超ド級夢想兵器・エクステンド!

ユキトシ時雨

文字の大きさ
2 / 39

EP01 神室夕星の日常

しおりを挟む
 鋼の巨人は何時からか、〈エクステンド〉と呼ばれるのが当たり前になっていた。

 詳細なスペックや搭乗者の有無は不明。

 全長は二五メートル前後、重量は五〇トン程度と推定。
 いつ、どこで、誰が、何の為に建造したのかも解っていない。

 つまるところ────一ヶ月に一度、上空から天川市に降り立つこの存在について、判明していることは何もないのである。

 ◇◇◇

〈エクステンド〉に対し、向こうの空からも同スケールの何かが迫って来る。

 同じように大気を揺らし、市街地に影を落としながら。けれど、着地の仕方だけはまるっきり正反対であった。

〈エクステンド〉が接地の瞬間にサスペンションで被害を抑えたのに反して、後から現れた何かは自らの巨体を街に叩きつけたのだ。ビルを薙ぎ倒しながら粉塵を巻き上げる様は、己が力を誇示しているようであった。

 そして、粉塵が晴れた先でその姿が徐々に明らかになってゆく。

 まず着目すべきは両腕に備えられた巨大なハサミだ。次いで、全身を真っ赤な甲殻が覆っていることに気付かされた。

「今月はザリガニの怪獣なんだな」

 クラスの誰かがそんな風に呟いた。口元にブクブクと泡を蓄えながら〈エクステンド〉を威嚇する姿なんて、幼少期に池で捕まえたザリガニそのままだ。

〈エクステンド〉の明滅するカメラアイと、ザリガニ怪獣の複眼が睨み合う。実際にはただ向き合っているだけなのかもしれないが、少なくとも夕星にはそう見えたのだ。

「へへっ、面白くなってきやがったぜ」

 ハサミから繰り出される挟撃を掻い潜り、分厚い甲殻をどう打ち破るか? その瞬間を見逃さないために、夕星は窓際へと駆け寄った。

 身を乗り出しながら興奮を隠しきれない自分の姿を端から見ればテレビの特撮番組に食い入る子供のようにも見えてしまうのだろう。

 だが、そんな姿は陽真里を怒らせる要因にもなり得た。

「こらッ! 何で見入ってるのよ!!」

 またも夕星の頭には、彼女の鉄拳制裁が下される。

「ッッ……痛ってぇ! こんにゃろう、また叩きやがったな!」

「叩きもするわよ。休み時間にこっそりとプラモデルを作る程度ならまだ理解できるし、〈エクステンド〉が好きだって気持ちも尊重する。だけど、暴れ出すところを楽しそうに観戦するのは不謹慎でしょ!」

「暴れ出すって……〈エクステンド〉はいつも怪獣から街を守ってくれるじゃねぇか。それに、あの辺はシェルターも多い地域だから、被害だって少ないだろうし」

「言い訳しない! 被害が多いとか、少ないとか、そういう問題じゃないでしょ!」

 実際、陽真里の持つ価値観の方が正しく、模範的なのであろう。

 だが、夕星たちの中では「巨大ロボットと謎の怪獣が現れては殴り合いを繰り広げる」という非現実的なフィクションが、半ば、現実的なノンフィクションへと変わり始めていた。

 三年前、初めて〈エクステンド〉が現れ、怪獣と乱闘を繰り広げた際には、自衛隊の戦闘機が飛び出すわ、米国がミサイルを持ち出すわの大パニックへと発展した。

 けれど、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というのが人の性である。この三年間で避難マニュアルが浸透し、地下シェルターが増えるにつれて、皆が次第に危機感を忘却していったのだ。

「一か月に一度は怪獣が現れ、〈エクステンド〉が多少の苦戦をしながらも倒していく」というテンプレ通りのシナリオも、危機感を忘れさせる要因になり得たのだろう。

 そんな少し歪な現状は、夕星のクラスメイト達の様子からも窺える。校内放送に従って廊下に整列しながらも、「ラッキー。午後の授業が潰れる」程度にしか考えていない生徒が半分。行きつけのモールや普段使いの駅が踏み潰されないか心配する生徒がもう半分。

 そして、夕星のような物好きで例外的な生徒だけが〈エクステンド〉がどのような奮闘を見せてくれるかに期待していた。

「それにさ、不謹慎どうこうを言い出すのなら、あの人はどうなんだよ?」

 陽真理をなるべく刺激しないよう注意しながらも、夕星は校庭の方を指差した。

 そこに居たのは、拡声器を手にした女性教員の姿だ。

『行きなさい〈エクステンド〉! そこよ、そこがチャンスよっ!』

 彼女が大きく手を振り回せば、羽織っている白衣が大きくはためく。

 先ほどの夕星が特撮番組に食い入る子供のようなら、ありったけの声援を届けようとする彼女は、さながらヒーローショーに盛り上がる司会のお姉さんのようであった。

 見ようによっては夕星たち以上に不謹慎である。加えて彼女は二十七歳なのだ。

 そんな大人を生真面目な幼馴染が許すわけもなく、両手を口元に添えた陽真理は、拡声器に負けないほどの大声を張った。

「何をふざけるんですか、未那月先生ッ!」

 その声に養護教諭の未那月美紀は「ビクン!」と肩を震わせる。

『おっと……そこに居るのは藤森委員長に神室くんではないか。放送にしたがって避難しなくてはダメだろうに』

「今更、教師らしい振る舞いで誤魔化そうとしたって無駄ですからねッ! それに生徒の避難を促すのも貴女の仕事でしょう!」 

『うぐっ……流石は謹厳実直な私の可愛い生徒だ。やはり舌先三寸は通じぬか』

「とにかく早く戻って来て下さいッ! 先生がクビになっても、私たちは知りませんからねッ!」

 陽真里は今日で一番の重苦しい溜息を吐き出した。

「うん……流石にあれは未那月先生が悪いし、ヒバチの気持ちも分かるかもな……」

 夕星は自身のことを「まぁまぁの変わり者」だと認識しているし、お節介焼きの陽真里のことも「まぁまあの物好き」だと思っている。

 けれど、あの教員だけは「まぁまぁ」で収められる程度の変人ではなかった。

 半年前から赴任してきた彼女が起こした問題は数知れず。愛車のシボレーカマロで校庭に突っ込むは、カツアゲされている生徒を助ける為に他校の不良をボコボコにするはで、一昔前の学園ドラマに出てくる不良教師そのまんまなのである。

 今日みたく愛用の拡声器を持ち出して〈エクステンド〉を応援するなんて奇行も可愛いもので。

 昨年度には廃部寸前だった映像研を巻き込んで〈エクステンド〉を題材とした百二十分の長編ムービーを作成。それをどこかのコンクールに出した結果、最優秀賞を取ったことさえあるのだとか。

「はは、改めて考えてもやべー人だわ、あの先生」

 けれども、そんな彼女の破天荒っぷりに魅せられてしまう生徒は多く。美麗な顔立ちと相まって、男子生徒からは絶大な支持を得ているのが現状であった。

「けど、不思議だよな。PTAや教員委員会の目がやたらと厳しいこのご時世に、どうして先生はお咎めなしなんだ?」

「そんなの私が知りたいくらいよ。理事長の縁者だとか、実は指折りの天才だとか、色んな噂は飛び交ってるけど、どれも信憑性は定かじゃないし」

「ふーん……じゃあさ、〈エクステンド〉や怪獣を調査する為にやって来たどっかの工作員だったり!」

「バカ。だったら、どうしてそんな工作員が、何の変哲もない私たちの学校に潜入して、養護教諭のフリをしているのよ?」

 陽真里の正論を受けて、夕星も我に帰ってきた。確かに、今の仮説は自分でも「ない」と呆れてしまう。

 そんなことを考えている間に、向こうでは〈エクステンド〉がザリガニ怪獣を翻弄していた。背面に備えられたブースターが蒼炎を吐き出して、振り上げられたハサミを回避。さらに流れるようなモーションで、鋼の拳を叩き込むのだ。

「あっ、」

 きっと今のが決め手になったのであろう。 

 頭を潰されたザリガニ怪獣はそのまま崩れ去り、〈エクステンド〉もそれを見届けると、空の彼方に飛び去ってしまった。

「今月はやけにあっさり勝ったな」「五、六限も潰れねーじゃん」なんて愚痴りながら、廊下に出ていた生徒たちも教室へと戻って来る。

「はぁ……あのロボットは、どうして私たちの街に現れたのかしら?」

 そんな風に陽真里もぼやく。

「どうしてって、そんなの」

 わざわざプラモデルを手に入れるほどなのだから、夕星だって〈エクステンド〉の正体について様々な仮説を立てたことがある。

 怪獣たちは地球侵略にやって来た宇宙人で、〈エクステンド〉はそれに対抗すべく天才博士が作り上げた叡智の結晶だとか。

 遠い未来から人類滅亡を防ぐ為に送られて来たオーバーテクノロジーだとか。果ては異世界から来たのではとも考えたが、所詮はミーハーオタク少年の妄想の域を出ないのだ。

 だから、夕星は投げやりに答えた。

「別に何だって良いだろ。今日だって俺たちの街を守ってくれたんだし、カッコいいんだから、それで十分だ」

 結局、謎は謎のまま。夕星にとっての凡庸な「日常」は過ぎてゆくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...