【完結】低レアの地味キャラに転生したのでひっそり暮らす予定が、最強の悪役将軍にスカウトされてしまいました

大河

文字の大きさ
27 / 41

第27章

しおりを挟む
 翌朝、東越山脈の戦いが始まった。

 俺は後方の陣に配置されていた。戦場は目の前に広がる峡谷と山々の間。地形的には黒炎軍が不利だったが、龍承業の圧倒的な力により、戦いは始まってすぐから優勢に進んでいた。

(さすがチートすぎる、龍承業……)

 彼の槍さばきは神業のようだった。一振りで敵兵を何人も薙ぎ倒し、その姿はまさに戦神そのもの。そして、彼の周りには常に部下の武将たちがいる。彼らは龍承業の指示に従って動き、連合軍を混乱させていた。

「順調だな」

 監視塔から戦況を眺めていた俺は、胸をなでおろした。この調子なら、俺のアドバイスがなくても勝てたかもしれない。

「梁軍師!」

 急いで駆け寄ってきた兵士が俺を呼んだ。身に着けた装束からするに伝令兵のようだ。

「どうした?」
「総大将からの伝令です。急ぎ伝えたいことがあるとのことで……」

(伝えたいこと? ……戦場で何かあったのか?)

 俺はその時、龍承業が自分に急ぎ伝えたいことがあるということに気を取られて、つい油断してしまった。

 よく見れば気づけたはずだ。自分に伝令を伝えてきた青年が、普段は郭冥玄の傍仕えをしている少年であるということに。

 ──ゴツッ!

 頭に強い衝撃と痛みを感じるのと同時に、目の前が真っ暗になる。意識が遠のいていく中、俺は何が起きたのかを理解しようとした。

(しまった……罠……か……)

 それが最後の思考だった。


 ◆◆◆


「目が覚めたか」

 冷たい声に、俺は意識を取り戻した。目を開けると、薄暗い部屋の中に見覚えのある顔があった。

「郭……冥玄……?」

 彼は皮肉っぽく笑った。

 俺は状況を把握しようとした。手足は縛られ、どうやら廃屋のような場所にいるようだ。家の中の様子を見る限り、もともとは山小屋のような場所だったのだろう。

 次に、俺は自分の体の様子に意識を向けた。気絶させられた時の衝撃でまだ頭に鈍痛が残っているが、それ以外には特に怪我などはしていないようだ。

 郭冥玄はそんな俺の様子を見ながら、余裕のある表情で俺を見下ろしている。

 俺は彼を精一杯の虚勢で睨みつけながら言った。

「何が目的だ?」

 すると、郭冥玄は意味ありげに微笑む。

「お前のことだ、私が裏切り者だということは薄々気が付いているんだろう」

 ここまでされて否定する意味はない。俺は頷いた。

「ああ、気づいてた。お前はずっと前から東越国の間者だったんだろ」

 郭冥玄の眉がわずかに上がった。

「予想以上に知っているな」
「お前の行動パターンがおかしかったんだよ。軍議で龍承業の作戦に異を唱えないのに、その後で別の将に違う指示を出していた。それに、常に何かを隠しているような表情をしていたから」

 郭冥玄は少し感心したように首を傾げた。

「なるほど。お前は見かけによらず観察力がある」

 彼は立ち上がり、窓から外を眺めた。

「──最初の計画では、私の裏切りを龍承業にそれとなく伝えて彼を激高させるつもりだった」

 郭冥玄は独白するかのように続ける。

「だが、お前がいる限り、その計画はうまくいかないだろう。あいつはお前の言うことをよく聞くようになってしまった。龍承業はいつもなら部下の言葉など耳に入れないのに、お前だけは別だ。お前が来て以来、お前の存在が彼の判断に影響を与えている」

 彼は俺の前に屈み込み、顔を近づけた。

「正直に言え。お前は何を龍承業にした? なぜあいつはお前にだけあそこまで執着する」
「そんなことはない。俺は単なる軍師だ」

 郭冥玄は冷笑した。

「軍師? 笑わせるな。毎晩彼の寝所に通う『軍師』がいると思うか?」

 彼の指が俺の顎を掴み、顔を上げさせた。

「どうやら、お前は龍承業の弱点になったようだな」

 彼はそう言って立ち上がり、部屋を歩き始めた。

「だから計画を変更した。『梁易安が裏切って逃げた』と龍承業に伝える作戦だ。あれほど入れ込んでいた男に裏切られたと思えば、龍承業も正気を失い、軍の統制が乱れるだろう」

 郭冥玄の笑みに、俺は寒気を覚えた。

「お前は龍承業を甘く見すぎてる。彼はそんなに単純じゃない」

「そうかな? 彼は単純だからこそ強いのだ。感情のままに動く獣だ。そういう男は裏切りに最も弱い」

「いや、彼は俺が裏切ったとは信じないはず……」

 俺はそう言ったが、郭冥玄はそれを一笑に付した。

「空威張りはよせ。すでに私の部下が『梁易安が密かに東越と通じていた』という証拠を残している。これで龍承業の疑念に火がつく」

 俺は縄を少しでも緩めようと、さりげなく手首を動かした。しかし、縛り方が巧みで、少しも緩む気配がない。

「無駄だ」

 郭冥玄が冷笑した。

「しばらくここで大人しくしていろ。戦が終わるまでな」

 彼は部屋を出て行き、扉の内と外に見張りをつけた。一人残された俺は、状況を整理しようとした。

(ここはどこだろう。……おそらく戦場からそう離れていないだろうけど)

 外の様子を窺おうと窓に目をやると、見慣れない山々が見える。おそらく東越山脈の近くだろうが、戦場の音が聞こえないところから察するに、黒炎軍の陣地からはかなり離れているようだ。

(龍承業……頼むから信じてくれ。俺は裏切ってなんかいない)

 そう思いながらも、龍承業が俺の失踪をどう受け止めるかは想像できなかった。

(龍承業……頼む、勝ってくれ。敗北エンドにはならないでくれ……!)

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

【完結】おじさんの私に最強魔術師が結婚を迫ってくるんですが

cyan
BL
魔力がないため不便ではあるものの、真面目に仕事をして過ごしていた私だったが、こんなおじさんのどこを気に入ったのか宮廷魔術師が私に結婚を迫ってきます。 戸惑いながら流されながら?愛を育みます。

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。 なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。 ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。 とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。 だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。 なんで!? 初対面なんですけど!?!?

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

とうや
BL
【6/10最終話です】 「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」 王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。 あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?! 自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。 ***********************   ATTENTION *********************** ※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。 ※朝6時くらいに更新です。

処理中です...