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162 眺める
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「ラシェルさん……ですね。僕はウィズと言います。……」
ウィズはラシェルの手を取って握手をする。その際にちらりとフィリアの方を見るが、彼女は腕を組んで視線を下げていた。自分から口を開くような様子ではない。ともなれば、ウィズから切り出すべきか。
――と、ウィズはフィリアについて話そうとしたところで、彼女が直々に口を開いた。
「私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい」
「……ふぃ――あっ、分かりました」
自分の名を名乗ることなく、そしてラシェルに何かを言うわけでもなく、ただそう言ってフィリアは踵を返す。それから言った通り店の外で出て行ってしまった。
その様子を見たラシェルは"しょうがない"といった様子であった。出て行った後ろ姿を見ながら、怒った様子などは見せずともどこか寂しそうに苦笑する。
「すみませんねぇ。若い女性には地味すぎるものでしたか……」
(……)
ウィズもラシェルと同じく彼女の後を視線で追っていた。しかしその目は彼のように穏やかなものではない。
(どういうことだ……?)
まさかの予想外な行動であった。横暴な態度はまだ分かる。けれども自分のことを名乗らず、すぐに店から出て行くなどというのは行動原理が分からない。何を考えて彼女はこの行動をしたのか。
(ラシェルが原因なのか……?)
まず、フィリアの性格からして『護符』に全く興味がないからといって、こうやってウィズを置いてすぐに出て行くというのは明確な理由があるはず。というか、ウィズは彼女の護衛の立場。普通に護衛から自分の意志で離れるというのはちょっとよく分からない。特に今はソニアが行方不明になっている状況なのに、一人になるというのはどう考えても悪手である。
「……」
ウィズはちらりと『護符』を棚へ視線を移した。
フィリアは考えもなしにあんな行動を起こさない。彼女は去り際になんて言っていたか。
――『私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい』。
自分のことは無視しろ。外に出ている。ウィズは満足するまで眺めていればいい。
かみ砕いて整理するならば、フィリアを追う必要はない。外で待っているから、それよりも何かを眺めろてみろ、ということか。
単純に考えるのならば、眺めるべき何かというのは『護符』のことだろう。しかしながら『護符』を眺めて何になるというのか。『祝福付与』よりも弱い『加護』を宿した木片を眺めることで、何かを感じるほどの敏感な感覚は持ち合わせていない。
フィリアがわざわざウィズを独り残して、そう指示した理由。それが何なのかは分からないが、存在していることは確かなのだろう。ならば、それを確かめる勢いでウィズは行動すべきだ。
「……不快に思われたのならすみません。ああいう方なんですよ。悪気はない……とは言い切れませんが……」
「はっはっは! 全然気にしていませんよ」
とりあえずはラシェルと良い関係は築いておきたい。少なくても店を出るまでは。
「あの、この『護符』なんですけど、触ってみてもいいですか……?」
「ええ、結構ですよ」
「ありがとうございます」
ラシェルの快諾のもと、ウィズは飾られている木片のひとつを手に取ってみた。触り心地からして、多少なりと魔力を感じる。彼の言っていたことはあっているようで、この木片には魔力が宿っていた。
そしてこの魔力が『加護』を作用させるものとなるということらしい。なんとも言い伝えレベルの効果で怪しいところもあるが。
(……眺める、か)
手に取った瞬間に、フィリアのその言葉がフラッシュバックした。こうやって手に取るという行動は彼女が意図したものとは違うのかもしれない。フィリアはわざわざ"眺める"という言葉を使っている。直に触って確認することを意図するならば、"じっくり近くで見せてもらいなさい"だとかで良いはず。
何かを含ませているからこそ、"眺める"という単語を使ったのだろう。結局のところ、このような暗喩は伝わらなければ意味がない。わざわざニュアンスに幅あり、一考の余地がある表現を使うのは正確な伝達を阻害する。こうやって手に取るような"確認"ならば、"見る"だけで良い。
(……んー)
もしや何も考えていないのか。ウィズの考えすぎかもしれない。そう思いながら、ウィズはちらりとラシェルへ視線を戻したのだった。
ウィズはラシェルの手を取って握手をする。その際にちらりとフィリアの方を見るが、彼女は腕を組んで視線を下げていた。自分から口を開くような様子ではない。ともなれば、ウィズから切り出すべきか。
――と、ウィズはフィリアについて話そうとしたところで、彼女が直々に口を開いた。
「私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい」
「……ふぃ――あっ、分かりました」
自分の名を名乗ることなく、そしてラシェルに何かを言うわけでもなく、ただそう言ってフィリアは踵を返す。それから言った通り店の外で出て行ってしまった。
その様子を見たラシェルは"しょうがない"といった様子であった。出て行った後ろ姿を見ながら、怒った様子などは見せずともどこか寂しそうに苦笑する。
「すみませんねぇ。若い女性には地味すぎるものでしたか……」
(……)
ウィズもラシェルと同じく彼女の後を視線で追っていた。しかしその目は彼のように穏やかなものではない。
(どういうことだ……?)
まさかの予想外な行動であった。横暴な態度はまだ分かる。けれども自分のことを名乗らず、すぐに店から出て行くなどというのは行動原理が分からない。何を考えて彼女はこの行動をしたのか。
(ラシェルが原因なのか……?)
まず、フィリアの性格からして『護符』に全く興味がないからといって、こうやってウィズを置いてすぐに出て行くというのは明確な理由があるはず。というか、ウィズは彼女の護衛の立場。普通に護衛から自分の意志で離れるというのはちょっとよく分からない。特に今はソニアが行方不明になっている状況なのに、一人になるというのはどう考えても悪手である。
「……」
ウィズはちらりと『護符』を棚へ視線を移した。
フィリアは考えもなしにあんな行動を起こさない。彼女は去り際になんて言っていたか。
――『私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい』。
自分のことは無視しろ。外に出ている。ウィズは満足するまで眺めていればいい。
かみ砕いて整理するならば、フィリアを追う必要はない。外で待っているから、それよりも何かを眺めろてみろ、ということか。
単純に考えるのならば、眺めるべき何かというのは『護符』のことだろう。しかしながら『護符』を眺めて何になるというのか。『祝福付与』よりも弱い『加護』を宿した木片を眺めることで、何かを感じるほどの敏感な感覚は持ち合わせていない。
フィリアがわざわざウィズを独り残して、そう指示した理由。それが何なのかは分からないが、存在していることは確かなのだろう。ならば、それを確かめる勢いでウィズは行動すべきだ。
「……不快に思われたのならすみません。ああいう方なんですよ。悪気はない……とは言い切れませんが……」
「はっはっは! 全然気にしていませんよ」
とりあえずはラシェルと良い関係は築いておきたい。少なくても店を出るまでは。
「あの、この『護符』なんですけど、触ってみてもいいですか……?」
「ええ、結構ですよ」
「ありがとうございます」
ラシェルの快諾のもと、ウィズは飾られている木片のひとつを手に取ってみた。触り心地からして、多少なりと魔力を感じる。彼の言っていたことはあっているようで、この木片には魔力が宿っていた。
そしてこの魔力が『加護』を作用させるものとなるということらしい。なんとも言い伝えレベルの効果で怪しいところもあるが。
(……眺める、か)
手に取った瞬間に、フィリアのその言葉がフラッシュバックした。こうやって手に取るという行動は彼女が意図したものとは違うのかもしれない。フィリアはわざわざ"眺める"という言葉を使っている。直に触って確認することを意図するならば、"じっくり近くで見せてもらいなさい"だとかで良いはず。
何かを含ませているからこそ、"眺める"という単語を使ったのだろう。結局のところ、このような暗喩は伝わらなければ意味がない。わざわざニュアンスに幅あり、一考の余地がある表現を使うのは正確な伝達を阻害する。こうやって手に取るような"確認"ならば、"見る"だけで良い。
(……んー)
もしや何も考えていないのか。ウィズの考えすぎかもしれない。そう思いながら、ウィズはちらりとラシェルへ視線を戻したのだった。
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