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#27 我慢比べ
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甲高い音が駐車場に淀んだ。その暗がりで刃と刃のぶつかり合いに火花が散った。
「……っ!」
雪音は体を後ろに押しのけられ、杵淵と距離が空いてしまった。両足と左手で三点着地し、唇を噛み締める。
彼女を大太刀で弾き返した杵淵は追撃する様子を見せず、その場で自らの得物を構いなおした。
「……!」
雪音は再び駆け出した。右手の刀を握りしめ、杵淵に斬りかかる。
杵淵は半歩下がりながら雪音の斬撃を大太刀を横にかざし防ぐ。そして雪音の刀を弾くと、腕が持ち上がってノーガードになった彼女の腹部を狙って斬り込んだ。
「くそ……っ!」
雪音は弾かれた右手の刀を左手へ投げ、杵渕の太刀筋を左手に移った逆手の刀身で受け止めた。再び駐車場に甲高い音が響き渡り、杵淵の大太刀を防いだ刀が強く振動する。
そのまま大太刀を押し返し、雪音は杵淵の懐に入ろうと地面を蹴った。しかし同時に杵淵の体が後ろに下がる。それでも無理に接近しようとするも、杵淵の大太刀がそれをさせない。
大太刀が振りかざされ、雪音は刀でそれを弾き返す。それから一歩踏み出そうとするも、再び大太刀が振り下ろされてそれは叶わない。杵淵が譲らない距離感で白い刃がぶつかり合い、最後の一閃の衝撃で両者の体が背後へと滑り距離が開いた。
「……っ」
雪音は忌々しく思いながらも、杵淵を睨みつけた。杵淵は動じず、再び大太刀を握りしめ足に力をこめる。
戦況は芳しく悪い。というのも、それは雪音と杵淵の得物の差が関係していた。
どちらも同じ刀を使っているものの、その刀身の長さは違う。雪音の刀と比べると、杵淵の大太刀はそれよりも長い。リーチの長短はそれぞれメリット・デメリットがあり、それを活かして杵淵は立ち回っていた。
杵淵は雪音の刀の射程外となる距離感を維持し続けている。その立ち回りが中々崩せずにいた。
無理に接近しようにも、今さっきのようにうまく距離を取られつつ迎撃される。白夜の異能"重力操作"のように無理やり距離を縮められる方法があれば良いのだが、生憎雪音はその類のものを持ち合わせていない。
しかも杵淵は"ここぞ"というタイミング以外は全く攻めてこなかった。時間稼ぎといったところか。極論、杵淵は白夜の後を追わせなければ良いため、彼女からしたらすぐに決着をつける必要がないともいえる。
杵淵との勝負を避け白夜の後を追おうにも、杵淵は駐車場の出入口を背に位置取りをしていた。彼女を突破せずにそこへは到達できそうにない。
雪音は少し口をとがらせて不満を告げる。
「……そんなに私を近づけたくないんですか」
「"おもり"ってのは我慢比べだぜ、お嬢さん? 先に根を上げたら負けなのさ」
杵淵は笑ってそう答えた。確かに彼女のそれは的を得ているかもしれない。雪音はこれから始まるであろう精神の削り合いにため息をついた。
杵淵との戦闘を避けるという意味では、そもそも律儀にわざわざ出入口から出る必要はない。この小さな立体駐車場一階の壁に穴を開けて脱出したり、二階から屋上に登ってそこから飛び降りても良い。
問題はその行動を杵淵が許してくれるかということ。どう楽観的に考えても許してくれそうにない。
――ならば、どちらの方法を取るにしろ、無理やりにでもやり通す。
「っ!」
雪音は地面を蹴った。すぐそばに止めてあったワゴンの上に飛び乗ると、フロントガラスを足で踏みしめかち割った。杵淵が警戒しながら見上げる中で、ガラスの破片と、衝撃で一緒に割れたフレームのカケラが宙に舞う。
そしてその場から雪音は"凍結"の異能を込めた斬撃を杵淵へと放った。舞ったガラス片やカケラを巻き込んで、白い冷気を纏った一閃が杵淵へと一直線に向かっていく。
杵淵は雪音のもとへ駆けながら、ある地点で地面を踏み込んだ。そしてその"凍結"が込められた一閃を"電撃"を纏った大太刀で弾き飛ばす。
"凍結"と"電撃"の異能が一閃を介してぶつかり合い、その場で散らばった。白く光る氷の粒子が細い電流を帯びつつ宙へ飛び交っていった。
"凍結"の一閃を弾き飛ばした杵淵は追おうと地面を蹴る。――しかし足が地面から離れなかった。杵淵は慌てて地面に張り付いた足元を見る。
「氷……!?」
足が、地面に凍り付いていた。杵淵は慌てて雪音を見上げるが、その時にはすでに彼女は斬撃を放ち、天井に穴を開けたところだった。
「また会いましょう」
足元が凍りついた杵渕を見下ろしながら雪音はそう笑うと、開けた天井の穴から二階へと跳び移った。一階に"凍結"で足止めした杵淵を残して。
二階へと無事たどり着いた雪音はそのまま走り抜け、数台止まっていた車の中の一台の影に隠れた。そして自らの刀を構える。
杵淵の足を凍結させたのは、斬撃と一緒に飛ばした細かなガラス片やフレームのカケラだ。雪音は斬撃に"凍結"の異能を乗せると同時に、その剣圧で飛ばした破片にも"凍結"を仕込んでいた。
杵淵は"凍結"を仕込んだ一閃は"電撃"を宿した一太刀で相殺したが、一緒に飛ばしたカケラたち、もとい"細かな破片"までは完全に飛ばせなかった。
それらは杵淵の視界で注目されないまま、地面へ、杵淵の足元へ零れ落ちたのだ。その瞬間に"凍結"の異能が発揮され、落下した数多の破片がその周辺――つまり、杵淵の足元と地面を凍結させた。
「……まだ、勝負は分からないわ」
車の影から、雪音は杵淵が追ってくるのを息を殺して待ったのだった。
「……っ!」
雪音は体を後ろに押しのけられ、杵淵と距離が空いてしまった。両足と左手で三点着地し、唇を噛み締める。
彼女を大太刀で弾き返した杵淵は追撃する様子を見せず、その場で自らの得物を構いなおした。
「……!」
雪音は再び駆け出した。右手の刀を握りしめ、杵淵に斬りかかる。
杵淵は半歩下がりながら雪音の斬撃を大太刀を横にかざし防ぐ。そして雪音の刀を弾くと、腕が持ち上がってノーガードになった彼女の腹部を狙って斬り込んだ。
「くそ……っ!」
雪音は弾かれた右手の刀を左手へ投げ、杵渕の太刀筋を左手に移った逆手の刀身で受け止めた。再び駐車場に甲高い音が響き渡り、杵淵の大太刀を防いだ刀が強く振動する。
そのまま大太刀を押し返し、雪音は杵淵の懐に入ろうと地面を蹴った。しかし同時に杵淵の体が後ろに下がる。それでも無理に接近しようとするも、杵淵の大太刀がそれをさせない。
大太刀が振りかざされ、雪音は刀でそれを弾き返す。それから一歩踏み出そうとするも、再び大太刀が振り下ろされてそれは叶わない。杵淵が譲らない距離感で白い刃がぶつかり合い、最後の一閃の衝撃で両者の体が背後へと滑り距離が開いた。
「……っ」
雪音は忌々しく思いながらも、杵淵を睨みつけた。杵淵は動じず、再び大太刀を握りしめ足に力をこめる。
戦況は芳しく悪い。というのも、それは雪音と杵淵の得物の差が関係していた。
どちらも同じ刀を使っているものの、その刀身の長さは違う。雪音の刀と比べると、杵淵の大太刀はそれよりも長い。リーチの長短はそれぞれメリット・デメリットがあり、それを活かして杵淵は立ち回っていた。
杵淵は雪音の刀の射程外となる距離感を維持し続けている。その立ち回りが中々崩せずにいた。
無理に接近しようにも、今さっきのようにうまく距離を取られつつ迎撃される。白夜の異能"重力操作"のように無理やり距離を縮められる方法があれば良いのだが、生憎雪音はその類のものを持ち合わせていない。
しかも杵淵は"ここぞ"というタイミング以外は全く攻めてこなかった。時間稼ぎといったところか。極論、杵淵は白夜の後を追わせなければ良いため、彼女からしたらすぐに決着をつける必要がないともいえる。
杵淵との勝負を避け白夜の後を追おうにも、杵淵は駐車場の出入口を背に位置取りをしていた。彼女を突破せずにそこへは到達できそうにない。
雪音は少し口をとがらせて不満を告げる。
「……そんなに私を近づけたくないんですか」
「"おもり"ってのは我慢比べだぜ、お嬢さん? 先に根を上げたら負けなのさ」
杵淵は笑ってそう答えた。確かに彼女のそれは的を得ているかもしれない。雪音はこれから始まるであろう精神の削り合いにため息をついた。
杵淵との戦闘を避けるという意味では、そもそも律儀にわざわざ出入口から出る必要はない。この小さな立体駐車場一階の壁に穴を開けて脱出したり、二階から屋上に登ってそこから飛び降りても良い。
問題はその行動を杵淵が許してくれるかということ。どう楽観的に考えても許してくれそうにない。
――ならば、どちらの方法を取るにしろ、無理やりにでもやり通す。
「っ!」
雪音は地面を蹴った。すぐそばに止めてあったワゴンの上に飛び乗ると、フロントガラスを足で踏みしめかち割った。杵淵が警戒しながら見上げる中で、ガラスの破片と、衝撃で一緒に割れたフレームのカケラが宙に舞う。
そしてその場から雪音は"凍結"の異能を込めた斬撃を杵淵へと放った。舞ったガラス片やカケラを巻き込んで、白い冷気を纏った一閃が杵淵へと一直線に向かっていく。
杵淵は雪音のもとへ駆けながら、ある地点で地面を踏み込んだ。そしてその"凍結"が込められた一閃を"電撃"を纏った大太刀で弾き飛ばす。
"凍結"と"電撃"の異能が一閃を介してぶつかり合い、その場で散らばった。白く光る氷の粒子が細い電流を帯びつつ宙へ飛び交っていった。
"凍結"の一閃を弾き飛ばした杵淵は追おうと地面を蹴る。――しかし足が地面から離れなかった。杵淵は慌てて地面に張り付いた足元を見る。
「氷……!?」
足が、地面に凍り付いていた。杵淵は慌てて雪音を見上げるが、その時にはすでに彼女は斬撃を放ち、天井に穴を開けたところだった。
「また会いましょう」
足元が凍りついた杵渕を見下ろしながら雪音はそう笑うと、開けた天井の穴から二階へと跳び移った。一階に"凍結"で足止めした杵淵を残して。
二階へと無事たどり着いた雪音はそのまま走り抜け、数台止まっていた車の中の一台の影に隠れた。そして自らの刀を構える。
杵淵の足を凍結させたのは、斬撃と一緒に飛ばした細かなガラス片やフレームのカケラだ。雪音は斬撃に"凍結"の異能を乗せると同時に、その剣圧で飛ばした破片にも"凍結"を仕込んでいた。
杵淵は"凍結"を仕込んだ一閃は"電撃"を宿した一太刀で相殺したが、一緒に飛ばしたカケラたち、もとい"細かな破片"までは完全に飛ばせなかった。
それらは杵淵の視界で注目されないまま、地面へ、杵淵の足元へ零れ落ちたのだ。その瞬間に"凍結"の異能が発揮され、落下した数多の破片がその周辺――つまり、杵淵の足元と地面を凍結させた。
「……まだ、勝負は分からないわ」
車の影から、雪音は杵淵が追ってくるのを息を殺して待ったのだった。
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