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《こーしても、わかんない?》
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じりじりと近づきつつある二人の距離に朔太郎は不思議に感じた。瀬川が今、何をしようとしているのかさえわからないのだ。
瀬川の右手が朔太郎の肩に置かれ、強く引き込まれる。まるで抱き締められているかのようだった。それから朔太郎の耳元で囁く。
「こーしても、わかんない?」
どういう対応をすれば良いのか朔太郎はためらった。どうして瀬川が茶化すような態度を取るのかが、朔太郎には不思議で堪らない。
「あの……、離して、ください。その、――煙草臭い」
自分も喫煙者であるというのに、朔太郎は瀬川を軽く押し返した。瀬川は素っ頓狂な顔をしたかと思えば吹き出すように笑む。
「ははっ。そっか、てんしくんには通用しないか!」
「?? なにが、ですか?」
「まぁいいや。メシが冷めちまう。食おうぜ?」
「あ、はい……」
自分の席に戻った瀬川がチャーハンをよそい、朔太郎へ渡した。朔太郎が会釈して食べ進める。揶揄っている様子の瀬川ではあるが、話してみると案外、高給取りなのが判明した。
「へぇ~。デザイン会社の責任者さん! すごいですね! やっぱり下請けとかするんですか?」
「まぁ、俺はデザイナーさんをまとめ上げて指揮を執る感じだからなぁ。ほとんど部下がやってくれるけど、やっぱり、ハンデを持っているデザイナーも居るから、そういう時は俺が引き継いでその方と接点を持っているな」
「ハンディキャップって、たとえば知的とか身体に障害がある方……とかですか?」
「よく知っているな。まぁ、でもたまーに精神疾患の方もいらっしゃるんだ。たとえハンディキャップがあっても、立派なデザイナーには違いねぇ」
食事を食べ終えて二人して煙草を燻らせる。朔太郎はアイコスだった。ちなみに今日のフレーバーはミントとグレープである。
朔太郎は瀬川が高給取りだからではなく、自分と同じハンディキャップを持っている人間と関わっていることに深く感心した。しかも、普通の人間のように接している。人それぞれだが、やはり皆、ハンディキャップを抱えている人間はそれさえなくなれば普通の人間……健常者なのだ。
ただ、人よりクセがあったり、真面目すぎたり、逆に優しすぎたり……度が過ぎているのがハンディキャップなのかもしれない。身体はわからないが、知的や精神はそのような人間が多いのだ。だがそれでも、普通に働ける権利を持っているのだ。避けるべき存在ではない。
朔太郎は煙草を吸い終えて瀬川へ微笑んだ。瀬川は甘い顔立ちで幼い朔太郎の笑顔に目を見張った。そんなことなど知らない朔太郎は言葉を綴らせる。
「俺、瀬川さんと出会えて良かったです! 瀬川さんって会った時から優しかったですもんね。意地悪なところもあるけれど、俺はそんな瀬川さんが大好きです」
最後の言葉は友人としての言葉であった。藍斗に絡み酒をした際によく伝える言葉である。
「ふーん……」
だが瀬川は違うようだ。瀬川は煙草を灰皿に押し付けてから、狼のような獰猛さと虎のように鋭い瞳で朔太郎の胸元を右手で掴み上げる。
「お前、そんな簡単な言葉は人に吐けるのな」
「え、ちょ……?」
瀬川の鋭い目元が近づき、きめ細やかな肌が近くまで目に焼き付く。それで触れた先は、――唇であった。しかも軽いリップ音を添えたかと思えば、そっと朔太郎の口内に忍び込ませたのだ。
瀬川の右手が朔太郎の肩に置かれ、強く引き込まれる。まるで抱き締められているかのようだった。それから朔太郎の耳元で囁く。
「こーしても、わかんない?」
どういう対応をすれば良いのか朔太郎はためらった。どうして瀬川が茶化すような態度を取るのかが、朔太郎には不思議で堪らない。
「あの……、離して、ください。その、――煙草臭い」
自分も喫煙者であるというのに、朔太郎は瀬川を軽く押し返した。瀬川は素っ頓狂な顔をしたかと思えば吹き出すように笑む。
「ははっ。そっか、てんしくんには通用しないか!」
「?? なにが、ですか?」
「まぁいいや。メシが冷めちまう。食おうぜ?」
「あ、はい……」
自分の席に戻った瀬川がチャーハンをよそい、朔太郎へ渡した。朔太郎が会釈して食べ進める。揶揄っている様子の瀬川ではあるが、話してみると案外、高給取りなのが判明した。
「へぇ~。デザイン会社の責任者さん! すごいですね! やっぱり下請けとかするんですか?」
「まぁ、俺はデザイナーさんをまとめ上げて指揮を執る感じだからなぁ。ほとんど部下がやってくれるけど、やっぱり、ハンデを持っているデザイナーも居るから、そういう時は俺が引き継いでその方と接点を持っているな」
「ハンディキャップって、たとえば知的とか身体に障害がある方……とかですか?」
「よく知っているな。まぁ、でもたまーに精神疾患の方もいらっしゃるんだ。たとえハンディキャップがあっても、立派なデザイナーには違いねぇ」
食事を食べ終えて二人して煙草を燻らせる。朔太郎はアイコスだった。ちなみに今日のフレーバーはミントとグレープである。
朔太郎は瀬川が高給取りだからではなく、自分と同じハンディキャップを持っている人間と関わっていることに深く感心した。しかも、普通の人間のように接している。人それぞれだが、やはり皆、ハンディキャップを抱えている人間はそれさえなくなれば普通の人間……健常者なのだ。
ただ、人よりクセがあったり、真面目すぎたり、逆に優しすぎたり……度が過ぎているのがハンディキャップなのかもしれない。身体はわからないが、知的や精神はそのような人間が多いのだ。だがそれでも、普通に働ける権利を持っているのだ。避けるべき存在ではない。
朔太郎は煙草を吸い終えて瀬川へ微笑んだ。瀬川は甘い顔立ちで幼い朔太郎の笑顔に目を見張った。そんなことなど知らない朔太郎は言葉を綴らせる。
「俺、瀬川さんと出会えて良かったです! 瀬川さんって会った時から優しかったですもんね。意地悪なところもあるけれど、俺はそんな瀬川さんが大好きです」
最後の言葉は友人としての言葉であった。藍斗に絡み酒をした際によく伝える言葉である。
「ふーん……」
だが瀬川は違うようだ。瀬川は煙草を灰皿に押し付けてから、狼のような獰猛さと虎のように鋭い瞳で朔太郎の胸元を右手で掴み上げる。
「お前、そんな簡単な言葉は人に吐けるのな」
「え、ちょ……?」
瀬川の鋭い目元が近づき、きめ細やかな肌が近くまで目に焼き付く。それで触れた先は、――唇であった。しかも軽いリップ音を添えたかと思えば、そっと朔太郎の口内に忍び込ませたのだ。
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