異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ~命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします~

本山葵

文字の大きさ
36 / 93
異世界帰りへ④ 魔法は時として○○にもなります

美しき、なすりつけあい

しおりを挟む
 派手な行動に出ると、思わぬ幸福に出会うことが多くなる。
 人はそれぞれ違う知識と経験を持ち、違う立場から物事を見て、違う評価を下すものだ。

 だから多くの目に映ることで、様々な反応を得ることができる。

 この扉の先にあるものは、国王が直接姿を現すことのある玉座の間。扉をかんする者だけではなく、それをかんとくする者が必ずいるはず――。
 そう思ってピエロになったつもりで立ち居振る舞ったわけだけれど、れた魚は想像以上の大物だった。
 扉を守る兵は声を大にして、しんの名を呼ぶ。


「レイフ様!」

『ぶよんっ♪』


 ――レイフ・チェンバーズ。
 貴族出身の彼は国王のかかえるじゆうの一人である。
 リルをしようかいされた場に居合わせて、最も早く俺への好感度をゼロにし、今朝は国王に代わって頭を下げてきた人だ。

 そんな彼が感情を動かしたというならば、事態は打開に向かっていると言えるだろう。
 しかし何らかの事情がなければ、好感度ゼロの相手に感情を揺さぶられることなど無いはずだ。

 …………ま、あの国王なら侍従を困らせる事情の一つや二つぐらい持ち合わせているだろうとんでいた。
 国中の美女に年齢もこんこんすらも問わず、本気でネトラレ属性を叩き込むぐらいだ。
 むしろそこだけが問題で他はせいれんけつぱくと考えるほうが、無理がある。変態だし。


「構わぬ。私は彼の振る舞いを好んでいませんが、十字大陸統一の英雄であることは、まぎれもない事実。――――国王陛下はこの五年、国の命運を英雄にたくしていた。我々貴族や王族ではなく、彼という一人の人間を信じたのです」

「しかし――っ」

「責任は全て私が持ちましょう。通しなさい」

『ぶよんっ♪』


 想像以上にスムーズな展開だけれど、その分、裏にあるものが大きそうで怖さもある。
 何も困っていなければ知らぬ存ぜぬをつらぬいても、構わなかったわけで。
 俺は座ったまま軽く居住まいを正して、チェンバーズ家の当代にかしずこうとした。しかし――。


「従順な振りなどせずともよいでしょう。うやまいを持たない者に傅かれても、仕方がありません」

「…………そっか。じゃあ普通にしてるわ」


 スクッと立ち上がると兵が「なっ!?」と驚いたが、この人もほんとチョロいな。あんな見え見えの演技を少しでも本気で受け取っていたなんて。

 しかしレイフ・チェンバーズ――。
 彼には、ライカブルなんて無くても相手の心情を察する力があるようだ。こういう相手は、祭り上げられてえらぶる人間より、ほど扱いが難しい。


「でもレイフさん。俺はあなたに敬いを抱いていますよ」

「…………はっはっは。英雄も冗談を言うのですね」


 鼻で笑っていつしゆうされたけれど、これは本心だ。
 あと俺は元来、年上に対して敬語を使うことが普通と育てられた、典型的な日本人である。
 あえて悪態をつく場面か、もしくは本気で怒ったり怒る気もしないぐらい呆れている場合を除いて、爺さんをジジイなんて呼ばないし(ネトラレの一件以来、心の中ではしょっちゅう思うけれど)、同じように親より年が上であろうレイフさんと対等に会話をわすのは、普通じゃない。


『ぶよんっ♪』

「あなたは『ライカブル』がどういうスキルかを知っているはず――。レイフさんの俺に対する好感度はゼロでした。今は少し、違いますが」

「ふむ――。それは……どうでしょうか」


 しっかし、このスキルを使っていると色んな人がツンデレに見えてくるんだよな。
 親より年上の貴族が内心のさいな変化を当てられて、僅かではあるが目をそむける。その姿は、とても可愛らしく感じられた。
 本来は気付かないような、ほんの少しのデレが目に見えてしまう。


「……厄介な異能をお持ちですな」

「嘘は言っていません。今朝のあなたは好感度ゼロの俺に対して、国王陛下に代わって頭を下げてきました。嫌な顔を一つも見せずに――。これこそプロフェッショナルの仕事であり、国王陛下へ本当にけいの念を抱いている証だと感じました」

「私は名門チェンバーズ家の当代。陛下への畏敬も名門の名をよごさぬ仕事も、当然の行いでしかありませんよ」

「そのチェンバーズ家の当代が、特別の事情をゆるす――。何か、理由があると考えても良いですか?」


 こういう推理みたいなものは、ものぐるいで身に付けた特技だ。
 けれどライカブルという前提ありきだから、日本に帰ったら使えなくなってしまうだろう。
 スキルそのまましとか、できたらいいんだけど。

 十六さいの自分にその発想があれば、ヒロインほうしゆうよりライカブルを持ち越して、日本で好感度の高い相手を探す手段もあったのに。

 ……いや、ネトラレを仕込むなんて超展開を読むのは、土台無理な話か。

 第一ここ中央区の人間は、日本人より僅かにはだが白く、かみや目の色が多種多様で、男女を問わず目鼻立ちの良い人間が多いように感じられる。
 そこにかれないと言えば、嘘になってしまうだろう。
 外見が全てなんてことは有り得ないと思っているけれど、恋愛や結婚の相手が外見も中身もりよくてきだったならば、それはきっと幸せなことだ。


「…………知っての通り、城の中に正体不明の生物が現れています。もしも原因が陛下ならば、被害が少ない間に止めて頂きたい。…………それは、陛下に仕える私たちには不可能なことでしょう」

『ぶよんっ♪』

「なるほど……。誰も止められないから、俺が止めるしかない、と」

「……陛下は、この先におられます」


 そうだ、とは言えないってことか。
 しかし責任は取る――とまで言っているんだ。この人は上辺のめいよりも現実リアルを優先している。
 信用に足る人間と判断して良いだろう。

 そういう話であれば、あとは俺が勢いよく中へ踏み込めば良い。強引に押し入ったことにして、レイフさんに責任なんて取らせない。
 ――と、扉に手をけた瞬間だった。


『ぶよよんっ♪』


 あ、今のは大きいな。
 一瞬城の中庭の辺りへ意識を奪われると、急にリルが、しとやかな調子で言葉をつむいだ。


「レイフさん、あなたがそこまでの責任を背負う必要は、ありません」


 こいつのことも置いていくつもりだったんだけど……。だってなぁ。そうすれば『俺が全て独断でやった』と言って、事は済むわけだ。
 責任負わされたところで、俺はそもそも王族貴族から嫌われているし、国王はヒロイン報酬のけいやくがある限り俺のことをになんてできないわけで。

 誰かを傷つける力尽くでの突破が嫌だったから、この方法を選んだまでのこと。
 ここから先が罪になるのなら、背負うのに適しているのは、どう考えても英雄よそものの俺だ。
 しかしリルは二の句を継いでしまう。


「私が、王族の命令でうなずかせたということにしましょう」

「ですが――っ。いえ、なりません」


 レイフさんは真剣な表情で申し出を断ろうとする。


『ぶよんっ♪』

「どうせ王族の中では一番下の存在ですから。私の扱いが今より悪くなることは、ありえないんです。……それに、こんなことを独断でされて、もしご家族やご親族が不幸な目にったら、レイフさんはチェンバーズ家の当代として、どう責任を取るおつもりですか?」


 ごもっとも……なんだけど。
 リルが良い人間だと、ひたすら俺がめられていくというか……。だからなんでネトラレなんか仕込まれちゃったの? この子。

 少しぐらい気性が荒くたって許容はんどころか、全部愛せた気がする。
 今の感じだと死の魔法リミデスだって、あやまれば解いてくれるだろうし。


「…………おっしゃるとおりです。しかし――」

『ぶよよんっ♪』


 ひんが増えてきたな……。


「ここは、私に任せてください」


 リルは胸に手を当てて、信頼してほしいと願い出る。
 めんどうごとをかかむ性格だって、そんなに嫌いでもない。どうしたものかねぇ……。


『ぶよんっ♪』


 …………ほんと、どうしたもんかね、この国。
 十字大陸の争いは百年以上続いていたそうだ。それを可能な限り平和的に解決したってのに……。なんでいきなりパズルゲームのしんりやくなんか受けてんの?

 名門貴族と王族がかばい合う美しいやりとりも、ぶよんっ♪ ぶよよんっ♪ の効果音一発で台無しである。


「リル、もう行くぞ。戦ってる人がいるんだ。せいしやが出る前に急がないと――」

「――うんっ」


 さぁて、あのネトラレ国王は、今度は何をしでかしているのかねえ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...