私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます

あねもね

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第37話 嘘を重ねて真実が見えなくなる

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 夕食が終わった後はいつもサロンでアレクシス様と談話したり、部屋でそれぞれ寛いだりすることがあったが、本日は部屋で少し話があると言われて彼の部屋に入ることになった。
 夜はアレクシス様が私の部屋にやって来るし、お帰りの際にお部屋についていった時も扉口の辺りまでだったから、考えてみれば彼の部屋に入ったことはなかった。

 どきどきしながら足を踏み入れると、一定以上の品質と壁色などは変わりなかったが当然のことながら私の部屋とはまるで様相が違い、実用を重視した無駄な装飾品を省いた落ち着いた内装だった。もちろんレースやフリルなどの女の子要素は一切無い。
 今では慣れたかもしれないが、普段がこれでは夜、私の寝室に初めてやって来た時は心が折れそうだったかもしれないと同情を寄せてしまう。

「座ってくれ」

 テーブルを挟んだソファーに勧められて私は返事をすると腰掛けた。
 身が沈みこみそうな柔らかさではなく、適度な弾力性がある。

「お茶でも用意させようか」
「いえ。先ほど食事したばかりですし大丈夫です」
「そうか。分かった」

 アレクシス様はそう言ったきり、私から視線を外して黙りこんだ。どう話を切り出そうか思い悩んでいるようだ。
 ここまで来て私はようやく話が単なる軽い雑談ではないことに気付いた。
 続く沈黙に苦しくなったが自ら口を開いて尋ねることはしたくない。身を固くしてアレクシス様が話し出す時を待つ。

「君には楽しい話ではないが」
「は、はい」

 思わず肩が跳ねてしまった。
 花飾りの件で少し変に思われたのだろうか。確かに自分で白を選んでおきながら、アレクシス様に赤を選んでもらって泣き出すなんて、普通に考えたらおかしすぎる。

「驚かせたようで悪い。君の姉、アンジェリカ嬢のことだ」
「……はい」
「彼女とは似ているのか? ――あ、いや。双子だから似ている所はあるんだろうが、性格とか好みの傾向とかは。双子は相手の危機や痛みなどの感覚を共有できると耳にしたのだが」

 私たちふたりは双子なのに性格も好みも能力も全て異なった。考え方も異なって交わることがなかった。あるいは私が彼女に合わせたくなくて、無意識にわざと異なる方向に言動を向けたのかもしれない。感覚も共有したことは一度もない。

「なぜ……そのようなことをお聞きになりたいのですか」
「あ、いや。以前、王宮晩餐会で君たち姉妹を遠くで見かけたことがあるんだが、確かそれぞれ赤と白のドレスを着ていた気がしたから、好みが違うのかと思っただけだ。深い意味は無い」

 どきりと胸が高まった。
 赤のドレスを着ていたのは私だ。赤い花飾りを喜んだことを不審に思われたのだろうか。――いや、落ち着こう。私が最初に選んだのは白い花の方だった。

「あ、姉のアンジェリカとわたくしは呆れるほどに性格も思考も趣味、好みもまったく正反対です」

 今、できる限りブランシェの思考に沿わせた言動を取っている……はず。ここまできっぱり言っておけばブランシェに代わった時、少しぐらい違いがあったとしても許容範囲となるだろう。

「姉はとても派手を好みますので」

 派手を好んでいるわけではない。高嶺の花のように赤を求めているだけ。しかしこれが二人の違いを際立たせることができる最善の答えだ。
 私はこうやってどんどんアレクシス様に嘘を重ねていく。この家を出る頃には、嘘で周りを塗り固められてきっと真実は何も見えなくなっているだろう。嘘で本当の気持ちを見えなくして私は去って行くのだろう。

 硬い表情で答える私にアレクシス様はそうかと呟いただけで、その以降は何も尋ねようとしなかった。
 どことなく気まずさが残ったまま夜がやって来て、本日は片付けたい仕事があるから先に休んでくれと言われて一人就寝した。


 私が朝、目覚めるより先に出たのか、それとも昨日はご自分の部屋で眠ったのかは定かではないが、朝もベッドには私一人だ。

「おはようございます奥様、朝ですよ!」
「……はい。おはようございます」

 ライカさんが元気よく入って来るが、私の気分は上がらず低い声で挨拶を返してしまう。

「あら。本日は朝から暗いですよ? 旦那様に眠らせてもらえませんでしたか?」
「――っ! アレクシス様はわたくしのお部屋から出ていらっしゃいましたか?」
「え? あ、いえ。申し訳ありません。旦那様が奥様のお部屋から出たところは拝見していません」
「そうですか」

 再び意気消沈してしまう。
 昨日の自分の言動が招いたことなのに。

「あら。珍しくケンカしたのですか? 仲が良いほどケンカすると言いますもんね」

 仲が良くなくてもケンカもすると思う。
 私の様子から慰めの言葉になっていないと感じたのか、ライカさんは焦った様子で笑う。

「ほら。でも旦那様は奥様にベタ惚れではないですか」

 ベタ惚れされているかどうかは分からない。甘やかしてくださっているが、それがベタ惚れと言っていいのかは疑問だ。

「旦那様の初恋の方ですものね」
「……え? はつ、こい?」
「あら! ご存知なかったのですか? 旦那様は奥様と幼い頃にお会いして一目惚れしたそうです。幼い頃の記憶なので不確かだったけれど、大人になって晩餐会で奥様を見付けたそうですよ」

 確かな筋から入手したんですよと彼女はほくそ笑む。

「奥様は覚えていらっしゃらない? 旦那様からもお聞きになっていないのですか?」
「わ、わたくしは……昔、大病をしてそれ以前の記憶がなく」

 そうじゃない。
 覚えていないんじゃない。
 確かに病気で幼い頃の記憶は曖昧になってしまったが、私はどこかの海を見た感覚は覚えていた。一方、人だって同じことだ。貴族と庶民の子として線引きされてしまっていた私たちは、同じ年頃の子たちと触れあう機会がほとんどなかった。だからもし会っていたとしたら、おぼろげでも覚えているはず。しかし私にはその記憶が片鱗もない。
 つまり。

 アレクシス様が会ったのは……ブランシェ。
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