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第41話 賞賛を素直に受け取る
「今回はその……幸運でしたね」
馬車の中で隣に座るシメオン様に声をかける。
「いや。君の人徳だろう」
何を思ってか、先ほどから沈黙だったシメオン様だけれど、私が話しかけると返事をしてくれた。
「いえ。そんな。たまたまメイリーンさんがお知り合いだっただけですので」
「だが、君が繋いだ縁だ」
「あ、ありがとうございます」
前にもそんな風に褒めてもらったことがある。私は恥ずかしくなって、自分の膝に視線を落とした。
ただ実際、幸運だったことも大きい。その日、昼間はシメオン様に用事があるとのことで私たちは夜、華王館に向かうことにした。
夜の華王館は久しぶりだ。私たちは正面玄関ではなく、裏玄関から入れてもらった。そちらの玄関は、出入りしていることを知られたくない要人も使うことがあるとのこと。
部屋に招き入れてくれたメイリーンさんはソファーに座り、しなやかに足を組んだ。
メイリーンさんやご主人には、シメオン様の裏稼業のことは話していないけれど、夜のかすみ草の時は一室お借りしているし、何となく察しているのではないかと思う。
「忙しい時間帯に申し訳ありません」
「大丈夫よ。今は接客することがないし、妹たちに何かあった時に顔を出すくらいだから。それで今日はどうしたの?」
「ありがとうございます。実は、本日はメイリーンさんに――魅力の出し方を教わりに参りました!」
「……は?」
私のお願いは、美しいメイリーンさんの目を点に変えてしまうほど、身の程知らずなものだったらしい。
「ええと、ええと。何かしら?」
「じ、実はお近付きになりたい殿方がおりまして。メイリーンさんにぜひ手腕をご教示いただければと思い、やって参りました」
「ああ、そう……お近付きになりたい殿方ね」
メイリーンさんは私ではなく、シメオン様を見ながら苦笑いしている。
「それでどういった人とお近付きになりたいの?」
「好色家だと聞いています」
これくらいの情報を出すくらいなら大丈夫だろう。
「他には? それだけの情報では何とも言えないわ。色気のある女性が好みなのか、子供っぽさを好むのか、純朴そうな女性がいいのか、清純そうな女性がいいのか、色々趣味はあるもの」
私はシメオン様を見ると、今回は特に危険人物ではないからなのか、あるいはメイリーンさんに一目置いているからなのか、彼は頷いた。
「ええと。三十代、未婚の貿易商の方です。貴族のパーティーにもご招待を受けるほど、今、とても業績を上げている方だそうです。ご自身も精力的な方で、女性からの人気も高いとか」
お金持ちでご本人に魅力があり、好色家となればそれは女性も寄ってくるでしょう。
「貿易商で三十代の好色家ね。どこかで聞いた話。名前を聞いてもいいかしら?」
「ロレンソ・ブラードだ」
メイリーンさんがシメオン様に尋ね、彼が答えた。
「ロレンソ・ブラード? ああ。やっぱり彼。彼なら今来ているわ。私の上客だった人よ。滅多に相手にしてやらなかったけれど。引き合わせてあげましょうか」
「すごい。さすがメイリーンさんですね。人脈が広――えっ!?」
そんなわけで、メイリーンさんに引き合わせていただいた。
最初、シメオン様も同席すると言ったけれど、メイリーンさんが私には手出しさせないから大人しくするようにと言い聞かせた結果、渋りながらも部屋で待つことを了承してくれた。
実際のところ、ブラード様はメイリーンさんに媚を売ってばかりで、私には眼中にもないご様子だったのだけれど、それは自分の名誉のためにシメオン様には生涯口にしないことを決めた。
とにもかくにも、ブラード様はすでにお酒が入っていたこともあり、また夜の花から引退したはずのメイリーンさんが現れたことで、すっかり気分を良くされてたくさんお話ししていただいたのだ。……正確にはメイリーンさんに。
「でもやはりメイリーンさんのおかげです」
「確かに人脈の広さは彼女の力だが、手助けしたいと彼女に思わせたのは君の力だ。素直に賞賛を受け取っておけばいい」
確かにへりくだるばかりだと、褒めてくださったシメオン様を否定することにもなる。私は言葉をありがたく頂くことにした。
「はい。ありがとうございます」
お礼と共にシメオン様に笑顔を向けると彼は頷く。
「ところで先ほどのリベリオのことだが。……何か言われたか?」
「あ、それはその」
言うべきかどうか迷ったけれど、問い詰めることもなく、ただ私の返答を待つシメオン様を見て伝えることにした。
「私が旦那様の――シメオン様の婚約者になって残念だと。リベリオ様も私が欲しかったと」
「そうか」
「……旦那様。確か旦那様が私に求婚された日、リベリオ様と入れ替わりに入店されましたよね。リベリオ様が私のお店にいらっしゃっていたことに気付かれたのですか?」
シメオン様は頷く。
「ああ。リベリオが以前から君の店に足繁く通っているのを知っていた」
「だからあの日、私に求婚されたのですか? 先にリベリオ様に奪われまいと」
「……ああ」
何やらまだまだ事情がありそうなのに口が重いシメオン様に、私はむっとして腕を組んだ。
「ご兄弟揃って何なのですか! 欲しいだの何だのと、人をモノのように扱って!」
「違う! 本当は、私はあなたに求婚するつもりはなかったんだ! だが、リベリオがあなたの弟ぎ――」
シメオン様は、そこまで言ってはっと表情を固めると言葉を途切れさせる。
「弟? 弟って、私の弟、ライナスのことですか!? 弟って何のことです。旦那――シメオン様!」
私の剣幕にシメオン様は重いため息をつくと、口を開いた。
馬車の中で隣に座るシメオン様に声をかける。
「いや。君の人徳だろう」
何を思ってか、先ほどから沈黙だったシメオン様だけれど、私が話しかけると返事をしてくれた。
「いえ。そんな。たまたまメイリーンさんがお知り合いだっただけですので」
「だが、君が繋いだ縁だ」
「あ、ありがとうございます」
前にもそんな風に褒めてもらったことがある。私は恥ずかしくなって、自分の膝に視線を落とした。
ただ実際、幸運だったことも大きい。その日、昼間はシメオン様に用事があるとのことで私たちは夜、華王館に向かうことにした。
夜の華王館は久しぶりだ。私たちは正面玄関ではなく、裏玄関から入れてもらった。そちらの玄関は、出入りしていることを知られたくない要人も使うことがあるとのこと。
部屋に招き入れてくれたメイリーンさんはソファーに座り、しなやかに足を組んだ。
メイリーンさんやご主人には、シメオン様の裏稼業のことは話していないけれど、夜のかすみ草の時は一室お借りしているし、何となく察しているのではないかと思う。
「忙しい時間帯に申し訳ありません」
「大丈夫よ。今は接客することがないし、妹たちに何かあった時に顔を出すくらいだから。それで今日はどうしたの?」
「ありがとうございます。実は、本日はメイリーンさんに――魅力の出し方を教わりに参りました!」
「……は?」
私のお願いは、美しいメイリーンさんの目を点に変えてしまうほど、身の程知らずなものだったらしい。
「ええと、ええと。何かしら?」
「じ、実はお近付きになりたい殿方がおりまして。メイリーンさんにぜひ手腕をご教示いただければと思い、やって参りました」
「ああ、そう……お近付きになりたい殿方ね」
メイリーンさんは私ではなく、シメオン様を見ながら苦笑いしている。
「それでどういった人とお近付きになりたいの?」
「好色家だと聞いています」
これくらいの情報を出すくらいなら大丈夫だろう。
「他には? それだけの情報では何とも言えないわ。色気のある女性が好みなのか、子供っぽさを好むのか、純朴そうな女性がいいのか、清純そうな女性がいいのか、色々趣味はあるもの」
私はシメオン様を見ると、今回は特に危険人物ではないからなのか、あるいはメイリーンさんに一目置いているからなのか、彼は頷いた。
「ええと。三十代、未婚の貿易商の方です。貴族のパーティーにもご招待を受けるほど、今、とても業績を上げている方だそうです。ご自身も精力的な方で、女性からの人気も高いとか」
お金持ちでご本人に魅力があり、好色家となればそれは女性も寄ってくるでしょう。
「貿易商で三十代の好色家ね。どこかで聞いた話。名前を聞いてもいいかしら?」
「ロレンソ・ブラードだ」
メイリーンさんがシメオン様に尋ね、彼が答えた。
「ロレンソ・ブラード? ああ。やっぱり彼。彼なら今来ているわ。私の上客だった人よ。滅多に相手にしてやらなかったけれど。引き合わせてあげましょうか」
「すごい。さすがメイリーンさんですね。人脈が広――えっ!?」
そんなわけで、メイリーンさんに引き合わせていただいた。
最初、シメオン様も同席すると言ったけれど、メイリーンさんが私には手出しさせないから大人しくするようにと言い聞かせた結果、渋りながらも部屋で待つことを了承してくれた。
実際のところ、ブラード様はメイリーンさんに媚を売ってばかりで、私には眼中にもないご様子だったのだけれど、それは自分の名誉のためにシメオン様には生涯口にしないことを決めた。
とにもかくにも、ブラード様はすでにお酒が入っていたこともあり、また夜の花から引退したはずのメイリーンさんが現れたことで、すっかり気分を良くされてたくさんお話ししていただいたのだ。……正確にはメイリーンさんに。
「でもやはりメイリーンさんのおかげです」
「確かに人脈の広さは彼女の力だが、手助けしたいと彼女に思わせたのは君の力だ。素直に賞賛を受け取っておけばいい」
確かにへりくだるばかりだと、褒めてくださったシメオン様を否定することにもなる。私は言葉をありがたく頂くことにした。
「はい。ありがとうございます」
お礼と共にシメオン様に笑顔を向けると彼は頷く。
「ところで先ほどのリベリオのことだが。……何か言われたか?」
「あ、それはその」
言うべきかどうか迷ったけれど、問い詰めることもなく、ただ私の返答を待つシメオン様を見て伝えることにした。
「私が旦那様の――シメオン様の婚約者になって残念だと。リベリオ様も私が欲しかったと」
「そうか」
「……旦那様。確か旦那様が私に求婚された日、リベリオ様と入れ替わりに入店されましたよね。リベリオ様が私のお店にいらっしゃっていたことに気付かれたのですか?」
シメオン様は頷く。
「ああ。リベリオが以前から君の店に足繁く通っているのを知っていた」
「だからあの日、私に求婚されたのですか? 先にリベリオ様に奪われまいと」
「……ああ」
何やらまだまだ事情がありそうなのに口が重いシメオン様に、私はむっとして腕を組んだ。
「ご兄弟揃って何なのですか! 欲しいだの何だのと、人をモノのように扱って!」
「違う! 本当は、私はあなたに求婚するつもりはなかったんだ! だが、リベリオがあなたの弟ぎ――」
シメオン様は、そこまで言ってはっと表情を固めると言葉を途切れさせる。
「弟? 弟って、私の弟、ライナスのことですか!? 弟って何のことです。旦那――シメオン様!」
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