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#40 味
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冷たい風が棚引いた。白夜は金剛寺結弦に見下ろされ、息を呑む。
青い空をバックに強烈な殺気を向けられているその光景が、どうも視覚に不釣り合いな不協和音を感じさせているようだった。
「ここは……」
白夜は恐る恐る口を開く。力が抜けて四肢を動かせない。恐らくこれは金剛寺の"利口な騙り手"の影響だろう。
白夜は背中を掴まれ、何らかの穴に引きずり込まれた。その穴というのが利口な騙り手の口だったというわけだ。
金剛寺は新たに"口"と"口"の間を跳躍する異能を得たと雪音から聞いていたが、まさか自分自身がそれを体験しうることになるとは夢にも思っていたなかった。しかも、この最悪なタイミングで。
「……」
白夜が周囲をちらりと見渡した限り、ここはどこかの建物の屋上のようだ。屋上から見える町の頭の情景はどこか見覚えがある。
そして微かに聴覚が下の喧騒を捉える。それらのことから、恐らく白夜たちがいるのはさっきいた場所からすぐ近くの建物の屋上。
利口な騙り手の空間跳躍がどれほどの距離を移動できるかは不明だが、少なくても今回はそこまで長距離な跳躍はしていないようだ。
そんな白夜を前にして、金剛寺はその場でしゃがみ込んで視線の位置を白夜を合わせた。
「おぉ痛ぇぜ全く……そこら中引き摺り回しやがって……。凧上げがヘタな子供かよお前は……」
そう言いつつ無防備に頭をかく姿に、白夜は決定的に焦燥する。
金剛寺からさっきまであったはずの戦闘の緊張がまるで感じられない。集中力が切れたとか、そんな条件で緊張が消えたのではない。すでに勝ちが決まっているから金剛寺は緊張する必要がないのだ。白夜の立場は圧倒的に弱かった。
しかし解せないこともある。白夜はため息をつく金剛寺へ噛みつくように告げた。
「どうして俺をわざわざ生かしてる……? 俺はお前に用があったが、お前は俺に用はないだろうが」
「……そうだな。確かにお前に対して用があるとしたら、引き摺られた時の怨恨だけだったが……。そうもいかなくなっちまったわけだ」
金剛寺はそう小さく笑うと、次の瞬間には白夜の頭を鷲掴みにした。
目を見開く白夜だが、"利口な騙り手"により精神力を吸われ、体が動かない。金剛寺はそのまま白夜の頭を背後のコンクリート壁に叩きつけた。
「ぐっ……!」
呻く白夜とそれをのぞき込む金剛寺。後頭部から痛みが広がっていくのを感じながら、白夜は今ひとたび金剛寺を睨み返した。
金剛寺はそんな白夜を真正面から睨み返し、口を開く。
「お前の体の精神力を"利口な騙り手"で喰らった時……独特の"味"がしたんだよ。なぁ、おい」
金剛寺の顔が白夜のそれのすぐ目の前まで近づいた。眉間にしわを寄せ、白夜を根定めるかのように見つめる。
「味覚が訴えてくるってワケじゃねえが、それは確かに"味"に近いもんだった。ただの異能力者を喰らった時には感じられない、背骨をさすられるような、てめぇからはそんな感覚がした」
白夜の首筋に金剛寺の手がかかった。その指先が首の中へとめり込み、首の中の圧迫された筋肉がぴくりと震える。
「あの時と同じなんだったんだよなあ、オイ。……東宮雪華――"宿星の五人"を喰らった時と、同じだ」
金剛寺の指先に入る力が強まり、爪が肉の中へ入っていった。そこから血液が漏れ出し、伝って白夜の鎖骨へと流れ込んだ。ヒリヒリする痛みに白夜は唇をかみしめた。
金剛寺は爪を首筋に刺したまま、白夜の体をコンクリートの壁に押しつけつつ持ち上げる。ヒリつく程度だった首の痛みが、自分の体重の負荷がかかることによって数倍に膨れ上がった。白夜は思わず声を漏らす。
「――てめぇは誰だ?」
金剛寺の見開いた瞳孔が、顔を逸らし唇を噛む白夜を映したのだった。
青い空をバックに強烈な殺気を向けられているその光景が、どうも視覚に不釣り合いな不協和音を感じさせているようだった。
「ここは……」
白夜は恐る恐る口を開く。力が抜けて四肢を動かせない。恐らくこれは金剛寺の"利口な騙り手"の影響だろう。
白夜は背中を掴まれ、何らかの穴に引きずり込まれた。その穴というのが利口な騙り手の口だったというわけだ。
金剛寺は新たに"口"と"口"の間を跳躍する異能を得たと雪音から聞いていたが、まさか自分自身がそれを体験しうることになるとは夢にも思っていたなかった。しかも、この最悪なタイミングで。
「……」
白夜が周囲をちらりと見渡した限り、ここはどこかの建物の屋上のようだ。屋上から見える町の頭の情景はどこか見覚えがある。
そして微かに聴覚が下の喧騒を捉える。それらのことから、恐らく白夜たちがいるのはさっきいた場所からすぐ近くの建物の屋上。
利口な騙り手の空間跳躍がどれほどの距離を移動できるかは不明だが、少なくても今回はそこまで長距離な跳躍はしていないようだ。
そんな白夜を前にして、金剛寺はその場でしゃがみ込んで視線の位置を白夜を合わせた。
「おぉ痛ぇぜ全く……そこら中引き摺り回しやがって……。凧上げがヘタな子供かよお前は……」
そう言いつつ無防備に頭をかく姿に、白夜は決定的に焦燥する。
金剛寺からさっきまであったはずの戦闘の緊張がまるで感じられない。集中力が切れたとか、そんな条件で緊張が消えたのではない。すでに勝ちが決まっているから金剛寺は緊張する必要がないのだ。白夜の立場は圧倒的に弱かった。
しかし解せないこともある。白夜はため息をつく金剛寺へ噛みつくように告げた。
「どうして俺をわざわざ生かしてる……? 俺はお前に用があったが、お前は俺に用はないだろうが」
「……そうだな。確かにお前に対して用があるとしたら、引き摺られた時の怨恨だけだったが……。そうもいかなくなっちまったわけだ」
金剛寺はそう小さく笑うと、次の瞬間には白夜の頭を鷲掴みにした。
目を見開く白夜だが、"利口な騙り手"により精神力を吸われ、体が動かない。金剛寺はそのまま白夜の頭を背後のコンクリート壁に叩きつけた。
「ぐっ……!」
呻く白夜とそれをのぞき込む金剛寺。後頭部から痛みが広がっていくのを感じながら、白夜は今ひとたび金剛寺を睨み返した。
金剛寺はそんな白夜を真正面から睨み返し、口を開く。
「お前の体の精神力を"利口な騙り手"で喰らった時……独特の"味"がしたんだよ。なぁ、おい」
金剛寺の顔が白夜のそれのすぐ目の前まで近づいた。眉間にしわを寄せ、白夜を根定めるかのように見つめる。
「味覚が訴えてくるってワケじゃねえが、それは確かに"味"に近いもんだった。ただの異能力者を喰らった時には感じられない、背骨をさすられるような、てめぇからはそんな感覚がした」
白夜の首筋に金剛寺の手がかかった。その指先が首の中へとめり込み、首の中の圧迫された筋肉がぴくりと震える。
「あの時と同じなんだったんだよなあ、オイ。……東宮雪華――"宿星の五人"を喰らった時と、同じだ」
金剛寺の指先に入る力が強まり、爪が肉の中へ入っていった。そこから血液が漏れ出し、伝って白夜の鎖骨へと流れ込んだ。ヒリヒリする痛みに白夜は唇をかみしめた。
金剛寺は爪を首筋に刺したまま、白夜の体をコンクリートの壁に押しつけつつ持ち上げる。ヒリつく程度だった首の痛みが、自分の体重の負荷がかかることによって数倍に膨れ上がった。白夜は思わず声を漏らす。
「――てめぇは誰だ?」
金剛寺の見開いた瞳孔が、顔を逸らし唇を噛む白夜を映したのだった。
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