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#58 アマテラス
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「……」
白夜の言葉に、総司はすぐには言い返さなかった。彼が黙っている間、白夜はポーカーフェイスを維持しつつも内心では冷や汗ものだった。
白夜はああは言ったが、総司が白夜に機密を話す義務はない。白夜に話したところでメリットはないどころか、情報が無意味に部外者の白夜へ渡ることになる。
そもそも白夜が言う"協力者"がその機密を知っているとは限らないのだ。白夜の推測ではかなり深いところまで"協力者"と情報共有しているとみているが、それは本当に推測の域を出ない。
「……ふむ、赤点だが、その蛮勇は素直に認めよう。なるほど」
ついに総司が口を開いたと思えば、そう軽く笑った。雰囲気も柔らかくなり、その突然な変化は逆に白夜の腹に力を入れさせた。
「丁度良い機会だ。雪音、お前も聞いていきなさい」
「……私も、ですか?」
白夜と総司の対話を遠巻きに心配そうに見つめていた雪音だったが、脈絡もない総司の指名にきょとんと表情を変える。白夜も彼女に視線を移していると、それに気付いたのか、もしくは総司以外のこの場にいる人間の様子を伺おうとしてのか、そんな彼女と目が合った。
雪音の瞳は困惑しているようだ。視線が交わさった後、雪音はすぐに総司を見る。
「分かりました」
「ああ、いきなりですまないが、聞いて欲しい」
総司はイスのところまで戻ると、腰を下ろした。組んだ足の上で手を交差させると、白夜と雪音をちらりと見る。
そして語り出した。
「我が"白き信頼"には"情報種子機関"という、情報集積体があるのは知っているな?」
「……」
雪音は言わずもがな、白夜もうなずく。その単語は喫茶店で雪音から聞いていた。金剛寺たちの資料もその"情報種子機関"を使って作成した、という話は耳新しい。
「あれは……言わば"生きたデータベース"なのだ」
「生きた……データベース……?」
白夜は思わずつぶやいた。総司はうなずき、そのまま続ける。
「ああ。白夜君、君はここに来るのは初めてだったね。この基地の管理は"アマテラス"という人工知能が行っているんだが、"生きたデータベース"もとい"情報種子機関"はその"アマテラス"の一部なのだ。そして――」
総司は顎を引き、低い声で放つ。
「"アマテラス"は製作者が不明なのだ。誰が創ったのかも、そもそも本当に創られたのかも」
「……え?」
白夜と雪音の困惑の声が重なった。
それもそのはず。総司は"アマテラス"を人工知能と呼んだ。それは"白き信頼"が"造った"のだからそう呼んでいるのだと、自然に解釈していた。
だが、誰が造ったのかも、そもそも造られたということ自体に疑問符が浮かぶなどと、不可解なことを言われれば誰だって困惑する。
人工知能なのに、誰にも造られていないという矛盾。ならどうして"アマテラス"が存在するのか。造られていないのならば、"アマテラス"は存在しないはずであろう。
総司は続けた。
「私は"アマテラス"を人工知能と呼んだな。それはこの"アマテラス"には伝承が残されているからだ。……最も、その伝承には違う呼び方で言われたが。それを分かりやすく言い換えた結果が"人工知能"。そしてその伝承というのが『アマテラスの目覚めには』……『鶏鳴三声を行い、八咫鏡を捧げよ』という趣旨のものだ」
「――」
白夜は、いや雪音も思わず目を見開いた。"八咫鏡"という単語が、こんなところで出てくるとは到底思えなかった。雪音の視線がちらりと白夜へ移る。
「実のところ、現在起動しているアマテラスは極一部のようで、大部分は眠っているらしい。だが、ある条件下であればそれを目覚めさせることができるという。鶏鳴三声は……文字通り、特別に品種改良された鳥の、通常よりも長い鳴き声のことだ。そしてもう一つは聞いたことはあるだろう、"八咫鏡"という道具だ。三種の神器のうち一つだね」
「……それで、金剛寺は何を狙ってたんです?」
小さな眩暈を感じつつも、白夜は確信に近づく問いをした。総司は瞳を細め、それに答える。
「その"アマテラス"を目覚めさせる具体的な方法を記したデータがある。――"嚆矢の歴史"というものだ。金剛寺はそれを狙っていた」
白夜はここで初めて金剛寺の狙いを明確に知った。ずっと気になっていたことだった。なんのために金剛寺は行動を起こしていたのか。それが分からないから、気持ち悪かったというのもある。
「"嚆矢の歴史"には異能力者の歴史や、"白き信頼"の成り立ちなどと一緒に、"アマテラス"の目覚めさせ方も含まれている。"アマテラス"の正体がなんであれ、今や"白き信頼"の中枢を担うシステムだ。そんなものの流出など、あってはならない、そうだろう? ……尤も、金剛寺は"アマテラス"よりも異能力者の歴史を紐解きたかったようだが」
「……それで、金剛寺結弦は"嚆矢の歴史"を狙い、姉さまを襲ってきっかけを作った、ということ?」
総司の説明が終わると、雪音はそう問うた。総司は小さくうなずく。
「雪華の襲撃と、異能覚醒薬をばらまいたのは陽動だった。全ては"白き信頼"の注意を本命から背けさせるためのもの。……そこまで考えて、私たちは彼を迎え撃ったわけだ」
白夜の想定通り、金剛寺の狙いに総司は気付いていたようだった。
白夜たちが金剛寺に誘いこまれ、杵淵を追って雑貨ビルへ行っていた時間。その時に恐らく金剛寺は"嚆矢の歴史"を狙って総司に誘い込まれていたのだろう。
金剛寺からしてみれば、誘い込んで欺いたと思っていたらカウンターを喰らったことになる。精神的にもよろしい状態ではなかったところに、迎撃を受けていたようだ。そこから白夜たちとの戦闘に入ったわけで、そういう要素もあって白夜たちは金剛寺をくだせたのかもしれない。
総司は腰かけていたイスから立ち上がると、白夜を見つめた。
「今話したことは機密だ。分かっていると思うが、他言無用でよろしく頼む。……話は終わりだ。白夜くん、君が聞きたかった金剛寺の目的について明かした。何か言いたいことはあるか?」
「……」
白夜は無言で総司の瞳を見つめた。
白夜が聞きたかったこと。それは金剛寺が"白き信頼"へ喧嘩を売った理由であった。それは今、総司の口から説明された"嚆矢の歴史"ということで問題はない。白夜が知りたかったことを、彼はちゃんと話してくれたわけだ。
しかしながら、総司は白夜が提示した"協力者"について一口も触れていない。白夜の推測の正誤は最後まで分からなかった。意図的に総司が伏せたのだろうか。それとも"協力者"などは白夜の空想に過ぎないのか。
思うところはあるが、総司は白夜の強引な要求に答えてくれたのだ。
白夜は深々と頭を下げた。
「いえ、ありがとうございます。まさか本当に喋ってくれるとは……」
「ふむ。君には今後も世話になるかもしれないからな。その時がきたらよろしく頼む」
「……はい」
総司は白夜に薄く笑うと、今度こそ部屋を退室した。
総司が立ち去った部屋には、白夜と雪音が残される。二人だけになったところで、白夜が雪音に声をかけた。
「……えっと、帰りはどうすればいいんだ?」
「あっ……そうですね。迎えの車を手配することもできますが……」
雪音は白夜に対し目を細めた。それは白夜に言いたいことがある瞳だった。
それもそのはず。"八咫鏡"という、白夜の"天叢雲剣"と同じ三種の神器の言葉が総司の口から出たのだ。しかもそれは、"白き信頼"に深く関係がある"アマテラス"の秘密に密接に関わっているときた。気にならない方がおかしいのかもしれない。
「車の気分じゃねえな。歩いて帰る。……見送りを頼んでいいか?」
白夜は部屋の出口へ向かいながら、雪音にそう告げたのだった。
白夜の言葉に、総司はすぐには言い返さなかった。彼が黙っている間、白夜はポーカーフェイスを維持しつつも内心では冷や汗ものだった。
白夜はああは言ったが、総司が白夜に機密を話す義務はない。白夜に話したところでメリットはないどころか、情報が無意味に部外者の白夜へ渡ることになる。
そもそも白夜が言う"協力者"がその機密を知っているとは限らないのだ。白夜の推測ではかなり深いところまで"協力者"と情報共有しているとみているが、それは本当に推測の域を出ない。
「……ふむ、赤点だが、その蛮勇は素直に認めよう。なるほど」
ついに総司が口を開いたと思えば、そう軽く笑った。雰囲気も柔らかくなり、その突然な変化は逆に白夜の腹に力を入れさせた。
「丁度良い機会だ。雪音、お前も聞いていきなさい」
「……私も、ですか?」
白夜と総司の対話を遠巻きに心配そうに見つめていた雪音だったが、脈絡もない総司の指名にきょとんと表情を変える。白夜も彼女に視線を移していると、それに気付いたのか、もしくは総司以外のこの場にいる人間の様子を伺おうとしてのか、そんな彼女と目が合った。
雪音の瞳は困惑しているようだ。視線が交わさった後、雪音はすぐに総司を見る。
「分かりました」
「ああ、いきなりですまないが、聞いて欲しい」
総司はイスのところまで戻ると、腰を下ろした。組んだ足の上で手を交差させると、白夜と雪音をちらりと見る。
そして語り出した。
「我が"白き信頼"には"情報種子機関"という、情報集積体があるのは知っているな?」
「……」
雪音は言わずもがな、白夜もうなずく。その単語は喫茶店で雪音から聞いていた。金剛寺たちの資料もその"情報種子機関"を使って作成した、という話は耳新しい。
「あれは……言わば"生きたデータベース"なのだ」
「生きた……データベース……?」
白夜は思わずつぶやいた。総司はうなずき、そのまま続ける。
「ああ。白夜君、君はここに来るのは初めてだったね。この基地の管理は"アマテラス"という人工知能が行っているんだが、"生きたデータベース"もとい"情報種子機関"はその"アマテラス"の一部なのだ。そして――」
総司は顎を引き、低い声で放つ。
「"アマテラス"は製作者が不明なのだ。誰が創ったのかも、そもそも本当に創られたのかも」
「……え?」
白夜と雪音の困惑の声が重なった。
それもそのはず。総司は"アマテラス"を人工知能と呼んだ。それは"白き信頼"が"造った"のだからそう呼んでいるのだと、自然に解釈していた。
だが、誰が造ったのかも、そもそも造られたということ自体に疑問符が浮かぶなどと、不可解なことを言われれば誰だって困惑する。
人工知能なのに、誰にも造られていないという矛盾。ならどうして"アマテラス"が存在するのか。造られていないのならば、"アマテラス"は存在しないはずであろう。
総司は続けた。
「私は"アマテラス"を人工知能と呼んだな。それはこの"アマテラス"には伝承が残されているからだ。……最も、その伝承には違う呼び方で言われたが。それを分かりやすく言い換えた結果が"人工知能"。そしてその伝承というのが『アマテラスの目覚めには』……『鶏鳴三声を行い、八咫鏡を捧げよ』という趣旨のものだ」
「――」
白夜は、いや雪音も思わず目を見開いた。"八咫鏡"という単語が、こんなところで出てくるとは到底思えなかった。雪音の視線がちらりと白夜へ移る。
「実のところ、現在起動しているアマテラスは極一部のようで、大部分は眠っているらしい。だが、ある条件下であればそれを目覚めさせることができるという。鶏鳴三声は……文字通り、特別に品種改良された鳥の、通常よりも長い鳴き声のことだ。そしてもう一つは聞いたことはあるだろう、"八咫鏡"という道具だ。三種の神器のうち一つだね」
「……それで、金剛寺は何を狙ってたんです?」
小さな眩暈を感じつつも、白夜は確信に近づく問いをした。総司は瞳を細め、それに答える。
「その"アマテラス"を目覚めさせる具体的な方法を記したデータがある。――"嚆矢の歴史"というものだ。金剛寺はそれを狙っていた」
白夜はここで初めて金剛寺の狙いを明確に知った。ずっと気になっていたことだった。なんのために金剛寺は行動を起こしていたのか。それが分からないから、気持ち悪かったというのもある。
「"嚆矢の歴史"には異能力者の歴史や、"白き信頼"の成り立ちなどと一緒に、"アマテラス"の目覚めさせ方も含まれている。"アマテラス"の正体がなんであれ、今や"白き信頼"の中枢を担うシステムだ。そんなものの流出など、あってはならない、そうだろう? ……尤も、金剛寺は"アマテラス"よりも異能力者の歴史を紐解きたかったようだが」
「……それで、金剛寺結弦は"嚆矢の歴史"を狙い、姉さまを襲ってきっかけを作った、ということ?」
総司の説明が終わると、雪音はそう問うた。総司は小さくうなずく。
「雪華の襲撃と、異能覚醒薬をばらまいたのは陽動だった。全ては"白き信頼"の注意を本命から背けさせるためのもの。……そこまで考えて、私たちは彼を迎え撃ったわけだ」
白夜の想定通り、金剛寺の狙いに総司は気付いていたようだった。
白夜たちが金剛寺に誘いこまれ、杵淵を追って雑貨ビルへ行っていた時間。その時に恐らく金剛寺は"嚆矢の歴史"を狙って総司に誘い込まれていたのだろう。
金剛寺からしてみれば、誘い込んで欺いたと思っていたらカウンターを喰らったことになる。精神的にもよろしい状態ではなかったところに、迎撃を受けていたようだ。そこから白夜たちとの戦闘に入ったわけで、そういう要素もあって白夜たちは金剛寺をくだせたのかもしれない。
総司は腰かけていたイスから立ち上がると、白夜を見つめた。
「今話したことは機密だ。分かっていると思うが、他言無用でよろしく頼む。……話は終わりだ。白夜くん、君が聞きたかった金剛寺の目的について明かした。何か言いたいことはあるか?」
「……」
白夜は無言で総司の瞳を見つめた。
白夜が聞きたかったこと。それは金剛寺が"白き信頼"へ喧嘩を売った理由であった。それは今、総司の口から説明された"嚆矢の歴史"ということで問題はない。白夜が知りたかったことを、彼はちゃんと話してくれたわけだ。
しかしながら、総司は白夜が提示した"協力者"について一口も触れていない。白夜の推測の正誤は最後まで分からなかった。意図的に総司が伏せたのだろうか。それとも"協力者"などは白夜の空想に過ぎないのか。
思うところはあるが、総司は白夜の強引な要求に答えてくれたのだ。
白夜は深々と頭を下げた。
「いえ、ありがとうございます。まさか本当に喋ってくれるとは……」
「ふむ。君には今後も世話になるかもしれないからな。その時がきたらよろしく頼む」
「……はい」
総司は白夜に薄く笑うと、今度こそ部屋を退室した。
総司が立ち去った部屋には、白夜と雪音が残される。二人だけになったところで、白夜が雪音に声をかけた。
「……えっと、帰りはどうすればいいんだ?」
「あっ……そうですね。迎えの車を手配することもできますが……」
雪音は白夜に対し目を細めた。それは白夜に言いたいことがある瞳だった。
それもそのはず。"八咫鏡"という、白夜の"天叢雲剣"と同じ三種の神器の言葉が総司の口から出たのだ。しかもそれは、"白き信頼"に深く関係がある"アマテラス"の秘密に密接に関わっているときた。気にならない方がおかしいのかもしれない。
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