47 / 93
異世界帰りへ⑥ その学校は○○の痕跡を残す
リル⑬ ヒロイン養成学校
しおりを挟む
リルに先導されて、王城と城下町の境目にある『ヒロイン養成学校跡地』を訪れた。
跡地と言っても城の一部である建物が壊されるはずもなく、次の使い道が決まるまで内装がそのままになっているそうだ。
学校を作り直す案もあるとか。
まだ建物に入る手前、広場の中で、観光案内人のようにリルが解説する。
「これが養成学校の銅像。『サラマンダーに乗るカップル』です!」
色々と突っ込みたいところはあるけれど、今は無視しておこう。
「寝取られの初期段階をこうして心に刻みます」
「トラウマになるぞ……」
「最初の思い出がいかに深く綺麗なものであるかが、重要である。これはお祖父様が特に強く強調していたポイントです」
なんだろう。
俺たちの危惧することと、この学校、なんにも関係ない気がしてきた。
「この像は、学校ができた頃からあったのか?」
「私が十五の頃だったから……。三年ぐらい前かしら? そもそも、最初の頃は寝取られという言葉を教わった覚えもないのよね」
「なるほど……ね」
三年前から急にネトラレを仕込み始めたってことか。当初の目的から方針を転換する必要に迫られた――ってところだな。
「最初の頃は、どういうヒロイン像を理想としていたんだ?」
「そりゃ、ハヤトくんの好みの子に決まってるわ。確か当時は『背が小さくて、無口で、男性恐怖症気味の妹みたいな子。少し中二病気味でも可』……だったわよね。――――どうしたの? 顔、赤いよ」
「…………もう、こんな学校滅んじゃえばいいと思う」
過去の黒歴史暴露みたいになってるじゃん。
そりゃね、俺、妹いないから! 妹キャラが好きな時代もありましたよ。コミュ障だから、俺よりコミュ障な子を望みましたよ。ええ。…………悪いか!? 思春期のごく一部にそんな時代があったってよかろう!?
「よしっ、私、無口になる!」
赤面する俺の横で、マノンが勝手な決意を固めた。
確かに無口以外はマノンそのものなんだけどね。今はもうその設定、そんなに響かないからな?
「でも……やっぱ変だよな」
「うん。寝取られがハヤトくんの願望じゃなかったのなら、急にお祖父様の好みが入ってきていることになっちゃう」
ちなみにパティはお口にチャック中。
権力の犬である彼女が国王のやろうとしていることに探りを入れるなんて、以ての外なのだろう。
一緒に付いてきているだけでも良し、か。
ただ……。
「パティ、めっちゃ目が輝いてるぞ」
秘密を知りたい願望が強すぎるのか、目が『知りたい知りたい知りたい』と言わんばかりに輝いている。目は口ほどにものを言うって、こういうことか。
「よし。中に入ってみようぜ」
「うんっ」
それから校舎の中に入ると――。
靴を脱ぐ、いわゆる下駄箱が用意されていた。
「これも日本文化の象徴だ――って」
「うん。不覚にもちょっと感動した」
この中世西洋風ファンタジー世界じゃ、靴を脱ぐ文化なんてあるはずもなく。寝るときぐらいしか裸足にならないわけだ。
「おわっ、上履きじゃねえか、これ!?」
無論、靴を履き替える文化もない。
「日本から取り寄せたのじゃ! って」
「ここまでこだわるのかよ。凄えな……」
ただ、俺の通っていた高校、土足OKだったんだよねぇ。
「折角だから履いてみたら?」
「男用はないだろ。それに他人の上履きを履きたがる奴はいねえよ」
「女の子用なら、新品がいくらでもあるわよ? 誰かさんが『靴が汚れっぱなしの人は性格も緩い』とか、好き勝手なことを言ってくれたおかげで」
「俺もう、帰っていいかな」
これ以上は泣いちゃう。偉そうに何言ってんの俺……。
暗黒史に打ち拉がれている横で、マノンとパティが上履きに履き替える。
日本ならマノンは中学生。パティは大学生……か。
――――――いや、ちょっと待てよ。この学校には人妻も通っていたはずだ。つまり人妻がここで靴を脱ぎ、上履きを履いていた――ということか!
………………悪くない。むしろ、あり……だな。
「なんで靴を履き替えるだけで、鼻の下伸ばせるのよ。……はぁ、先行くわよーっ」
「変態の顔をしています」
「…………お口にチャックです」
三人の好感度がちょっぴり下がった。
跡地と言っても城の一部である建物が壊されるはずもなく、次の使い道が決まるまで内装がそのままになっているそうだ。
学校を作り直す案もあるとか。
まだ建物に入る手前、広場の中で、観光案内人のようにリルが解説する。
「これが養成学校の銅像。『サラマンダーに乗るカップル』です!」
色々と突っ込みたいところはあるけれど、今は無視しておこう。
「寝取られの初期段階をこうして心に刻みます」
「トラウマになるぞ……」
「最初の思い出がいかに深く綺麗なものであるかが、重要である。これはお祖父様が特に強く強調していたポイントです」
なんだろう。
俺たちの危惧することと、この学校、なんにも関係ない気がしてきた。
「この像は、学校ができた頃からあったのか?」
「私が十五の頃だったから……。三年ぐらい前かしら? そもそも、最初の頃は寝取られという言葉を教わった覚えもないのよね」
「なるほど……ね」
三年前から急にネトラレを仕込み始めたってことか。当初の目的から方針を転換する必要に迫られた――ってところだな。
「最初の頃は、どういうヒロイン像を理想としていたんだ?」
「そりゃ、ハヤトくんの好みの子に決まってるわ。確か当時は『背が小さくて、無口で、男性恐怖症気味の妹みたいな子。少し中二病気味でも可』……だったわよね。――――どうしたの? 顔、赤いよ」
「…………もう、こんな学校滅んじゃえばいいと思う」
過去の黒歴史暴露みたいになってるじゃん。
そりゃね、俺、妹いないから! 妹キャラが好きな時代もありましたよ。コミュ障だから、俺よりコミュ障な子を望みましたよ。ええ。…………悪いか!? 思春期のごく一部にそんな時代があったってよかろう!?
「よしっ、私、無口になる!」
赤面する俺の横で、マノンが勝手な決意を固めた。
確かに無口以外はマノンそのものなんだけどね。今はもうその設定、そんなに響かないからな?
「でも……やっぱ変だよな」
「うん。寝取られがハヤトくんの願望じゃなかったのなら、急にお祖父様の好みが入ってきていることになっちゃう」
ちなみにパティはお口にチャック中。
権力の犬である彼女が国王のやろうとしていることに探りを入れるなんて、以ての外なのだろう。
一緒に付いてきているだけでも良し、か。
ただ……。
「パティ、めっちゃ目が輝いてるぞ」
秘密を知りたい願望が強すぎるのか、目が『知りたい知りたい知りたい』と言わんばかりに輝いている。目は口ほどにものを言うって、こういうことか。
「よし。中に入ってみようぜ」
「うんっ」
それから校舎の中に入ると――。
靴を脱ぐ、いわゆる下駄箱が用意されていた。
「これも日本文化の象徴だ――って」
「うん。不覚にもちょっと感動した」
この中世西洋風ファンタジー世界じゃ、靴を脱ぐ文化なんてあるはずもなく。寝るときぐらいしか裸足にならないわけだ。
「おわっ、上履きじゃねえか、これ!?」
無論、靴を履き替える文化もない。
「日本から取り寄せたのじゃ! って」
「ここまでこだわるのかよ。凄えな……」
ただ、俺の通っていた高校、土足OKだったんだよねぇ。
「折角だから履いてみたら?」
「男用はないだろ。それに他人の上履きを履きたがる奴はいねえよ」
「女の子用なら、新品がいくらでもあるわよ? 誰かさんが『靴が汚れっぱなしの人は性格も緩い』とか、好き勝手なことを言ってくれたおかげで」
「俺もう、帰っていいかな」
これ以上は泣いちゃう。偉そうに何言ってんの俺……。
暗黒史に打ち拉がれている横で、マノンとパティが上履きに履き替える。
日本ならマノンは中学生。パティは大学生……か。
――――――いや、ちょっと待てよ。この学校には人妻も通っていたはずだ。つまり人妻がここで靴を脱ぎ、上履きを履いていた――ということか!
………………悪くない。むしろ、あり……だな。
「なんで靴を履き替えるだけで、鼻の下伸ばせるのよ。……はぁ、先行くわよーっ」
「変態の顔をしています」
「…………お口にチャックです」
三人の好感度がちょっぴり下がった。
0
あなたにおすすめの小説
【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした
夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。
しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。
やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。
一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。
これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる