見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

最終章 王城パーティーとスタンピード襲来

４５話

　アイリはマルティの言葉を聞くと満足した顔で前線へ戻って行った。

    前線へ戻って行ったアイリの姿を見送ったマルティは、まだまだ各方面の戦場から続々と負傷者が運ばれて来る治療テントへ戻って行った。

　テントに戻ってみると中には先程自分がテントを出た時よりも多くの怪我人が担ぎ込まれていた。

「みなさん、只今戻りました。治療に戻ります。重傷者は何人増えましたか。私は重傷者を優先して診て行きますから教えてください」

　マルティに問われた治癒士の女性は了承するとマルティを重傷者が集められている区画に連れて行く。

「聖女様、こちらのテントが新たにここに運び込まれた重傷者が集められている場所になります。怪我人が多くまだ応急処置までしか出来ておりません。聖女様、お願い出来ますでしょうか」

　マルティは治癒士の女性の先導に従ってテントの中に入ると、そこには軽い方では四肢の欠損、重い方だと四肢の欠損に加えて重度のやけどや石化、猛毒に侵されている者達で埋め尽くされていた。

「わかりました。しかし、ここまで患者の数が多いと私の魔力がもつとは到底思いません。なので、他の軽度から中度の患者を診ている治癒士のみなさんに支障が出ない量の魔力回復ポーションをこのテントに用意して頂けますか。それと、数人で良いので私のサポート要員を集めて頂けますか。出来ればそれなりに優秀な治癒士の方をお願いします。私だけでこの人数を診るのは時間が掛かり過ぎてしまいますから」

「はい、わかりました。直ちにサポート要員を選抜し魔力回復ポーションと共にこちらまで連れてまいります」

「はい。お願いしますね。私は先に治療を始めます」

　マルティは急いでテントを出て行く治癒士の女性を見送ると手始めに自分の近くにいた四肢の欠損とモンスターの猛毒に侵されていた女性騎士を診ることにする。

　※※※

　クリエール王国、王都クエール東の戦場にて三体それぞれがスタンピードで溢れ出したモンスターの群れに単体で挑んで行ったマールとレイ、イリアは勢いを止めることなくモンスター達を蹂躙していた。

　マール達が各自順調にモンスターの群れを蹂躙していると突如、上空からそこそこ大きい魔力を感じマール達はモンスターを倒すのを中断し空を見上げる。

『何じゃこの途方もない量の魔力は。ぬう、……おい、レイ、イリア、一度後ろに下がるぞ』

　マールが離れた場所で戦っていたレイとイリアに大きい声で呼びかける。レイとイリアは自分が相手をしていたモンスター数体を一瞬で屠ると急いでマールの元までやって来る。

『どうしたのですかマールさん、私達を呼び戻したりして』

『何じゃお前達この上空からこの地に目がけて迫って来る魔力を感じておらぬのか。どれ、少し集中して上空に意識を集中してみよ。お前達なら感じ取れるはずじゃ』

　レイとイリアはマールに言われた通りに上空に意識を集中する。

『あ、本当だ。凄い量の魔力を感じるよ。でも、この魔力うちどこかで感じたことがあると思うんだけど』

『ええ、私も感じたことがあります』

『あ、何か段々空が夕焼けみたいに赤くなって来たけど、マールのおばちゃん、どうするの』

『そうじゃのう。この魔力は――どうやらアイリの魔力の用じゃし、我らに被害はないとは思うが、念のためじゃし一度後方に戻って休憩でもするかのう』

　マール達がこの魔力の正体をやり過ごすため撤退し始めた時、赤く染まった空の向こうから雲を突き破って幾つもの巨大な炎弾が降り注いできた。

『ぬぉぉぉ、お前達、とりあえず急いで後方に避難じゃ。急げ』

　マール達が急いで後方へ避難し治療テントが設営されている地点まで数分かけて戻って来ると、丁度治療テントで魔力を回復し休憩を終えたアイリが治療テントから戦場の後方へ戻って来た所に居合わせる。