係で引越しをする事になる。
あの日もらったCDを持って、母親が勤務先を変える度、あちこち転居を繰り返す事になる。なので、いつしか深い友達付き合いをしなくなっていた。
仲間外れにされるのが怖くて、いつも人の顔色を伺うようになり、人に本当の自分を見せるのが苦手になっていた。
そんな私を変えてくれたのが、高校時代に出会った先輩だった。
彼から告白されて付き合ってはいたけど、浮気ばかりする父親を見ていたので、私の中で男性に対して不信感を持っていた。
そんな私に真正面からぶつかり
「お前の本音を聞かせろ!」
って、いつも私を真っ直ぐ見てくれている人だった。
彼のお陰で、人と壁を作っていた私がきちんと人と向き合うようになれた。
でも…先輩に対して、人間的には好きでも異性として好きにはなれなかった。
キスまでは大丈夫だったけど、それ以上を求められても応えられず…。
ギクシャクしてしまい、そのまま別れてしまった。
祖父母の死、彼との別れ。
友達との別れや、転校先での慣れない生活。本当に色々な事があった。
でも、どんなに辛くても苦しくても、CDから流れてくるカケルさんの歌を聴いていれば乗り越えられた。
そしていつしか、私にとってカケルさんの歌声が、唯一無二の心の拠り所になっていた。
母親は仕事人間で、祖父母に育てられた私と母親との間には壁が出来ていた。
それは年齢を重ねた分だけ、厚く高い壁となっていた。
そんな折、母親が再婚すると言い出した。
いつだって「忙しい」と、私に背を向け続けた母親。
再婚相手とデートする時間があるなら、何故、少しは私と向き合う時間を作ってはくれなかったのか?と、私は反発した。
別に高校生にもなって、抱き締めて欲しいとかそんな事を求めてはいない。
ただ…少しでも食事したり、話をする時間を作って欲しかった。
祖父母が亡くなってから、私はいつも孤独だった。その孤独を抱えても、道をそれなかったのはカケルさんの歌があったから。
カケルさんの、優しく包み込むような歌声に、いつも
「大丈夫だよ」
って、抱き締めて貰っているような感覚になって助けて貰っていたから…。
とはいえ、私が反発した所で母親の再婚話は進んで行く。
嫌々、連れられた食事会で、母親の再婚相手が中学時代の担任だと知る。
その事も、私の反発心をさらに煽る事になった。
ずっと「忙しい」と言って、私を育児放棄しながら担任と会ってたの?
そう思ったら、母親と担任を許せなくなり、私は母親と元担任だった母親の再婚相手に対して
「2人の再婚は、勝手にすれば良い。
でも、私はあなた方の養子には入らない。」
と絶縁状を叩き付けた。
そして、母親が再婚したのを機に、私は都内の短大に入学して一人暮らしを始めた。
学費は祖父母が学資保険で学費を遺してくれており、生活費はアルバイトをしてなんとか生活をしていた。
親からの仕送りは一切拒否をして、苗字も母親の旧姓で祖父母の姓である「柊」のままにした。
短大生活は、学校とバイトに明け暮れた。
恋もせず、講義が無い日は1日バイトを入れた。バイトは飲食店だったり、コンビニに本屋。ティッシュ配りからテレオペ。何でもやってみて、自分には販売が向いていると考えて、短大卒業後の進路は量販店と決めていた。
短大在学中に販売士3級を取得して、関西に本社がある赤ちゃん用品を扱うお店に就職する。全国に店舗がある中、私は従妹のお姉ちゃんの家がある場所へと配属された。
伯母さんやお姉ちゃんは下宿して良いと言ってくれたのだが、私はお店の近くにアパートを借りて一人暮らしを継続中。
研修期間中は配属された店舗の売り場を全部回り、適正を店長が見極めて配属売り場を決められる。
最初はサービスセンターからだった。
ラッピングをした事が無かった私は、ラッピングやらレジ打ちを必死に覚え、やっと覚えたかと思ったら新生児用品売り場。ベビー雑貨、マタニティー売り場、ギフト売り場から催事と渡り、最後に玩具、文具、ファンシー売り場と研修に来た。
「今日からうちの売り場で一週間研修する柊 明日海さんです」
杉野チーフから紹介され、挨拶をしていた時だった。
「じゃあ、一人一人自己紹介していって。まず、森野君から」
杉野チーフが指名した時、一瞬ドキっとした。
スラリとした長身に、短く切りそろえた髪の毛が顔立ちの美しさを際立たせている。切れ長の涼し気な瞳と凛々しい眉に、スーと通った鼻筋。
引き締まった薄い唇。
芸能人かと思う程、綺麗な顔をしていたその人に思わず見とれていると
「森野です」
と発した声が、CDをもらった時の声よりも大人びていたけど、聞き間違える筈の無い、大好きな人の声だった。
「その声…カケルさん?森野さん!歌、歌っていませんでしたか!」
思わず叫んでしまっていた。
すると森野さんはムっとした顔をして
「それ…嫌味?」
そう返したのだ。
「あ!こら!森野君、すぐ喧嘩売らない!ごめんね、森野君は酷い音痴なの。だから、歌は絶対に歌わないのよ」
困った顔をして言う杉野チーフに
「でも…」
思わず反論しそうになった私に
「誰と間違えてるんだか知らないけど…、俺と声が似てるなんて致命的な下手くそなんだろうな」
って、鼻で笑われたのにはカチンと来た。
「何も知らない癖に、馬鹿にしないで下さい!」
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない
白神ブナ
恋愛
高校一年一学期から三年三学期まで続く長編です。気になるサブタイトルを見つけて途中からでもお楽しみいただけます。
女子校あるあると、先生あるある、受験あるあるを描く学園恋愛ドラマ。
佐藤サトシは30歳の独身高校教師。
一度は公立高校の教師だったが心が折れて転職し、私立白金女子学園にやって来た。
一年A組の受け持つことになったサトシ先生。
その中の一人、桜井美柑はガチでサトシ先生に恋してしまった。
サトシ先生は、桜井美柑という生徒の存在を意識してしまいつつ、あくまで職務に忠実であろうと必死に適度な距離を保とうとするが……
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる