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164 流石ですね
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店の中を一巡した。これでウィズが求められていたことは終えたはずである。もうこの店は用済みだ。
しかしながらラシェルとの関係はそう簡単に終えられない。ウィズは顎に手を当てながら言う。
「僕自身、『護符』を所持する習慣がないものでね……。……あぁ、でも」
視線の先にあった護符。よく見ると、その下にはその『護符』の効能やらが木の板に書いてあった。その文字が目に入って、ふと目を細めた。
「……でも、お土産にはいいかもしれませんね」
なんとなくその護符を手にして、ウィズは言う。
「いくらですか?」
◆
「……ちょっと時間がかかったわね」
店を出ると、店先でもたれかかっているフィリアにそう言われた。ウィズは購入した護符を上着の内ポケットにしまいながら、にへらと笑う。
「初めてお土産を買ったかもしれません」
「……ふーん」
腕を組んだフィリアは目を細めてウィズを見据える。それから、はあ、と短く息を吐くと壁にもたれるのをやめて歩き始めた。ウィズはそのあとに続く。
「どうでした?」
「特に異常はなかった」
「でも、なんで僕の周囲をわざわざ感知する必要が? フィリアさんが直接やればよかったのでは?」
「……」
フィリアは立ち止まる。それに倣って立ち止まったウィズに彼女は振り返ると、無表情のまま告げる。
「なんか……気に食わなかったから。……あの店主がね」
「……」
それだけ言って、彼女は前へ向き直った。ウィズはその直線的な物言いに思わず顔をしかめる。
気に食わない――フィリアはそう評したが、ウィズとしては特に感じたものはなかったのだ。感じの良い、少し年を感じてきた初老の男。そんな印象であった。
それに対して、フィリアは少なくても友好的な所感を持っていない。『気に食わない』ときたもんだ。それは論理的ではなく感情論で決めつけている。フィリアとしても、フィリア・アークとしても、その断定方法は杜撰というか、まるっきり危険な方向性と思える。
(だが……)
普通なら否定的な結論に至るところをウィズはそうは思わなかった。ちょっと納得と理解したくは気もするが、感情論で事を決めるほど彼女は安易ではない。きっと彼女にしか感じられない何かがあったのだろう。あのラシェルとかいう男に、あまり友好的にしたくない何かが。
パッと見――ウィズが見た通り――外見だけを見繕えば、特に害もなさそうなあの男に対して、フィリアが理論的に説明できない"嫌なもの"を感じた。それはある意味で危険だ。一般人ならまず抱かない解答をフィリアが得たということは、フィリアほどの物でない限り、その嫌悪感に気づけないということ。
そう捉えるならば、もしかしたら彼は大穴かもしれない。絶対的な詐欺師の条件。それは相手に自分が詐欺師であると、事の一片も思わせないこと。そう考えると、あの男は危険だ。何故ならば、それに関して自分の感性で気づけないのだから。
「流石ですね」
ポロっとつい口に出てしまって、ウィズは手で口の周りを覆った。その発言の直後、フィリアは肩がピクリと跳ねたのが分かった。
「……」
しかしフィリアは振り向かなかった。そして次の店の前に立つと、何事もなかったようにその店を見上げる。
(……チッ)
ウィズは、どうしてだかとても苛立ちのようなものを感じていた。しかし悪い気もしないでもない。なんとなく、その感覚が気持ち悪すぎて、地面に転がっていた石を蹴り飛ばしたのだった。
しかしながらラシェルとの関係はそう簡単に終えられない。ウィズは顎に手を当てながら言う。
「僕自身、『護符』を所持する習慣がないものでね……。……あぁ、でも」
視線の先にあった護符。よく見ると、その下にはその『護符』の効能やらが木の板に書いてあった。その文字が目に入って、ふと目を細めた。
「……でも、お土産にはいいかもしれませんね」
なんとなくその護符を手にして、ウィズは言う。
「いくらですか?」
◆
「……ちょっと時間がかかったわね」
店を出ると、店先でもたれかかっているフィリアにそう言われた。ウィズは購入した護符を上着の内ポケットにしまいながら、にへらと笑う。
「初めてお土産を買ったかもしれません」
「……ふーん」
腕を組んだフィリアは目を細めてウィズを見据える。それから、はあ、と短く息を吐くと壁にもたれるのをやめて歩き始めた。ウィズはそのあとに続く。
「どうでした?」
「特に異常はなかった」
「でも、なんで僕の周囲をわざわざ感知する必要が? フィリアさんが直接やればよかったのでは?」
「……」
フィリアは立ち止まる。それに倣って立ち止まったウィズに彼女は振り返ると、無表情のまま告げる。
「なんか……気に食わなかったから。……あの店主がね」
「……」
それだけ言って、彼女は前へ向き直った。ウィズはその直線的な物言いに思わず顔をしかめる。
気に食わない――フィリアはそう評したが、ウィズとしては特に感じたものはなかったのだ。感じの良い、少し年を感じてきた初老の男。そんな印象であった。
それに対して、フィリアは少なくても友好的な所感を持っていない。『気に食わない』ときたもんだ。それは論理的ではなく感情論で決めつけている。フィリアとしても、フィリア・アークとしても、その断定方法は杜撰というか、まるっきり危険な方向性と思える。
(だが……)
普通なら否定的な結論に至るところをウィズはそうは思わなかった。ちょっと納得と理解したくは気もするが、感情論で事を決めるほど彼女は安易ではない。きっと彼女にしか感じられない何かがあったのだろう。あのラシェルとかいう男に、あまり友好的にしたくない何かが。
パッと見――ウィズが見た通り――外見だけを見繕えば、特に害もなさそうなあの男に対して、フィリアが理論的に説明できない"嫌なもの"を感じた。それはある意味で危険だ。一般人ならまず抱かない解答をフィリアが得たということは、フィリアほどの物でない限り、その嫌悪感に気づけないということ。
そう捉えるならば、もしかしたら彼は大穴かもしれない。絶対的な詐欺師の条件。それは相手に自分が詐欺師であると、事の一片も思わせないこと。そう考えると、あの男は危険だ。何故ならば、それに関して自分の感性で気づけないのだから。
「流石ですね」
ポロっとつい口に出てしまって、ウィズは手で口の周りを覆った。その発言の直後、フィリアは肩がピクリと跳ねたのが分かった。
「……」
しかしフィリアは振り向かなかった。そして次の店の前に立つと、何事もなかったようにその店を見上げる。
(……チッ)
ウィズは、どうしてだかとても苛立ちのようなものを感じていた。しかし悪い気もしないでもない。なんとなく、その感覚が気持ち悪すぎて、地面に転がっていた石を蹴り飛ばしたのだった。
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