名の無い魔術師の報復戦線 ~魔法の天才が剣の名家で産まれましたが、剣の才能がなくて追放されたので、名前を捨てて報復します~

トンボ

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78 魔収束

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 膝の上に乗っていたドラゴラムがコロコロと芝生に転げ落ち、カラカラと笑った気がした。自らの蔦で土台を立たせると、ウィズの方を見上げる。

 ウィズはそのまま続けた。

「ソニア、昨日のケガはどう?」

「どうって……。役所で貰った治癒包帯ヒールロールがすごく効いてて、全然平気だけど……」

「よし。じゃあ問題はなさそうだね。まー無理そうだったら退いていいよ」

 そう言いながら足元でじゃれついてくるドラゴラムを抱き上げると、遠くへ行くように指示をする。ドラゴラムは全身で頭を垂れると、蔦で地面を弾いてピョーンと遠くへ下がっていった。

 少し遠慮がちな表情をしつつも、ソニアは立ち上がる。ハーネスも恐る恐るという感じでソニアの隣に立つと、ウィズへ問いかけた。

「ウィズさん……。実戦と言いましたけど、今はこの剣しか持ち合わせていません。二人がかりとなると、かなり危ないのでは」

「問題ないですよ。それよりも、場所を変えた方がいいですかね?」

「いえ……それは問題ありませんが」

 ハーネスは剣の矛先をウィズへと向ける。ウィズはじっと、その刀身に反射する自分の姿を舐めるように見据えた。そのままハーネスは少し強い口調でウィズへ告げる。

「昨日のあれが僕の――ッ!」

 ハーネスの言葉は最後まで続かなかった。それはウィズが霧状に噴射した『緋閃イグネート』でハーネスの剣を人知れず弾いたからであった。

 芝生の草が散り、破裂音と共にハーネスの体が後ろへ吹っ飛ぶ。衝撃によって彼の手から離れた剣が宙を舞い、日の明かりでひやりと輝いた。隣にいたソニアは咄嗟に腕で衝撃波を防御しながら、後ろへと跳ぶ。

 しかしハーネスはすぐ状況を理解して、話してしまった剣をすぐ手中に戻した。足を地面に着くや否や、ウィズに向けて剣を構える。

 苦い顔をしながら自分を見てくるハーネスに対し、ウィズは爽やかな笑顔を顔に貼り付けて告げた。

「すみません。突然刃物を向けられたので、つい」

「っ! 舐めるな……!」

 ついにハーネスの表情に反骨的なものが見えた気がした。それを見たウィズは口元を緩ませ、手元に魔力を宿す。

 ハーネスが地面を踏み込むと、一瞬でウィズの正面へと移動した。そのまま剣を振るうも、それよりも先にウィズの手がハーネスの腕を掴み、"振り"そのものを止める。

「く……っ!」

 剣が振れなければ斬撃も生み出されない。ウィズは拮抗する力の押し合いの中、顔をハーネスの前に持ってきて言う。

「イライラするのは一番いけませんよ。貴方は『アーク家』。実力があるのは瞭然。どうしても貴方に勝ちたい輩は、恐らく盤外戦術を企んできます。その中でも、貴方は冷静に魔力を操らなければならない」

「っ!」

 ハーネスはウィズの腕を振り払うと、彼との距離を一旦開けた。それと同時に剣を振るって斬撃を放ち、ウィズを牽制する。

 放たれた斬撃をウィズは右手の『緋閃イグネート』で相殺した。爆風が舞い上がり、ウィズの視界はそれに埋め尽くされる――よりも先に、それをかき分けてハーネスが斬りかかってきた。

 ウィズはその一閃を寸でのところでかわし、少し後退するがそれだけではハーネスを引き離せない。ハーネスの斬撃がウィズを間髪入れず襲い、ウィズはそれとなくそれらを回避していく。

(……ん?)

 そこでウィズは少し違和感を得ていた。何か、暑い――否、違う。これは"温度"というよりは。

「『魔収束アトラクト』」

 ハーネスの小さなぼやきがウィズの元に届く。直後、周囲の気温が一気に低下した。

(なるほど……っ!)

 虚空に顕現した氷柱がウィズの顔面へ向けて連なった。すぐさま体を反らし、その不意打ちを軽くかわす。同時にハーネスへ蹴りを入れて吹っ飛ばし、彼と距離を取った。

(剣の一振りごとに魔力を空気中へ排出しておいて、攻撃の際にそれを使って攻撃する……か。良いアイデアだな、パクろう)

 そう思ったウィズの行動は早い。蹴りで吹っ飛ばしたハーネスに対して、熱線の『緋閃』を放ちつつ、さらに自分がハーネスから後退した。

 ハーネスは『緋閃』を剣で弾きながら、なんとか前進しようとする。しかしウィズの『緋閃』は間髪入れずにハーネスへ向かい放たれ、彼は中々前進できずにいた。

 甲高い音と共に、ウィズの『緋閃』が剣に弾かれ光の粒子になって消えていく。

 ウィズの魔力か、ハーネスの体力か。先に尽きた方が惜し負ける。――少なくても、ハーネスはそう思っていたのだが。

 ウィズは『緋閃』を放った後、左手をハーネスに向けて笑顔で首を傾げた。

「えっと……『あとらくと』?」

「な……ッ!?」

 その言葉を聞いてハーネスが戦慄したのは言うまでもない。彼は慌てて地面を蹴り、上空へ跳ぶ。

 刹那、ハーネスの剣によって弾かれて虚空へ溶けていた『緋閃』の粒子が再生し、四方八方から再び熱線となって放たれた。しかもそれは上空へ回避したつもりのハーネスへと向かっていく。

「く……!」

 ハーネスは苦し紛れにそれらの『緋閃』を剣を盾代わりにして防いだ。しかしそれで防御しきれるはずもなく、その接触時の衝撃がハーネスの体を強く揺らし、衝撃で彼の体を地に落とした。

 重量感のある爆音と同時に、ハーネスは地面に激突して砂埃が舞う。

「これは便利だなぁ……」

 一連の情景を見ていたウィズは満足そうにぼやいたのだった。
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