君を必ず救い出すと約束したから~レスキューイン・シルバーマリン

ユキトシ時雨

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ミッション1 覚醒の生物因子! 助けを呼ぶ声に応えて見せろ!! 

第5話 反響 ECHO(1/2)

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 数十分前、〈みずかみ〉に搭載されたレーダーが接近する影を捉えた。船舶とも潜水艦とも異なる反応が意味するものはたった一つ。銀海から迷い込んだハイドラだ────

〈特務海上保安庁〉に組織された六つの行動隊は、各々の隊が特化した職務に応じて分かれている。

 ハイドラの駆除と武力による鎮圧に長けた第一・第二戦闘隊。

 汚染海域のサンプル回収や研究に長けた第二・三調査隊。

 そして、救護活動に特化したのが第五・第六救助隊である。

 外海から迷い込んだハイドラが〈みずかみ〉に接近してしまう事例もそう珍しいことではない。その場合は第一・第二戦闘隊が対処にあたり、第六救助隊まで声が掛からないのが定石であった。

 だが、今回は違う。

『本艦の目標は〈みずかみ〉に取り残されている管理エンジニアたちの救助だ。要救護者たちを収容次第、本艦は速やかに作戦区域を離脱するぞ』

 艦内アナウンスを介して、隊長が任務概要を通達する。

 銀海の拡大に伴い急造された〈みずかみ〉は、構造的な脆さやフィルター交換・システム管理などの手間がどうしたって不可欠になる。そのために、一定周期でエンジニアを派遣し、メンテナンスを実施しなくては正常に稼働することもままならないのだ。

 今回、第六救助隊まで救援要請が届いたのは、そのメンテナンス時期と、ハイドラ接近が運悪く被ってしまったがため。港を発った〈こんぺき〉も間もなくして、作戦海域へと突入するだろう。

 スクリューが水を押し掻き、船殻は海面を裂くように加速。船内の隊員たちは忙しなく船内をひた走り、それぞれの持ち場で作戦開始の合図を待ちわびていた。

 その顔は皆一様に緊張感で引き締められている。そして────

「ドクター、この薬剤はこちらでよろしいでしょうか!」

「ちゃう。それは鎮痛剤。優先して用意しなきゃあかんのは消毒液と血清や!」

「す、すみません!」

 第六救助隊・隊務規定────〈EXD手術〉者に該当しない隊員のハイドラとの交戦、並びにその可能性が高い救命作戦への参加を禁止ずる。

 因子を持たない鋼助には、船内で出来うる範囲のサポートが任されていた。姉崎の指示通り、医務室と倉庫を右往左往しては、折り畳み式の移動ベッドや、薬剤の詰まったダンボールを取り揃えていくのだって、立派な職務の一環だ。

 しかし、そうは言ったとしても。

「包帯よし。鎮痛剤よし。消毒剤よし! ドクター、次は!」

「ひとまずはもうええかな。それよりも鋼助はん。ちょいと顔見せ」

 ゆるりと姉崎が距離を詰めてきた。鋼助の顔に手を添えて、その表情を覗き込む。

「やっぱり不満かいな?」

「えっ……」

「せやから。自分だけ安全な船の中で待機ってゆーのが」

 自分だって〈こんぺき〉の乗組員で、第六救助隊のメンバーなのだ。ささくれた不満や、歯痒い思いがないと言えば嘘になってしまう。

 だからこそ、せめて表情には出すまいと努めていたのに。どうやら彼女にはそれも見透かされていたらしい。姉崎は片方だけ開いた寝ぼけ眼を、さらにジッと細める。

「図星やったやろ?」

「はい……やっぱり自分の無力さと未熟さを痛感してしまうようで……」

「鋼助はんは真面目やからなぁ。けど、君やって何の役に立ってないわけやないやろ? 現にウチは一人じゃ重いダンボールも運べなかったわけやし。助かっとるよ」

 焦ることはない。と彼女はフォローしてくれているのだろう。

 隊員のメンタルケアも請け負う彼女はやはり、こういう時の口が上手い。事実、鋼助も彼女の掛けてくれる言葉に救われはした。

 ただ、やはり胸の中に渦巻く歯痒さとモヤつきはそう簡単に拭えるものでもない。

 過去に一度、自分の無力さを痛感した覚えがあるからこそ、この劣等感はさらに強くまとわりつくのだ。

「まずは出来ることからやっていこうや」

「そう……ですね」

 既に甲板からは、杭のように水面へと打ち付けられた〈みずかみ〉の一本が見えているはずだ。その中に取り残されている五十名弱のエンジニアたちが間も無くして船内へと収容される。

 一斉に雪崩れ込んでくる避難者の誘導だって、鋼助の出来ることの一つだ。

 今は自分の中の劣等感と向き合う時間ではないと、胸に渦巻く感情を飲み込もうとした次の瞬間────鋼助の脳内に痛みが走る。

「うぐッ…………!!」

 あまりに鋭すぎる痛み。まるで凍てつかせた氷の針を、脳髄に直接押し込まれような。

 唐突に激痛と悪寒が頭の中を駆けずり回り、手足が痙攣。鋼助はその場に膝から崩れた。

「ちょっ、鋼助はん⁉ ちょっと、」

 痛みで意識が途絶え掛けた。

 必死に呼びかける姉崎の声さえも朧げになっていく。


『──けて』


 朦朧とする意識の淵で声が聴こえる。

 鼓膜を震わすのではなく、頭の中に直接呼びかけるような感覚だ。


『────助けて!』


 第六救助隊の誰の声でもない。

 それなのに、鋼助はその声を知っていた。
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