【完結】悪徳領主の一途な偏愛

大河

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16章

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 サイラスは朽ちかけた椅子に座らされ、ひじ掛けに両脚を縛られていた。必然的に両足は大きく開かされ、目の前の男に自分の全てをさらけ出す格好になっている。強い羞恥と屈辱を感じるが、抵抗することは許されない。

「さあ、早くそれを己の手で中に入れるんだ」

 賊の男が低く響く声で命令する。男はサイラスの目の前、椅子に腰かけたまま微動だにしない。どうやら彼は自分で動く気はないらしい。彼に身体を弄ばれるよりはマシだが、全てを見透かされているという羞恥心には変わりなかった。

 サイラスは改めて、拘束されていない自分の手の中にある物を見た。握られているのは、木を削り出して作られた、男根の形をした道具だ。

 生々しいほどリアルな形状に仕上げられたそれを見て、サイラスは心の中で思わず舌打ちした。王都にいた頃、こういった道具の存在は伝え聞いてはいたが、現物を見たのは初めてだ。手の中のそれはやたらと太く硬そうで、うまく中に入るのかという不安が心の中をよぎる。

 だが、拒否する選択肢はない。目の前で、男が見つめている。少しでも反抗的な態度を見せたら、奴の気が変わってしまうかもしれない。

 自分にできることは、この男をできるだけこの場に留めておくことだけだった。──例え、どんなことをさせられることになろうとも。

 サイラスは覚悟を決め、その男根の木型を、開かれたままの入り口に押し当てた。木の道具のひやりとした冷たさに、入り口が無意識にひくりと震える。

 本能的な恐怖が呼吸を荒くさせる。内側は自らの手でだいぶ慣らしたが、それでも、この硬質な木型を中に通すのには少なからず苦痛が伴うだろう。

 だが、それを目の前の男に悟らせてはならない。

 サイラスは息を詰めると、手に力を込め、その木型をぐっ、と奥へ押し入れた。

「……っ、あ、ァっ……」

 入り口が強引に開かれる感覚に、思わず口から声が漏れた。全身が激しく強張り、座らされている椅子がガタッと音を立ててわずかに動く。男の顔を横目で窺うと、彼はわずかに肩を竦めてサイラスを見下ろしていた。

「どうした、まだ先端しか入ってないぞ?」

 その言葉に、サイラスは衝動的に男を睨みつけそうになったが、寸前で耐えた。意識を集中し、さらに木型を奥へ、奥へと、じりじりと入れていく。

 ひりつく痛みを伴いながら、硬い男根の木型が少しずつ呑み込まれていく。木でできたそれはやけに冷たく、そして異常なほど太い。押し込むたびに、引き裂かれるような鋭い痛みと強烈な異物感が襲いかかった。

「……駄目だ、遅すぎる。もっと勢いよく入れてみろ」

 男の無慈悲な命令に、サイラスは内心で毒づいた。だが、命令された手前、それを無視するわけにはいかない。

 サイラスは息を吸い込み、それを止めて、覚悟を決めて木型を一気に中へと押し込んだ。

「あ、あああぁぁぁぁぁ……ッ!」

 身体の芯を貫かれた衝撃に、サイラスは意識が飛びそうになりながら悲鳴を上げた。

 奥まで押し込まれた木型は、腹の芯を圧迫し、目の前が真っ白になるほどの激痛をもたらした。腰が勝手に弓なりに反り、爪先まで痺れるような感覚が全身を駆け抜ける。

 限界まで開かれた入り口は戦慄くように何度もひくつき、サイラスは椅子の上で激しく身体を痙攣させた。

 目の前では、男がそんなサイラスの姿を見て、満足したような下種びた笑みを浮かべた。

 その時、廃虚の入り口から足音が響いてきた。男の元に、部下と思われる男が足早にやってくる。

 サイラスの拘束された姿に視線を向けたが、驚いた様子は微塵もない。むしろ慣れた様子でちらりと一瞥するだけで、何の反応も示さなかった。その無関心な視線が、サイラスの羞恥を煽る。

 部下は男の耳元に身を寄せ、低い声で何かを囁いた。その内容は聞き取れないが、男の表情が次第に愉快そうに歪んでいくのが見えた。

 部下が立ち去ると、男はサイラスを見下ろして薄気味悪い笑みを浮かべた。

「部下から報告が入った」

 男の声は、どこか嬉々とした響きが混じっている。

「この廃虚近辺に何かを探ろうとしている怪しい男の姿を見つけ、部下が捕らえたそうだ。この領地の人間に確認したところ、エドガーという名前の男だという」

 その名前を聞いた瞬間、サイラスの血の気が引いた。

「......心当たりはあるか?」

 男の問いかけに、サイラスは返す言葉を失った。エドガーが捕らえられた――その事実が頭の中で反響し、思考が混乱する。

 暗闇の中を彷徨い、ようやく掴んだと思った綱が実は朽ちた蔓で、一瞬で千切れたような絶望が胸を襲った。だが、サイラスは必死に動揺を押し殺し、できるだけ平静を装って尋ね返した。

「その捕らえた男......どうした」

 男はその反応を見て、さらに愉快そうに笑った。

「拘束しただけで殺してはいない。......殺してしまえばお前との交渉に使えなくなってしまうからな」

 男は椅子から立ち上がり、拘束されたサイラスの前に立った。

「その様子からすると、どうやらエドガーという男、お前はどうやら殺されてほしくないようだな」

 男の声が、ぞっとするほど冷たくなった。

「......なら、さらに取引に追加だ。そのエドガーという男を殺されたくなかったら、私の言うことに逆らうな」

 エドガーは生きている。

 その事実を聞き、絶望が凪ぎ、一瞬だけ安堵がサイラスの胸に広がった。だが、その安堵はすぐに冷たい現実に塗り替えられる。

 この瞬間、サイラスがこの場から脱出する可能性は、完全に潰えた。

 エドガーの命は、この男の手中にある。彼の機嫌一つで消え去るのだ。自分が抵抗すれば、エドガーが殺される。逃げ出そうとすれば、エドガーが殺される。

 ――もう、どこにも逃げ場はない。

 拘束されたまま、サイラスは深く息を吐き出した。もう、わずかな抵抗さえも許されない。彼をここに留まらせるという目的は、今やエドガーを人質に取られ、より強固な枷となってしまった。

 自分一人の屈辱なら耐えられる。だが、エドガーの命となれば話は別だ。

「......わかった」

 サイラスは、微かに震える声で答えた。喉の奥に鉄の味が広がる。この瞬間から、自分は完全にこの男の道具となった。

 エドガーの命を守るため、自分に課せられた役割は、ただ屈辱に耐え、彼の命令に従い続けることだけだ。
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