OverKill:LifeMeter

トンボ

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#37 誘爆連鎖

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 ――白夜に敗れた松浦イリアンは改造トラックの荷台に転がされていた。隣には同じく敗れた杵淵星那が転がっている。

 その二人に意識はない。運転席には"スイレン"の兵士が二人、そして気絶し倒れている二人のすぐそばには"スイレン"の異能力者ミュートが背中を壁につけ、腕を組み二人を監視していた。

「……落ち着かねえな、おい」

「そりゃそうだ。後ろに"三人"、化け物がいるんだ。背筋が冷たくてしょうがねえよ」

 運転席の兵士は助手席に座る同僚の言葉を聞いて薄ら笑いを浮かべる。

 運転席からは長方形の小さな鉄柵つきの窓越しに荷台の様子を見ることができた。

 緑色の長い髪をした女性の異能力者ミュートが冷めた瞳で倒れる二人の異能力者《ミュート》を見下ろしている姿は、自分たちへの敵意がないとはいえ、兵士たちを震わせる。

「本当に新人か? あの異能力者ミュートさんは……」

「さぁな。異能力者ミュートのことなんて俺ら一般兵には分からんさ。何せ、あの軟そうな東宮総司でさえ、敵対組織の人間を一瞬にして数百人単位で消したって話だぜ」

「肝も冷える話だな、全く……」

 フロントガラスに映る空は晴天。しかしながら、運転席に座る二人の兵士の心内は晴れているとはいえなかった。

 そして何より、次の瞬間爆音と共にトラックが破裂し、その強大な力を認識することもできず、ズタズタに引き裂かれた二人の兵士の体では、もう冷感すらも感じられなかったはずだろう。



「……あっつ」

 燃え盛るトラックの残骸から這い出た少年は、焼き焦げ破れた袖で頬を拭う。肺が詰まりそうな臭いを鼻から吸みながら、すかさず喰らう逆虫バグ・バクを発動した。

「……氷……なぁんだ、運が良いなぁもう」

 破れた袖、そこから少年の――松浦イリアンの白い腕が覗かせおり、そこには冷気を漂わせる小さな"口"が引っ付いていた。彼はそこに逆の腕を入れ、前髪に隠れた瞳を細めてそうぼやく。

 トラックが破裂し爆発を起こしたのは丁度橋の上だった。周囲の車はこぞって止まり、中には車から出てきて様子を伺っている人もいた。中には恐らく警察か、はたまた友人へ電話をかける者も。

 イリアンは周囲から掛けられる視線を避けるように踵を返す。

 燃え盛るトラックの残骸の熱気が顔にかかって、瞳が乾いていくのを感じた。しかしイリアンは顔を背けず、その残骸の中で腰を掛けて座る女性を見た。彼はその女性――杵淵星那へと言葉をかける。

「お姉さんは行かないんだっけ?」

 杵淵はイリアンの声に反応し、彼の顔を見つめる。

 杵淵のすぐ隣では二人を護送していた異能力者ミュートが倒れていた。その倒れた異能力者ミュートの人差し指がピクリと動く。杵淵はため息をついた。

「私はあの男に命を賭けたわけじゃない」

「……あっそ」

 その場を動く様子もなさそうな彼女に、イリアンは小さく舌打ちをした。

「まあいいや。便利な異能も貰えたし、感謝しといてあげるよ」

 イリアンはわざとらしく体を大きく振りながら、杵淵に背を向ける。杵淵はそんな彼に表情一つ変えず、残骸に寄りかかって空を見た。

 ――気絶していた松浦を覚醒させた異能というのは、まさしく杵淵の"電撃"だった。ただしそれは杵淵のそれではなく、杵淵の異能を"喰らう逆虫バグ・バク"で喰らったイリアンの異能として、であるが。

 イリアンの"喰らう逆虫バグ・バク"は成長途中であり、細かい制御が効かない。故に取り込める異能の数は限られているし、高度な異能は初歩的な利用しかできない。金剛寺の異能や、杵淵の異能がそれらに該当する。

 だからイリアンは杵淵の"電撃"そのものを喰らったのではなく、"電撃を駆使した異能"を喰らったのだ。白夜の異能を喰らった際も、異能"重力操作"を喰らったというよりは"重力操作"による"重力波"そのものを喰らい、使用していた。それと同じ要領で、イリアンは杵淵の異能の一端を喰らっていた。

「……」

 イリアンはゆっくりとその場を去ろうとするも、未だ微弱に体を蝕む電撃にふらりと足がすくむ。

 イリアンが杵淵から喰らっていた異能は、電気を伴う物質にある一定の条件がなされると、その物質を身に着けている者に"電撃"が起動する異能。

 今回の場合は、イリアンの持つ携帯に金剛寺からの着信が入ったことをトリガーに"電撃"が起動し、イリアンへと放電された。それにより、無理やりイリアンの意識を覚醒させたのだ。

 それからは早い。同乗の異能力者ミュートが反応するよりも早く、トラックを破壊すれば良いだけだった。杵淵をも巻き込んだ爆散だったが、悪運が強いのか彼女にほほとんどダメージがなかったようである。

「ハッ、しばらくさよならだ。金剛寺結弦」

 腕についた"口"から、焔を灯した腕を抜いた。口からかすかに漂っていた"冷気"はすでに消えていた。

「――僕は生きることにするよ」
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