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第38話 いすずの企み
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始まりは小さな廃工場を与えられ、数基しかない炉で細々と鉄を作っていた我らがいすず鉄鋼所。
しかしてそれは数か月で急成長を遂げて、私が領主の妻に落ち着いたことで一変した。
この世界にとっては未来の知識である製鉄技術を持つ私が、領地内の全ての工場を手中に収めたことで、マッケンジー領は大製鉄場へと変貌を遂げた。
木炭から石炭に代わる製鉄。言い換えればその程度の話。だけど、物事はタイミングが重要。先に動いた者が勝つ。そして、勝ったのは私だったということ。
石炭製鉄は大火力とそれに伴う施設の巨大化によって賄われる。結果として一昼夜、各所の工場からはもくもくと水蒸気と黒煙が上がる。ものすごーく体に悪い。
当たり前だけど工場で鉄を作ろうとなれば大量のごみが出る。汚染された水も空気もそりゃたくさんだ。
「空気を汚し、水を汚し、大地を汚す……その代償として俺たちの国は強くなり、豊かになる、か。こりゃとんだ詐欺だな」
そういって豪快に笑うのはアベルだ。
ゴドワンの一人息子であり、マッケンジー家の跡取り。しかし、ついこの間までは勘当され、最底辺の職場ともいわれる炭鉱夫に身をやつしていた男。
そして、私が初めてこの世界で頼り、今もなんだかんだで助けてくれる頼もしい人だ。
「未来じゃ、私は環境破壊を促進した悪女ってところかしら?」
時計がないのでわからないが、おそらくは今は昼を少し過ぎた時間だろう。
私たちは遅めの昼食を取っていた。今日のお昼は黒パンにものすごく薄いベーコンと野菜のサラダが少々。
まぁこれでも豪華な方なのよね。
「でも、これは必要経費よ。ただ暮らしが良くなるわけないもの」
現実世界における産業革命も環境破壊の歴史だ。霧の街ロンドンと言えば聞こえはいいが、実際は工場から排出されるスモッグが原因なのは今では多くの人が知っていることだ。
「あと数年、いえ数か月もすれば私たちのやってる環境破壊に気が付く連中も出てくるでしょうけど、まぁそれはいいわ。事実だし、取り繕うこともない」
これらの副産物、元いた世界であれば完全とは言わないにしても再利用することができる。炉から吐き出される有毒ガスはその実、有益なエネルギー資源にもなるし、一部の成分はタールとなり、物質的なものにも転用できた。
発生する熱そのもの、そして水蒸気に至ってはもっとわかりやすい転用が可能でもある。
そう、蒸気機関と呼ばれる動力炉だ。文明発達において、蒸気機関は大きな役割を持つのだけど……難しい話よねぇ。今すぐにっていうのは。
あいにくと私は工学系の知識はないから……。
何かに使えることはわかっても、それを今すぐに実用レベルに仕上げるのには長い年月を必要とするだろう。
さて、私が生きている内に実現できるかどうかは……知らないことね。
研究はさせるつもりだけど、今すぐに花開くとは思えないし。
「まぁ、どこかで改善策をださなきゃいけないのも事実なのだけど、魔法は万能じゃないわよねぇ。錬金魔法で石炭煙からタールだけをうまいこと抽出する術式でも作ってちょうだいよ、元魔法使いなんでしょう?」
「無茶言ってくれるぜ。そりゃ出来んこともないが、だれも好んでやらねぇだろうなぁ、そんなあぶねぇ仕事」
「それなのよねぇ……ま、これ今後の課題として、山の方だけど」
それに、私は製鉄業に手を出したけど、本質的には鉱業、つまりは鉱石物全般にかかる仕事をしていた。そう、例えば宝石とか、貴金属とかね。
我が夫、ゴドワンが王国から製鉄業を一任され、王国所領の山の5パーセントを手に入れたということは石炭や鉄鉱石以外の算出も取れるということになる。
「質は悪いが水晶が見つかった。もうちょい掘り進めないことにはわからんが、もしかすれば鉱脈があるかもしれん」
「宝石商との提携も取れるかもしれないわね。その山ってどこに?」
「地図はあるか?」
私はデスクからサルバトーレを含んだ周辺各国の簡易地図を取り出す。
アベルと一緒にのぞき込み、場所を確認。
「ここだ。海辺が近くてな。場合によっちゃ地下水もあるだろうから工事には慎重になる所だ」
「なるほど……海か……」
ふと、私はある事をおもいついた。
「海辺の方に商売の手は回せないのかしら?」
「海? サンゴでも捕るのか?」
「それも素敵だけど、海よ? 塩を作りましょう。戦争ですもの、お塩はいくらあっていいもの」
中世といった時代背景において塩は貴重な取引であり、資産にもなる。ただし、塩の製造に関しては、今のところ、私は関わるつもりはない。それはまた分野の違う問題が発生するからだ。
私がやるのは塩を製造する各所に石炭を売り込むこと。ついでに炉の方もね。
できることなら、岩塩を産出する山なりを手に入れればよいのだけど、こればかりは掘って、掘って、掘りまくってみつけないといけない。
一応、目星はつけてあるのだけど。
「それと、水晶は取れるのよね?」
「ごく少量、質は悪い」
「別にいいのよ、それで。それより、この戦争というタイミングを利用するわ。あなた、宝石言葉ってご存じ?」
「……? まぁ、花言葉に近いものであることは知ってるが、詳しくは知らんな。娼婦のねーちゃん連中は知ってんじゃないか?」
「いいの、いいの。これからやることはちょっとしたブームを巻き起こすことよ。錬金術師たちをかき集めて、あと格安の宝石の、かけらでもいいわ。それも集めるの。指輪とか、ネックレスとか、イヤリングにでも加工するわ。それを市場にだす」
「それは構わんが、売れんのかねぇ?」
宝石というものはただ宝石だからというだけで価値があるわけじゃない。厳しい条件をクリアしなければそれこそたとえルビーだろうがダイヤモンドだろうが価値は激減する。
しかし、安くても売れる方法はなくはないのだ。
むしろ、安い屑石だからこそ利用価値がある。
「戦争に行く恋人や夫の為、つくす女。どこかではラブロマンスでも起きるのでしょう。なら私たちはそれを応援するだけよ。そうねぇ、売り出しはこうしましょうか。愛を呼ぶ、石とかね」
「詐欺じゃねぇか」
「違うわ。おまじないよ」
だって女の子は好きでしょう?
おまじないのあるパワーストーンって。
しかしてそれは数か月で急成長を遂げて、私が領主の妻に落ち着いたことで一変した。
この世界にとっては未来の知識である製鉄技術を持つ私が、領地内の全ての工場を手中に収めたことで、マッケンジー領は大製鉄場へと変貌を遂げた。
木炭から石炭に代わる製鉄。言い換えればその程度の話。だけど、物事はタイミングが重要。先に動いた者が勝つ。そして、勝ったのは私だったということ。
石炭製鉄は大火力とそれに伴う施設の巨大化によって賄われる。結果として一昼夜、各所の工場からはもくもくと水蒸気と黒煙が上がる。ものすごーく体に悪い。
当たり前だけど工場で鉄を作ろうとなれば大量のごみが出る。汚染された水も空気もそりゃたくさんだ。
「空気を汚し、水を汚し、大地を汚す……その代償として俺たちの国は強くなり、豊かになる、か。こりゃとんだ詐欺だな」
そういって豪快に笑うのはアベルだ。
ゴドワンの一人息子であり、マッケンジー家の跡取り。しかし、ついこの間までは勘当され、最底辺の職場ともいわれる炭鉱夫に身をやつしていた男。
そして、私が初めてこの世界で頼り、今もなんだかんだで助けてくれる頼もしい人だ。
「未来じゃ、私は環境破壊を促進した悪女ってところかしら?」
時計がないのでわからないが、おそらくは今は昼を少し過ぎた時間だろう。
私たちは遅めの昼食を取っていた。今日のお昼は黒パンにものすごく薄いベーコンと野菜のサラダが少々。
まぁこれでも豪華な方なのよね。
「でも、これは必要経費よ。ただ暮らしが良くなるわけないもの」
現実世界における産業革命も環境破壊の歴史だ。霧の街ロンドンと言えば聞こえはいいが、実際は工場から排出されるスモッグが原因なのは今では多くの人が知っていることだ。
「あと数年、いえ数か月もすれば私たちのやってる環境破壊に気が付く連中も出てくるでしょうけど、まぁそれはいいわ。事実だし、取り繕うこともない」
これらの副産物、元いた世界であれば完全とは言わないにしても再利用することができる。炉から吐き出される有毒ガスはその実、有益なエネルギー資源にもなるし、一部の成分はタールとなり、物質的なものにも転用できた。
発生する熱そのもの、そして水蒸気に至ってはもっとわかりやすい転用が可能でもある。
そう、蒸気機関と呼ばれる動力炉だ。文明発達において、蒸気機関は大きな役割を持つのだけど……難しい話よねぇ。今すぐにっていうのは。
あいにくと私は工学系の知識はないから……。
何かに使えることはわかっても、それを今すぐに実用レベルに仕上げるのには長い年月を必要とするだろう。
さて、私が生きている内に実現できるかどうかは……知らないことね。
研究はさせるつもりだけど、今すぐに花開くとは思えないし。
「まぁ、どこかで改善策をださなきゃいけないのも事実なのだけど、魔法は万能じゃないわよねぇ。錬金魔法で石炭煙からタールだけをうまいこと抽出する術式でも作ってちょうだいよ、元魔法使いなんでしょう?」
「無茶言ってくれるぜ。そりゃ出来んこともないが、だれも好んでやらねぇだろうなぁ、そんなあぶねぇ仕事」
「それなのよねぇ……ま、これ今後の課題として、山の方だけど」
それに、私は製鉄業に手を出したけど、本質的には鉱業、つまりは鉱石物全般にかかる仕事をしていた。そう、例えば宝石とか、貴金属とかね。
我が夫、ゴドワンが王国から製鉄業を一任され、王国所領の山の5パーセントを手に入れたということは石炭や鉄鉱石以外の算出も取れるということになる。
「質は悪いが水晶が見つかった。もうちょい掘り進めないことにはわからんが、もしかすれば鉱脈があるかもしれん」
「宝石商との提携も取れるかもしれないわね。その山ってどこに?」
「地図はあるか?」
私はデスクからサルバトーレを含んだ周辺各国の簡易地図を取り出す。
アベルと一緒にのぞき込み、場所を確認。
「ここだ。海辺が近くてな。場合によっちゃ地下水もあるだろうから工事には慎重になる所だ」
「なるほど……海か……」
ふと、私はある事をおもいついた。
「海辺の方に商売の手は回せないのかしら?」
「海? サンゴでも捕るのか?」
「それも素敵だけど、海よ? 塩を作りましょう。戦争ですもの、お塩はいくらあっていいもの」
中世といった時代背景において塩は貴重な取引であり、資産にもなる。ただし、塩の製造に関しては、今のところ、私は関わるつもりはない。それはまた分野の違う問題が発生するからだ。
私がやるのは塩を製造する各所に石炭を売り込むこと。ついでに炉の方もね。
できることなら、岩塩を産出する山なりを手に入れればよいのだけど、こればかりは掘って、掘って、掘りまくってみつけないといけない。
一応、目星はつけてあるのだけど。
「それと、水晶は取れるのよね?」
「ごく少量、質は悪い」
「別にいいのよ、それで。それより、この戦争というタイミングを利用するわ。あなた、宝石言葉ってご存じ?」
「……? まぁ、花言葉に近いものであることは知ってるが、詳しくは知らんな。娼婦のねーちゃん連中は知ってんじゃないか?」
「いいの、いいの。これからやることはちょっとしたブームを巻き起こすことよ。錬金術師たちをかき集めて、あと格安の宝石の、かけらでもいいわ。それも集めるの。指輪とか、ネックレスとか、イヤリングにでも加工するわ。それを市場にだす」
「それは構わんが、売れんのかねぇ?」
宝石というものはただ宝石だからというだけで価値があるわけじゃない。厳しい条件をクリアしなければそれこそたとえルビーだろうがダイヤモンドだろうが価値は激減する。
しかし、安くても売れる方法はなくはないのだ。
むしろ、安い屑石だからこそ利用価値がある。
「戦争に行く恋人や夫の為、つくす女。どこかではラブロマンスでも起きるのでしょう。なら私たちはそれを応援するだけよ。そうねぇ、売り出しはこうしましょうか。愛を呼ぶ、石とかね」
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