エンジェルはクズ野郎に射止められた!

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
9 / 44

《こーしても、わかんない?》

しおりを挟む
 じりじりと近づきつつある二人の距離に朔太郎は不思議に感じた。瀬川が今、何をしようとしているのかさえわからないのだ。
 瀬川の右手が朔太郎の肩に置かれ、強く引き込まれる。まるで抱き締められているかのようだった。それから朔太郎の耳元で囁く。
「こーしても、わかんない?」
 どういう対応をすれば良いのか朔太郎はためらった。どうして瀬川が茶化すような態度を取るのかが、朔太郎には不思議で堪らない。
「あの……、離して、ください。その、――煙草臭い」
 自分も喫煙者であるというのに、朔太郎は瀬川を軽く押し返した。瀬川は素っ頓狂な顔をしたかと思えば吹き出すように笑む。
「ははっ。そっか、てんしくんには通用しないか!」
「?? なにが、ですか?」
「まぁいいや。メシが冷めちまう。食おうぜ?」
「あ、はい……」
 自分の席に戻った瀬川がチャーハンをよそい、朔太郎へ渡した。朔太郎が会釈して食べ進める。揶揄っている様子の瀬川ではあるが、話してみると案外、高給取りなのが判明した。
「へぇ~。デザイン会社の責任者さん! すごいですね! やっぱり下請けとかするんですか?」
「まぁ、俺はデザイナーさんをまとめ上げて指揮を執る感じだからなぁ。ほとんど部下がやってくれるけど、やっぱり、ハンデを持っているデザイナーも居るから、そういう時は俺が引き継いでその方と接点を持っているな」
「ハンディキャップって、たとえば知的とか身体に障害がある方……とかですか?」
「よく知っているな。まぁ、でもたまーに精神疾患の方もいらっしゃるんだ。たとえハンディキャップがあっても、立派なデザイナーには違いねぇ」
 食事を食べ終えて二人して煙草を燻らせる。朔太郎はアイコスだった。ちなみに今日のフレーバーはミントとグレープである。
 朔太郎は瀬川が高給取りだからではなく、自分と同じハンディキャップを持っている人間と関わっていることに深く感心した。しかも、普通の人間のように接している。人それぞれだが、やはり皆、ハンディキャップを抱えている人間はそれさえなくなれば普通の人間……健常者なのだ。
 ただ、人よりクセがあったり、真面目すぎたり、逆に優しすぎたり……度が過ぎているのがハンディキャップなのかもしれない。身体はわからないが、知的や精神はそのような人間が多いのだ。だがそれでも、普通に働ける権利を持っているのだ。避けるべき存在ではない。
 朔太郎は煙草を吸い終えて瀬川へ微笑んだ。瀬川は甘い顔立ちで幼い朔太郎の笑顔に目を見張った。そんなことなど知らない朔太郎は言葉を綴らせる。
「俺、瀬川さんと出会えて良かったです! 瀬川さんって会った時から優しかったですもんね。意地悪なところもあるけれど、俺はそんな瀬川さんが大好きです」
 最後の言葉は友人としての言葉であった。藍斗に絡み酒をした際によく伝える言葉である。
「ふーん……」
 だが瀬川は違うようだ。瀬川は煙草を灰皿に押し付けてから、狼のような獰猛さと虎のように鋭い瞳で朔太郎の胸元を右手で掴み上げる。
「お前、そんな簡単な言葉は人に吐けるのな」
「え、ちょ……?」
 瀬川の鋭い目元が近づき、きめ細やかな肌が近くまで目に焼き付く。それで触れた先は、――唇であった。しかも軽いリップ音を添えたかと思えば、そっと朔太郎の口内に忍び込ませたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...