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#48 込められたもの
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今までどれほど憎いと思った相手が、今や声をかけようとも殴ろうとも蹴り飛ばそうとも、何も反応しなくなっていた。そんなモノへ変容した瞬間に白夜へ突き抜けた腑抜け感は、たまらなく嫌な感じだった。
呆気なさすぎる。ありえないほどの静かな――まるで無数にある街路樹の葉のひとつが人知れず地面に落ちるような――落命であった。
「……軽すぎんだよ」
白夜はふらふらと立ち上がり、口元を血だらけの指で拭いぬぐった。
ビルの崩落だ。犠牲者の一人や二人や出てもおかしくない。だから『何人か死んじゃったかもな』というような推測は誰にだってたてられる。簡単な状況判断だ。
しかし、ここで一人の男が瓦礫で埋もれたという事実を、実際に見た者は白夜以外はいないのだろう。
火孁を襲い、白夜に悪夢を押しつけ、雪音の姉を襲い、結果的には白夜を再び異能力者たちの舞台に呼び戻した男の最期が、異能力でもなければ殺意を孕んだ刃でもない。ただの倒壊で迎えてしまうなどと、流石に拍子抜けがすぎる。
目の前でそれを目撃した白夜でさえも、未だそれを完全に実感することはできなかった。
ここらへん一体の瓦礫を取り除けば、その下には血を流した死体がある。それはほとんどの確率で金剛寺であるのだろうが、もしかしたら赤の他人で、金剛寺は瓦礫が崩れる瞬間にどこかへ退避していた――そんなことになっても、白夜は動揺しない自信があった。
それほどまでに、こんな理由が奴の死因になるなどとは思わなかったのだ。白夜は吹き抜ける涼しい風がやけに冷たく感じた。
ふと、近くで瓦礫をどかす音が聞こえた。その場で突っ立っていた白夜の聴覚がそれを捉える。
「……生きていたんですね」
視線をその音の方に向ける白夜。
その先で瓦礫をどけて、埃だらけで出てきたのは、もうそろそろ見慣れてきた顔の少女だった。白夜はそれに多少の安堵を感じる。
「雪音か……」
「……金剛寺も恐らく、すぐ近くにいるでしょう。……っ。この状況でどこまでできるか分かりませんが、警戒を――」
「……」
「……? 白夜?」
ふらついた足と明らかに疲労が伺える瞳をした雪音に、白夜は何を言っていいのか分からず、沈黙で返した。
なんとも言えない表情の白夜に雪音は顎を引く。
どう伝えればいいのか。白夜の足元の瓦礫の下にいるなどと、口走るには重すぎる。白夜とは逆に、彼女は金剛寺の生存による贖罪を求めていた。
白夜の目に映る雪音の姿はあまりにも貧相だった。整えられていた髪も今ではそう感じさせず、陰鬱を隠そうとしている振る舞いそのものが、雪音の容態を察することができた。
白夜でさえ、ここで倒れてしまえば起き上がれないほどに衰弱しているのだ。それと同等のものが雪音に降りかかっているとみるに、彼女が精神的にも肉体的にも無理をしてることは明らかだった。
「……あぁ、クソ……なんでこんな……」
顔に手をつけ、白夜は毒づいた。それを見た雪音は怪訝そうな表情をする。
金剛寺の死亡――それは白夜が望んでいたことのはずだった。ほんの少し前、この場所にあったビルの中で雪音に語った心中。それはまさしく本心だったはずなのに。
こんなにも、かつて熱望した結果が事実になって、それを伝えることが憚れるなどとは思いもしなかった。
しかし、ここで変な誤魔化しをしたところで何かが変わるわけでもない。そう考えると、ふと口も軽くなった。その定まらない思考の変化で白夜も自身の疲労を感じながら、軽くなった口を無理やり開く。
「……死んだよ」
「……」
軽くなった口から無理に飛び出たのは、軽い言葉だった。少しの感慨もない、ただ書いてあるつまらない文章を無関心に朗読したような、抵抗もなく飛び出しては静かに消えていく言葉。
それを告げた後、白夜は鋭く雪音を見る。彼女がどれだけ疲労していようと、目を見開く程度の感情の移り変わりはあると思っていた。
何より、金剛寺を殺させるわけにはいかないと、姉への想いで封殺していた雪音だ。その努力と――無数の計り知れない信念が水の泡になったとなれば、精神的な禍害は想像に難くない。
そして、その苦しみは白夜では同調できないほど、根深いものとなるだろう。
「……そうですか」
――と、危険な状態に陥るであろう雪音を注意深く見ていた白夜だったが、すんなりと受け入れたように見える雪音を見て、逆に白夜が目を見開いてしまった。
見開いた目を細め、雪音の様子をさらに凝視してみる。
が、そこに無理をしているような様子は見えなかった。付き合いが短いものの、雪音は感情を隠すことが特段上手いわけではない。さらにここまでの疲労が積み重なっている状態で、感情を隠すことなど不可能に近い。なのに、どうして。
「白夜……貴方が、やったんですか」
白夜が疑問を巡らせてる中でも、雪音は淡々とその時の状況を聞いてきた。白夜はちょっとピクりと反応した後、すぐ調子を戻したフリをして答える。
「……いや、倒壊したビルの瓦礫が崩れてきた。その下敷きになって……」
「そう……ですか」
白夜の回答を聞いた雪音は目を伏せた。
悲しそうな表情をしている雪音だけれども、そこにはどこか違和感があった。何かが引っかかる。白夜は彼女を改めてじっと見つめる。
その視線に気づいたのか、雪音は白夜の方へ視線を返した。
「……貴方にしてみれば、こんな終わりは不幸だったのかもしれませんね。あれだけ……殺意に溢れていたのに」
雪音は自身に向けられていた視線を、白夜の消化不良によるものであると思ったらしい。
そう思われて当然だった。制す雪音を退こうとしてまで、白夜は金剛寺の殺害を望んだ。自分の心のまま、憎き相手の死を実現しようと手を伸ばしていた。
だが、今は違う。白夜は静かに告げた。
「そうだったら気持ちよかったかもな……。けど、今はもう……」
「……白夜?」
力なく言葉を吐いた白夜をいぶかしげに雪音は見た。白夜は力が抜けた瞳を雪音から反らし、小さいながらもはっきりと言う。
「別にあいつを許せたわけじゃないし、今でも嫌いだ。……けど、なんつーか……」
白夜は金剛寺が必死に生きようと足掻く姿を見てしまった。"何か"のために、傷だらけの苦痛の中でも、目的のために生きることを止めようとなどしなかった。
その姿は死を待つだけの存在であった白夜にとって――とてもムカツくことであるが――眩しすぎた。
そんな彼を殺す勇気など、残念なことに白夜には持ち合わせていなかった。それだけだ。
「生きるぐらい、見逃してやろうって思っちまっただけだ……。何も死ぬことは無い……ってな」
「……」
白夜の言葉に雪音は何も答えなかった。二人の間に沈黙が流れ、微かに野次馬の声や遠いサイレンの音が聞こえる。
もうそろそろ場所を移動した方が良いのかもしれない。そんな思案が白夜の頭に過った直後に、外部から生じたある感覚が体全体を痺れさせた。
「っ!」
――それは、痛みだった。
白夜は雪音に殴り飛ばされて、瓦礫の上に倒れ込む。ボロボロの体を鞭うつように、その衝撃でビルの残骸の破片が体にねじ込まれるかのよう。
特に腫れた頬がビクビクと痛みを生産する中、白夜は視界をぐらつかせながらもすぐに上半身を起き上がらせる。
そして、自身を助走まで付けて殴り飛ばした雪音を見上げた。
「何悟ったような顔を……! 気付くのが遅すぎる……!」
見上げた先には、思いっきり白夜を濁った青い瞳で睨みつけている雪音の姿があった。振るった拳は未だ力がこもっているのか、微かに震えている。
しかし雪音は、次の瞬間にはその貫くような瞳を閉じて、拳を下ろした。くるりと白夜に背を向けると、ひずんだ声で言う。
「……っ。でも、もういいです……。分かってくれれば、それで……」
「……」
白夜は呆けた表情で雪音を見つめた。
普段ならまず怒りをあらわにしていただろうが、今は違った。白夜の心中を占めていたのは怒りなどではない。ただ単純に雪音の行動が"不思議"だった。
呆気に取られている、というように近いが、その不可解を紐解く尻尾はすでに見えているような気がしていた。
白夜に振るった拳。未だ頬がジンジンと痛む。そこを無意識に手で抑えながら、白夜は考える。
殴った理由としては当然、白夜が金剛寺を殺したかったが故に捕獲が遅れ、本当に死んでしまったことに起因する怒りも含まれているはずだ。
けれど、それだけでは足りない。雪音の拳に込められていたものは、もっと多かったはずだ。
白夜が殴られた直後に見た雪音の青い瞳。白夜にはその青が濁っているように見えた。今思い出せば気のせいで片付く程度の些細な変化だ。それでも白夜は引っかかっていた。
何故濁る。この場でいえば、結局は雪音の不殺論が正しかった。
結果的に白夜も、金剛寺の死の直前とはいえ、その方針に辿り着いたのだから。雪音が正しく、白夜が間違っていた。それなのに、どうしてこんなにも消化不良を感じるのだろうか。
『姉のためにも、私は金剛寺を探し出して捕まえる……! 絶対に……!』
初めて雪音の会った日。彼女の決意をあの喫茶店で聞いた。
『姉は昔から神童って呼ばれてるんですよ! それほど凄いんです! あれ、白夜さん聞いてます?』
その言葉には姉である雪華への羨望と尊敬に満ち溢れていた。どこもおかしくはないはず。だが、どうしてこんなに鮮明に思い出してしまうのだろうか。
『私の姉はそんなこと望んでませんから。私が貴方と同じような考えでそれが成就したとしたら、姉は喜ぶどころか悲しむ――私は姉を悲しませない』
「……ぁ」
白夜の中で不可解の紐が解かれた気がした。考えてみれば、別に難しいことではなかった。何故なら、その逆位置に存在する行動を白夜自身がしていたのだから。
「……お前、心のどこかで嬉しいんだろ? 金剛寺が死んで」
「――」
白夜が放った言葉。その言葉に雪音の体がピクリと止まったのだった。
呆気なさすぎる。ありえないほどの静かな――まるで無数にある街路樹の葉のひとつが人知れず地面に落ちるような――落命であった。
「……軽すぎんだよ」
白夜はふらふらと立ち上がり、口元を血だらけの指で拭いぬぐった。
ビルの崩落だ。犠牲者の一人や二人や出てもおかしくない。だから『何人か死んじゃったかもな』というような推測は誰にだってたてられる。簡単な状況判断だ。
しかし、ここで一人の男が瓦礫で埋もれたという事実を、実際に見た者は白夜以外はいないのだろう。
火孁を襲い、白夜に悪夢を押しつけ、雪音の姉を襲い、結果的には白夜を再び異能力者たちの舞台に呼び戻した男の最期が、異能力でもなければ殺意を孕んだ刃でもない。ただの倒壊で迎えてしまうなどと、流石に拍子抜けがすぎる。
目の前でそれを目撃した白夜でさえも、未だそれを完全に実感することはできなかった。
ここらへん一体の瓦礫を取り除けば、その下には血を流した死体がある。それはほとんどの確率で金剛寺であるのだろうが、もしかしたら赤の他人で、金剛寺は瓦礫が崩れる瞬間にどこかへ退避していた――そんなことになっても、白夜は動揺しない自信があった。
それほどまでに、こんな理由が奴の死因になるなどとは思わなかったのだ。白夜は吹き抜ける涼しい風がやけに冷たく感じた。
ふと、近くで瓦礫をどかす音が聞こえた。その場で突っ立っていた白夜の聴覚がそれを捉える。
「……生きていたんですね」
視線をその音の方に向ける白夜。
その先で瓦礫をどけて、埃だらけで出てきたのは、もうそろそろ見慣れてきた顔の少女だった。白夜はそれに多少の安堵を感じる。
「雪音か……」
「……金剛寺も恐らく、すぐ近くにいるでしょう。……っ。この状況でどこまでできるか分かりませんが、警戒を――」
「……」
「……? 白夜?」
ふらついた足と明らかに疲労が伺える瞳をした雪音に、白夜は何を言っていいのか分からず、沈黙で返した。
なんとも言えない表情の白夜に雪音は顎を引く。
どう伝えればいいのか。白夜の足元の瓦礫の下にいるなどと、口走るには重すぎる。白夜とは逆に、彼女は金剛寺の生存による贖罪を求めていた。
白夜の目に映る雪音の姿はあまりにも貧相だった。整えられていた髪も今ではそう感じさせず、陰鬱を隠そうとしている振る舞いそのものが、雪音の容態を察することができた。
白夜でさえ、ここで倒れてしまえば起き上がれないほどに衰弱しているのだ。それと同等のものが雪音に降りかかっているとみるに、彼女が精神的にも肉体的にも無理をしてることは明らかだった。
「……あぁ、クソ……なんでこんな……」
顔に手をつけ、白夜は毒づいた。それを見た雪音は怪訝そうな表情をする。
金剛寺の死亡――それは白夜が望んでいたことのはずだった。ほんの少し前、この場所にあったビルの中で雪音に語った心中。それはまさしく本心だったはずなのに。
こんなにも、かつて熱望した結果が事実になって、それを伝えることが憚れるなどとは思いもしなかった。
しかし、ここで変な誤魔化しをしたところで何かが変わるわけでもない。そう考えると、ふと口も軽くなった。その定まらない思考の変化で白夜も自身の疲労を感じながら、軽くなった口を無理やり開く。
「……死んだよ」
「……」
軽くなった口から無理に飛び出たのは、軽い言葉だった。少しの感慨もない、ただ書いてあるつまらない文章を無関心に朗読したような、抵抗もなく飛び出しては静かに消えていく言葉。
それを告げた後、白夜は鋭く雪音を見る。彼女がどれだけ疲労していようと、目を見開く程度の感情の移り変わりはあると思っていた。
何より、金剛寺を殺させるわけにはいかないと、姉への想いで封殺していた雪音だ。その努力と――無数の計り知れない信念が水の泡になったとなれば、精神的な禍害は想像に難くない。
そして、その苦しみは白夜では同調できないほど、根深いものとなるだろう。
「……そうですか」
――と、危険な状態に陥るであろう雪音を注意深く見ていた白夜だったが、すんなりと受け入れたように見える雪音を見て、逆に白夜が目を見開いてしまった。
見開いた目を細め、雪音の様子をさらに凝視してみる。
が、そこに無理をしているような様子は見えなかった。付き合いが短いものの、雪音は感情を隠すことが特段上手いわけではない。さらにここまでの疲労が積み重なっている状態で、感情を隠すことなど不可能に近い。なのに、どうして。
「白夜……貴方が、やったんですか」
白夜が疑問を巡らせてる中でも、雪音は淡々とその時の状況を聞いてきた。白夜はちょっとピクりと反応した後、すぐ調子を戻したフリをして答える。
「……いや、倒壊したビルの瓦礫が崩れてきた。その下敷きになって……」
「そう……ですか」
白夜の回答を聞いた雪音は目を伏せた。
悲しそうな表情をしている雪音だけれども、そこにはどこか違和感があった。何かが引っかかる。白夜は彼女を改めてじっと見つめる。
その視線に気づいたのか、雪音は白夜の方へ視線を返した。
「……貴方にしてみれば、こんな終わりは不幸だったのかもしれませんね。あれだけ……殺意に溢れていたのに」
雪音は自身に向けられていた視線を、白夜の消化不良によるものであると思ったらしい。
そう思われて当然だった。制す雪音を退こうとしてまで、白夜は金剛寺の殺害を望んだ。自分の心のまま、憎き相手の死を実現しようと手を伸ばしていた。
だが、今は違う。白夜は静かに告げた。
「そうだったら気持ちよかったかもな……。けど、今はもう……」
「……白夜?」
力なく言葉を吐いた白夜をいぶかしげに雪音は見た。白夜は力が抜けた瞳を雪音から反らし、小さいながらもはっきりと言う。
「別にあいつを許せたわけじゃないし、今でも嫌いだ。……けど、なんつーか……」
白夜は金剛寺が必死に生きようと足掻く姿を見てしまった。"何か"のために、傷だらけの苦痛の中でも、目的のために生きることを止めようとなどしなかった。
その姿は死を待つだけの存在であった白夜にとって――とてもムカツくことであるが――眩しすぎた。
そんな彼を殺す勇気など、残念なことに白夜には持ち合わせていなかった。それだけだ。
「生きるぐらい、見逃してやろうって思っちまっただけだ……。何も死ぬことは無い……ってな」
「……」
白夜の言葉に雪音は何も答えなかった。二人の間に沈黙が流れ、微かに野次馬の声や遠いサイレンの音が聞こえる。
もうそろそろ場所を移動した方が良いのかもしれない。そんな思案が白夜の頭に過った直後に、外部から生じたある感覚が体全体を痺れさせた。
「っ!」
――それは、痛みだった。
白夜は雪音に殴り飛ばされて、瓦礫の上に倒れ込む。ボロボロの体を鞭うつように、その衝撃でビルの残骸の破片が体にねじ込まれるかのよう。
特に腫れた頬がビクビクと痛みを生産する中、白夜は視界をぐらつかせながらもすぐに上半身を起き上がらせる。
そして、自身を助走まで付けて殴り飛ばした雪音を見上げた。
「何悟ったような顔を……! 気付くのが遅すぎる……!」
見上げた先には、思いっきり白夜を濁った青い瞳で睨みつけている雪音の姿があった。振るった拳は未だ力がこもっているのか、微かに震えている。
しかし雪音は、次の瞬間にはその貫くような瞳を閉じて、拳を下ろした。くるりと白夜に背を向けると、ひずんだ声で言う。
「……っ。でも、もういいです……。分かってくれれば、それで……」
「……」
白夜は呆けた表情で雪音を見つめた。
普段ならまず怒りをあらわにしていただろうが、今は違った。白夜の心中を占めていたのは怒りなどではない。ただ単純に雪音の行動が"不思議"だった。
呆気に取られている、というように近いが、その不可解を紐解く尻尾はすでに見えているような気がしていた。
白夜に振るった拳。未だ頬がジンジンと痛む。そこを無意識に手で抑えながら、白夜は考える。
殴った理由としては当然、白夜が金剛寺を殺したかったが故に捕獲が遅れ、本当に死んでしまったことに起因する怒りも含まれているはずだ。
けれど、それだけでは足りない。雪音の拳に込められていたものは、もっと多かったはずだ。
白夜が殴られた直後に見た雪音の青い瞳。白夜にはその青が濁っているように見えた。今思い出せば気のせいで片付く程度の些細な変化だ。それでも白夜は引っかかっていた。
何故濁る。この場でいえば、結局は雪音の不殺論が正しかった。
結果的に白夜も、金剛寺の死の直前とはいえ、その方針に辿り着いたのだから。雪音が正しく、白夜が間違っていた。それなのに、どうしてこんなにも消化不良を感じるのだろうか。
『姉のためにも、私は金剛寺を探し出して捕まえる……! 絶対に……!』
初めて雪音の会った日。彼女の決意をあの喫茶店で聞いた。
『姉は昔から神童って呼ばれてるんですよ! それほど凄いんです! あれ、白夜さん聞いてます?』
その言葉には姉である雪華への羨望と尊敬に満ち溢れていた。どこもおかしくはないはず。だが、どうしてこんなに鮮明に思い出してしまうのだろうか。
『私の姉はそんなこと望んでませんから。私が貴方と同じような考えでそれが成就したとしたら、姉は喜ぶどころか悲しむ――私は姉を悲しませない』
「……ぁ」
白夜の中で不可解の紐が解かれた気がした。考えてみれば、別に難しいことではなかった。何故なら、その逆位置に存在する行動を白夜自身がしていたのだから。
「……お前、心のどこかで嬉しいんだろ? 金剛寺が死んで」
「――」
白夜が放った言葉。その言葉に雪音の体がピクリと止まったのだった。
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