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第四章 魔王の国を改革するための第一歩! 採用試験で自由に職業選択できる世界を目指します

13 弓の実技試験を始めます②

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「ま、まさか? 俺たちの矢を的にしただと?」
「いや、馬鹿な、そんなことが?」

 三人の男と、ゴヴァンは的に向かって、走って行った。
 私とヴィネ様も彼らの後を追う。

「ほ、本当だ……」

 一番最初に辿り着いた男が、驚愕の声を上げる。
 ケリーの放った矢のやじりは、三人が先ほど射立てた矢の真ん中をぴったりと射当てていた。

「なるほど、そういうことであったか。見事であるぞ。そなたの日頃の武芸の励み、この目でしっかりと見届けた」

 ヴィネ様は、ケリーの弓の腕を拍手で褒め称える。

(まるで、夏候淵ね……)

 前世で親しんだ『三國志』の中で、曹操の配下たちが弓の腕前を披露するエピソードがあった。
 ケリーの腕前は、そこに登場する弓の名手、夏侯淵さながらだ。
 いや、軽業のように宙を跳びながら矢を射て、かつ狙った的にも当てるなど、並の人間には難しい。エルフの血筋を持つケリーならではの身軽さと技術であり、夏侯淵以上だろう。
 ケリーの技に、私も完全に舌を巻く。

「ゴヴァンも、そのほうらも、きちんと謝罪するのだぞ」
「はっ」

 ゴヴァンは返事をしたが、男たちはすっかり項垂れてしまっていた。

 一方、ゴヴァンはすぐさま潔く、ケリーに頭を下げる。

「先ほどは失礼なことを言って申し訳なかった。俺よりもよほど、弓の名手だとお見受けする。女だからと馬鹿にしたつもりはなかったのだが、……結果的に俺の浅慮があんたのプライドを傷つけてしまうことになったのは間違いない。申し訳なかった」

 その潔さはいっそ清々しく、好感が持てた。
 ケリーも、もうゴヴァンに対して恨みを抱いてはいないようだ。

「いいわよ、もう。そこまで謝らなくっても。頭を上げてちょうだい」

 と、笑いながらゴヴァンに応じる。

「実技試験はもうこれで十分であろう。エレイン、ケリーの最終面接は任せたぞ」
「かしこまりました」

 頼もしい仲間が増えそうだ。
 これで、今後のシナリオが変わる可能性はさらに増えたのではないだろうか。

 聖女と光の騎士たちがアヴァロニア王国に攻め込んで来ないよう、これからも私は最善の道を模索し続けるつもりだ。
 しかし、万が一、攻めて来られたとしても、その時、この城には、私の知っていたシナリオには存在していなかったケリーがいる。
 新しい仲間と共に、新しいルートを切り拓いて行こう。
 そう心に誓った。

 と、その時。

「どなたか、どなたか助けてください!」

 城の中庭に、またも大きな声が響き渡る。
 今度は男性の声だ。

(どうしたのかしら?)

 先ほどとは異なる切迫した声に、私は不安を駆り立てられた。
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