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異世界帰りへ③ 英雄は○○を好みます
出待ち
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結局のところマノンが部屋にいた理由は、日本で引きこもるためには俺の好感度を上げて連れ帰ってもらう必要があると言うことと、単に引きこもりすぎて昼夜逆転……というか一日という感覚を失ってしまい、早朝までずっと起きていたからだそうだ。
「おやすみなさいです」
「って、俺のベッドで寝るんかい」
「カーテンは開けないでくださいね。寝てる間は魔法を使いたくないので」
「俺は日光を浴びたいんだが」
「じゃあ私の部屋でどうぞ」
部屋分けの意味って一体……。
しかしこの世界で引きこもって、何が楽しいんだろう。大した娯楽があるわけでもないし。
いや、それとも引きこもらざるを得ない理由があるのか?
「……仕方ないな」
どうにかして自分の部屋に帰ってもらいたいところだったが、くー、すぴー、と寝息を立て始めてしまった。口も微妙に開いていて無防備感が凄い。
この世界は……少なくともこの国は、寒い。
一日の体感時間に対して最初から大きな違和感が無かったこと、更に一年が三百六十日と閏月で計算されていることから、この世界は地球とそっくりか、もしくは地球そのものは同じままに発生したパラレルワールドではないかとも想像できる。
要するに違和感が少ない。
しかし春夏秋冬の巡りが悪く、冬が長く夏と言えるほど暑い時期が短い。日本で言えば山間部や東北から北海道ぐらいの気候と言えるだろう。
まあ十時大陸の南側は多少温暖な気候だったが。
逆に北側は極寒で冬の時期には二度と行きたくない。この五年で一番死を意識したのは北半島で吹雪に見舞われた日だった。
英雄の力もユニークスキルも、天気には勝てない。
既に冬の峠は越したけれど、まだ寒さは残っている。俺はマノンに厚手の毛布をそっと被せてから部屋を出た。
「……ん、どうした?」
部屋を出ると正面に、パティがいた。
「用があったのですが、人の気配がしましたので、ここで待たせてもらいました」
「ああ、マノンが忍び込んできてる」
「…………意外と、あの小娘にも優しいんですね」
優しい、って。
毛布掛けてあげた時に扉は閉まっていたし、ただ部屋に置いておいてやることを言っているのか? それで優しい扱いされるほど普段が非道なつもりはないけどな。
「日本の引きこもり環境を口にしたのは失敗だったよ」
「そのようですね。まさかあれほどの力を持つものがこの国にいるとは――」
パティはわかりやすく、大きな溜息を吐いた。
国を代表する賢者様としては、平民の、それも引きこもりのマノンに魔法の実力で上を行かれたことが気にくわないのだろう。
当然の感情でもあるとは思う。
「あれ? どうしたの二人とも」
隣の部屋の扉が開いてリルが出てきた。
朝早いのに髪一本乱れた様子がない。かと言って化粧が濃いわけでもないし、ほんと見た目だけなら理想だ。
この子と遅れた青春を取り戻すようなことができていれば…………惜しいなぁ。
「おはようございます、リル様。国王陛下からハヤトさんを呼ぶよう仰せ付かりましたので、部屋の前で待機していたところです」
「ふーん。どんな用かしら」
「これからの仕事について……とのことです」
仕事か……。なんだろう。理想のヒロインを連れて日本へ帰る気満々だったからか、やたらと気怠く感じるな。
一応英雄なんだし、普通に生活できる程度の金銭ぐらい、無条件で国からもらっても良い気がするのに。
十字大陸統一の対価はないのか、対価は。
……いや、ヒロインが対価か。
国を挙げて学校まで作って、随分と金もかけたみたいだしなあ。結果が最悪だけど。
「じゃ、私も行く!」
「リル様が?」
「昨日から暇で暇で仕方ないのよ。ただ寝て起きてご飯食べる人生なんて、ペットみたいじゃない」
ほう。
この国は王権制度で、俺の見てきた王族の中には仕事らしい仕事を持たない人間もいた。
妾の子とは言えリルも王族。権力を笠に着ればそういう人生も選べるだろうに、見上げたものだ。
「その言葉をマノンにも言ってやってくれ。あいつペット生活を夢見てる。才能あるのに怠けすぎだ」
「んー、マノンちゃんには引きこもる理由があるのかもしれないし、それが一概に怠けてるとは言えないと思うわよ?」
なにこいつ、実は聖女なの? 引きこもりに理解がある。
人間の行動ってのは何かしら理由や原因があって、本当に引きこもりたくて引きこもっている人間というのは、実のところそういないと思う。
まあ、マノンはガチ勢だと思うけど。
「理由ねえ」
とりあえず意味深げに呟いておこう。それが無難だ。
「ま、今はお祖父様のところへ行きましょう。……仕事、何かしら。楽しみだわ」
ウキウキと、まるで朝日の中で踊る蝶のようだ。
こいつなら日本でもしっかり仕事しそうなのに、なんでネトラレなんか叩き込まれちゃったんだか。
大切な宝石を油性マジックペンで塗り潰された気分だ。どうにかして落とせないものかね……。
「おやすみなさいです」
「って、俺のベッドで寝るんかい」
「カーテンは開けないでくださいね。寝てる間は魔法を使いたくないので」
「俺は日光を浴びたいんだが」
「じゃあ私の部屋でどうぞ」
部屋分けの意味って一体……。
しかしこの世界で引きこもって、何が楽しいんだろう。大した娯楽があるわけでもないし。
いや、それとも引きこもらざるを得ない理由があるのか?
「……仕方ないな」
どうにかして自分の部屋に帰ってもらいたいところだったが、くー、すぴー、と寝息を立て始めてしまった。口も微妙に開いていて無防備感が凄い。
この世界は……少なくともこの国は、寒い。
一日の体感時間に対して最初から大きな違和感が無かったこと、更に一年が三百六十日と閏月で計算されていることから、この世界は地球とそっくりか、もしくは地球そのものは同じままに発生したパラレルワールドではないかとも想像できる。
要するに違和感が少ない。
しかし春夏秋冬の巡りが悪く、冬が長く夏と言えるほど暑い時期が短い。日本で言えば山間部や東北から北海道ぐらいの気候と言えるだろう。
まあ十時大陸の南側は多少温暖な気候だったが。
逆に北側は極寒で冬の時期には二度と行きたくない。この五年で一番死を意識したのは北半島で吹雪に見舞われた日だった。
英雄の力もユニークスキルも、天気には勝てない。
既に冬の峠は越したけれど、まだ寒さは残っている。俺はマノンに厚手の毛布をそっと被せてから部屋を出た。
「……ん、どうした?」
部屋を出ると正面に、パティがいた。
「用があったのですが、人の気配がしましたので、ここで待たせてもらいました」
「ああ、マノンが忍び込んできてる」
「…………意外と、あの小娘にも優しいんですね」
優しい、って。
毛布掛けてあげた時に扉は閉まっていたし、ただ部屋に置いておいてやることを言っているのか? それで優しい扱いされるほど普段が非道なつもりはないけどな。
「日本の引きこもり環境を口にしたのは失敗だったよ」
「そのようですね。まさかあれほどの力を持つものがこの国にいるとは――」
パティはわかりやすく、大きな溜息を吐いた。
国を代表する賢者様としては、平民の、それも引きこもりのマノンに魔法の実力で上を行かれたことが気にくわないのだろう。
当然の感情でもあるとは思う。
「あれ? どうしたの二人とも」
隣の部屋の扉が開いてリルが出てきた。
朝早いのに髪一本乱れた様子がない。かと言って化粧が濃いわけでもないし、ほんと見た目だけなら理想だ。
この子と遅れた青春を取り戻すようなことができていれば…………惜しいなぁ。
「おはようございます、リル様。国王陛下からハヤトさんを呼ぶよう仰せ付かりましたので、部屋の前で待機していたところです」
「ふーん。どんな用かしら」
「これからの仕事について……とのことです」
仕事か……。なんだろう。理想のヒロインを連れて日本へ帰る気満々だったからか、やたらと気怠く感じるな。
一応英雄なんだし、普通に生活できる程度の金銭ぐらい、無条件で国からもらっても良い気がするのに。
十字大陸統一の対価はないのか、対価は。
……いや、ヒロインが対価か。
国を挙げて学校まで作って、随分と金もかけたみたいだしなあ。結果が最悪だけど。
「じゃ、私も行く!」
「リル様が?」
「昨日から暇で暇で仕方ないのよ。ただ寝て起きてご飯食べる人生なんて、ペットみたいじゃない」
ほう。
この国は王権制度で、俺の見てきた王族の中には仕事らしい仕事を持たない人間もいた。
妾の子とは言えリルも王族。権力を笠に着ればそういう人生も選べるだろうに、見上げたものだ。
「その言葉をマノンにも言ってやってくれ。あいつペット生活を夢見てる。才能あるのに怠けすぎだ」
「んー、マノンちゃんには引きこもる理由があるのかもしれないし、それが一概に怠けてるとは言えないと思うわよ?」
なにこいつ、実は聖女なの? 引きこもりに理解がある。
人間の行動ってのは何かしら理由や原因があって、本当に引きこもりたくて引きこもっている人間というのは、実のところそういないと思う。
まあ、マノンはガチ勢だと思うけど。
「理由ねえ」
とりあえず意味深げに呟いておこう。それが無難だ。
「ま、今はお祖父様のところへ行きましょう。……仕事、何かしら。楽しみだわ」
ウキウキと、まるで朝日の中で踊る蝶のようだ。
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