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2巻

2-3

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 ***


 次の日――
 ナビーとレイア、子供達はネックの街を散策に行き、クロードは宿の部屋にこもり残り二つの『念話』スキルを作った。
 その後、ユニークスキル『全属性魔法』の空間魔法で亜空間を作り、そこで『武器防具錬成』の練習をもくもくとこなした。


 そして、夜。
 クロードは夕食を食べ終えて部屋に戻ると、告げる。

「みんな、ついに全員分の『念話』スキルが完成したよ。今からレイアと子供達に順番に付与していくからね」

 そう言ってクロードはレイアと子供達に『念話』のスキルを付与していった。
 レイアとその子供達は、とても嬉しそうに付与してもらったばかりの『念話』でたどたどしく話す。

『あ、り、が、と、う』
『『『『『う、れ、し、い』』』』』

 それに対してクロードは、レイアと子供達を力いっぱい抱きしめた。
 ナビーはその光景を見ながら瞳に涙をためていた。



 閑話4


 クロードがパーティを追われてから一ヶ月後の頃までさかのぼる――
 迷宮都市ゴルドを目指す『銀狼ぎんろうきば』のメンバー。その手前の街イグラへの道中、盗賊とうぞくを討伐した彼らはイグラに着いた後、上機嫌でギルドの中へと入った。
 リーダーのシリウスは空いている受付カウンターに行き、依頼完了の判が押してある依頼書をカウンターの上に置いた。

「はい。護衛依頼お疲れさまでした。こちらが達成報酬の金貨一枚と大銀貨五十枚となります。どうぞお納めください」
「はん、ちょろまかしたりしたら許さねえからな。ほら、さっさとその報奨金の入った麻袋を渡しな」

 シリウスが報奨金の入った麻袋を強引にひったくって取り上げると、アレックスを除く『銀狼の牙』のメンバーは、さっさとギルドを出て今夜泊まる宿を探しに行ってしまった。
 一人残されたアレックスは、自分達を担当してくれた受付嬢にシリウスがひどい態度をとった事を謝罪した。
 ちなみに彼はクロードが『銀狼の牙』を抜けた後に加入した『大魔導士だいまどうし』だ。パーティに入ったはいいものの、シリウスのあまりの横暴さに嫌気が差している頃だった。

「シリウスがひどい態度をとってしまい申し訳なかったね。依頼の失敗が続いていて、しばらくの間、Bランクの依頼しか受けられなくなってしまったんだ。それで彼は少し気が立っててね。どうか許してやってくれ。じゃあ、私もこれで失礼するよ」

 アレックスはシリウスの事を弁解して謝罪した後、『銀狼の牙』のメンバーを追って急いでギルドを出ていった。


 ギルドを出ると、シリウス達が曲がった道に小走りで進んでいく。少し先にシリウス達を発見し合流すると、アレックスはシリウスに注意した。

「シリウス、先程の受付嬢に対する態度はなんですか。私達は冒険者ギルドに依頼をもらっている立場なんですよ。あんな態度を取ったら私達の評判がますます悪くなるではないですか。あなたは一体何を考えているんですか」
「はあ~お前、何言ってんの。あんまり俺様にたてつくとアレックス、お前もあの役立たずでくずのクロードみたいにクビにして追放するぞ。良いのかそれで? お前の俺様に対する態度はそれで良いのかって聞いてんだよ!」

 シリウスにそう言われたアレックスは、それ以上何も言う事が出来なかった。

「はは、それで良いんだ。次また俺様にたてついたら、今度こそ追放してやるからせいぜい逆らわずに大人しくしておく事だな。はははは」

 シリウスはそう言うと、アレックス以外のパーティメンバーとしゃべりながら、今夜泊まる宿を探し始めた。
 宿を見つけるまでの間、アレックスは何かを真剣に考えるようにうつむきながらシリウス達の後ろを歩き、今夜泊まる宿に着く頃にようやく顔を上げる。
 その顔は何かを決意した表情だった。


 宿の中に入ったシリウス達『銀狼の牙』のメンバーは、早速受付に行って人数分の部屋を頼む。
 シリウスは受付をしていた女性から部屋の鍵をふんだくって、ずかずかと部屋へと向かっていった。

「はあ~、すみません。彼は今、機嫌が悪いみたいなんですよ。ですので、あまり気にしないでください。それじゃ、五人分でいくらになりますか」
「あ、はい。えっと、一泊、五人分、夕食付きで十万メルになります」

 アレックスは自分の巾着袋きんちゃくぶくろから銀貨を取り出して受付をしている女性に渡した。

「はい。丁度いただきます。ごゆっくりおくつろぎください。夕食は二時間後の七時から九時までとなっておりますので、それまでにこの一階の食堂でお食事をなさってください。お連れの方には……」
「ああ、大丈夫ですよ。私の方から伝えておきますからお気になさらないでください。では、私も部屋に行きますね」

 アレックスは二階に上がると、まっさきに夕食の事を伝えるためにシリウスの部屋へと行き、ノックして入った。
 シリウスの部屋にはアレックス以外のパーティメンバーがそろっていたが、アレックスはその事を気にせずに報告した。

「夕食は二時間後の七時から九時までで、その間にここの一階の食堂で食事をとってほしいとの事でした。ちゃんと伝えましたからね。私は自分の部屋へ戻ります。あ、宿泊料金は私が自分のお金で払っておきましたから、あとでパーティ費用の中から宿泊料金分をいただきますね。では、これで失礼します」

 アレックスは早口にそう言って、シリウスの部屋を出ていった。


 アレックスがシリウスの部屋から出ていった後、シリウスと他のパーティメンバー達は密談をしていた。

「あいつ、俺様のパーティにはもういらないな。あいつがいると俺様がこのSランクパーティ『銀狼の牙』で思うようにふるまう事が出来ない。ゴルドに着いたらすぐにクビにして追放しちまおう。お前らもそれで良いよな」

 アイリ、マルティ、そしてクロードと幼馴染で彼からはケイねえと呼ばれているケイトは、その言葉に答える。

「うん。良いんじゃないかな。私は、アレックスが少しシリウスに意見しすぎかなって思ってたんだよね。丁度良いし、クビにして追放しようよ。マルティはどう思う」
「ええ、わたくしも異存ありませんわ。あの方もこの辺りが潮時でしょう。それにゴルドに着いたら新しいタンク役の方も見つかるでしょうし、攻撃魔法職の方は二人もいりませんわ。ケイトさんはどう思っているんですの」
「そうだな。私は、いてもいなくてもどちらでも良いと思っている。私はあいつにそもそも興味がないからな」

 彼女達はシリウスの能力『魅了みりょう魔眼まがん』にかかっており、自分の意思で動いていない。
 その答えに満足そうな表情を浮かべたシリウスは、頷いて言う。

「そうか、ならこの話はアレックスを追放するって事で決着な。じゃあお前ら、もう自分の部屋に帰って良いぞ」


 シリウスは三人を部屋に帰した後、一人でぶつぶつと呟いていた。

「ふふ、ははは、このままジョブレベルと俺様自身のレベルを上げていけば、最強の勇者にすら迫る強さを手に入れられるはずだ。そしたら魔王をさっさとぶっ殺してクリエール王国の王女と結婚しいずれは国王になる」

 彼の独り言は続く。

「邪魔な勇者は俺様の『魅了の魔眼』を使えばどのようにでも処理出来るし、ケイトとアイリ、マルティは魔王を倒すまでこき使ってやる。その後、まだ使いものになるならお情けで俺様の側室にでもしてやるかな。いや、あんな田舎いなかむすめなんて飽きたらさっさと捨てるに限るな。こじらせると後々面倒だし」

 そう言った後に、シリウスは考える。

(アレックスには、あの役立たずのクロードを追放したのはパーティ内の女達を全員自分の物にするためと言ってあったな。実はあの三人にひどい事を言われて絶望した顔のクロードを追放したかったから、わざわざ田舎者の三人に『魅了の魔眼』までかけて遊んでた……なんて知ったらアレックスの奴、どんな顔をするのか。考えただけで興奮してくるぜ)

 シリウスは頭の中で妄想もうそうしながら、自分の部屋のベッドで夕食の時間までくつろいだ。


 しばらくベッドで休息した後、シリウスは部屋を出て一階にある食堂へ向かった。既に自分以外の『銀狼の牙』のメンバーはそろっている。シリウスが来るのを待っていたのだが、アレックスだけが少し離れた席で夕食を食べ始めていた。
 シリウスはアレックスに噛みつく。

「アレックス、なんでお前だけ先に夕食を食べているんだ。お前以外の奴は食べないで俺様の事を待っているんだから、お前も一緒に待つべきだろ。俺様はこのパーティのリーダーなんだからよ。おい、なんとか言ったらどうなんだ」
「……ええ、じゃあ言わせてもらいますが、私は言いましたよね。この宿の夕食の時間は午後七時から午後九時までだと。確かにあなたに伝えました。さて、今の時刻は何時なんでしょうね。言ってみなさい」

 シリウスは食堂の時計を確認する。

「う、午後九時四十分だ……」
「そうです。夕食を食べられる最終の時間である午後九時を四十分も過ぎているわけです。当然、四十分も時間を過ぎているのですから厨房ちゅうぼうは既に閉じています。もう夕食を作る事は出来ませんよ。私は九時になる前に夕食を作ってもらいましたけどね。それで、あなた達はどうするんですか? 彼女達はシリウス、あなたを待っていたせいでもう夕食を食べられないわけですが」

 アレックスの言葉に、シリウスは反論する。

「なんで俺様が飯を食えないんだよ! おかしいだろ、そんなの。大体なんで時間になる前に呼びに来なかったんだ? お前らのうち誰かが呼びに来ていれば、俺様は今頃とっくにここで飯を食ってたってのによ」
「いったい何を甘えた事を言っているんですか。原因はあなたが時間を守らなかった事でしょう」

 アレックスは呆れたような表情を浮かべて、さらに言う。

「あなたは今までにも約束の時間に遅れる事が多々ありました。あなた、自分がこのパーティのリーダーだという自覚を持っているんですか? あなたのこれまでの振る舞いを見ている限り、とてもリーダーの自覚があるようには思えませんね」

 そう言ったアレックスは夕食を食べ終えて席を立つ。
 自分の部屋に向かうために階段を上がろうとしたが、一度立ち止まりシリウス達の方を振り返って告げた。

「ですが、明日のゴルドまでの道中で『昨日夕食を抜いたから力が入らなくて戦えない』なんて口実で、戦闘を全て私に押し付けられても困ります。作り置きしてあった野菜のキッシュと少し冷めてぬるくなったスープ、それと黒パンを用意してもらっていますので食べてください。彼女達は能力のせいであなたに文句など一切言えない状態ですから、責められなくて良かったですね。では、私はこれで失礼しますよ」

 今度こそアレックスは自分の部屋へと戻っていった。
 その後、食堂に残ったシリウス達のもとに、厨房にひかえていた従業員が作り置きしてあった人数分の食事を持ってやってきてテーブルに置くと、そそくさと下がっていった。
 シリウスはテーブルに置かれた料理をもそもそと食べながら、アレックスや料理についてぼろくそに文句を言う。
 それでもしっかりと食べて自分達の部屋へと戻った。


 シリウスは自分の部屋のベッドで一人怒りに震えていた。

「なんなんだアレックスの奴。事あるごとにいちいち注意、注意……あいつは小言が多すぎるんだよ。ああああ、もう頭に来た。ゴルドに着いたら速攻であいつをクビにしてやる。あ、そうだ、アレックスの奴を追放したら、去り際にクロードを追放した時の真相を教えてやるかな。良いな、そうしよう」

 ゴルドに着いてからの事を色々と考えながら、シリウスは眠りに就いた。


 ***


 翌日――
 朝の八時三十分に起きたシリウス達『銀狼の牙』のメンバーは、今度はしっかり朝食を食べて宿をチェックアウトした。
 イグラの街を出発する前に、衛兵の詰め所に足を向け、昨日捕まえた盗賊の懸賞金を受け取りにいった。

「おう、そこの衛兵、昨日俺様が捕らえた盗賊達の懸賞金を受け取りに来てやったぞ。さあ、さっさと渡せ。俺様は忙しいんだ」
「は? ああ、昨日の盗賊の件の……ちょっと待ってな」

 衛兵はシリウスにそう言うと詰め所の中に入っていき、小さな麻袋を持って戻ってきた。

「ほらよ。これが昨日お前達が捕らえてきた盗賊達の懸賞金だ。受け取りな」

 シリウスが小さな麻袋の中身を確認すると、中には銅貨が九枚しか入っていなかった。

「なんだこれは。なんでたった九千メルしか入ってないんだよ。盗賊の幹部全員を捕らえたんだぞ。どう考えてもおかしいじゃねえかよ」
「いいや、この金額で間違いない。お前達が捕らえてきた盗賊団はつい最近出来たばかりの新参者でな。まだ、目立った被害も出てなかったから賞金首が一人もいなかったんだよ。というわけでこの金額だ」
「な、そ、そんな馬鹿な……そんな馬鹿な事があって良いはずがない」

 この盗賊達の懸賞金で大金を得られると思っていたシリウスは、しばらくの間、放心状態となった。
 その後、しばらくしても回復しないシリウスを連れて『銀狼の牙』の面々は、イグラの街を出発。迷宮都市ゴルドへと向かっていった。


 イグラから迷宮都市ゴルドまでは徒歩でだいたい半日と少しの距離がある。
 シリウス達はイグラから迷宮都市ゴルドの半分あたりまで来ていた。

「くそ、俺様の計画が狂ったじゃないか。まさか、あの盗賊達の懸賞金があそこまで低いとは。だがまあ良い、俺様達がこれから行くのは迷宮都市ゴルドだからな」

 シリウスがそう言うのには理由があった。

「ゴルドにはダンジョンがある。ダンジョンに潜って、あの盗賊達の懸賞金で得るはずだった金額の穴埋あなうめとさらなる資金を調達する。その金でもっと強い装備を整えようじゃないか。そして、王都へ戻り勇者の仲間となって、本格的に魔王軍討伐に取り組もう」


 それからさらに数時間歩き続けて、ようやくシリウス達は迷宮都市ゴルドに到着した。
 シリウスは冒険者ギルドに寄ってどんな依頼があるか依頼ボードを確認した後、早速アレックスを追放するために動いた。

「アレックス、ゴルドに着いて早々悪いんだが、お前……俺様のパーティから出ていってくれないか。小言がうるさくて俺様は凄くうんざりしてるんだよ。ぶっちゃけ邪魔なんだ。こいつらとも話してみんなで決めた事だから、もう覆ったりしない。じゃあな」

 シリウスは自分の言いたい事だけ言って、パーティメンバーを連れとっととギルドから去っていった。


「はあ~、やっと解放されましたよ。彼らと一緒にいたのはだいたい一年くらいでしょうか。短いようで長かったですね。さて、今まであった事を報告書にまとめて局長に提出しないといけませんね。まずは、王都に帰りますか」

 アレックスはそう言うと王都へ向かうため、今来た道を戻ろうとした。
 すると、去っていったはずのシリウスがこちらに戻ってきてアレックスに近づき、こう告げた。

「ようアレックス、さっき伝え忘れてた事があった」
「伝え忘れた事ってなんですか」
「ああ、お前がパーティに加入する前に酒場で話した事があったろ。あの時話したクロードを追放するに至った理由な、本当は少し違うんだ」
「……違うってどういう事ですか」

 アレックスが尋ねると、シリウスはにやっと笑った。

「女どもを俺様のものにしたいんじゃあない。あの三人にひどい事を言われて絶望し、どん底に落ちたクロードを笑ってやった後に追放したかったんだよ。わざわざ田舎者の三人に『魅了の魔眼』までかけて遊んでやったりしてな。つまり、クロードをどん底に落として追放するためだけにケイトとアイリ、マルティに『魅了の魔眼』をかけたんだ」
「じゃあ、あなたは、彼女達を愛していないんですか。愛してもいないのにクロードさんをあざ笑うためだけにあんな事を彼女達にしたと言うんですか? あなたという人はどこまで……」
「ああ、そうだよ。じゃあ、伝える事は伝えたから俺様はもう行くぜ。じゃあな」

 シリウスはそう言うと、今度こそその場から去っていった。
 アレックスは拳を強く握りながら、怒りの形相で姿が見えなくなるまでシリウスを見つめ続けていた。
 しばらくしてアレックスは深呼吸をすると、王都に帰るためにゴルドを出た。
 クロードが新緑の森でレイアと出会った頃だった。




 第二章 Bランクダンジョン『けもの系譜けいふ』攻略編


 昨日はレイアと子供達が覚えたての『念話』スキルでクロードに礼を言ってきたので、クロードは感極まって泣いてしまった。
 涙を流しながらレイアと子供達を抱きしめるクロードを見て、ナビーもその輪に加わり、そのままベッドで寝ていた。
 翌朝、上半身を起こして自分の周りを確認してみると、クロードの隣ではナビーが気持ち良さそうな寝息を立てている。レイアや子供達は、ベッドの周りでお腹をさらして眠りこけていた。

「ははは、昨日は色んなモンスターを相手にしていたからね。疲れてぐっすり寝ちゃうのも仕方ない……おっと、もう正午を過ぎているじゃないか。だいぶ寝過ごしたな」

 時計を確認したクロードは今日の予定を考える。

「みんなを起こして軽食を取ったら、この前買取をお願いしていたモンスターの買取金を受け取りにギルドに行くかな」

 クロードはベッドを出てナビーとレイア、子供達を起こす。
 アイテムボックスから買い置きしておいた串焼きと、作り置きの野菜炒めをテーブルに取り出すと、みんなで料理を食べてからギルドに向かった。


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