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《闘いだ》
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「いらっしゃいませ、おひとり様で大丈夫ですか?」
暖簾を潜れば、着物を着た品の良い女性が笑顔を見せていた。40代のように思えるが、奇麗にセットされた黒髪に自然な化粧は逆に彼女を艶やかに際立たせた。だが、上品でもあるので朔太郎は彼女に見惚れてしまう。
彼女は首を傾げた。
「あれ? もしかして、予約なさっています? すみませんっ、初めてお見えした方だったので……」
「あ、いえいえ! 違います! 予約というか、その……先に来ている方が居ると思うですけど……」
朔太郎は顔の前で両手を振り、事情を説明した。すると彼女は”瀬川”という言葉に反応し、深い笑みを見せる。
「あぁ、瀬川様のお連れ様でしたか! 瀬川様なら個室で待っておられますよ。――ご案内します」
恭しくお辞儀してから彼女は朔太郎を連れて奥へと進む。この居酒屋はまるで料亭のようだと朔太郎はふと感じた。
ガラリッ、閉じられていた引き戸が彼女によって開かれた。男は飲み物を飲みながら待っていたようだった。
「おぉ、よく来たな。女将、あとは俺に任せろ」
「はいはい。それでご注文は?」
「生中を2つ……で、良いよな? ”てんし”くん?」
男は、――瀬川 來斗は悪戯な顔をして伺った。まるで挑発に乗って来るかというような態度だ。朔太郎は少し不機嫌になる。
「……天使、あまつかって読むんです! あと、その……ビールで、良いです」
「あっそ。じゃあ女将、あとはおすすめをテキトーに持ってきて」
「はいはい。まったく瀬川さんは横暴なんだからぁ」
だが嬉しそうな顔をして去ってしまう女将に朔太郎は呆然と見やった。やはり奇麗で美しい人だな……などと感じてしまう。
瀬川が氷の入った飲み物を少し飲んだ。
「ふーん。てんしくんって、熟女好き? やめとけ。女将はべらぼうに別嬪だけど、息子が三人いるぜ?」
舐め腐ったような笑みを見せる瀬川に朔太郎は吹き出してしまう。
「べ、べっつにっ! そんなわけじゃありませんっ! 人を変態みたいに――」
「どうでも良いけど、早く中に入れば? 個室の意味なくなるだろ?」
挑発的な瀬川に朔太郎は内心で舌打ちを打つ。だが、彼には恩義がある。しかも、ご丁寧に職場にメールまで寄こしたぐらいだ。
ここで拒めば自分の失態が暴かれる――――
「わかりましたよっ! ……自分だって、ウーロンハイ飲んでいるのに」
「これはただのウーロン茶。お前に気ぃ遣ってやったんだよ。なんならあれか? 煙草も吸って良いってか?」
「別に良いですよ。俺も喫煙者ですし」
朔太郎が言葉を発した途端、瀬川はきょとんとした顔を見せたかと思えば肩を震わせて笑っていた。嘲笑するような笑い方に朔太郎は苛立ちを見せる。だが、ここで引いては男が廃る。
(ここは勝負だっ! 我慢勝負だっ!)
「……お邪魔、します」
朔太郎は襖を閉めて椅子に腰かけた。ひとしきり笑い終えた瀬川は胸ポケットから煙草を1本取り出す。煙草はキャスターマイルドであった。
「ははっ、まさか可愛い顔立ちして喫煙者……とはねぇ~……」
薄ら笑みを見せ、紫煙を燻らせる男前な瀬川に朔太郎は挑むように視線を合わせた。
暖簾を潜れば、着物を着た品の良い女性が笑顔を見せていた。40代のように思えるが、奇麗にセットされた黒髪に自然な化粧は逆に彼女を艶やかに際立たせた。だが、上品でもあるので朔太郎は彼女に見惚れてしまう。
彼女は首を傾げた。
「あれ? もしかして、予約なさっています? すみませんっ、初めてお見えした方だったので……」
「あ、いえいえ! 違います! 予約というか、その……先に来ている方が居ると思うですけど……」
朔太郎は顔の前で両手を振り、事情を説明した。すると彼女は”瀬川”という言葉に反応し、深い笑みを見せる。
「あぁ、瀬川様のお連れ様でしたか! 瀬川様なら個室で待っておられますよ。――ご案内します」
恭しくお辞儀してから彼女は朔太郎を連れて奥へと進む。この居酒屋はまるで料亭のようだと朔太郎はふと感じた。
ガラリッ、閉じられていた引き戸が彼女によって開かれた。男は飲み物を飲みながら待っていたようだった。
「おぉ、よく来たな。女将、あとは俺に任せろ」
「はいはい。それでご注文は?」
「生中を2つ……で、良いよな? ”てんし”くん?」
男は、――瀬川 來斗は悪戯な顔をして伺った。まるで挑発に乗って来るかというような態度だ。朔太郎は少し不機嫌になる。
「……天使、あまつかって読むんです! あと、その……ビールで、良いです」
「あっそ。じゃあ女将、あとはおすすめをテキトーに持ってきて」
「はいはい。まったく瀬川さんは横暴なんだからぁ」
だが嬉しそうな顔をして去ってしまう女将に朔太郎は呆然と見やった。やはり奇麗で美しい人だな……などと感じてしまう。
瀬川が氷の入った飲み物を少し飲んだ。
「ふーん。てんしくんって、熟女好き? やめとけ。女将はべらぼうに別嬪だけど、息子が三人いるぜ?」
舐め腐ったような笑みを見せる瀬川に朔太郎は吹き出してしまう。
「べ、べっつにっ! そんなわけじゃありませんっ! 人を変態みたいに――」
「どうでも良いけど、早く中に入れば? 個室の意味なくなるだろ?」
挑発的な瀬川に朔太郎は内心で舌打ちを打つ。だが、彼には恩義がある。しかも、ご丁寧に職場にメールまで寄こしたぐらいだ。
ここで拒めば自分の失態が暴かれる――――
「わかりましたよっ! ……自分だって、ウーロンハイ飲んでいるのに」
「これはただのウーロン茶。お前に気ぃ遣ってやったんだよ。なんならあれか? 煙草も吸って良いってか?」
「別に良いですよ。俺も喫煙者ですし」
朔太郎が言葉を発した途端、瀬川はきょとんとした顔を見せたかと思えば肩を震わせて笑っていた。嘲笑するような笑い方に朔太郎は苛立ちを見せる。だが、ここで引いては男が廃る。
(ここは勝負だっ! 我慢勝負だっ!)
「……お邪魔、します」
朔太郎は襖を閉めて椅子に腰かけた。ひとしきり笑い終えた瀬川は胸ポケットから煙草を1本取り出す。煙草はキャスターマイルドであった。
「ははっ、まさか可愛い顔立ちして喫煙者……とはねぇ~……」
薄ら笑みを見せ、紫煙を燻らせる男前な瀬川に朔太郎は挑むように視線を合わせた。
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