月歌(げっか)

坂井美月

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光のもとへ…⑤

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花見当日。
 私は前日に下準備を済ませ、棚卸の後に私の家で木月さんと杉野チーフとでお弁当作りをした。
(そう言えば…森野さんに、手料理を初めて食べてもらうんだ…)
ハタと気付いて恥ずかしくなる。
恥ずかしさを隠してお弁当を詰めていると
「そろそろかな?」
そう言って杉野チーフが時計を見た。
すると我が家のチャイムが鳴る。
「お、さすが時間ぴったり」
そう言って杉野チーフがお弁当の入ったバックに手を伸ばした。
「あ、大丈夫ですよ。私が持ちますから」
そう言ってバックを持つと、中々の重さになっている。
(確か…店長と他の売り場の人も来るんだよね…)
そう思っていると、ドアが開いて森野さんが入って来た。
「用意出来ました?」
杉野チーフに声を掛けている。
「ありがとう。場所は?」
「山崎さん達が先に行って取ってくれてるみたいです」
そう話しながら、私が手にしていた鞄をひょいっと森野さんが持った。
「何ぼさっとしてんだよ。ほら、行くぞ」
森野さんの言葉に胸が熱くなる。
たったこれだけの事なのに、何でこんなに嬉しいんだろう。
そんな事を考えている間に、杉野チーフと木月さんが先に車へ向かって歩いているので、私も慌てて靴を履いて玄関の鍵を閉める。
鍵を閉めて振り向いた瞬間、森野さんがまだ私の後ろで待ってくれていて驚いた。
でも、たったそれだけの事なのに、泣きたくなる程に嬉しい自分に苦笑いする。
そして車に到着して…私は固まった…。
木月さんと杉野チーフが当たり前のように後部座席に座っている。
私も後部座席のドアに手を掛けた瞬間
「アホ!お前はこっち」
そう言われて助手席のドアが開いた。
後部座席の二人がニヤニヤしてこっちを見てる…。
(やられた!)
気が付いた時は既に遅く、私は森野さんの隣の席に座る。
しかし、緊張し過ぎてシートベルトが中々はめられない。
「あれ?あれ?」
必死にベルトを止めようとしていると
「お前…どんだけ鈍臭いんだよ!」
森野さんはイライラした声で言うと
「貸せ!」
と私の手のシートベルトを掴もうと森野さんの手が触れる。
私はその瞬間、頭が真っ白になって手を放してしまう。
『ガシャン』
と、シートベルトが元の位置に戻る音が聞こえた。
「す…すみません!」
オロオロしていた瞬間、フワリと森野さんの香りが鼻に届く。
「ジッとしてろ!邪魔だ!」
半分、怒った声で森野さんが私側のシートベルトを取っている。
森野さんは半身を乗り出してシートベルトを取ると、私のシートベルトを装着した。
「…ったく、どんだけ鈍臭いんだよ」
軽く頭を小突かれ、呆れた顔をされてしまい私は俯く。
「ありがとうございます」
必死に絞り出した声が震えているのが分かる。
きっと…今の私の顔は、ゆでだこより真っ赤になってる筈だ。
誤魔化す為に
「窓、開けて良いですか?」
返事を待つ事無く私が窓を全開に開けると、隣で小さく笑う気配を感じると同時に、後部座席からの痛い視線も……感じた。
車は公園へと向かって走り出した。
窓の外には真っ赤な夕日が空を染めている。
(多分、今の私の顔はこの夕日より赤い筈…)
そんな事を考えながら、ドキドキと高鳴る胸を必死に鎮めていた。
車で走る事20分。
小高い山の上が一面、眩しい程の白に驚く。
圧巻とはこの事なのだろう。
「綺麗…」
駐車場に着いて呟いた私に
「何言ってるのよ!此処なんてまだまだ。この先は本当に綺麗よ」
四方を囲む桜の花、花、花。
薄暗い空に、ライトアップされた桜が白く浮かぶ。
思わず口を開いて上を向いていると
「危ないよ!そんなに上向いてたら倒れるよ!」
杉野チーフの声が聞こえた時、既に遅し。
グラリと身体が後方へと傾く。
『倒れる!』
そう思った時、ガシっと身体を受け止められて
「お前…さっきから何してんの?」
森野さんの呆れた顔が私を見下ろしている。
森野さんの腕が私の肩を押え、森野さんの胸に頭が支えられている状態になってしまう。
「す…すみません」
森野さんに支えられて身体を戻すと
「ほら、行くぞ」
そう言われて、森野さんが私の少し前を歩き始めた。
公園は夜桜見学の人でにぎわっていた。
杉野チーフと木月さんは既に先を歩いていて、私は森野さんの背中に必死について歩く。
通りすがる女性が、森野さんの顔を見て振り向く姿が目に入った。
普通に歩いているだけでも、森野さんは人の目を引く。
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