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#33 利口な騙り手
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殺気を瞳に込めて、睨み合った火孁と金剛寺。総司が離れたところからそれを見つめる中、先に動いたのは金剛寺だった。
「……っ」
金剛寺は床を蹴って、後ろへと跳んだ。すかさず火孁は火炎と同化した腕を振るい、発生させた火炎の波で退いた彼を狙う。
対し金剛寺は、利口な騙り手を発動させ、目の前に大きな口を顕現させた。あんぐりと開いたその口が迫りくる火炎の波を飲み込むと、白い蒸気を歯の間から発しつつ消えていく。
火孁の火炎を防ぐことに成功した彼は、同時に彼女と距離を取るにも成功した。壁を背負い、数メートルの距離ができたところで金剛寺は火孁をじっと見つめる。
その二つ眼で、火孁を観察した。
総司の異能の対象から放たれ、冷静さを取り戻した金剛寺は流石に気づいているのだろう。総司に攻撃したはずの口が彼の胸元に攻撃していた現象、その首謀者であるのが火孁であることを。
「……へぇ」
容易く距離を取られた火孁は、どこか興味深そうに声を漏らした。彼女は特に追撃する様子も距離を詰める様子も見せず、その場で手を顎につける。
その瞬間、火孁の背後に巨大な口が現れた。金剛寺の利口な騙り手は背後から火孁を丸呑みすべく、間髪入れず正面を向いたままの彼女にかぶりつき、飲み込んだ。
ピクリと金剛寺の肩が跳ねた。彼は瞬時に頭上を見上げると、そこには灯り光る狐火が浮遊していた。そしてそれが一瞬にして人の容を成すと同じくして、金剛寺は歯を噛み締め腕を上げる。
「くっ……!」
一瞬にして火の玉から出現した火孁は上から金剛寺を殴り下ろした。それを読んでいたであろう金剛寺はその拳を腕で防御するも、その巨大な威力に両足元の床が沈没する。それほどの威力がその拳には孕んでいた。
そのあまりの威力による衝撃で体が硬直した金剛寺を見据え、火孁は殴った勢いのままに落下しつつ、くるりと空中で回転する。そしてその遠心力を乗せた蹴りをノーガードになっていた金剛寺の横腹へかました。
「――ッ!」
その蹴りは先の拳に比重する強さを持っており、金剛寺をまるで銃弾のごとく横方向へ吹っ飛ばした。蹴りをいれた角度も相まって、地面からおよそ三十度の斜め上へ飛んだ彼の体は高い天井の壁にぶち当たる。
しかしながら、この場所はさっきまで"情報種子機関"があった場所。壁は特に頑丈に作られており、人為を逸脱した力で人間が叩きつけられたところで、その壁は崩れ落ちることはなかった。
だがヒビは大きく走り、隙間に金剛寺の体は挟まる。
「……ちっ」
ヒビ割れた壁から何とか這い出ながら、金剛寺は床に立つ火孁を苦し気に見下ろした。火孁の冷静でどこかつまらなそうな視線を交差し、彼は歯ぎしりをする。
総司はそれを見ながら、一つため息をこぼした。
いくら異能力者といえど、高等な精霊に地力は及ばないようだ。異能はことごとく翻され、単純な暴力だけでも差がある。
それでいて火孁の性質が厄介極まりない。総司は彼女からその性質を詳しく聞いているわけではないが、見る限り"炎"を自在に操り、自分自身すら"炎"と同化できる能力を持っているようだ。
さらには金剛寺の頭上に跳んだ芸当。あれは一種の空間跳躍にしか見えなかった。
どんな仕組みなのかは今のところ理解しえないが、例え敵に回すとしたら、彼女が暴れまわる前の段階で一気に押し切り仕止めなくてはならない。
この状況で火孁を仮想敵として想定し、戦術の目途をたてた総司はそこまで考えてクスリと笑う。今総司が一瞬で思いついた簡素な"それ"を実行したらしいのが、前回の火孁と金剛寺の戦闘だった。
金剛寺は壁に張り付いたまま、苦く笑った。
「はぁ……はぁ……。精霊様、前みたいにもっと余裕ぶっこいてくれていいんだけどなァ」
その憎まれ口を吐いた口から、ツーと一筋の血液が流れ落ちる。それを聞いた火孁は小さく笑った。
「"そういうところだぜ"って前回指摘されてしまったからね。私は人間風情と違って、学習してるんだよ」
「はぁ……"身から出た錆"ってやつかァこれは……。随分とめでてぇ事してくれてんなぁ、あの時の俺め……」
金剛寺は深いため息をこぼした。肩をすくめ、一旦は肩の力を抜いたように見える。
すると金剛寺は視線と態度を改め、鋭い瞳で火孁を見つめなおした。その双眸の変化に火孁も顎を引いて構える。
「こうなっちまった以上、俺もなりふり構ってられないな……」
そう言って金剛寺は壁のヒビ付近の凹凸から手を離した。そのまま床に向かって自由落下していく。
「やってやるよ、精霊」
突如、彼の落下地点に"口"が顕現した。総司と火孁がそれに警戒すると同時に、その"口"は上へ飛んで落下してきた金剛寺を一気に飲み込んだ。
彼を飲み込んだ"口"はスイーっと空中を浮遊し、高い天井を遊泳していく。
「ふーん」
それを見た火孁はちょっとだけ目を輝かせる。人差し指を伸ばし、右手で銃の形を作るとその照準を頭上で飛び回る"口"へと向けた。
「撃ち落としてやる」
――直後、鼓膜を揺らす破裂音と共に、火孁の指先から光弾が飛び、浮遊する"口"を打ち抜いた。その弾速は目で見えないほど早く、それが着弾した"口"は一瞬にして爆発した。
その爆発は地面を揺らし、天井の壁をはがした。部屋の中を爆音が飛び交い、総司は思わず耳を塞ぐ。
パラパラと壁の破片が落ちてくる中で、火孁はじっと天井付近を漂う黒い煙を見つめていた。耳を塞ぎつつ落ちてくる小さなカスから目を守りながら、ちらりと天井を見た。
あの"口"の中に金剛寺は入っていた。あのまま打ち抜かれ、"口"と一緒に金剛寺は消し炭になったのだろうか。だが少なくても総司はそうは思えなかった。
しかし状況証拠からして、彼が爆散したとしてみるのが普通だろう。"口"の中という密閉空間で、あの爆発から逃れる術などない。
――と総司は思っていた。
「――ッ!」
突然、火孁が足を前に滑らせ転ぶ。――否、違う。"彼女の足の力が急に抜けて、転ばざるを得なかったのだ"。
「くぅ……」
火孁は珍しく弱弱しい小さな悲鳴を上げながら、眉をふにゃりと曲げる。火孁は慌てて力が抜けた右足首を見ると、その視界に映ったものに火孁は嫌そうな表情を浮かべた。――その足首は人の右腕に掴まれていた。
そしてその腕は、地面に張り付いていた"口"から伸びており、火孁の目視と同時に左腕もそこから飛び出した。それを軸にその"本体"が口から飛び出す。
「このぉっ……!」
尻もちをついた状態からでも、火孁はその人影に腕をかざし、先ほどの火炎の光弾を放つ。が、手をかざすと同時に目の前に現れた巨大な"口"がそれを飲み込んだ。
直後、その光弾は大きな爆発を生んだが、それは口内で行われた。"口"が弾けると同時に強い爆風が巻き起こり、足の力が抜けた火孁は後ろに吹っ飛んだ。
――そしてその爆風は、"口"から出てきた人影を逆側へと吹っ飛ばす。
「ひやっ……! はっ……! 精霊様ぁ!」
爆風で火孁と反対側の壁に叩きつけられた人影――金剛寺は興奮した様子で立ち上がると、すぐ隣の出入り口の扉を拳で破壊する。火孁が立ち上がって追おうにも、やはり足に力が入らない。
金剛寺はそんな様子の彼女を見た後、今まで観戦していた総司へと瞬時に視線を移した。そしてその場所が自分と遠く、妨害もできないと知るや否や、火孁へ向かってわざとらしく敬礼した。
「スカート履いた淑女の下から這い出て攻撃するのは紳士的にマナー違反だが――そこは敬重なる精霊様っ! 黒いお召し物は眼福でしたねえ!」
「っ!! 貴様ァ!! 金剛寺ィィイイ!!!!」
顔を真っ赤にした火孁は涙目で犬歯をたて叫ぶと、今度は両腕で光弾を放った。
しかし彼女と金剛寺の間に距離があったことと、前もって金剛寺が"口"を張っていたこともあり、その光弾は扉の場所に現れた"口"に飲み込まれ、さっきと同じく口内で爆散した。
爆散後、その扉の向こうに金剛寺の姿はない。爆風での吹っ飛びを利用して、その場所から撤退したのだろう。
金剛寺が逃げ出し、静かになった元"情報種子機関"中枢。その中で火孁は顔を真っ赤にしたまま、暗い天井を見上げた。
彼が逃げてしまったことはある意味計画通りだ。しかし総司はそれを懐疑な視線で見つめていた。
さっき、"利口な騙り手"による総司への攻撃を金剛寺へカウンターしたのは、火孁が持っているという"八咫鏡"という神器の異能であった。それは"計画"の段階で火孁から聞かされていた。
しかし詳細に聞かされていたわけではない。総司は顎に手を当てる。
総司が見た限り、金剛寺の不意打ちを彼女は"八咫鏡"でカウンターできなかった。火孁の持つ"八咫鏡"は不意打ちに無力なのだろうか。
総司が色々と考えている中、彼女は小さくぽつりとぼやく。
「……追って殺していい?」
それは金剛寺に対する悔恨だった。総司は即答する。
「ダメだ」
「……」
総司の即答に、火孁はその場でうずくまった。総司は今度こそ頭を抱えながら、火孁のそばに歩み寄る。
「今の君の仕事は、約束通り私の護衛だ。金剛寺に言ったように、"スイレン"の異能力者は出払っている。君が私から離れたら、私は一人になって格好の標的になる。私を狙う勢力は数いるからね、護衛が必要なのだよ。……心証は察するが」
「うぅ……」
「――だが、君のおかげで最終局面に入ることができた」
総司は自分の懐からスマートフォンを取り出した。画面をスライドしながら、火孁へとはっきりした口調で告げる。
「私の"憤懣の煽動者"と、君との戦闘。それらの陽動もあって、例の"猫パンチ"で取り付けた発信機がバレずにすんだ」
そう微笑んだ総司は最後の仕上げ人へ電話をかける。スマートフォンを耳につけ、"彼女"が応答するのを待った。
――電子音が途絶え、聴き慣れた声が総司の鼓膜を震わせる。
『どうかしましたか』
雪音が応答したところで、金剛寺は口を開いた。
「――もしもし、私だ。……金剛寺の位置情報を捉えた。今からそちらへ送信する。雪音は白夜君と共に彼を叩いてくれ。そして新たに、詳細は不明だが奴の異能は"口"の中から別の"口"の中へ、空間跳躍ができるようだ。奴は交戦後だから、そこそこに弱っているだろうが、絶対に気だけは抜くな。……怪我をするなとは言わないが、絶対に生きて帰ってきなさい」
『――分かりました』
「……っ」
金剛寺は床を蹴って、後ろへと跳んだ。すかさず火孁は火炎と同化した腕を振るい、発生させた火炎の波で退いた彼を狙う。
対し金剛寺は、利口な騙り手を発動させ、目の前に大きな口を顕現させた。あんぐりと開いたその口が迫りくる火炎の波を飲み込むと、白い蒸気を歯の間から発しつつ消えていく。
火孁の火炎を防ぐことに成功した彼は、同時に彼女と距離を取るにも成功した。壁を背負い、数メートルの距離ができたところで金剛寺は火孁をじっと見つめる。
その二つ眼で、火孁を観察した。
総司の異能の対象から放たれ、冷静さを取り戻した金剛寺は流石に気づいているのだろう。総司に攻撃したはずの口が彼の胸元に攻撃していた現象、その首謀者であるのが火孁であることを。
「……へぇ」
容易く距離を取られた火孁は、どこか興味深そうに声を漏らした。彼女は特に追撃する様子も距離を詰める様子も見せず、その場で手を顎につける。
その瞬間、火孁の背後に巨大な口が現れた。金剛寺の利口な騙り手は背後から火孁を丸呑みすべく、間髪入れず正面を向いたままの彼女にかぶりつき、飲み込んだ。
ピクリと金剛寺の肩が跳ねた。彼は瞬時に頭上を見上げると、そこには灯り光る狐火が浮遊していた。そしてそれが一瞬にして人の容を成すと同じくして、金剛寺は歯を噛み締め腕を上げる。
「くっ……!」
一瞬にして火の玉から出現した火孁は上から金剛寺を殴り下ろした。それを読んでいたであろう金剛寺はその拳を腕で防御するも、その巨大な威力に両足元の床が沈没する。それほどの威力がその拳には孕んでいた。
そのあまりの威力による衝撃で体が硬直した金剛寺を見据え、火孁は殴った勢いのままに落下しつつ、くるりと空中で回転する。そしてその遠心力を乗せた蹴りをノーガードになっていた金剛寺の横腹へかました。
「――ッ!」
その蹴りは先の拳に比重する強さを持っており、金剛寺をまるで銃弾のごとく横方向へ吹っ飛ばした。蹴りをいれた角度も相まって、地面からおよそ三十度の斜め上へ飛んだ彼の体は高い天井の壁にぶち当たる。
しかしながら、この場所はさっきまで"情報種子機関"があった場所。壁は特に頑丈に作られており、人為を逸脱した力で人間が叩きつけられたところで、その壁は崩れ落ちることはなかった。
だがヒビは大きく走り、隙間に金剛寺の体は挟まる。
「……ちっ」
ヒビ割れた壁から何とか這い出ながら、金剛寺は床に立つ火孁を苦し気に見下ろした。火孁の冷静でどこかつまらなそうな視線を交差し、彼は歯ぎしりをする。
総司はそれを見ながら、一つため息をこぼした。
いくら異能力者といえど、高等な精霊に地力は及ばないようだ。異能はことごとく翻され、単純な暴力だけでも差がある。
それでいて火孁の性質が厄介極まりない。総司は彼女からその性質を詳しく聞いているわけではないが、見る限り"炎"を自在に操り、自分自身すら"炎"と同化できる能力を持っているようだ。
さらには金剛寺の頭上に跳んだ芸当。あれは一種の空間跳躍にしか見えなかった。
どんな仕組みなのかは今のところ理解しえないが、例え敵に回すとしたら、彼女が暴れまわる前の段階で一気に押し切り仕止めなくてはならない。
この状況で火孁を仮想敵として想定し、戦術の目途をたてた総司はそこまで考えてクスリと笑う。今総司が一瞬で思いついた簡素な"それ"を実行したらしいのが、前回の火孁と金剛寺の戦闘だった。
金剛寺は壁に張り付いたまま、苦く笑った。
「はぁ……はぁ……。精霊様、前みたいにもっと余裕ぶっこいてくれていいんだけどなァ」
その憎まれ口を吐いた口から、ツーと一筋の血液が流れ落ちる。それを聞いた火孁は小さく笑った。
「"そういうところだぜ"って前回指摘されてしまったからね。私は人間風情と違って、学習してるんだよ」
「はぁ……"身から出た錆"ってやつかァこれは……。随分とめでてぇ事してくれてんなぁ、あの時の俺め……」
金剛寺は深いため息をこぼした。肩をすくめ、一旦は肩の力を抜いたように見える。
すると金剛寺は視線と態度を改め、鋭い瞳で火孁を見つめなおした。その双眸の変化に火孁も顎を引いて構える。
「こうなっちまった以上、俺もなりふり構ってられないな……」
そう言って金剛寺は壁のヒビ付近の凹凸から手を離した。そのまま床に向かって自由落下していく。
「やってやるよ、精霊」
突如、彼の落下地点に"口"が顕現した。総司と火孁がそれに警戒すると同時に、その"口"は上へ飛んで落下してきた金剛寺を一気に飲み込んだ。
彼を飲み込んだ"口"はスイーっと空中を浮遊し、高い天井を遊泳していく。
「ふーん」
それを見た火孁はちょっとだけ目を輝かせる。人差し指を伸ばし、右手で銃の形を作るとその照準を頭上で飛び回る"口"へと向けた。
「撃ち落としてやる」
――直後、鼓膜を揺らす破裂音と共に、火孁の指先から光弾が飛び、浮遊する"口"を打ち抜いた。その弾速は目で見えないほど早く、それが着弾した"口"は一瞬にして爆発した。
その爆発は地面を揺らし、天井の壁をはがした。部屋の中を爆音が飛び交い、総司は思わず耳を塞ぐ。
パラパラと壁の破片が落ちてくる中で、火孁はじっと天井付近を漂う黒い煙を見つめていた。耳を塞ぎつつ落ちてくる小さなカスから目を守りながら、ちらりと天井を見た。
あの"口"の中に金剛寺は入っていた。あのまま打ち抜かれ、"口"と一緒に金剛寺は消し炭になったのだろうか。だが少なくても総司はそうは思えなかった。
しかし状況証拠からして、彼が爆散したとしてみるのが普通だろう。"口"の中という密閉空間で、あの爆発から逃れる術などない。
――と総司は思っていた。
「――ッ!」
突然、火孁が足を前に滑らせ転ぶ。――否、違う。"彼女の足の力が急に抜けて、転ばざるを得なかったのだ"。
「くぅ……」
火孁は珍しく弱弱しい小さな悲鳴を上げながら、眉をふにゃりと曲げる。火孁は慌てて力が抜けた右足首を見ると、その視界に映ったものに火孁は嫌そうな表情を浮かべた。――その足首は人の右腕に掴まれていた。
そしてその腕は、地面に張り付いていた"口"から伸びており、火孁の目視と同時に左腕もそこから飛び出した。それを軸にその"本体"が口から飛び出す。
「このぉっ……!」
尻もちをついた状態からでも、火孁はその人影に腕をかざし、先ほどの火炎の光弾を放つ。が、手をかざすと同時に目の前に現れた巨大な"口"がそれを飲み込んだ。
直後、その光弾は大きな爆発を生んだが、それは口内で行われた。"口"が弾けると同時に強い爆風が巻き起こり、足の力が抜けた火孁は後ろに吹っ飛んだ。
――そしてその爆風は、"口"から出てきた人影を逆側へと吹っ飛ばす。
「ひやっ……! はっ……! 精霊様ぁ!」
爆風で火孁と反対側の壁に叩きつけられた人影――金剛寺は興奮した様子で立ち上がると、すぐ隣の出入り口の扉を拳で破壊する。火孁が立ち上がって追おうにも、やはり足に力が入らない。
金剛寺はそんな様子の彼女を見た後、今まで観戦していた総司へと瞬時に視線を移した。そしてその場所が自分と遠く、妨害もできないと知るや否や、火孁へ向かってわざとらしく敬礼した。
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「っ!! 貴様ァ!! 金剛寺ィィイイ!!!!」
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しかし彼女と金剛寺の間に距離があったことと、前もって金剛寺が"口"を張っていたこともあり、その光弾は扉の場所に現れた"口"に飲み込まれ、さっきと同じく口内で爆散した。
爆散後、その扉の向こうに金剛寺の姿はない。爆風での吹っ飛びを利用して、その場所から撤退したのだろう。
金剛寺が逃げ出し、静かになった元"情報種子機関"中枢。その中で火孁は顔を真っ赤にしたまま、暗い天井を見上げた。
彼が逃げてしまったことはある意味計画通りだ。しかし総司はそれを懐疑な視線で見つめていた。
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総司が見た限り、金剛寺の不意打ちを彼女は"八咫鏡"でカウンターできなかった。火孁の持つ"八咫鏡"は不意打ちに無力なのだろうか。
総司が色々と考えている中、彼女は小さくぽつりとぼやく。
「……追って殺していい?」
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「ダメだ」
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総司の即答に、火孁はその場でうずくまった。総司は今度こそ頭を抱えながら、火孁のそばに歩み寄る。
「今の君の仕事は、約束通り私の護衛だ。金剛寺に言ったように、"スイレン"の異能力者は出払っている。君が私から離れたら、私は一人になって格好の標的になる。私を狙う勢力は数いるからね、護衛が必要なのだよ。……心証は察するが」
「うぅ……」
「――だが、君のおかげで最終局面に入ることができた」
総司は自分の懐からスマートフォンを取り出した。画面をスライドしながら、火孁へとはっきりした口調で告げる。
「私の"憤懣の煽動者"と、君との戦闘。それらの陽動もあって、例の"猫パンチ"で取り付けた発信機がバレずにすんだ」
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――電子音が途絶え、聴き慣れた声が総司の鼓膜を震わせる。
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雪音が応答したところで、金剛寺は口を開いた。
「――もしもし、私だ。……金剛寺の位置情報を捉えた。今からそちらへ送信する。雪音は白夜君と共に彼を叩いてくれ。そして新たに、詳細は不明だが奴の異能は"口"の中から別の"口"の中へ、空間跳躍ができるようだ。奴は交戦後だから、そこそこに弱っているだろうが、絶対に気だけは抜くな。……怪我をするなとは言わないが、絶対に生きて帰ってきなさい」
『――分かりました』
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ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
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