傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

13 帽子と獣耳

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「冒険者……ねぇ」

 シルヴァとシアンはなんだかんだで、とりあえず『コルマノン』に向けて足を進めていた。

 歩きながら、シルヴァは出発の前にシアンが言った『冒険者をやりたい』という言葉に言及していた。苦い顔で。

「うーん……冒険者、ちょっと危ないよ? たまに裏切られるし」

「最初はお手伝いって感じだけど、すぐに経験積んで役に立つからさ! それに」

 シアンは言葉を言い切る前に立ち止まる。
 彼女より数歩前に歩いたところで、シルヴァは振り返った。シアンは振り返ったシルヴァの瞳を見つめて言う。

「君は裏切らないでしょ?」

「……さあ、どーだか」

 シルヴァは彼女から目をそらして頬をかく。

 シアンの言葉は少しシルヴァにとっては直線的すぎた。前回のパーティに良いように使われた挙句、放火の罪を被せられ投獄された身としては、嫌でもパーティを組むことに嫌悪感を抱く。

 まあ、あの三人には一応報復というかたちで面倒を押し付けたり、懐の小遣いを回収したりとやり返したのだけれど。

 さらにシルヴァにはパーティの件を抜きにしても、裏切る裏切らないという関係には苦手意識があった。
 しかしその感情を今吐き出すべきではない。シルヴァはその思い出を振り払う。

「いじわる」

 はぐらかすシルヴァに、シアンはぷくーっと頬を膨らませて抗議した。まるで抗議になっていないので、思わずシルヴァは唇を緩ませる。

 そんなこんなで数十分、二人は街道を歩き続けていた。
 魔獣と遭遇したりすることはなく、青い空の下、穏やかな時間を過ごしていた。

 そんな中、どうしてかシアンは時々帽子を押さえる仕草をし始めていることに、シルヴァは気づく。まあでも、あまり詮索するものではないのかも、とスルーしていたが。

「うう~……」

「……どうしたの?」

 流石にここまで唸られては気にせずにはいられない。何となく気持ちの悪そうなシアンにシルヴァはとうとう話を持ち掛ける。

 シアンはちらりとシルヴァを見る。それからちょっとは口を開かず沈黙していたけれど、申し訳なさそうに切り出した。

「あのさ……。帽子、ちょっと耳がむせるというか……」

「ああ……」

 シルヴァは彼女の被っている帽子――キャペリンと呼ばれる、全方位につばがあり、通常のよりもそのつばが長めの帽子――を見た。
 普通の人間ならば、この帽子を被ることに関して苦労は少ない。しかし、半獣人であるシアンでは勝手が変わる。

 人間の頭の上にはない獣耳が、彼女の頭にはちょこんと生えているのだ。
 そこに帽子を被るのだから、帽子の中という密閉空間に、獣耳が入ってしまうことになる。

「……本当に耳がむせて、ちょっと気になるの……。ごめんね、折角買ってくれたのに」

「いや、全然。元はといえば、僕の選択が間違ってたのが悪いんだし……。帽子、持つよ」

「うん……。ありがと」

 並んで歩きながらシアンは帽子を脱いで、隣のシルヴァに渡した。シルヴァはそれを受け取って、右手に持つ。

 帽子から解放されたシアンの猫耳は外の空気に触れると、のびーっと背伸びらしきことをすると、嬉しそうにピクピクと震えた。

 猫耳だけ見てても飽きないなあ。

 なんて、シルヴァが考えていると、その視線に気づいたのか、シアンが慌てて猫耳を両手で隠した。思わずシルヴァはうろたえる。

「何故に……? 見たっていいじゃん?」

「う……。なんというか、そんなにじっくり見られたら恥ずかしいよ……」

 若干顔を赤らめて、シルヴァから距離を取るシアン。

 距離感が難しいなあ……。

 と、シルヴァは一人内心でため息をついた。
 まあでも、猫耳をじっくりとみられると恥ずかしいというのは、ちょっと分かる気がする。他の人との目立つ相違点であるし。

 人間としても、ひげをじっくりと嘗め回すように見られるのは嫌と感じる。それと獣耳の件は同じようなことなのだろう。

「……ん?」

 猫耳を気持ちよさそうに自由に動かしていたシアンは、突然立ち止まった。それから猫耳に手を当てて、耳を澄ます。
 シルヴァも彼女の行動が気になって立ち止まった。

 シルヴァはそのまま何か話しかけようと思ったが、シアンは今、何かを聞くために耳を澄ましている最中だ。ここで声をかけても邪魔にしかならない。

 だからシルヴァが黙って見ていると、シアンは真剣な顔で口を開いた。

「……女の人の悲鳴と、ウマ? かな? 動物の足音と男の人の叫び声が聞こえる……」

「やばい感じ?」

「ちょっと待ってね」

 シルヴァの質問にシアンも同感だったのか、彼女は目を閉じて聴覚に集中し、さらに状況を探っていく。
 そのままの状態で数秒が経過する。シアンは青い瞳を開けると、街道から外れた隣の草むらの方を指さしながら、シルヴァへ報告した。

「こっちの方向で、女の人が男の人たちに襲われてる感じ、かな。助けに入った方がいいかも」

「そうだね。ただなあ……」

 シアンの言葉にシルヴァは同意を渋る。

 目視できない以上、状況がどうなっているのか分からない。女が罪人であり、何らかの罪で追いかけられているという件も否定できない。

 そんなシルヴァの考えを悟ったのか、シアンは代替え案を出した。

「隠れて近くまで行って、様子をうかがおうよ。状況次第で臨機応変に動けるし」

「そうだね……。というか、なんかさ、シアン」

「ん? なに?」

 早速、音のした方へ歩みだしたシアンの後ろから、シルヴァが呟くように言った。
 シアンはその言葉を聞いて、足を止めてシルヴァの方へ振り替える。

 シルヴァは続けた。

「なんか、積極的じゃない? 昨日と別人みたいじゃん」

「……」

 シルヴァの違和感はそれだった。
 昨日の、脱獄の途中のシアンのイメージは、病弱だった。結構せき込んでいたり、口数が少なかったりしていた気がする。

 けれど、ゴルドとの戦闘が終わったあたりから、彼女は特段明るくなった。

 確かに看守から酷い暴行を受けていたショックは大きかった。故に感情や言動を思うままに表せられなかったのかもしれない。
 しかし、ここまで影響するものだろうか。

 ――いいや、こう考えるのは野暮だな。ダサいことしてるな、僕。

 シルヴァは思考の途中で首を横にぶんぶん振って、そのダサい思考を取り消す。

 ウジウジと女の子の心情を考察だって? いくら気になっている子だからとはいえ、女々しいったらありゃしない。

 シルヴァは考えを改め、苦笑いを浮かべた。

「いや、なんでもない。行こうか」

「あっ……」

 シルヴァはシアンが示した草むらの方へ駆けだし、彼女を抜いて草むらの中へ入っていく。
 シアンはその後姿を見つめながら、ぼそっとぼやいた。

「……少しはアピールしたいじゃん? ……分からないのかな」

 細目ですねたように唇を尖らせるシアンであるが、その表情をシルヴァが見ることはなかった。

「私も行くよー!」

 そんなシアンも、気を取りなおすとシルヴァの後を追って草むらの中へ入っていったのだった。
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