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#42 変幻自在
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白夜は指へと力を入れてみる。想定よりも一拍だけ遅れて指先がピクリとはねた。徐々に体へ力の感覚が戻ってきてはいるものの、未だ万全に動ける状態ではない。
白夜は雪音の背中越しに金剛寺を見据え、乾いた口を噛み締めた。
「気を付けろ。奴の攻撃は中近距離なら全てに射程が利く。死角からやり放題してくんぞ」
顔だけ微かにこちらへ向け、白夜の言葉を聞いていた雪音はぼやく。
「……攻撃の"先読み"が必要になってくるわけですか。なるほど……なんとも……歯痒い……!」
「……?」
雪音は眉間にしわを寄せて、顎を引いた。微かに瞼が震える。意図的かは不明だが、彼女はどこか苛立ちを感じているように白夜は見えた。
確かに状況は悪い。金剛寺の利口な騙り手に加え、白夜は完全にお荷物だ。雪音がい苛立つ理由も分かる。
――しかし、彼女の表情には全く持って別の感情が渦巻いているようでならなかった。
「随分可愛い援軍だなぁ、オイ」
短く言葉を交わした二人を前に、語尾が上がった声で金剛寺は両手を広げ、肩をすくめた。雪音は黙ってそんな彼と向き合う。
白夜は再び彼女の背中を拝むことになった。しかし右手に刀を持つ雪音、その逆の左手が彼女のポケットに伸び、そこから金剛寺には見えないよう取り出した物を見て、白夜は内心ほくそ笑んだ。先ほどの光景と完全に同じではないみたいだった。
「……っ!」
雪音が地面を蹴った。無沙汰の左手を右手に寄せ、両手で刀を持った雪音は金剛寺へと斬りかかる。
刀を振りかぶり、金剛寺へ振り下ろすといったタイミングで、雪音が突然刀を手から放して左に体を弾いた。直後、どこからか現れた"口"が雪音がいた場所を噛みちぎる。
この殺傷能力の高い奇襲性が"利口な騙り手"の厄介なところだ。雪音は噛みしめつつも、手放し落下する刀へ手を伸ばす。
刹那、彼女の指先の虚空が凍結し、その氷が落ちる刀を絡めとった。空間の水分を凍結させ精製した氷で腕と刀を接続した雪音は、腕を振りかぶる。指先から氷を経て接続された刀もその挙動に倣う。
「……っ!」
今度は金剛寺が苦い顔をする番だった。
体を背後に反らし、その鼻先に水滴混じりの太刀筋が通り過ぎる。ギリギリで斬撃を回避した金剛寺は雪音と距離を取った。
雪音は空振りした腕を上に弾くと、異能を解除して氷解する。刀も上を舞い、くるくると落ちてきたそれは綺麗に雪音の手中に収まった。
「……」
再び雪音と金剛寺の視線が交差する。しかし、今度の金剛寺の視線は先ほどの軽さなど全く感じさせない、鋭いものとなっていた。
その貫くような殺気の瞳に、思わず雪音は息を呑み、刀を持つ手に汗を感じた。雪音自身もそれなりに場数を踏んでいるつもりであったが、それでも彼女を威圧させるものを金剛寺は有していた。
しかしながら、この状況で雪音に"逃げ"の選択肢はない。雪音は再び踏み出した。
そんな彼女を見て、金剛寺は苦く笑う。
「お前も知っているぞ……東宮雪音。面白い組み合わせだ。ところで、お姉さんは元気かい?」
「……! どの口が……ッ!」
雪音の腕に力が入った。強く歯ぎしりをして、彼女の殺意が孕んだ瞳が金剛寺を刺した。
ピリつく殺気を肌で感じて、金剛寺は冷や汗をかきつつも、その状況をどこか楽しんでいるようだった。
――白夜の鼓膜が震えた。その音は地面を踏みしめ砕いた音だった。
その破壊力を持つ踏み込みで、雪音は一瞬にして金剛寺の眼前へと躍り出る。姿勢を低く、構えた刀は金剛寺の腹を斬ろうと刃を光らせた。
「っ!」
金剛寺の顎が上がる。雪音のこの瞬発力は予想だにしていなかったようで、面を喰らっていた。驚いてぴくりと肩を震わせたその瞬間で、雪音の刃は彼の腹を一閃する。
心地の良い小さな斬撃の音が鳴り、血飛沫が待った。遠目で見ていた白夜はともかく、実際に斬った雪音は手ごたえを感じていたはずだ。白夜から見ても、その斬撃が成功したのは血飛沫を見て分かる。
だが――腹を斬られたはずの金剛寺は倒れることもなければ、なんとその腕を振り上げた。
「な……!」
雪音の息が止まる。白夜からは雪音が"見た"ものは分からないが、今度は彼女の肩がピクリと縦に揺れたのはしっかりと見えた。
遅れて雪音の視線が振り上げられた金剛寺の腕に向く。しかしすぐに雪音はわき目もふれずバックステップで金剛寺と距離を取った。
それとほぼ同時に、ぽたりと白いアスファルトの地面に何かが滴った。赤いそれが雪音の血液であると分かったころには、彼女の額から続けてそれが零れ落ちる。
「フェイント……!」
雪音は忌々しくぼやく。
金剛寺は振り上げた腕で雪音を攻撃すると見せかけ、実のところは全く別のところに顕現させた"利口な騙り手"から攻撃を仕掛けたのだろう。
それをギリギリで感じ取った雪音はすぐにその場を離れたが、一拍ほど遅かったようだ。頬にかすり、傷を作ってしまった。
「へっ……恐いか、東宮雪音……」
金剛寺はそう笑う。雪音は何も答えず、刀を構えた。
「恐怖は……誰しも自分から遠ざけたいとするだろう」
金剛寺はそう言うと、一歩踏み出した。その行動に雪音の刀がかしゃりと揺れる。
「だから……恐怖の方から近づいやるよ」
――そう言って、金剛寺は雪音へと駆け出したのだった。
白夜は雪音の背中越しに金剛寺を見据え、乾いた口を噛み締めた。
「気を付けろ。奴の攻撃は中近距離なら全てに射程が利く。死角からやり放題してくんぞ」
顔だけ微かにこちらへ向け、白夜の言葉を聞いていた雪音はぼやく。
「……攻撃の"先読み"が必要になってくるわけですか。なるほど……なんとも……歯痒い……!」
「……?」
雪音は眉間にしわを寄せて、顎を引いた。微かに瞼が震える。意図的かは不明だが、彼女はどこか苛立ちを感じているように白夜は見えた。
確かに状況は悪い。金剛寺の利口な騙り手に加え、白夜は完全にお荷物だ。雪音がい苛立つ理由も分かる。
――しかし、彼女の表情には全く持って別の感情が渦巻いているようでならなかった。
「随分可愛い援軍だなぁ、オイ」
短く言葉を交わした二人を前に、語尾が上がった声で金剛寺は両手を広げ、肩をすくめた。雪音は黙ってそんな彼と向き合う。
白夜は再び彼女の背中を拝むことになった。しかし右手に刀を持つ雪音、その逆の左手が彼女のポケットに伸び、そこから金剛寺には見えないよう取り出した物を見て、白夜は内心ほくそ笑んだ。先ほどの光景と完全に同じではないみたいだった。
「……っ!」
雪音が地面を蹴った。無沙汰の左手を右手に寄せ、両手で刀を持った雪音は金剛寺へと斬りかかる。
刀を振りかぶり、金剛寺へ振り下ろすといったタイミングで、雪音が突然刀を手から放して左に体を弾いた。直後、どこからか現れた"口"が雪音がいた場所を噛みちぎる。
この殺傷能力の高い奇襲性が"利口な騙り手"の厄介なところだ。雪音は噛みしめつつも、手放し落下する刀へ手を伸ばす。
刹那、彼女の指先の虚空が凍結し、その氷が落ちる刀を絡めとった。空間の水分を凍結させ精製した氷で腕と刀を接続した雪音は、腕を振りかぶる。指先から氷を経て接続された刀もその挙動に倣う。
「……っ!」
今度は金剛寺が苦い顔をする番だった。
体を背後に反らし、その鼻先に水滴混じりの太刀筋が通り過ぎる。ギリギリで斬撃を回避した金剛寺は雪音と距離を取った。
雪音は空振りした腕を上に弾くと、異能を解除して氷解する。刀も上を舞い、くるくると落ちてきたそれは綺麗に雪音の手中に収まった。
「……」
再び雪音と金剛寺の視線が交差する。しかし、今度の金剛寺の視線は先ほどの軽さなど全く感じさせない、鋭いものとなっていた。
その貫くような殺気の瞳に、思わず雪音は息を呑み、刀を持つ手に汗を感じた。雪音自身もそれなりに場数を踏んでいるつもりであったが、それでも彼女を威圧させるものを金剛寺は有していた。
しかしながら、この状況で雪音に"逃げ"の選択肢はない。雪音は再び踏み出した。
そんな彼女を見て、金剛寺は苦く笑う。
「お前も知っているぞ……東宮雪音。面白い組み合わせだ。ところで、お姉さんは元気かい?」
「……! どの口が……ッ!」
雪音の腕に力が入った。強く歯ぎしりをして、彼女の殺意が孕んだ瞳が金剛寺を刺した。
ピリつく殺気を肌で感じて、金剛寺は冷や汗をかきつつも、その状況をどこか楽しんでいるようだった。
――白夜の鼓膜が震えた。その音は地面を踏みしめ砕いた音だった。
その破壊力を持つ踏み込みで、雪音は一瞬にして金剛寺の眼前へと躍り出る。姿勢を低く、構えた刀は金剛寺の腹を斬ろうと刃を光らせた。
「っ!」
金剛寺の顎が上がる。雪音のこの瞬発力は予想だにしていなかったようで、面を喰らっていた。驚いてぴくりと肩を震わせたその瞬間で、雪音の刃は彼の腹を一閃する。
心地の良い小さな斬撃の音が鳴り、血飛沫が待った。遠目で見ていた白夜はともかく、実際に斬った雪音は手ごたえを感じていたはずだ。白夜から見ても、その斬撃が成功したのは血飛沫を見て分かる。
だが――腹を斬られたはずの金剛寺は倒れることもなければ、なんとその腕を振り上げた。
「な……!」
雪音の息が止まる。白夜からは雪音が"見た"ものは分からないが、今度は彼女の肩がピクリと縦に揺れたのはしっかりと見えた。
遅れて雪音の視線が振り上げられた金剛寺の腕に向く。しかしすぐに雪音はわき目もふれずバックステップで金剛寺と距離を取った。
それとほぼ同時に、ぽたりと白いアスファルトの地面に何かが滴った。赤いそれが雪音の血液であると分かったころには、彼女の額から続けてそれが零れ落ちる。
「フェイント……!」
雪音は忌々しくぼやく。
金剛寺は振り上げた腕で雪音を攻撃すると見せかけ、実のところは全く別のところに顕現させた"利口な騙り手"から攻撃を仕掛けたのだろう。
それをギリギリで感じ取った雪音はすぐにその場を離れたが、一拍ほど遅かったようだ。頬にかすり、傷を作ってしまった。
「へっ……恐いか、東宮雪音……」
金剛寺はそう笑う。雪音は何も答えず、刀を構えた。
「恐怖は……誰しも自分から遠ざけたいとするだろう」
金剛寺はそう言うと、一歩踏み出した。その行動に雪音の刀がかしゃりと揺れる。
「だから……恐怖の方から近づいやるよ」
――そう言って、金剛寺は雪音へと駆け出したのだった。
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