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王位継承編⑤ 過去と、赦し
リル⑲ お祖父様
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久しぶりに国王と会ったのは、やはりゲーム部屋だった。
退位を表明して正式に王の座が空位となったものの、暫定の王として非常時には国を統率しなければならないらしい。
曰く『非常時など無いから問題ないのじゃ』ということだけれど、どうにもフラグを立てているようにしか感じないのは俺だけかねぇ。
しかしその暢気な爺さんも、俺たちが持ち出した話には食い付いてきた。
「ふむ。オメロが日本の情報をこちらへ送ってくれていたことは、確かじゃ」
オメロ・ジニ・ドアール。
ジニ家の当代であった、リルの父親。
そしてリルの母親を当時の旦那さんから、寝取った人。
どうにも、ろくでもない人の感じがするのだけれど。
ただ人望が厚かったことは事実のようで、戦場で王族の話は時々耳にしてきたけれど、彼の話はそれほど悪く聞かされていない。
もちろん平民を嫁としたことには、王族内での反発を買っていたようだ。
けれど平民にとってリルの両親の馴れ初めは、『シンデレラストーリー』そのものなわけで。
俺が率いた師団での評価は、かなり高いものだった。
平民を王族に引き上げた人が平民から高い評価を得るというのは、理解できることではある。
だからこそ人間性や行為の罪深さが、隠れてしまっているようにも思うのだ。これは俺が疑り深すぎるだけだろうか。
「お祖父様――。なぜ、私に黙っておられたのでしょうか」
「聞けば会いたくなるじゃろう?」
「…………はい」
「リルはファザコンの気があるから、の。まあ自分と母親を、身を呈して守ってきたのじゃから、気持ちはわかる。ワシとしても悪い息子だとは思っておらぬよ」
会えるわけではない、ということか。
「やりとりの手段は?」
「交換日記のようなものじゃ。こちらから送れば、あちらからも届く」
紙と紙なら対価として同等なのだろうか。
そこへ情報の価値が加わるとどうなるかはわからないけれど、そこを含めたとしても『異世界の情報』と『国王が直接したためた手紙』ならば成立しても不思議はない。
「保存してあるだろ。見せてくれ」
「召喚部屋の壁が一部、隠し倉庫になっておる。探してみるといい」
「まだ隠してるものがあったのかよ……」
「城とはそういうものじゃ。ここなど、隠された中のほんの一部にすぎぬ」
面倒くさいなぁ。
まあ探さないとどうにもならないわけで――と、俺とリル、マノンの三人で召喚部屋へ入って壁に不自然なところがないかをチェック。
コンクリートのようなもので堅牢に造られているから、叩いてみるとコンコンと高い音が鳴って固い感触が指に伝わるわけだ。
しかしその中で、奥のほうにある横一メートル程度の壁だけが、固いには固いのだがどうにも妙な温もりのある響きで鳴った。
まるで重厚な木製ドアをノックしたような感覚だ。
「取っ手はない。――じゃ、押してみるか」
十字大陸統一の中で隠し扉の類いには多く触れてきた。
偉い人間というのは不都合な物事を隠したがる傾向にあるようで、そういう類いを見つけ出すことは交渉材料となる。
仕掛けは様々なものがあったけれど、『壁を思いっきり押すと金具が外れる』というものは割と定番で……。
「ビンゴ」
こちら向きに倒れてきた木製の分厚い壁はチェーン金具付きで、四十五度に届かない程度まで開いて止まった。
中にあるのは重要そうな本や資料。
――――そしてRPGや恋愛シミュレーションゲームの、攻略本。
「――国の貴重な資料の中に攻略本が混ざってるとか、どういう管理の仕方してんだよ」
「ハヤトくん、これじゃないかな?」
「んー……。『異世界との交信記録』か。ズバリなタイトルで保管しやがって」
俺はそれに手を伸ばし、開かずリルへ渡した。
「私?」
「お前が一番読みたいだろ。プライベートなことでもあるんだから、まず先に読んでくれ」
「う――うん。ありがとっ」
それから小一時間、リルは懐かしいものを見るように感慨深げな顔で、一ページ一ページゆっくりめくって文字を眺めていた。
時々、その文字をなぞるように指を添える。
筆跡から父親を感じたのかもしれない。
他方、マノンは国王とぶよぶよ勝負に勤しみ始めてしまった。
彼女は国王を含めて王族全体を嫌っているけれど、よく考えたら国王もひきこもり気味だし、この二人って案外と相性が良いのかもしれない。
「終わったか?」
パタン――とノートを閉じる音がして、問うた。
リルは「お父さん、多分、生きてる――」と呟く。
「見てもいいか」
「うん。……多分、ハヤトくんがちゃんと読んだほうがいい」
たった一時間程度、祖父と父親の交換日記を読んだだけだというのに、げっそりと窶れたような顔をしている。
それも読み進めるにつれて、どんどん表情が暗くなっていった。これはもう、覚悟するしかあるまい。
俺は五年間に蓄えた知識で必死に文字を追って、一枚一枚順番に読み進めていく。
困ったことにというか、やはりというか、予想は当たっていた。
日本を知らない国王からすれば『そういうものなのか』と納得できたのかもしれないけれど、日本で生まれ育った俺からすれば不自然と思える点が多数ある。
――まず一年ほどかけて、オメロさんはゆっくり日本を知っていった。
その仮定には苦労が滲んでいて……。
『軍隊に保護されています』
『施設を移されました。どうやら軍隊ではないのかもしれません』
まあ多分、警察に身元不明者として保護されて、どこかで一旦寝泊まりをさせてもらい、然るべき保護施設へと入所することになったのだろう。
ここまでは問題ない。
運良く保護されて生き延びることができたという、喜ぶべき話である。
『信じられません。異世界者だけでなく、この国は他国の民に対しても保護をすると!』
『優しい平民に、美味しい料理。この国は素晴らしい! しかし、とかく人が多い。そして未知の文明。人間を必要としない乗り物は高度な魔法なのだろうか」
この国には車どころか蒸気機関車の類いすらもない。
賢者の数人が移動魔法を使えるけれど、まあちょっとだけ浮いてスイーッと動くだけだから、電動のスケボー程度か。
そんな中世世界から日本へ行けば面食らうことは間違いない。
ここもまあ、問題は無い。
だがその後、一年と少しが経過した頃にオメロさんから『提案』がなされる。
『魔法のような力の多くは【電気】と呼ばれるもので、雷の力を利用しているようです。あれほどの力を手懐けるとは、恐ろしい世界だ…………』
『しかし【太陽光発電機】があれば、太陽から電気を作り出せるそうです。電気は我が国の大きな力となるのではないでしょうか?』
『こちらでは平民の一般家庭ですら、屋根の上に大きな太陽光発電機を載せていることがあります。大容量バッテリーに蓄電をしておけば、太陽光のない雨の日にでも電気を使うことができるのだとか』
そして国王から太陽光発電機の対価として、大量の金塊が送られた。
『――――陛下、この世界には『テレビ』というものがあり、もしかするとそちらで日本の状況をご覧になることができるかもしれません。しかしテレビは高価でありまして、その、前回より多くの金塊を……』
国王は更に金塊を送り、液晶テレビが追加で届く。
『――――陛下、どうやら電波が受信できなかったようで、申し訳ありません。代案として、この世界にある『ゲーム機』をお試しになるのはどうでしょうか? 私も施設『ひまわり荘』で嗜んでおりますが、非常に愉快な娯楽であります。……しかしとても高価でして、液晶テレビより更に多くの金塊が必要となります』
どうも国の持つ金塊では前回と同じ量しか確保できず、国王は一旦保留したようだ。
ただ、ちょうどその頃に俺が南半島を統一したということもあって、国王は南半島の鉱山で採掘される美しい鉱石を合わせて送った。
『――――陛下。この金塊や石だけでは、どうにもなりませぬ。……しかし!! このオメロは国を、民を、陛下を、そして父親を尊敬しております! どうにか今回の対価で送ることのできるゲーム機をご用意しましたので、お納めください」
さーて。
日本での価格を整理しよう。順番づけるならば言うまでもなく
1.『太陽光発電機と大容量バッテリーのセット』
2.『液晶テレビ』
3.『スーファミ』
である。
しかし送られた金塊の量は『スーファミ』が最も多く、次いで液晶テレビ、最後に太陽光発電機と蓄電池のセット。
あれれぇー、おっかしいぞぉ~。って、俺でも言いたくなるわ!!
「おいリル。これは横領とかそういう類いの事件だ」
「おっ、横領!? そんな! でも、きっとなにか理由があって……!」
「マノンに実情を見せてもらえばいい」
ぶよぶよ勝負に勤しむ爺さんとマノンに声をかけて、マノンはすぐに七連鎖を決めると爺さんを瞬殺。普通に上手いな……。
「うーん……。情報が足りないと思います」
「お前の魔法でも無理なのか?」
「原点は変わらないのですよ。人物か場所の……今回で言えば人物のイメージが重要なのです。イメージすることが不可能であれば、リルのお父さんをピンポイントで映し出すのは無理です」
「具体的には、なにが足りていないんだ」
「ここまでで知れた情報は、対象者の父親と娘から与えられたものですよね。そういう好意的な視点も良いのですが、もっと人物像の奥行きを知らなければ……。本人の手紙がどれぐらいおかしいのかも、日本を知らない私にはどうにも伝わってきませんので」
「あくまでこの世界での、好意的じゃない、フラットな視点。もしくは悪い面も見なければ――ということか」
……悪い面?
「なあ、リル。前にも出た話だけれど、お母さんの元の旦那さんに会ってみないか」
「えっ……?」
「あまり言いたくはないけれど、俺が知っている限りで一番『オメロさんを悪く思っている人』だと思うんだ。その人からオメロさんの人物像を聞くことができれば、確実にプラスに働く」
「でも。私はきっと、嫌われて――」
「わかんねえよ、そんなの。まずはその人を特定して会ってみようぜ。なんならリルは会わなくても、俺とマノンが会えばいいんだ」
やはり父親の今の姿を知りたいという気持ちが強かったのか、前は渋ったリルも、今回は悩みながら頷いてくれた。
爺さんにはまだ、横領の件は知らせないほうがいいな。
「よっしゃ、じゃあ寝取られた人を探しに行くか!」
…………そこだけを切り取ると、途轍もなく嫌な捜索である。
罪のないリルのことまでは、恨んでいないといいなぁ。
退位を表明して正式に王の座が空位となったものの、暫定の王として非常時には国を統率しなければならないらしい。
曰く『非常時など無いから問題ないのじゃ』ということだけれど、どうにもフラグを立てているようにしか感じないのは俺だけかねぇ。
しかしその暢気な爺さんも、俺たちが持ち出した話には食い付いてきた。
「ふむ。オメロが日本の情報をこちらへ送ってくれていたことは、確かじゃ」
オメロ・ジニ・ドアール。
ジニ家の当代であった、リルの父親。
そしてリルの母親を当時の旦那さんから、寝取った人。
どうにも、ろくでもない人の感じがするのだけれど。
ただ人望が厚かったことは事実のようで、戦場で王族の話は時々耳にしてきたけれど、彼の話はそれほど悪く聞かされていない。
もちろん平民を嫁としたことには、王族内での反発を買っていたようだ。
けれど平民にとってリルの両親の馴れ初めは、『シンデレラストーリー』そのものなわけで。
俺が率いた師団での評価は、かなり高いものだった。
平民を王族に引き上げた人が平民から高い評価を得るというのは、理解できることではある。
だからこそ人間性や行為の罪深さが、隠れてしまっているようにも思うのだ。これは俺が疑り深すぎるだけだろうか。
「お祖父様――。なぜ、私に黙っておられたのでしょうか」
「聞けば会いたくなるじゃろう?」
「…………はい」
「リルはファザコンの気があるから、の。まあ自分と母親を、身を呈して守ってきたのじゃから、気持ちはわかる。ワシとしても悪い息子だとは思っておらぬよ」
会えるわけではない、ということか。
「やりとりの手段は?」
「交換日記のようなものじゃ。こちらから送れば、あちらからも届く」
紙と紙なら対価として同等なのだろうか。
そこへ情報の価値が加わるとどうなるかはわからないけれど、そこを含めたとしても『異世界の情報』と『国王が直接したためた手紙』ならば成立しても不思議はない。
「保存してあるだろ。見せてくれ」
「召喚部屋の壁が一部、隠し倉庫になっておる。探してみるといい」
「まだ隠してるものがあったのかよ……」
「城とはそういうものじゃ。ここなど、隠された中のほんの一部にすぎぬ」
面倒くさいなぁ。
まあ探さないとどうにもならないわけで――と、俺とリル、マノンの三人で召喚部屋へ入って壁に不自然なところがないかをチェック。
コンクリートのようなもので堅牢に造られているから、叩いてみるとコンコンと高い音が鳴って固い感触が指に伝わるわけだ。
しかしその中で、奥のほうにある横一メートル程度の壁だけが、固いには固いのだがどうにも妙な温もりのある響きで鳴った。
まるで重厚な木製ドアをノックしたような感覚だ。
「取っ手はない。――じゃ、押してみるか」
十字大陸統一の中で隠し扉の類いには多く触れてきた。
偉い人間というのは不都合な物事を隠したがる傾向にあるようで、そういう類いを見つけ出すことは交渉材料となる。
仕掛けは様々なものがあったけれど、『壁を思いっきり押すと金具が外れる』というものは割と定番で……。
「ビンゴ」
こちら向きに倒れてきた木製の分厚い壁はチェーン金具付きで、四十五度に届かない程度まで開いて止まった。
中にあるのは重要そうな本や資料。
――――そしてRPGや恋愛シミュレーションゲームの、攻略本。
「――国の貴重な資料の中に攻略本が混ざってるとか、どういう管理の仕方してんだよ」
「ハヤトくん、これじゃないかな?」
「んー……。『異世界との交信記録』か。ズバリなタイトルで保管しやがって」
俺はそれに手を伸ばし、開かずリルへ渡した。
「私?」
「お前が一番読みたいだろ。プライベートなことでもあるんだから、まず先に読んでくれ」
「う――うん。ありがとっ」
それから小一時間、リルは懐かしいものを見るように感慨深げな顔で、一ページ一ページゆっくりめくって文字を眺めていた。
時々、その文字をなぞるように指を添える。
筆跡から父親を感じたのかもしれない。
他方、マノンは国王とぶよぶよ勝負に勤しみ始めてしまった。
彼女は国王を含めて王族全体を嫌っているけれど、よく考えたら国王もひきこもり気味だし、この二人って案外と相性が良いのかもしれない。
「終わったか?」
パタン――とノートを閉じる音がして、問うた。
リルは「お父さん、多分、生きてる――」と呟く。
「見てもいいか」
「うん。……多分、ハヤトくんがちゃんと読んだほうがいい」
たった一時間程度、祖父と父親の交換日記を読んだだけだというのに、げっそりと窶れたような顔をしている。
それも読み進めるにつれて、どんどん表情が暗くなっていった。これはもう、覚悟するしかあるまい。
俺は五年間に蓄えた知識で必死に文字を追って、一枚一枚順番に読み進めていく。
困ったことにというか、やはりというか、予想は当たっていた。
日本を知らない国王からすれば『そういうものなのか』と納得できたのかもしれないけれど、日本で生まれ育った俺からすれば不自然と思える点が多数ある。
――まず一年ほどかけて、オメロさんはゆっくり日本を知っていった。
その仮定には苦労が滲んでいて……。
『軍隊に保護されています』
『施設を移されました。どうやら軍隊ではないのかもしれません』
まあ多分、警察に身元不明者として保護されて、どこかで一旦寝泊まりをさせてもらい、然るべき保護施設へと入所することになったのだろう。
ここまでは問題ない。
運良く保護されて生き延びることができたという、喜ぶべき話である。
『信じられません。異世界者だけでなく、この国は他国の民に対しても保護をすると!』
『優しい平民に、美味しい料理。この国は素晴らしい! しかし、とかく人が多い。そして未知の文明。人間を必要としない乗り物は高度な魔法なのだろうか」
この国には車どころか蒸気機関車の類いすらもない。
賢者の数人が移動魔法を使えるけれど、まあちょっとだけ浮いてスイーッと動くだけだから、電動のスケボー程度か。
そんな中世世界から日本へ行けば面食らうことは間違いない。
ここもまあ、問題は無い。
だがその後、一年と少しが経過した頃にオメロさんから『提案』がなされる。
『魔法のような力の多くは【電気】と呼ばれるもので、雷の力を利用しているようです。あれほどの力を手懐けるとは、恐ろしい世界だ…………』
『しかし【太陽光発電機】があれば、太陽から電気を作り出せるそうです。電気は我が国の大きな力となるのではないでしょうか?』
『こちらでは平民の一般家庭ですら、屋根の上に大きな太陽光発電機を載せていることがあります。大容量バッテリーに蓄電をしておけば、太陽光のない雨の日にでも電気を使うことができるのだとか』
そして国王から太陽光発電機の対価として、大量の金塊が送られた。
『――――陛下、この世界には『テレビ』というものがあり、もしかするとそちらで日本の状況をご覧になることができるかもしれません。しかしテレビは高価でありまして、その、前回より多くの金塊を……』
国王は更に金塊を送り、液晶テレビが追加で届く。
『――――陛下、どうやら電波が受信できなかったようで、申し訳ありません。代案として、この世界にある『ゲーム機』をお試しになるのはどうでしょうか? 私も施設『ひまわり荘』で嗜んでおりますが、非常に愉快な娯楽であります。……しかしとても高価でして、液晶テレビより更に多くの金塊が必要となります』
どうも国の持つ金塊では前回と同じ量しか確保できず、国王は一旦保留したようだ。
ただ、ちょうどその頃に俺が南半島を統一したということもあって、国王は南半島の鉱山で採掘される美しい鉱石を合わせて送った。
『――――陛下。この金塊や石だけでは、どうにもなりませぬ。……しかし!! このオメロは国を、民を、陛下を、そして父親を尊敬しております! どうにか今回の対価で送ることのできるゲーム機をご用意しましたので、お納めください」
さーて。
日本での価格を整理しよう。順番づけるならば言うまでもなく
1.『太陽光発電機と大容量バッテリーのセット』
2.『液晶テレビ』
3.『スーファミ』
である。
しかし送られた金塊の量は『スーファミ』が最も多く、次いで液晶テレビ、最後に太陽光発電機と蓄電池のセット。
あれれぇー、おっかしいぞぉ~。って、俺でも言いたくなるわ!!
「おいリル。これは横領とかそういう類いの事件だ」
「おっ、横領!? そんな! でも、きっとなにか理由があって……!」
「マノンに実情を見せてもらえばいい」
ぶよぶよ勝負に勤しむ爺さんとマノンに声をかけて、マノンはすぐに七連鎖を決めると爺さんを瞬殺。普通に上手いな……。
「うーん……。情報が足りないと思います」
「お前の魔法でも無理なのか?」
「原点は変わらないのですよ。人物か場所の……今回で言えば人物のイメージが重要なのです。イメージすることが不可能であれば、リルのお父さんをピンポイントで映し出すのは無理です」
「具体的には、なにが足りていないんだ」
「ここまでで知れた情報は、対象者の父親と娘から与えられたものですよね。そういう好意的な視点も良いのですが、もっと人物像の奥行きを知らなければ……。本人の手紙がどれぐらいおかしいのかも、日本を知らない私にはどうにも伝わってきませんので」
「あくまでこの世界での、好意的じゃない、フラットな視点。もしくは悪い面も見なければ――ということか」
……悪い面?
「なあ、リル。前にも出た話だけれど、お母さんの元の旦那さんに会ってみないか」
「えっ……?」
「あまり言いたくはないけれど、俺が知っている限りで一番『オメロさんを悪く思っている人』だと思うんだ。その人からオメロさんの人物像を聞くことができれば、確実にプラスに働く」
「でも。私はきっと、嫌われて――」
「わかんねえよ、そんなの。まずはその人を特定して会ってみようぜ。なんならリルは会わなくても、俺とマノンが会えばいいんだ」
やはり父親の今の姿を知りたいという気持ちが強かったのか、前は渋ったリルも、今回は悩みながら頷いてくれた。
爺さんにはまだ、横領の件は知らせないほうがいいな。
「よっしゃ、じゃあ寝取られた人を探しに行くか!」
…………そこだけを切り取ると、途轍もなく嫌な捜索である。
罪のないリルのことまでは、恨んでいないといいなぁ。
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