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第11話 妻としての立場
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その後、アレクシス様は盗人を厳正な判断のもと、適正な処罰を下してくれる人に引き渡すことになった。良かった良かった。
町は一日で回れるほどの規模ではないので、今日はもう引き上げることにした。またアレクシス様が連れてきてくれるそうだ。
「ブランシェ。私が側に付いていながら君を危険な目に遭わせてすまない」
馬車を待機させている場所へと戻っている道すがら、アレクシス様は話を切り出した。
「いいえ。アレクシス様がわたくしにお声をかけてくださったから、わたくしはとっさに動けたのです。ありがとうございます」
「……ブランシェ」
アレクシス様はただ横に突っ立っていたわけではなく、色んな人に取り囲まれていたのだから瞬時に動けなかったのは仕方がないこと。そして私を呼ぶ彼の声で我に返って体を動かすことができたのも本当のこと。感謝の気持ちに偽りはない。
「それよりも今日はアレクシス様のことを少し知ることができて良かったです」
「え?」
「領民の皆さんにとても慕われているのですね」
「いや。威厳がないだけだ」
……はい?
アレクシス様の中で、威厳がある人はどういった方のことを言うのだろうか。
「まあ、ご冗談を」
ほほほと笑う私をアレクシス様は真っ直ぐに見つめてくる。
「あ、あの。何か?」
「あ、いや。さっきの件だが」
アレクシス様は私の足に視線を下ろした。
私が足を出していたところを見られていたのか。……恥ずかしい。他にも気づいた人がいるだろうか。
「足を出して引っ掛けようとしたなんて、淑女としてはしたなかったですね。アレクシス様の妻だと知れ渡ってしまったのに、誠に申し訳ありません」
明らかに妙齢の女性として品がない行動だ。さすがに咎められると思って身を小さくする。
「あ。いや。そうではなく、足を魔力で強化したのか? 大丈夫だったか?」
何でもお見通しのようである。
ブランシェならもっときっと上手くやってのけただろう。私は爆発的な魔力を瞬時に発動させることができず、足を魔力で強化するのが精一杯だったのだ。
「あ、ええ。はい。足を怪我してはいけないと思いまして。ですがアレクシス様のおかげで全くの無傷です」
「ああ。気づいていたのか」
「もちろんです」
結局、私の足に引っかかる前に盗人は急に体勢を崩して転んだ。魔力の気配を感じたので、アレクシス様が捕縛の魔術を行使したのだろう。
「そうか。だが、とっさの判断がきくんだな」
「いえ。今回はたまたまだっただけです」
「……そうだな。これからはこんな無茶はしないでくれ」
アレクシス様の顔は真剣そのもので、やっぱり怒っているんだと私は申し訳ありませんと頷いた。
それから私の方が反省の意味を込めて口を閉ざしてしまい、二人沈黙のまま歩いて馬車までやって来た。
アレクシス様は態度変わらず私の手を取って、馬車へとエスコートしてくれたが、私は馬車の中ですっかり項垂れていた。しかしアレクシス様がそんな私を見かねたのか、ごほんと咳払いして注意を促す。
「その。一つ言っておきたいのだが、私は怒っているのではなくて、君に危険な目に遭わせたくないだけだ」
「ありがとうございます」
やはりアレクシス様はいつも気遣いを向けてくれるやさ……しい(と断定していいかはまだ定かではない)お方だ。
「ですが、アレクシス様。国防を担う司令官がそのようなことをおっしゃってはいけないのではありませんか」
「え?」
私は世継ぎのためだけに魔力の高い人間を欲しているばかりだと思っていたが、もう一つの可能性を思いついたのだ。
「国防司令官の妻ならば、守られるだけでいてはいけないと思うのです。守られるというのは違う言い方をすれば、いざとなった時にアレクシス様の足を引っ張る存在になるということ。国の命運を担っている司令官が妻の安否に動じてはいけません。ならば逆にわたくしは自分の身は自分で守れるぐらいの力を持たなければ。だからアレクシス様はわたくしを妻に選ばれたのではないのですか?」
求めたのは私ではなくてブランシェだが。
私がそう言うとアレクシス様は目を見張った後、自嘲するように唇を歪ませた。
「君の方が覚悟があるようだな。だが、私はそんな意味で君を妻に選んだわけではない」
「ではどういった意味でしょう?」
やはり跡継ぎ問題だけだったのだろうか。
小首を傾げて尋ねてみるものの、アレクシス様は誤魔化すようにそっぽを向いてしまった。
「アレクシス様?」
「それは……追々」
そう答えたまま黙ってしまう。
ここで深追いしても答えてくれそうにないので、ひとまずは引くことにする。
「分かりました。ではお待ちしておりますから、教えてくださいね」
「ああ。……そのうち。追々」
だから追々っていつなのか。
また同じ曖昧な言葉で返されたが、じっと見つめても窓の外に視線をやってこちらに振り返ってくれることはない。
普段は揺らぐことなく真っ直ぐ見つめてくるくせに、都合が悪くなったら視線を合わせず無視するだなんて酷い。
私はむっと唇を尖らせた。
町は一日で回れるほどの規模ではないので、今日はもう引き上げることにした。またアレクシス様が連れてきてくれるそうだ。
「ブランシェ。私が側に付いていながら君を危険な目に遭わせてすまない」
馬車を待機させている場所へと戻っている道すがら、アレクシス様は話を切り出した。
「いいえ。アレクシス様がわたくしにお声をかけてくださったから、わたくしはとっさに動けたのです。ありがとうございます」
「……ブランシェ」
アレクシス様はただ横に突っ立っていたわけではなく、色んな人に取り囲まれていたのだから瞬時に動けなかったのは仕方がないこと。そして私を呼ぶ彼の声で我に返って体を動かすことができたのも本当のこと。感謝の気持ちに偽りはない。
「それよりも今日はアレクシス様のことを少し知ることができて良かったです」
「え?」
「領民の皆さんにとても慕われているのですね」
「いや。威厳がないだけだ」
……はい?
アレクシス様の中で、威厳がある人はどういった方のことを言うのだろうか。
「まあ、ご冗談を」
ほほほと笑う私をアレクシス様は真っ直ぐに見つめてくる。
「あ、あの。何か?」
「あ、いや。さっきの件だが」
アレクシス様は私の足に視線を下ろした。
私が足を出していたところを見られていたのか。……恥ずかしい。他にも気づいた人がいるだろうか。
「足を出して引っ掛けようとしたなんて、淑女としてはしたなかったですね。アレクシス様の妻だと知れ渡ってしまったのに、誠に申し訳ありません」
明らかに妙齢の女性として品がない行動だ。さすがに咎められると思って身を小さくする。
「あ。いや。そうではなく、足を魔力で強化したのか? 大丈夫だったか?」
何でもお見通しのようである。
ブランシェならもっときっと上手くやってのけただろう。私は爆発的な魔力を瞬時に発動させることができず、足を魔力で強化するのが精一杯だったのだ。
「あ、ええ。はい。足を怪我してはいけないと思いまして。ですがアレクシス様のおかげで全くの無傷です」
「ああ。気づいていたのか」
「もちろんです」
結局、私の足に引っかかる前に盗人は急に体勢を崩して転んだ。魔力の気配を感じたので、アレクシス様が捕縛の魔術を行使したのだろう。
「そうか。だが、とっさの判断がきくんだな」
「いえ。今回はたまたまだっただけです」
「……そうだな。これからはこんな無茶はしないでくれ」
アレクシス様の顔は真剣そのもので、やっぱり怒っているんだと私は申し訳ありませんと頷いた。
それから私の方が反省の意味を込めて口を閉ざしてしまい、二人沈黙のまま歩いて馬車までやって来た。
アレクシス様は態度変わらず私の手を取って、馬車へとエスコートしてくれたが、私は馬車の中ですっかり項垂れていた。しかしアレクシス様がそんな私を見かねたのか、ごほんと咳払いして注意を促す。
「その。一つ言っておきたいのだが、私は怒っているのではなくて、君に危険な目に遭わせたくないだけだ」
「ありがとうございます」
やはりアレクシス様はいつも気遣いを向けてくれるやさ……しい(と断定していいかはまだ定かではない)お方だ。
「ですが、アレクシス様。国防を担う司令官がそのようなことをおっしゃってはいけないのではありませんか」
「え?」
私は世継ぎのためだけに魔力の高い人間を欲しているばかりだと思っていたが、もう一つの可能性を思いついたのだ。
「国防司令官の妻ならば、守られるだけでいてはいけないと思うのです。守られるというのは違う言い方をすれば、いざとなった時にアレクシス様の足を引っ張る存在になるということ。国の命運を担っている司令官が妻の安否に動じてはいけません。ならば逆にわたくしは自分の身は自分で守れるぐらいの力を持たなければ。だからアレクシス様はわたくしを妻に選ばれたのではないのですか?」
求めたのは私ではなくてブランシェだが。
私がそう言うとアレクシス様は目を見張った後、自嘲するように唇を歪ませた。
「君の方が覚悟があるようだな。だが、私はそんな意味で君を妻に選んだわけではない」
「ではどういった意味でしょう?」
やはり跡継ぎ問題だけだったのだろうか。
小首を傾げて尋ねてみるものの、アレクシス様は誤魔化すようにそっぽを向いてしまった。
「アレクシス様?」
「それは……追々」
そう答えたまま黙ってしまう。
ここで深追いしても答えてくれそうにないので、ひとまずは引くことにする。
「分かりました。ではお待ちしておりますから、教えてくださいね」
「ああ。……そのうち。追々」
だから追々っていつなのか。
また同じ曖昧な言葉で返されたが、じっと見つめても窓の外に視線をやってこちらに振り返ってくれることはない。
普段は揺らぐことなく真っ直ぐ見つめてくるくせに、都合が悪くなったら視線を合わせず無視するだなんて酷い。
私はむっと唇を尖らせた。
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