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63 火の矢
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洞窟の外ぐらいまで凍結は徐々に広がっていった。『燃焼摩矢』を受け燃え盛るソニアも、その冷気になんとなく気づいていた。
「お姉ちゃん!」
周囲が凍結し、氷が張ったのを見たユーナがすぐさまソニアに駆け出す。洞窟の中からの弓矢の射撃は、突然の凍結により少しの間だけ止んでいた。周囲が何の脈絡もなく凍結すれば、困惑で手が止まるのも当然だ。
「っ!」
ソニアのそばまで駆け寄ったユーナは、膝をついて彼女の体に触れた。そして彼女の着火している部分を凍結した地面にこすり、その炎を消す。
それから改めてソニアを仰向けにして、ユーナは不安そうに手の前に口をあてた。
するとソニアがしゅっと腕を伸ばし、ユーナの手を掴んだ。そして苦しそうに告げる。
「短剣……短剣を……」
「は、はいっ!」
掠れた声で話すソニアに、ユーナは弾かれるように反応した。ユーナには知る由もないが、その短剣には『自動治癒』の『祝福付与』が施されている。
故に、ソニアはそれを手に取った。――『燃焼摩矢』を引き抜いてもらう際に、出血の総量を抑えるために。
短剣を手に取ると、ソニアは体に刺さり燃え盛る『燃焼摩矢』を掴み、手でこすることで無理やり鎮火する。
掌が焼き焦げた痛みに喘ぎながらも、それから彼女は薄く微笑んでユーナへ言った。
「抜いて……矢を……」
「……! で、でも、それじゃ……」
「いいから……! 早く……!」
「っ……!」
ソニアの表情さえ弱弱しかったが、その言葉の迫力には有無を言わせない魔力があった。ユーナは思わず、うなずいてしまった。
追手の山賊たちがそろそろこちらへの攻撃を再開してくるであろう。――証拠に、ユーナのすぐ横を矢が通り過ぎた。
「……っ!」
時間がない。それを悟ったユーナは恐る恐るソニアに刺さった矢を手で掴む。ソニアは短剣の持ち手を口で加え、強く目をつぶった。
「いくよ……!」
ユーナも目をつぶり、一気に矢を引き抜く。
「……!」
柔らかくもどこか引っかかるような感覚と共に、ユーナの手にした矢はソニアから抜かれた。尻餅をつくユーナと、痛みに喘いで口にくわえた短剣を落とすソニア。
ソニアは痛みによる息切れを続けたまま、落とした短剣を拾い上げる。そしてよろよろと立ち上がった。
『自動治癒』の効果でも傷の皮はすぐに繋がらない。ユーナの前に立って、ソニアは短剣を構える。
「……ありがとう。もう大丈夫だから、外で隠れてて……」
「……うん」
ソニアは迫りくる弓矢を寸でのところで短剣で弾き飛ばし、その動作のまま自分の服に切り込みをいれた。それを起点に逆の腕で服を破り、短剣をくわえてそれを傷口に巻く。すぐさま短剣を手に戻し、正面を見据える。
「っ!」
弓矢がやんだと思ったら、目の前には二人の山賊が斬りかかってきていた。
ソニアはユーナを後ろに押し出しながら、短剣で片方のククリを弾き飛ばす。もう片方の山賊による斬撃は、体を横にずらすことでギリギリのところでかわした。それはソニアの胸の前で風を切る。
「……っ!」
ソニアは体勢を持ち直すと同時に、片足の着地点をずらし相手の方へ踏みこんだ。そして魔力を込めた拳を握り、山賊の腹に叩き込む。
「がっ……!」
魔力により衝撃を強化された拳が山賊を捉え、大きく吹っ飛ばした。馬車でウィズによって教えられた魔力による身体強化――それを使ったのだ。
全力とはいえ、まさかここまで威力が上がっているとは思わず、ソナイは内心驚いていた。しかし動きは止まらない。仲間がやられて一歩後ずさる山賊の隙を見逃さない。
ソニアは後ずさる山賊に対し、短剣を振るった。山賊は反射的に手持ちのククリでそれを防ぐ。
短剣とククリがかち合う中、ソニアのフリーになっている腕が動いた。ククリを持った相手の腕を掴むと、その体を横に投げ飛ばす。魔力が良い具合に馴染みつつあるソニアの身体能力は、自分よりも大きな男を投げ飛ばすのも可能としていた。
「ぐっ……!」
壁に叩きつけられ、嗚咽を漏らす山賊。苦しみに瞳を閉じて、それから彼が目を開いた時にはすでにソニアは目の前に迫っていた。
「っ!」
ソニアはそのまま山賊に拳を叩き込む。衝撃で壁にヒビが入り、ちょっとした砂埃が舞った。
もちろんのこと、山賊はダウンして気を失う。
ソニアは息を吐いて、残りの山賊の方へ向いた。ちらりと見渡すと、ユーナの姿がない。ソニアが戦っている中で、ユーナはすでに洞窟の外で逃げることtができたようだった。
「近づくな! 弓矢で応戦するんだ!」
圧倒的ともいえるソニアの肉弾戦を目にした山賊は、仲間たちへそう叫んだ。それに応じる山賊たちは一斉に『燃焼摩矢』を放つ。
赤く燃え上がる火矢がソニアの目の前に広がった。
迫りくる火矢に対し、それを撃ち落とせる手段をソニアは持ち合わせていない。そしてこのまま遠距離戦に持ち込まれたら、ソニアはどうすることもできなかった。
つまり、ソニアは接近するしかない。歯を噛み締め、覚悟を決める。
「いく……っ!」
ソニアは脚に魔力を込めて、地面を蹴ったのだった。
「お姉ちゃん!」
周囲が凍結し、氷が張ったのを見たユーナがすぐさまソニアに駆け出す。洞窟の中からの弓矢の射撃は、突然の凍結により少しの間だけ止んでいた。周囲が何の脈絡もなく凍結すれば、困惑で手が止まるのも当然だ。
「っ!」
ソニアのそばまで駆け寄ったユーナは、膝をついて彼女の体に触れた。そして彼女の着火している部分を凍結した地面にこすり、その炎を消す。
それから改めてソニアを仰向けにして、ユーナは不安そうに手の前に口をあてた。
するとソニアがしゅっと腕を伸ばし、ユーナの手を掴んだ。そして苦しそうに告げる。
「短剣……短剣を……」
「は、はいっ!」
掠れた声で話すソニアに、ユーナは弾かれるように反応した。ユーナには知る由もないが、その短剣には『自動治癒』の『祝福付与』が施されている。
故に、ソニアはそれを手に取った。――『燃焼摩矢』を引き抜いてもらう際に、出血の総量を抑えるために。
短剣を手に取ると、ソニアは体に刺さり燃え盛る『燃焼摩矢』を掴み、手でこすることで無理やり鎮火する。
掌が焼き焦げた痛みに喘ぎながらも、それから彼女は薄く微笑んでユーナへ言った。
「抜いて……矢を……」
「……! で、でも、それじゃ……」
「いいから……! 早く……!」
「っ……!」
ソニアの表情さえ弱弱しかったが、その言葉の迫力には有無を言わせない魔力があった。ユーナは思わず、うなずいてしまった。
追手の山賊たちがそろそろこちらへの攻撃を再開してくるであろう。――証拠に、ユーナのすぐ横を矢が通り過ぎた。
「……っ!」
時間がない。それを悟ったユーナは恐る恐るソニアに刺さった矢を手で掴む。ソニアは短剣の持ち手を口で加え、強く目をつぶった。
「いくよ……!」
ユーナも目をつぶり、一気に矢を引き抜く。
「……!」
柔らかくもどこか引っかかるような感覚と共に、ユーナの手にした矢はソニアから抜かれた。尻餅をつくユーナと、痛みに喘いで口にくわえた短剣を落とすソニア。
ソニアは痛みによる息切れを続けたまま、落とした短剣を拾い上げる。そしてよろよろと立ち上がった。
『自動治癒』の効果でも傷の皮はすぐに繋がらない。ユーナの前に立って、ソニアは短剣を構える。
「……ありがとう。もう大丈夫だから、外で隠れてて……」
「……うん」
ソニアは迫りくる弓矢を寸でのところで短剣で弾き飛ばし、その動作のまま自分の服に切り込みをいれた。それを起点に逆の腕で服を破り、短剣をくわえてそれを傷口に巻く。すぐさま短剣を手に戻し、正面を見据える。
「っ!」
弓矢がやんだと思ったら、目の前には二人の山賊が斬りかかってきていた。
ソニアはユーナを後ろに押し出しながら、短剣で片方のククリを弾き飛ばす。もう片方の山賊による斬撃は、体を横にずらすことでギリギリのところでかわした。それはソニアの胸の前で風を切る。
「……っ!」
ソニアは体勢を持ち直すと同時に、片足の着地点をずらし相手の方へ踏みこんだ。そして魔力を込めた拳を握り、山賊の腹に叩き込む。
「がっ……!」
魔力により衝撃を強化された拳が山賊を捉え、大きく吹っ飛ばした。馬車でウィズによって教えられた魔力による身体強化――それを使ったのだ。
全力とはいえ、まさかここまで威力が上がっているとは思わず、ソナイは内心驚いていた。しかし動きは止まらない。仲間がやられて一歩後ずさる山賊の隙を見逃さない。
ソニアは後ずさる山賊に対し、短剣を振るった。山賊は反射的に手持ちのククリでそれを防ぐ。
短剣とククリがかち合う中、ソニアのフリーになっている腕が動いた。ククリを持った相手の腕を掴むと、その体を横に投げ飛ばす。魔力が良い具合に馴染みつつあるソニアの身体能力は、自分よりも大きな男を投げ飛ばすのも可能としていた。
「ぐっ……!」
壁に叩きつけられ、嗚咽を漏らす山賊。苦しみに瞳を閉じて、それから彼が目を開いた時にはすでにソニアは目の前に迫っていた。
「っ!」
ソニアはそのまま山賊に拳を叩き込む。衝撃で壁にヒビが入り、ちょっとした砂埃が舞った。
もちろんのこと、山賊はダウンして気を失う。
ソニアは息を吐いて、残りの山賊の方へ向いた。ちらりと見渡すと、ユーナの姿がない。ソニアが戦っている中で、ユーナはすでに洞窟の外で逃げることtができたようだった。
「近づくな! 弓矢で応戦するんだ!」
圧倒的ともいえるソニアの肉弾戦を目にした山賊は、仲間たちへそう叫んだ。それに応じる山賊たちは一斉に『燃焼摩矢』を放つ。
赤く燃え上がる火矢がソニアの目の前に広がった。
迫りくる火矢に対し、それを撃ち落とせる手段をソニアは持ち合わせていない。そしてこのまま遠距離戦に持ち込まれたら、ソニアはどうすることもできなかった。
つまり、ソニアは接近するしかない。歯を噛み締め、覚悟を決める。
「いく……っ!」
ソニアは脚に魔力を込めて、地面を蹴ったのだった。
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