異世界帰りは寝取られ令嬢と共に。 ～命がけで頑張ったので、ただ可愛すぎるだけの人はお断りします～

異世界帰りへ⑤ 国王は新たな○○を画策する

国王のお仕事

　都合よく玉座の間に国王がいるということで、今回はあっさり通してもらえた。
　まあマノンに爺さんの居場所を調べさせてから来たわけで、先に知っていたんだけれど。

　それにしても今回はやたらあっさり通されたもんだ。
　どうせあの爺さんのことだから、『ゲーム中は誰も立ち入らせたくないのじゃ！』とか、そんな感じで扉とびらを閉じさせていたのだろう。
　今は『ちゃんと仕事をしているワシを見るのじゃ！』の状態だと推測できる。邪じや推すいしすぎか？
　まあいいや。
　俺も、仕事をさせてもらおう。


「国王陛下、犯罪者を引ひっ捕とらえて参りました」


　わざとらしく傅かしずいて言うと、首根っこを捕つかまれた状態のパティが「犯罪者！？」と声を大にする。


「賢者が盗撮魔でした。ここは厳正なる裁きを――」


　パティがわんわん泣きわめく。うるさいなぁ、もう。


「ほう。パティが盗撮とな――」

「はい」

「しかし彼女は賢者の中でも特に仕事熱心じゃ。証拠がなければ裁くことなど、できはせぬのう」

「盗撮魔法を使い、更には『健全なのぞきはお風呂まで』――と、自白しております」

「自白だけで全てを決めることはできぬじゃろう。『疑わしきは被ひ告こくの利益に』。日本では、そう表現するようじゃの」


　推定無罪――か。
　一度刑けい事じ裁判になれば有罪率九十九パーセントを誇る日本でこれが守られているかと言われると、色々と口を濁にごしたくなるけれど。

　推定無罪は近代法の大原則である。
　つまるところ罪というものは、確定するまで被告を無罪と推定するわけだ。そうなると無罪を立証する必要はなく、まずは有罪の証拠をそろえて立証しなければならない。
　今回の件で言えば、俺がパティを有罪と示す証拠がなければ、パティは無罪というわけだ。

　というか自白を絶対としないなんて、ある意味、日本より進んでるじゃねえか……。
　日本じゃ自白はイコール真実と言ってもいいぐらいの力を持つからな。|冤えん罪ざい《えんざい》とか恐おそろしすぎる。


「さて。過去・・におけるパティの犯罪を立証することが、可能なのかの？」

「くっ……」


　しかしこの爺さん、恐らくわざと言ってやがる。
　賢者の犯罪なんて大不祥事が出回っちゃ、国にとって良いことなんてないもんな。
　ただ、それでも俺は被ひ害がい者しやなわけだ。


「では、パティの行動を監視させてください」

「ならぬよ」

「ちっ」


　あ、思ったことがそのまま声に――。
　まー、いいや。
　面めん倒どうくさくなって、国王の前まで階段をのっしのし上った。隣となりにいる侍じ従じゆうことレイフ・チェンバーズさんは色々とわかってきたのか、軽く苦笑いである。


「なあ爺さん、パティのことを働かせすぎだろ？」

「わかっておるよ。だからこそ日本の法を取り入れようとしているのじゃ」


　日本の法――ね。
　俺はついさっき、知らなくていいことを知ってしまった。

　マノンの魔法で国王の居場所を確定させてから向かおうと提案して、マノンも『国王は公人』と納得してくれたわけだ。この時間なら公務の真っ最中ではないか――というパティの話も後あと押おしになって、居場所の確認にだけ魔法を使わせて貰もらうことにした。
　まあ、パティとしては『公務の真っ最中だから邪じや魔ましちゃ行けませんよ』とするつもりだったようだけれど。

　しかしそこに映し出されたのは、見たことのない暗い部屋で、複雑な魔ま方ほう陣じんの真ん中に立って何かの呪じゆ文もんを詠えい唱しようしている国王の姿だった。

　――彼は言った。
　ヒロイン報ほう酬しゆうに納得せず自らこの世界に留とどまることを希望している俺のことを、術で引き留める必要が無くなった――と。
　召喚術は一度行使すればお終しまいというものではなく、効果は有限。召喚された者が帰りたいと願ったなら、それを弾はじき返かえす強い召喚術を行使し続けなければ効果が消えてしまう――ということだろう。

　ならばこの召喚術は、一体、何をしている？
　俺ではない、何を召喚しようとしている？
　疑問に思ったところで、一つの憶おく測そくが脳のう裏りを過よぎった。


『国王の野望は、十字大陸の統一だけだったのか？』


　もしも、その先があるとすれば――。


「だけどなぁ。日本の法をこの国流に取り入れたところで、結局人を裁くのは賢者の特権みたいなもんだろ？　この国の文化レベルで地方裁判所とか作ったらめちゃくちゃな裁判が横行しそうだし。――ぶっちゃけ、何百年続いた戦争を終わらせた名君・・のやることじゃないと思うけどな」


　わざとらしく疑問を強調すると、国王の眉まゆ根ねが寄った。


「何を言いたいのか、わからんのう」

「色々と『条件』が整ってきている――。そういうことじゃねえのか？」


　一気に核かく心しんへ迫せまると、国王は僅わずかに眉まゆを動かして、次いでニッと口角を上げながら笑った。


「もうすぐじゃ。――なに、悪いようにはせぬ。結果を楽しみにしているがよい」

「否定はしないのかよ――。相変わらず、質たち悪いな」

「綺き麗れい事ごとを語る善人に国王が務まるわけないじゃろう？」

「ははっ。そりゃ納得だ」


　語らせることも無理。止めたところで、これでは聞く耳を持ってはくれないだろう。
　ならば、他へ探さぐりを入れて真相に近付くしかない。


「パティの処しよ遇ぐうはどうすればいい？」

「牢ろうに入れるわけにはいかぬ。しかし働き過ぎという指し摘てきは尤もっともじゃ。二、三日、休日を与あたえるとしよう。自由に・・・動くが良い」

　本当、食えない爺さんだ。
『パティをヒロインに指定することは可能なのか』と問いたいところだったけれど、無む駄だだな。賢者は国にとって貴重な戦力。この国が十字大陸統一の先を見ているとするなら、そこを削そぐ気はないだろう。

　そうなると問題となるのは、常識外の魔力を持つマノンと王族であるリルが、なぜヒロイン候補になんてなっているのか――。
　一いつ般ぱん人じんを仕立て上げたほうが良かったように思えるが……。


「念のため確認するけど、リルとマノンは、俺がいつヒロインに指定したって構わないんだよな？　突とつ然ぜん同意しないとか、そういうことは――」

「ないと約束しよう。もっとも、彼女たちをヒロインとするにはハヤトの覚かく悟ごが必要じゃが――の」


　一体いつから動いていたのやら……。
　俺は国王とレイフさんに一礼をしてから、部屋を出た。
　問題のリルにも、会いに行こう。