月歌(げっか)

坂井美月

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すれ違う思い⑨

椅子に腰かけた瞬間、コツンと頭に何かを乗せられる。
「?」
疑問に思って見上げると
「お疲れ様。本番は明日からだけどな」
そう言いながら、森野さんが缶コーヒーをくれた。
そして杉野チーフにも缶コーヒーを投げると
「本当は飲食厳禁だけど…」
と言いながら、商品が置いていない場所へ椅子を移動させて缶コーヒーを開ける。
木月さんはパートさんなので、15:00上がり。
だから、15:00以降は三人での戦いだった。
「毎年思うけど、クリスマス時期は本当に凄いな」
「本当にね…。でも、子供が可愛いから、必死になるお父さんやお母さんの気持ちもわかるけどね…。人気商品は仕入れられる数にも限りがあるからね」
なんとなくブレイクタイムの中、私は声も出せずにぐったりしていた。
「なんだ?柊。こんな程度でへばってるのか?そんなんじゃ、明日と明後日の休日の闘いに負けるぞ」
森野さんが苦笑いしている。
「明日は整理券が居るかもしれないわね」
「あぁ、早めに並んでいる人がいそうですよね。じゃあ、商品は売台に乗せずにストック置き場から出しますか?」
「開店時間と共に整理券を出して、お一人様一つにしましょう」
「クレームになりませんかね?」
「ん~。でも、せっかく足を運んで下さっているお客様に、一つでも多く売りたいじゃない?」
杉野チーフと森野さんの会話を、あんぐりと口を開けて聞くしか出来ない。
今日でも凄かったのに、明日はもっと凄いのかと茫然としていると、森野さんが腕時計を見て
「あ、こんな時間だ。じゃあ、俺は倉庫から明日の商品持ってきますね」
そう言って走って階段を下りて行った。
「さて!私達は売り場の整理をしますかね」
杉野チーフは立ち上がると、売り場へと歩き出す。私も何とか立ち上がり、売り場へ向かうと……凄まじい光景が目に入る。
人が居ると分からないけど、誰も居なくなった売り場に残された様々な残骸。
色々な売り場の物が、見るも無残な姿で置かれている。
おままごとのサンプルの中に、開封予防のテープを強引に剥がした挙句、箱がビリビリに破かれて酷い状態で置き去りにされたガラガラの玩具だったり、2Fのチャイルドで売られている靴が、ビニールから出された状態で置かれていたり。
1Fレジ横で売っているお菓子が玩具の陳列棚の中に置かれていたり…。
玩具売り場の商品で破損した商品と、他の売り場の商品とを分けてかごに入れて回る。
売台の下に箒を掛けると、万引きした残骸の箱が落ちて居たりもする。
溜息着きながら売り場を整理し終えた頃、森野さんの声が店内放送で流れて来た。
『3F玩具売り場、3F玩具売り場。商品上げました。お願いします』
私と杉野チーフがエレベーターの前で待機すると、ドアが開きパンパンに詰められた商品が崩れて来る。
「うわ!」
っと慌てた瞬間、階段の駆け上る音と共に森野さんが落ちかけた商品をキャッチした。
「柊、商品を絶対に落とすな!」
ギロっと睨まれて「すみません」と謝るのも聞かず、森野さんが段ボールをどんどん荷下ろしをしてまた駆け下りて行った。
私と杉野チーフは、取り敢えず来た商品を売り場へと運んで行く。
その頃には、他の売り場の社員も手伝いにぞろぞろと現れた。
「じゃあ、俺達は荷下ろしやるから、杉ちゃん達はどんどん品出しして」
2Fチャイルド担当の山岸さんが指示すると、私と杉野チーフは売り場へテープを持って走って移動。
段ボールを開けて、シールを貼る。
貼り終わったら売り場へ出す。
この繰り返しを何度かしている間にも
「3F玩具売り場、荷 物上がります」
の森野さんの声が聞こえる。
声のすぐ後に、階段を駆け上る足音が近づく。
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