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《運命の歯車》
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夜空には自分を導く柔らかな満月が浮かんでいた。あの海で見た思い出が蘇りそうになる。――自分が光の世界へ舞い戻ってしまったあの日を。
「じゃあ、やりますよ」
「はいはい~」
月の光をふんだんに含ませた細かい水晶を水瓶の中に落とし込んで海月は自分自身を占う。ビル街に自宅があるおかげでそこまで暗くはない。しかも満月が出ているからか、自分の様相がよく見える。
だが不思議と自分自身に惨めさはない。当たり前だ。この光に導かれて、海月は海から這い出たのだ。――小さな異質な存在によって。
現在、海月はモグラが編み出した水面占いを実践している。水晶は邪気を払う。そして水を浄化させ、鏡のように自身の将来や過去を映し出させることができるのだ。
一種の水晶占いの強化版といったところであろう。これも特許を取得しているが十分に扱えるのは海月くらいしか居ないはずだ。
「う~ん。ケーキの後でも酒はうまいねぇ」
窓辺で冷酒を呑み、ミミズを食しているモグラを差し置いて海月は自身の将来を心中で占う。
水面に映像が浮かんできた。はじめはなにかわからなかったが次第に判明してくる。それはモグラと猛烈に伝わる炎だ。その炎は鳥の、それは大きな鳥の形をしている。――モグラと火の鳥が戦っている姿が見える。その光景はすさまじく激しいものであった。海月は普段の厳めしい顔を崩し、飛び上がる。
「これは……どういう?」
疑問の渦に呑まれた海月は最後のミミズを食し終えて冷酒を嗜むモグラへ訝しげな顔を見せた。「モグラさんと火の鳥……みたいな奴が戦っている姿が見えました」
「……ほぉ。なるほどね。――そういうわけね」
海月はどういうわけか納得している様子のモグラへ憤りと共にこんなことを思い始める。もしかして、もしかしてと――
「俺が海の供物だから、ですか? 奉納しなかったから、神が怒っているんですか?」
「まぁ十五年も食べられていなきゃ神々もさぞ不審がるだろうね」
モグラは痛くも痒くもないといった様子だ。だが、海月は納得がいかなかった。
「……どうして俺を助けたんですか。俺が金になるからですか? でもあなただって、俺を庇わなければ火の鳥に狙われることも、戦うこともなかったでしょうに。……俺は生きていても意味がないんです。だったら供物として、この身を捧げます」
海月の確固たる意志が伝わるがそれでもモグラは優雅に冷酒を掲げ「若いのに死に急ぐな」微笑んでは酒を呑む。
純米酒はミミズの酢漬けのあてには良いらしい。舌に痺れる感覚を覚えるのだという。
「俺は昔、お前のご先祖様と約束したんだ。自分の子孫に危機が訪れたら、守るようにって。俺は土を司り海さえも統べる者。――そうなれたのはお前のご先祖様方々のおかげなんだ」
「そんなの知ったこっちゃないですよ。俺は別にご先祖様に感謝なんてしていません。どうせ供物として生きていく運命なんです。……この世に未練がないうちに、死にたいんです」
モグラの傍らに寄り添う海月の黒い髪が揺れる。さらりとした直毛と希死念慮に駆られた鋭い瞳は揺れ動くものがあった。モグラは笑う。「……本当は怖いくせに」
「はっ……ってっ……!?」
モグラは座り込んでいる海月の頭をぐしゃぐしゃにした。黒髪は絹のような滑らかさを抱かせる。「あのさぁ……」驚いて目を見張る海月にモグラは安心させるような笑みを見せた。
「お前をカネヅルなんて思ったことはないし、供物として捧げなくても良かったなとも思っているよ。供物として捧げていたら、俺はお前のご先祖様との約束を反故する羽目になる」
「別にしても良いんですけどね」
「まぁまぁ。それに、俺だって火の鳥とは互角に戦えるぞ! 安心しろ。俺はただのモグラじゃない。なんせ海さえ泳げるモグラなんだから」
悪戯に微笑みながら瓶に入っていた冷酒が切れたことに気づいたようだ。「ビール呑も~っと!」なんて能天気な言葉で冷蔵庫へ踊りながらふらふらと歩く酔いどれモグラに、海月はモグラの翌朝を心配した。
「じゃあ、やりますよ」
「はいはい~」
月の光をふんだんに含ませた細かい水晶を水瓶の中に落とし込んで海月は自分自身を占う。ビル街に自宅があるおかげでそこまで暗くはない。しかも満月が出ているからか、自分の様相がよく見える。
だが不思議と自分自身に惨めさはない。当たり前だ。この光に導かれて、海月は海から這い出たのだ。――小さな異質な存在によって。
現在、海月はモグラが編み出した水面占いを実践している。水晶は邪気を払う。そして水を浄化させ、鏡のように自身の将来や過去を映し出させることができるのだ。
一種の水晶占いの強化版といったところであろう。これも特許を取得しているが十分に扱えるのは海月くらいしか居ないはずだ。
「う~ん。ケーキの後でも酒はうまいねぇ」
窓辺で冷酒を呑み、ミミズを食しているモグラを差し置いて海月は自身の将来を心中で占う。
水面に映像が浮かんできた。はじめはなにかわからなかったが次第に判明してくる。それはモグラと猛烈に伝わる炎だ。その炎は鳥の、それは大きな鳥の形をしている。――モグラと火の鳥が戦っている姿が見える。その光景はすさまじく激しいものであった。海月は普段の厳めしい顔を崩し、飛び上がる。
「これは……どういう?」
疑問の渦に呑まれた海月は最後のミミズを食し終えて冷酒を嗜むモグラへ訝しげな顔を見せた。「モグラさんと火の鳥……みたいな奴が戦っている姿が見えました」
「……ほぉ。なるほどね。――そういうわけね」
海月はどういうわけか納得している様子のモグラへ憤りと共にこんなことを思い始める。もしかして、もしかしてと――
「俺が海の供物だから、ですか? 奉納しなかったから、神が怒っているんですか?」
「まぁ十五年も食べられていなきゃ神々もさぞ不審がるだろうね」
モグラは痛くも痒くもないといった様子だ。だが、海月は納得がいかなかった。
「……どうして俺を助けたんですか。俺が金になるからですか? でもあなただって、俺を庇わなければ火の鳥に狙われることも、戦うこともなかったでしょうに。……俺は生きていても意味がないんです。だったら供物として、この身を捧げます」
海月の確固たる意志が伝わるがそれでもモグラは優雅に冷酒を掲げ「若いのに死に急ぐな」微笑んでは酒を呑む。
純米酒はミミズの酢漬けのあてには良いらしい。舌に痺れる感覚を覚えるのだという。
「俺は昔、お前のご先祖様と約束したんだ。自分の子孫に危機が訪れたら、守るようにって。俺は土を司り海さえも統べる者。――そうなれたのはお前のご先祖様方々のおかげなんだ」
「そんなの知ったこっちゃないですよ。俺は別にご先祖様に感謝なんてしていません。どうせ供物として生きていく運命なんです。……この世に未練がないうちに、死にたいんです」
モグラの傍らに寄り添う海月の黒い髪が揺れる。さらりとした直毛と希死念慮に駆られた鋭い瞳は揺れ動くものがあった。モグラは笑う。「……本当は怖いくせに」
「はっ……ってっ……!?」
モグラは座り込んでいる海月の頭をぐしゃぐしゃにした。黒髪は絹のような滑らかさを抱かせる。「あのさぁ……」驚いて目を見張る海月にモグラは安心させるような笑みを見せた。
「お前をカネヅルなんて思ったことはないし、供物として捧げなくても良かったなとも思っているよ。供物として捧げていたら、俺はお前のご先祖様との約束を反故する羽目になる」
「別にしても良いんですけどね」
「まぁまぁ。それに、俺だって火の鳥とは互角に戦えるぞ! 安心しろ。俺はただのモグラじゃない。なんせ海さえ泳げるモグラなんだから」
悪戯に微笑みながら瓶に入っていた冷酒が切れたことに気づいたようだ。「ビール呑も~っと!」なんて能天気な言葉で冷蔵庫へ踊りながらふらふらと歩く酔いどれモグラに、海月はモグラの翌朝を心配した。
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