異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ～命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします～

異世界帰りへ③ 英雄は○○を好みます

内政①

「国が乱れておる！」

「はい？」


　玉座の間に入って、なんかもう色々面めん倒どうくさいから堂々と王座の横まで行くと、突とつ然ぜん、国王が眉まゆ根ねを寄せて威厳を漂ただよわせる表情で語り始めた。


「どうも最近、不ふ倫りんを原因とした離り婚こんが多くてのう。滞とどこおりなく離婚となればそう問題はないのじゃが、現実には裁判所は元より孤こ児じ院いんまで悲鳴を上げておる。このままでは国の未来に拘かかわるじゃろう」

「そりゃ国家レベルでネトラレヒロインを育成してりゃ、そうなるだろ……」


　こんなもん、朝っぱらから溜ため息いきしか出ない案件だ。
　この世界の婚こん姻いん関係は全て裁判で決着を付ける。不倫だろうが性格のすれ違いだろうが全て。
　王族が元々『神の子』とされていた宗教的背景もあって、結婚も離婚も、裁判という形で王族に許しを請こう形になるわけだ。
　まあ王族がそうした細事さいじで実際に働くなんてことはそうなくて、極めて業務的に処理されるか、賢者の出番となるか、だが。


「十字大陸を統一したと言っても、元は中央と東西南北の五カ国。人種や文明、文化、様々なものが間違った形で混じり合ってしまうと統一国家としての礎いしずえが揺ゆらぎかねん」


　あっ、このジジイ、自分の非は認めない気だな？

　しかし――なるほどねえ。
　俺としては十字大陸統一を果たしてヒロインを頂き、そのまま日本に帰りゃ終しゆう了りようだったわけだけど、統一後の内政問題ってのも大変そうだ。
　ちょっと一苦労――なんてものでは済まないだろう。

　これでも俺は割と平和主義者で、できる限り円満な形での統一を目指した。
　とは言え、全ての武力衝しよう突とつを避さけるなんて不可能である。
　特に最初の頃ころは交こう渉しよう事を上う手まく進められずに沢たく山さんの死者、負傷者を出してしまった。
　そして宗教観の違いが原因で熾し烈れつな争いとなった、最後の東半島統一――。

　結果として、この国には多くの未亡人や孤こ児じが生まれたはずだ。

　兵は全て志願兵。衝突は俺だけの責任ではない。何せ最初の頃はまだ十六歳程度で、交渉ごとなんて務まるはずもない。
　できることは全てやった。そもそも、俺が始めた戦争じゃない。

　…………それでも、申し訳ないと思う。

　数々の失敗とそれに伴ともなう犠ぎ牲せいは、日本へ帰ったとしても生しよう涯がい忘れることができないだろう。


「獣じゆう害がいと犯罪の報告件数も増えてきておる。特に獣害は顕けん著ちよであり、獣を手なずけた輩やからが犯罪に利用しているという可能性も高い。――現在、我わが国くにが有する賢者は十二人。賢者は国王の権利代行者として裁判を執とり行おこない罪を裁く権利があるが、犯罪に離婚裁判と、十二人では間に合っておらん」

「賢者を増やせばいいんじゃないのか？」

「国王の権利を代行する者を、そう簡単に増やすことはできぬ。根本的な解決にもならん」

「まあ、そうか……」


　そう考えたらパティって凄いんだな。
　国王の権利代行は確か、王族にも認められていなかったはずだ。
　この爺さんは血けつ縁えんより自分の眼力を信じているんだろう。国家が同族経営のような状態になれば、王族と言えど、不適格者が権力を乱用し国を乱す可能性がある。

　下手な形で権力が集中して汚お職しよくや不正、混乱を招くよりも、厳しい基準で定めた数人で確実な国家運営を行うというのは、一つの最適解に感じる。
　ついでに言えば裁判をこなせる数を増やしたからと言って犯罪が減るわけもなく、根本的な解決に至らないという判断は至し極ごく真っ当だ。

　やはりこの爺さんは王としての器うつわを持っているのだろう。ただただ変態であることだけが残念である。


「そこで、の」


　中ちゆう途と半はん端ぱなところで言葉を切って、国王は侍じ従じゆうに目配せをする。
　すると侍従が徐おもむろに口を開いた。


「五つの国がまとまる統一国家として、我々は早さつ急きゆうに現状の把は握あくと根本的な原因の解消を謀はかりたいと考えております。そのために、ハヤト様の力をお借りしたいのです。全国土とは言いません。せめてこの中央区域だけでも」

「そんなこと頼たのまれてもなぁ」

「お願い致いたします」


　うーん。好感度ゼロの侍従に頭を下げられてもパフォーマンスだってわかっちゃうし……。
　しかしこの人も不ふ憫びんだ。
　ここまで嫌きらいな人間に正面から頭を下げるのは吐はき気けがするほど嫌いやな筈はずなんだけど、それでも国王が直々に頭を下げるなんてことがあってはならないのだろう。
　王権制度ってのは単純に見えて、実は難しいところもある。


「俺は十字大陸の東西南北に出ずっぱりだったからな。この中央区の事情には明るくないんだ」


　十字大陸は元の国の形をほとんどそのまま残し、東部、西部、南部、北部、そしてこの城がある中央区に区分けされた。
　これは、元々それぞれの国にいる王族や貴族が、それぞれの地域で権力者のままいられるための措そ置ちでもある。
　つまるところ、彼らの地位を確保することは、最小限の被ひ害がいで統一を進める上での有効な交渉材料だったわけだ。

　俺は更に発言を続ける。


「それに法律を熟知しているわけでもない。犯罪の判断基準もよくわからないのに、原因の究明も解消もあったものじゃないだろ」

「我が国の法律であれば、賢者であるパティが全て把握しておる。そしてワシが欲ほつしているのは、日本の文明文化じゃ」

「日本の……？」

「ハヤトの話から聞く日本という国家が、我が国よりも遙はるかに繁はん栄えいし安定していることを、ワシは常々羨うらやましく思っていた。人々は真面目に働き、規律を持ち、犯罪も少ない。誠まことに素す晴ばらしい国じゃ」

「そりゃ……どうも」


　自分の生まれ育った国をこうストレートに褒ほめられると、反応に困るな。実際のところそんなに良いところばかりじゃないってことも、身に染しみて知っているわけで。
　それでも文明のレベルで言えば、流さ石すがに天地の差だ。


「引き受けてはくれぬか？」