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第三章 コルマノン大騒動

69 女子トーク

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 遅めの夕食も食べ終わり、シルヴァとシアンは順繰りに風呂もいただいた。
 寝床は普段ニーナの部屋でシアン、ドルフの部屋でシルヴァと、男女でそれぞれ二人ずつ同じ部屋で寝ることになった。

 その時点で時刻は零時を回っていた。
 風呂で濡れた髪を揺らし、タオルを肩にかけたシアンは、ニーナの部屋で彼女と雑談していた。

「猫なの?」

「うん。人間と猫の獣人のクォーターだよ。ほら、耳はあるけど尻尾はないの」

 そう言って、シアンは自らの獣耳を両手で目立たせる仕草をする。ニーナは獣人とあまり交流したことがないのか、彼女の耳を興味深く見つめていた。

 そしてニーナは「ふーん」と小さくぼやくと、シアンの青い瞳を見てにやりと笑う。その笑みに、何故か分からないが、シアンは頭にちょっと嫌な予感がよぎった気がした。

 二人は今、敷布団の上に座って女子トークを繰り広げていた。ニーナは右手をシアンの近くにつけて、体を彼女のすぐそばまで近づける。

 そんなニーナに、シアンは彼女の真意がつかめず、ちょっと身を引いた。

「さっき気づいたんだけど、シアンさぁ……」

 シアンのそばに下した右手にさらに体重をかけ、シアンへと体を近づけるニーナ。シアンも困惑しながらさらに体を後ろに反らす。

 シアンの顔のすぐそばまで顔を近づけたニーナは、そのままシアンの髪で隠れていた人間の方の耳に口を持ってきて、ぼそぼそと言った。

「シアンとシルヴァってさぁ……付き合いたてでしょ?」

「ふぇっ!?」

 突然のニーナのシアンは思わずその場でのけぞった。それから、下から上まで顔が真っ赤に染まる。のけぞったシアンを前にしてきょとんとしていたニーナは、そのモミジが紅葉するような顔色の変化具合に思わず吹き出してしまった。

「驚きすぎでしょ」

「う……」

 ニヤニヤと笑いかけるニーナを前に、シアンは真っ赤にした顔の口元を手で隠す。ニーナから借りたパジャマが少し大きかったのか、シアンは結果的に図らずとも手の甲が袖で隠れている、いわば萌え袖状態になっていた。その萌え袖で恥ずかしそうに頬を紅潮させて口元を抑える姿は、女であるニーナでさえもキュンとくるような可愛さを孕んでいた。

「でっ、でもね……」

 そんな子猫的なかわいさにカルチャーショックを受けていたニーナは、シアンがもじもじと恥ずかしそうに言った声でハッと気を取り直す。シアンは視線を上下左右に右往左往させながら言った。

「その、まだ、そういう関係じゃ……」

「え?」

 付き合い始めでギクシャクしているのではないかというニーナの推測は、本人によって否定されてしまった。ではあれは何だったのか。ニーナは頭の中で考えをグルグルと回し、考えた。

 付き合っていないのならば、あの甘い雰囲気は一体……?
 いやでもあの感じはただの男女というには無理がある。
 しかし本人は否定しているし……。

 などと、ニーナは悩むように困惑しているのを察したシアンは、ポツポツと二人の関係について話し始めたのだった。



 そして数分後。



「はああ!?」

 シアンから、ニーナがいない間に起きた事の顛末を聞いた彼女は、思わずガラでもない荒い声をあげてしまっていた。その突然の驚き声に、獣耳をピクピクとさせながら、驚いて表情を固まっているシアンを見て、ニーナは少し恥ずかしくなって咳ばらいをする。

 そして自分の恥ずかしさを紛らわせるように、ビシッとシアンに腕を向けた。

「いや! そこまでいったらもう勝ったようなものでは?」

「か、勝ち……?」

「付き合ってるようなものでは?」

 『勝つ』という言葉に首をかしげたシアンに向けて、ニーナはわざわざ言い換える。
 そしてその言い換えた言葉を聞いて、その意味を咀嚼したであろうシアンは再び顔を火照ほてらせてうつむいた。

 その初々しさにムズムズする感情を感じながらも、ニーナはシアンへ言う。

「というか、そのパターンは自然消滅するかもしれないよ」

「し、自然消滅!?」

 がばっと、今度はシアンがニーナに体を寄せた。ニーナは驚いて体を後ろにそらしながら、苦笑してシアンの体を前に押しやる。

「だって、うやむやになっちゃうパターンじゃない?」

「そ、そんな……」

 ニーナの言葉を聞いて、シアンはしょぼーんと獣耳を垂らし、残念そうに肩を下した。その肩をニーナは優しくたたいて、ニヤリと微笑む。

「大丈夫! 私がそうならないよう、助言してあげるから!」

「本当!?」

 自信満々にそう言ってのけたニーナを前に、シアンは表情をぱあっと明るくして顔を上げる。とても嬉しそうで瞳が輝いている彼女を見ながら、ニーナは意気揚々に語り始めたのだった。




 一方、ドルフの部屋にいるシルヴァとドルフは……。

「この重み……この感触……ッ!」

 シルヴァはそう呟きながら、ごくんと息を呑んだ。

 隣で胡坐をかいてシルヴァの持つそれを見ながら、ドルフも息を呑む。

「兄ちゃん、感じるか……?」

「当たり前でしょ……!」

 シルヴァは手の持っている鉄の塊を持ち上げて、その形状をまじまじと見つめてみる。
 そして、ごくんと唾を飲み込んだ後で、唇の端を緩ませた。

「めっちゃかっこいいじゃん!」

「そうだろ!? 男なら分かるよなぁ!?」

 ――と、シアンの悩みなど知らず、『虚無の短銃セフル・ラサーサ』と銘打たれた短銃に、想いを馳せていたのだった。
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