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#38 vs利口な騙り手
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車道。車から落ちた白夜は目の前の男を見据えた。
血の紅に染まったジーンズと上着を着用し、薄汚れた赤髪をかきあげるその男――金剛寺が白夜の前に立ちはだかる。白夜は息を呑んで構えた。
「手厚く歓迎したってのに、何だよその顔」
白夜は冷や汗をかきながら、上ずった喉で無理にせせら笑った。気分をリセットしたかったのだ。
目の前にいるのは例の"引き摺り"で大怪我を負っているはずの男だ。しかしながら、白夜はその威圧に押されていた。白夜を見るその瞳は、スリムに洗礼された獲物を狩る眼。
白夜は姿勢を低くした。
理恵の車からはちょっと離れてしまったが、遠すぎる距離ではない。雪音の援護がくるまで持ち堪えることぐらいはできるはずだ。
白夜は息を詰める。
――金剛寺は一歩踏み出した。同時に白夜は半歩後ずさる。そして直後、自分の首筋に"口"が現れたことを察知して、慌ててその"口"から逃れるように足で地面を蹴り、その場から移動した。
移動した際に、首筋についていた"口"はそこから外れ虚無に漂い、その虚空を嚙みちぎる。白夜はそれをしっかりと見ていた。
このことから白夜はその異能の性質を判断する。"口"を召喚し攻撃に転じる彼の異能利口な騙り手は物を媒介にしているわけではなく、空間そのものに依存するらしい。
異能に対する推察――だがそれは最善の選択とは言えなかったようで、異能に視線を寄せていた白夜がハッとした瞬間には、金剛寺の腕がすぐそこまで迫っていた。
「っ!」
反射的に白夜は頭を下げて金剛寺の拳をかわす。しかし頭を下げたところに金剛寺の膝蹴りが顎にさく裂した。白夜の首から上が真横へ振り切り、体を伴い吹っ飛んだ。脳が揺れ、意識が飛びかける。
白夜の体は車道と歩道の区切りにある柵をぶち破り、脇に緑生い茂る歩道へ投げ出された。
「クソっ……!」
意識が跳びかけた白夜だが、さっき金剛寺の利口な騙り手に噛みちぎられたであろう左腕の傷が衝撃で痛みがぶり返し、意識を叩き起こすことでなんとか繋ぎとめた。なんとも皮肉な因果だ。白夜は体を起こして唇の下を右腕で拭う。
そして歩道の脇の街路樹から枝をむしり取り、それを起点に天叢雲剣を顕現させた。
刃渡り30センチもない短剣を構え、白夜は姿勢を低く金剛寺を見つめる。
「……っ」
金剛寺の視線が白夜を捕らえた。そして体をこちらへ向けると、ゆっくりと歩き出した。白夜はそれらの挙動をしっかりと見つめて、あることを確信する。
一つ一つの動きに力が感じられない。それは金剛寺がかなりのダメージを受けている証拠だ。ああやって攻撃の瞬間など、重要な箇所のみ精神を削って無理やりに力を引き出しているのだろう。
これなら勝機はある。そして今の彼からならば命からがら逃げきることも可能だ。けれど、少なくても白夜には逃走の選択肢は存在しない。白夜が受けた依頼は彼の確保、または殺害なのだ。
そして何より、奴は白夜にとっての"標的"であった。
「……!」
金剛寺が歩道に入ってくる前に、白夜は右腕をかざした。金剛寺はそれを見て瞬時に両腕で体を防御する。
直後、白夜の右腕から"重力操作"による斥力が発生し、金剛寺の体を吹っ飛ばした。彼の体は車道の反対車線へ投げ出される。
その投げ出された体に対し、車道の左から走行してきた車が急ブレーキをかけ、金剛寺の吹っ飛ぶ軌道のギリギリ直前で止まった。金剛寺の体はそのボンネットの先を通過し、向かい側の歩道へ飛んでいく。
そのまま反対側の歩道へ到達し、その先の建物の壁へ金剛寺は叩きつけられ、体がよろめいた。
白夜は間髪入れず駆け出す。
まだ壊れていない歩道の柵の箇所に飛び乗ると、その足場を蹴って車道へ飛び出た。丁度走行してきていた車のルーフに飛び乗り、その上を駆けて再びジャンプした。
対向車線の車道へ着地し前を見ると、金剛寺が立ち上がっていた。直後、白夜の右腕に違和感を覚える。
「チッ……!」
今度は見なくても分かった。白夜は接近しながらすぐさま右腕を腕に上げ、彼の利口な騙り手をかわす。その"口"は右腕があった空中を虚しくかみ砕く。
「クソガキぃ……!」
二度も攻撃を回避され、金剛寺は忌々しそうに歯を噛み締め白夜を睨んだ。
白夜が柵を飛び越え、金剛寺の立つ歩道へ侵入する。金剛寺は迎え撃つように地面を蹴った。
金剛寺の左腕を横に弾き、白夜は右手の天叢雲剣を振り上げる。金剛寺はナイフを持つ白夜の右腕を掴もうと、自身の右腕を脇の下から繰り出した。
同時に金剛寺は顔を逸らして振り上げられたナイフを回避しようとするも、刃先が彼の頬を裂いた。それでも金剛寺の右腕はナイフを持つ白夜の右腕を狙う。その手の平には小さな"口"が肉を砕こうと待機していた。
白夜はそれに気付いていた。振り上げたすぐ後に、ナイフの刃を下に持ち変えると、そのまま落下させる。その先には金剛寺の右腕が。そしてその落下に"重力"を加えた。
「ッ!」
金剛寺は目を見開き、急いで右腕を体ごと引く。金剛寺が右腕を引いている最中のその指の先で、不気味に加速したナイフが通り過ぎた。ナイフが物凄い速度で地面に深々と突き刺さり、刃の部分が見えなくなる。
引いた金剛寺に対し、白夜は一歩踏み出した。それから左足で蹴りをいれる。金剛寺は腕でそれを防御するも、勢いを完全に押しきれず彼の体が滑った。同時に勢いをつけたせいで、白夜は亀裂の入った左腕の激痛を感じ歯を噛み締める。
その一瞬の隙を金剛寺は見逃さない。
金剛寺は瞬時に白夜へ一歩詰め、掌底付きを放った。白夜は平に"口"がついているそれに対し、姿勢を低くして右腕を振り上げる。その右腕で金剛寺の腕を下から弾き、掌底突きを防いだ。
そしてその勢いのまま地面で前転し、刺さったナイフを回収しつつ金剛寺の背後へ回る。回収したナイフを逆手に持ち、立ち上がりと同時に金剛寺へ振り上げた。
「ッ」
金剛寺の鼻の先をナイフの軌道が通る。今度はかすりもしなかったことに白夜は舌打ちをして、彼の回し蹴りを腰を曲げてかわした。
次に迫りくるのは金剛寺の拳だ。白夜はそれを横へのスウェーでかわしつつ、彼の懐に入る。対抗して反対側から来る拳を右ひじでブロックしながら、逆手に持ったナイフを彼の胸目掛けて斬り込んだ。
金剛寺は肘でブロックされた拳の方へ、体重をかけながら移動してその斬撃をかわす。ナイフの刃は宙をかいた。
ナイフを外した白夜も瞬時に足を動かして金剛寺と向き直る。
目の前に飛んできた拳を寸でのところで右腕で上に弾くも、違和感を覚えてすぐに地面を蹴った。背後へ後退すると同時に、上から大きな"口"が降ってきて、瞬刻前に白夜がいた場所を飲み込んだ。
すぐにその口はスーッと消え、その向こう側から金剛寺が駆け出してくる。白夜はナイフを逆手から通常の持ち方へ直すと、構えた。
拳をギリギリのところでかわし、たまに隙をぬって放ってくる蹴りを腕で弾く。ナイフを振るおうならば、ギリギリそのリーチ外へ逃れたと思えば、瞬時に反撃をしてくる。
掌底付きを腕を弾くことで防御し、迫りくる逆の拳をスウェーでかわしつつ、使ったばかりの手の甲を金剛寺の顔面へ繰り出す。金剛寺はそれを腕で防御し、蹴りに転じてきた。白夜はそれをナイフを下に投擲することで、引っ込めさせる。その間も両者の足はせわしなく動き続けていた。
二人の足がダンスを踏むように動き踊り、互いの位置がくるりと入れ替わった。
位置が入れ替わる瞬間を利用し、白夜は地面に再び刺さったナイフの持ち手を踏み込み、地面から刃を引き出す。それから逆の足で出てきた刃の下を蹴り上げ弾いた。弾かれたナイフは白夜の右手へ舞い戻る。
「っ!」
白夜がナイフを手にする間の時間で、金剛寺は真正面から大きな"口"を白夜へ放ってきていた。白夜は慌ててそれを重力波で迎え撃つ。
異能同士がぶつかり合い、互いの相殺し合って体が背後へ飛んだ。どちらも倒れることなく二本足で着地し、距離ができたその中で互いににらみ合った。
――気を抜いた際には殺される。
通行人の野次馬がぼちぼちと集まってきていることにも気づかない白夜の頬に、一筋の冷たい汗が流れた。
血の紅に染まったジーンズと上着を着用し、薄汚れた赤髪をかきあげるその男――金剛寺が白夜の前に立ちはだかる。白夜は息を呑んで構えた。
「手厚く歓迎したってのに、何だよその顔」
白夜は冷や汗をかきながら、上ずった喉で無理にせせら笑った。気分をリセットしたかったのだ。
目の前にいるのは例の"引き摺り"で大怪我を負っているはずの男だ。しかしながら、白夜はその威圧に押されていた。白夜を見るその瞳は、スリムに洗礼された獲物を狩る眼。
白夜は姿勢を低くした。
理恵の車からはちょっと離れてしまったが、遠すぎる距離ではない。雪音の援護がくるまで持ち堪えることぐらいはできるはずだ。
白夜は息を詰める。
――金剛寺は一歩踏み出した。同時に白夜は半歩後ずさる。そして直後、自分の首筋に"口"が現れたことを察知して、慌ててその"口"から逃れるように足で地面を蹴り、その場から移動した。
移動した際に、首筋についていた"口"はそこから外れ虚無に漂い、その虚空を嚙みちぎる。白夜はそれをしっかりと見ていた。
このことから白夜はその異能の性質を判断する。"口"を召喚し攻撃に転じる彼の異能利口な騙り手は物を媒介にしているわけではなく、空間そのものに依存するらしい。
異能に対する推察――だがそれは最善の選択とは言えなかったようで、異能に視線を寄せていた白夜がハッとした瞬間には、金剛寺の腕がすぐそこまで迫っていた。
「っ!」
反射的に白夜は頭を下げて金剛寺の拳をかわす。しかし頭を下げたところに金剛寺の膝蹴りが顎にさく裂した。白夜の首から上が真横へ振り切り、体を伴い吹っ飛んだ。脳が揺れ、意識が飛びかける。
白夜の体は車道と歩道の区切りにある柵をぶち破り、脇に緑生い茂る歩道へ投げ出された。
「クソっ……!」
意識が跳びかけた白夜だが、さっき金剛寺の利口な騙り手に噛みちぎられたであろう左腕の傷が衝撃で痛みがぶり返し、意識を叩き起こすことでなんとか繋ぎとめた。なんとも皮肉な因果だ。白夜は体を起こして唇の下を右腕で拭う。
そして歩道の脇の街路樹から枝をむしり取り、それを起点に天叢雲剣を顕現させた。
刃渡り30センチもない短剣を構え、白夜は姿勢を低く金剛寺を見つめる。
「……っ」
金剛寺の視線が白夜を捕らえた。そして体をこちらへ向けると、ゆっくりと歩き出した。白夜はそれらの挙動をしっかりと見つめて、あることを確信する。
一つ一つの動きに力が感じられない。それは金剛寺がかなりのダメージを受けている証拠だ。ああやって攻撃の瞬間など、重要な箇所のみ精神を削って無理やりに力を引き出しているのだろう。
これなら勝機はある。そして今の彼からならば命からがら逃げきることも可能だ。けれど、少なくても白夜には逃走の選択肢は存在しない。白夜が受けた依頼は彼の確保、または殺害なのだ。
そして何より、奴は白夜にとっての"標的"であった。
「……!」
金剛寺が歩道に入ってくる前に、白夜は右腕をかざした。金剛寺はそれを見て瞬時に両腕で体を防御する。
直後、白夜の右腕から"重力操作"による斥力が発生し、金剛寺の体を吹っ飛ばした。彼の体は車道の反対車線へ投げ出される。
その投げ出された体に対し、車道の左から走行してきた車が急ブレーキをかけ、金剛寺の吹っ飛ぶ軌道のギリギリ直前で止まった。金剛寺の体はそのボンネットの先を通過し、向かい側の歩道へ飛んでいく。
そのまま反対側の歩道へ到達し、その先の建物の壁へ金剛寺は叩きつけられ、体がよろめいた。
白夜は間髪入れず駆け出す。
まだ壊れていない歩道の柵の箇所に飛び乗ると、その足場を蹴って車道へ飛び出た。丁度走行してきていた車のルーフに飛び乗り、その上を駆けて再びジャンプした。
対向車線の車道へ着地し前を見ると、金剛寺が立ち上がっていた。直後、白夜の右腕に違和感を覚える。
「チッ……!」
今度は見なくても分かった。白夜は接近しながらすぐさま右腕を腕に上げ、彼の利口な騙り手をかわす。その"口"は右腕があった空中を虚しくかみ砕く。
「クソガキぃ……!」
二度も攻撃を回避され、金剛寺は忌々しそうに歯を噛み締め白夜を睨んだ。
白夜が柵を飛び越え、金剛寺の立つ歩道へ侵入する。金剛寺は迎え撃つように地面を蹴った。
金剛寺の左腕を横に弾き、白夜は右手の天叢雲剣を振り上げる。金剛寺はナイフを持つ白夜の右腕を掴もうと、自身の右腕を脇の下から繰り出した。
同時に金剛寺は顔を逸らして振り上げられたナイフを回避しようとするも、刃先が彼の頬を裂いた。それでも金剛寺の右腕はナイフを持つ白夜の右腕を狙う。その手の平には小さな"口"が肉を砕こうと待機していた。
白夜はそれに気付いていた。振り上げたすぐ後に、ナイフの刃を下に持ち変えると、そのまま落下させる。その先には金剛寺の右腕が。そしてその落下に"重力"を加えた。
「ッ!」
金剛寺は目を見開き、急いで右腕を体ごと引く。金剛寺が右腕を引いている最中のその指の先で、不気味に加速したナイフが通り過ぎた。ナイフが物凄い速度で地面に深々と突き刺さり、刃の部分が見えなくなる。
引いた金剛寺に対し、白夜は一歩踏み出した。それから左足で蹴りをいれる。金剛寺は腕でそれを防御するも、勢いを完全に押しきれず彼の体が滑った。同時に勢いをつけたせいで、白夜は亀裂の入った左腕の激痛を感じ歯を噛み締める。
その一瞬の隙を金剛寺は見逃さない。
金剛寺は瞬時に白夜へ一歩詰め、掌底付きを放った。白夜は平に"口"がついているそれに対し、姿勢を低くして右腕を振り上げる。その右腕で金剛寺の腕を下から弾き、掌底突きを防いだ。
そしてその勢いのまま地面で前転し、刺さったナイフを回収しつつ金剛寺の背後へ回る。回収したナイフを逆手に持ち、立ち上がりと同時に金剛寺へ振り上げた。
「ッ」
金剛寺の鼻の先をナイフの軌道が通る。今度はかすりもしなかったことに白夜は舌打ちをして、彼の回し蹴りを腰を曲げてかわした。
次に迫りくるのは金剛寺の拳だ。白夜はそれを横へのスウェーでかわしつつ、彼の懐に入る。対抗して反対側から来る拳を右ひじでブロックしながら、逆手に持ったナイフを彼の胸目掛けて斬り込んだ。
金剛寺は肘でブロックされた拳の方へ、体重をかけながら移動してその斬撃をかわす。ナイフの刃は宙をかいた。
ナイフを外した白夜も瞬時に足を動かして金剛寺と向き直る。
目の前に飛んできた拳を寸でのところで右腕で上に弾くも、違和感を覚えてすぐに地面を蹴った。背後へ後退すると同時に、上から大きな"口"が降ってきて、瞬刻前に白夜がいた場所を飲み込んだ。
すぐにその口はスーッと消え、その向こう側から金剛寺が駆け出してくる。白夜はナイフを逆手から通常の持ち方へ直すと、構えた。
拳をギリギリのところでかわし、たまに隙をぬって放ってくる蹴りを腕で弾く。ナイフを振るおうならば、ギリギリそのリーチ外へ逃れたと思えば、瞬時に反撃をしてくる。
掌底付きを腕を弾くことで防御し、迫りくる逆の拳をスウェーでかわしつつ、使ったばかりの手の甲を金剛寺の顔面へ繰り出す。金剛寺はそれを腕で防御し、蹴りに転じてきた。白夜はそれをナイフを下に投擲することで、引っ込めさせる。その間も両者の足はせわしなく動き続けていた。
二人の足がダンスを踏むように動き踊り、互いの位置がくるりと入れ替わった。
位置が入れ替わる瞬間を利用し、白夜は地面に再び刺さったナイフの持ち手を踏み込み、地面から刃を引き出す。それから逆の足で出てきた刃の下を蹴り上げ弾いた。弾かれたナイフは白夜の右手へ舞い戻る。
「っ!」
白夜がナイフを手にする間の時間で、金剛寺は真正面から大きな"口"を白夜へ放ってきていた。白夜は慌ててそれを重力波で迎え撃つ。
異能同士がぶつかり合い、互いの相殺し合って体が背後へ飛んだ。どちらも倒れることなく二本足で着地し、距離ができたその中で互いににらみ合った。
――気を抜いた際には殺される。
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