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異世界帰りへ⑤ 国王は新たな○○を画策する
リル⑪ プロヒロインは怠らない
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玉座の間を出て、リルの部屋へと向かう。
ドアをノックすると三秒ぐらいで開けてくれた。
基本的にこいつは、ノックをされてから開けるまでが早い。常に準備ができていると言わんばかりである。
「どうしたの? ――って、珍しい組み合わせね」
「色々あってな」
リルは可愛らしく小首を傾げた。
ほんと、たった一つの仕草がすんごい可憐で困る。さすが養殖ヒロイン、よく訓練されたものだ。
俺とパティは一緒に旅をした仲間であり、マノンは俺の部屋に入り浸っているから、それぞれとの組み合わせは珍しくない。
けれどパティとマノンが一緒にいるというのは、確かに珍しい。パティはマノンを嫌っているし、マノンはパティを蔑むかの如く煽るからな。
『ぷぷっ。そんなに一生懸命勉強して私の下なのですか? ふえふえふえふ』――――ってな具合に。
「ちょっと俺の部屋に来てくれないか」
「ここじゃダメなの?」
「いや、その……女の子の部屋とか、緊張するし」
「なんでいきなり純情キャラみたいになってるのよ。気持ち悪っ! ――別に、ハヤトくんに見られて困るものなんて全部仕舞ってあるから、問題ないわ。入って」
見られちゃ困るものはあるんだな。――って、そりゃ下着とか色々あるわな。
俺としてはマノンの魔法が展開できて人の目に触れない場所であればどこでもいいから、この際、誰の部屋かはあまり関係がないか。造りは同じだし。
「じゃあ、お邪魔します」と軽く緊張しながら言って中へ歩を進める。後ろからマノン、パティが続いた。
うわーっ、なんかすっげえ良い匂いがするんだけど!
めっちゃキレイに片付けられているし、一個だけとはいえザ・女の子の部屋の定番、ぬいぐるみも置いてある。大きめの姿見もあって、こんな中世ファンタジー世界なのにきっちり『女の子の部屋感』が醸し出されている。
ちょっとした感動ものだな……。
ここへ住み始めた日に少しだけ中を覗き見てしまったけれど、あの時は衣装ケースやら調理道具やらが散乱していて、今の様子とは全く違っていた。
初日に部屋を覗かれたくなかったのは、まだ女の子の部屋になっていないから。
今入れてくれたのは、もう女の子の部屋が完成しているから――ってことだろうか。
過剰にフェミニンじゃないのが凄く良い塩梅だ。これも俺の好みを把握してのことだろう。
「――あっ、なんか変なこと考えた顔してる!」
人差し指を軽く上に向けながら、のぞき込むような姿勢で言われる。そのあざとい定番ポーズやめてくれ。見目が良いと破壊力あるから。
「へっ、変なことは考えてねえよ! ……ただその、この部屋も俺の好みに合わせたのかなぁ…………って。もしそうだとしたら、なんか悪いな、って、な。そう思っただけだ」
「んーっ、確かにハヤトくんの『理想の女の子の部屋』は教えられたわ」
なんか個人情報が筒抜けになっているみたいで、精神的に堪えるものがあるな……。
「『田舎から上京してきたばかりの大学生が住んでいる部屋』――だっけ? お祖父様は『地方の村から城下町に引っ越してきた学生のイメージじゃ!』って言っていたけれど、全然想像が付かないのよね。だからこれは、私流のアレンジ」
「…………なんかごめん。ほんとごめん」
「具体的なところは、ピンクのカーテンとちっちゃい折りたたみ式テーブル。あとシングルベッドにぬいぐるみが少々――。観葉植物とマグカップがあるとなお良し。部屋に男を入れたのは初めて――」
これ、ヒロイン養成という名の性癖暴露じゃね……?
「一応、全部ご希望通りにしてありますけど?」
言われて一つ一つの小物を見ると、確かにぬいぐるみ(この世界で人気の、猫耳の熊っぽい獣を元にしたマスコット)はシングルベットの枕横にきっちり置かれているし、ちっちゃい木製の折り畳みテーブル、そして観葉植物とマグカップもあり。
ただその木製テーブルが、いかにも腕の良い木工職人が作りました――って感じで、俺の思い描く『とりあえず安くて軽いものを選びました』とは真逆になっているのが痛い。
客を招く茶室にでも置いてほしいぐらいの良いテーブルなんだけど……ね。
観葉植物も、小さくて丸っこいサボテンぐらいでよかったんだけれど、全高二メートル近い南洋系のものがドデンと部屋の隅に構えている。部屋そのものが俺の思い描いていたものより二倍以上広いから、大きさの割に目立たなくて済んでいるけれど。
…………細かく見ると、やっぱり少し違うな。
もっとこう、百均とニ○リで集めた家具で仕上がっている感じをイメージしてたんだけど。
「この匂いは、香水か?」
「えーっと、ちょっと待っててね」
そう言うとリルはベッド横の小振りな棚へ向かって歩き、引き出しから一冊のノートを取り出した。
「香水……香水……。あ、あった! 『香水は二十台中盤からが好ましい。特に十代の女の子はシャンプーの香りがベスト』。――私は十八だから、香水は使わないようにしてるわ」
「ごめんなさい。プロヒロインを侮っていました。本当にごめんなさい……!」
学校で教わった『俺の好み』をしっかりノートに書き写して勉強していた――ってことだろう。首席の名は伊達じゃないな。あとやっぱり性癖の暴露だ、これ。
「なんかさっきから謝られてばっかりなんだけど。――ふふっ、まあ可愛いから、いいわ。で、要件ってなに?」
おぅ……。年下に可愛いとか言われてしまったよ。
マノンは俺とリルの会話の最中、遠慮なくベッドにドサッと乗っかかって、靴を放り出してから思う存分に足を伸ばして座っている。これはこれで小ささが強調されていて、ぬいぐるみみたいに可愛い。
他方、パティは散々泣いて疲れたのか、立ったまま首の角度を保持できず何度もカクッと頭を落としていた。子供かお前は! うちの母ちゃんが『あんたは立ったまま寝る子でねえ』って言ってたの思い出したわ!
「とりあえず、これを見て欲しい。――マノン、頼む」
「りょーかいですっ」
珍しく張り切って敬礼のポーズまでしてくれたマノンが、例の盗撮魔法で問題の場所を映し出した。
ドアをノックすると三秒ぐらいで開けてくれた。
基本的にこいつは、ノックをされてから開けるまでが早い。常に準備ができていると言わんばかりである。
「どうしたの? ――って、珍しい組み合わせね」
「色々あってな」
リルは可愛らしく小首を傾げた。
ほんと、たった一つの仕草がすんごい可憐で困る。さすが養殖ヒロイン、よく訓練されたものだ。
俺とパティは一緒に旅をした仲間であり、マノンは俺の部屋に入り浸っているから、それぞれとの組み合わせは珍しくない。
けれどパティとマノンが一緒にいるというのは、確かに珍しい。パティはマノンを嫌っているし、マノンはパティを蔑むかの如く煽るからな。
『ぷぷっ。そんなに一生懸命勉強して私の下なのですか? ふえふえふえふ』――――ってな具合に。
「ちょっと俺の部屋に来てくれないか」
「ここじゃダメなの?」
「いや、その……女の子の部屋とか、緊張するし」
「なんでいきなり純情キャラみたいになってるのよ。気持ち悪っ! ――別に、ハヤトくんに見られて困るものなんて全部仕舞ってあるから、問題ないわ。入って」
見られちゃ困るものはあるんだな。――って、そりゃ下着とか色々あるわな。
俺としてはマノンの魔法が展開できて人の目に触れない場所であればどこでもいいから、この際、誰の部屋かはあまり関係がないか。造りは同じだし。
「じゃあ、お邪魔します」と軽く緊張しながら言って中へ歩を進める。後ろからマノン、パティが続いた。
うわーっ、なんかすっげえ良い匂いがするんだけど!
めっちゃキレイに片付けられているし、一個だけとはいえザ・女の子の部屋の定番、ぬいぐるみも置いてある。大きめの姿見もあって、こんな中世ファンタジー世界なのにきっちり『女の子の部屋感』が醸し出されている。
ちょっとした感動ものだな……。
ここへ住み始めた日に少しだけ中を覗き見てしまったけれど、あの時は衣装ケースやら調理道具やらが散乱していて、今の様子とは全く違っていた。
初日に部屋を覗かれたくなかったのは、まだ女の子の部屋になっていないから。
今入れてくれたのは、もう女の子の部屋が完成しているから――ってことだろうか。
過剰にフェミニンじゃないのが凄く良い塩梅だ。これも俺の好みを把握してのことだろう。
「――あっ、なんか変なこと考えた顔してる!」
人差し指を軽く上に向けながら、のぞき込むような姿勢で言われる。そのあざとい定番ポーズやめてくれ。見目が良いと破壊力あるから。
「へっ、変なことは考えてねえよ! ……ただその、この部屋も俺の好みに合わせたのかなぁ…………って。もしそうだとしたら、なんか悪いな、って、な。そう思っただけだ」
「んーっ、確かにハヤトくんの『理想の女の子の部屋』は教えられたわ」
なんか個人情報が筒抜けになっているみたいで、精神的に堪えるものがあるな……。
「『田舎から上京してきたばかりの大学生が住んでいる部屋』――だっけ? お祖父様は『地方の村から城下町に引っ越してきた学生のイメージじゃ!』って言っていたけれど、全然想像が付かないのよね。だからこれは、私流のアレンジ」
「…………なんかごめん。ほんとごめん」
「具体的なところは、ピンクのカーテンとちっちゃい折りたたみ式テーブル。あとシングルベッドにぬいぐるみが少々――。観葉植物とマグカップがあるとなお良し。部屋に男を入れたのは初めて――」
これ、ヒロイン養成という名の性癖暴露じゃね……?
「一応、全部ご希望通りにしてありますけど?」
言われて一つ一つの小物を見ると、確かにぬいぐるみ(この世界で人気の、猫耳の熊っぽい獣を元にしたマスコット)はシングルベットの枕横にきっちり置かれているし、ちっちゃい木製の折り畳みテーブル、そして観葉植物とマグカップもあり。
ただその木製テーブルが、いかにも腕の良い木工職人が作りました――って感じで、俺の思い描く『とりあえず安くて軽いものを選びました』とは真逆になっているのが痛い。
客を招く茶室にでも置いてほしいぐらいの良いテーブルなんだけど……ね。
観葉植物も、小さくて丸っこいサボテンぐらいでよかったんだけれど、全高二メートル近い南洋系のものがドデンと部屋の隅に構えている。部屋そのものが俺の思い描いていたものより二倍以上広いから、大きさの割に目立たなくて済んでいるけれど。
…………細かく見ると、やっぱり少し違うな。
もっとこう、百均とニ○リで集めた家具で仕上がっている感じをイメージしてたんだけど。
「この匂いは、香水か?」
「えーっと、ちょっと待っててね」
そう言うとリルはベッド横の小振りな棚へ向かって歩き、引き出しから一冊のノートを取り出した。
「香水……香水……。あ、あった! 『香水は二十台中盤からが好ましい。特に十代の女の子はシャンプーの香りがベスト』。――私は十八だから、香水は使わないようにしてるわ」
「ごめんなさい。プロヒロインを侮っていました。本当にごめんなさい……!」
学校で教わった『俺の好み』をしっかりノートに書き写して勉強していた――ってことだろう。首席の名は伊達じゃないな。あとやっぱり性癖の暴露だ、これ。
「なんかさっきから謝られてばっかりなんだけど。――ふふっ、まあ可愛いから、いいわ。で、要件ってなに?」
おぅ……。年下に可愛いとか言われてしまったよ。
マノンは俺とリルの会話の最中、遠慮なくベッドにドサッと乗っかかって、靴を放り出してから思う存分に足を伸ばして座っている。これはこれで小ささが強調されていて、ぬいぐるみみたいに可愛い。
他方、パティは散々泣いて疲れたのか、立ったまま首の角度を保持できず何度もカクッと頭を落としていた。子供かお前は! うちの母ちゃんが『あんたは立ったまま寝る子でねえ』って言ってたの思い出したわ!
「とりあえず、これを見て欲しい。――マノン、頼む」
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