エンジェルはクズ野郎に射止められた!

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
7 / 44

《白状の白旗》

しおりを挟む
 重厚感のある漆塗りのテーブルはヒビ割れ一つもない。自分が通っているチェーン店の居酒屋はこんな大層な雰囲気でもない。それでも優雅にキャスターマイルドを旨そうに吸っているこの瀬川という男に朔太郎は昨日と違う感覚を得た。
 瀬川が灰皿に煙草を押し付けた。すると女将がビールと突き出しに料理を運んできた。
「はい、生中お二つに突き出しと、先にマグロの三点盛りです。あと、ポテトサラダ」
「最近、マグロが豊漁らしいもんな。サンキュー」
「いえいえ」
 それから襖を再度閉ざして、二人っきりの空間になる。瀬川がジョッキのビールを掲げた。
「まぁ、まずは乾杯な。はーい、かんぱーい!」
「かんぱい……です」
 恐々としてビールを流し込んだ。キンキンに冷えているからか、上等なビールだから分からぬが、――やけにうまい。クセがなく、だが深みのある味わいであった。
「おいしい……です」
「ほぉ、それは良かったな。本当はお前に請求してやりたいぐらいだが、今回は俺が誘ったからな。存分に飲んで食え」
「あ、は、はい! ありがとうございますっ!」
 深々と頭を下げる朔太郎に瀬川は口元に笑みを見せた。やけに笑う男だと朔太郎はふと感じた。瀬川が突き出しの里芋の煮物を食べながら話し始める。
「そ~んで? てんしくんは、昨日、なんで路上で吐くまで酔っていたわけ?」
「え、それ言うんですか? 藍斗から聞いていないんですか?」
 朔太郎も里芋の煮物を食む。ほっくりとした柔らかさにだしが染みて身体に沁みわたる。
「おいしいっ! うまぁ~……」
 幸せそうに頬張る朔太郎に瀬川はふっと綻んで、自身の突き出しを渡した。首を傾げる朔太郎にそれでも彼は笑みを浮かべる。
「やるよ。あんたのその可愛い顔見られるなら儲けだ」
「……俺はかわいくないですよ。でも、あの、――ありがとう、ございます」
 突き出しを貰い食んでいく朔太郎に、今度はポテトサラダを口にした瀬川は言葉を紡ぐ。
「俺は藍斗に嫌われてんからなぁ~。だからてんしくんのことも初めて聞いたよ」
「えっ! そ、そうだったんですか……。知らなかった……」
「――あいつ、こんな上玉隠しやがって」
 瀬川が小声で呟いたようだが朔太郎は聞き逃したようだ。突き出しを食べ終えてビールを一息飲んでから、ことの成り行きを喋る。
「えっと、その、彼女にフラれたんで藍斗に付き合ってもらっていたんです」
「ふ~ん。路上でゲロするほど好きだったのか?」
「それは、その……、またやっちゃったなぁ、みたい、な……」
「またって、どういう意味だよ? もしかしてフラれまくっていんのか?」
 瀬川の揶揄する言葉に多少なりとも憤りは感じたが、朔太郎は少し頷いた。すると今度は吐き出すように瀬川が紡ぐ。
「ゲロ出すほど好きって、どんだけ好きなんだよ。もしかしてあれか? 女のセックスがうまいとかそういうのか?」
「せっ、そ、そういうのはしたことないですっっ」
「……はぁ?」
 言ってしまったという朔太郎に興味を刺激された瀬川は前のめりになっていた。その企んだような笑みと瞳は、朔太郎を混乱に移されそうになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。 滅びかけた未来。 最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。 「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。 けれど。 血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。 冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。 それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。 終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。 命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...