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《火の神との対面》
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本店にて占いの営業をしていた海月ではあるが、モグラの言っている嫌な予感が気がかりで仕方がなかった。
「ありがとうございました」
海月は客の前では穏やかな笑みを浮かべていたが、そのなかに真剣みを帯びたモグラの表情は脳裏に焼き付く感覚を得ていた。
モグラは接客で爽やかな笑みを零しながら常連客と話している。だが海月は彼のあの笑みと言葉には自分が本当に人としての道を生きて良いのか疑う自分が居るのだ。
(俺は供物として食べられた方が良かったんじゃないか)
普段から思っていた海月ではあったがなんとなく今は言いたくなくて、席を立ちあがった。「休憩に行ってきます」それから外へと出た。
モグラは海月の暗い顔立ちをしかと見つめ常連客との話を切り上げて外を窺う。――すると色黒でまるでスポーツをしているかのような筋骨隆々の逞しい男が現れた。モグラはその存在をまるで知っていたかのようだ。その人物を来ることを予知していたかのようだ。
「よぉ、おでましかい」
「ふんっ、モグラなどに用はない」
男は席にどっかり座り込み、モグラを睨み上げた。するとモグラもニヒルに微笑んでいる。いつの間にか客たちは去っていた。モグラが『休憩中』という看板を出しておいたからだ。男が話を振る。
「ここに居るんだろう。海の供物はよ?」
「……ノーコメント」
静かにモグラは反撃をした。男はさらに舌打ちをする。普段は客に茶を出すモグラがもてなしをしないのは今日で最後かもしれない。
海月はベンチに腰かけていた。占いの本店はビル街にあるが歩けば海が近いので海月は海を眺めている。海は広くて雄大で、だが、ときに恐ろしさを感じる。自然の偉大さと言えば良いのだろうか。
「俺ってなんなんだよ。……生きていて良いのかよ?」
一人呟きため息を吐いて空を見上げた。空は夕日色に染まっており、学生であれば下校時間になるであろう。空と同様に海も赤く染まっていた。
海月はなんとなく商売道具のカードを見つめ占ってみた。カードをシャッフルし、ベンチに置いて掻き混ぜ三枚のカードを引き抜く。カードには双子の正十字とスペードの12と鳥の逆十字であった。
「スペードの12か……。スペードって勉強とか学問も司っているけれど――死ぬ運命も司っているんだよな」
火の神が近づいているのかもしれないと供物として仕方のないことなのかもしれないなと思うことにした。
海月は希死念慮というのはそこまではないが、自分は生きても良いのかと思う癖がある。本来ならば名前も顔も知らぬが海の供物として捧げられ、自分は居ない存在として世界は回っていたのだ。
どうして供物が必要なのかはわからない。昔、興味本位でモグラへ聞いてことがあったが彼はひどく冷めた表情で「人間と神のエゴだよ」と言って高校生くらいの海月を強く抱き締めてくれた。あのぬくもりも、モグラの悲哀に満ちた顔も今でも忘れていない。
自分に希死念慮があまりないのは、モグラが浴びるほど愛情を注いでくれたからだと思う。しかし逆に、死ぬ運命だった人間にそこまで優しくしないで欲しい自分も居た。しかしそんなことを言ったらモグラは泣くだろうと思っていつも黙っている。モグラが泣く姿など、初めて助けてもらったときから見ていない。もしかしたら自分がモグラを泣かせたくなかったのかもしれない。……あんな辛そうなモグラを、二度と見たくなかったから。
カードを見つめ双子の正十字と鳥の逆十字を見つめる。……その時ふと思い出した。あのとき、あの場所で占ったときだ。仁田の家族の前で占ったときのことを瞬時に想起した。
「まさか……あの双子、三重くんと甲斐くんが俺のせいで火の鳥に襲われるんじゃ……」
自分だけならまだ良い。だが人を巻き込むのは言語道断だ。
「モグラさんに知らせなくちゃっ!」
海月はベンチに置いたカードをすべて仕舞い込み立ち上がる。そんなときにだ。
「あ、海月じゃん! こんなところにいた!」
「海月さ~ん、占い見てもらいたくて来ましたっ」
振り向けば、海月を探していた様子の三重と丁寧にお辞儀をする甲斐が居るではないか。驚いた海月は学校帰りで立ち寄ろうとした二人の手を取り、走り出した。
「ちょっ、どうしたんだよ急に! 占いしてくれんだろ!」
「占いはするけどここじゃ危ないっていうのが出たんだ。……君たちを巻き込むかもしれない!」
「はぁっ? なに言ってんだよ急に」
三重のツリ目が上がるが気にせずに海月は本店へと走りだし、到着した。
「モグラさん!! さっき占いで嫌なことが起きるって……」
口を噤んだのはモグラが大男と対峙していたからだ。厳しそうな顔つきで真紅の髪を振り乱し、肉体美を露わにした浴衣姿の男は海月を見て、したり顔をして笑った。
「いるじゃねぇか海のモグラよ。ここに絶品に育った供物が」
海月はわかった。火の神だと脳が言っていた。だがそれでも負けずに海月はなにも知らない様子の双子の前に出た。
「ありがとうございました」
海月は客の前では穏やかな笑みを浮かべていたが、そのなかに真剣みを帯びたモグラの表情は脳裏に焼き付く感覚を得ていた。
モグラは接客で爽やかな笑みを零しながら常連客と話している。だが海月は彼のあの笑みと言葉には自分が本当に人としての道を生きて良いのか疑う自分が居るのだ。
(俺は供物として食べられた方が良かったんじゃないか)
普段から思っていた海月ではあったがなんとなく今は言いたくなくて、席を立ちあがった。「休憩に行ってきます」それから外へと出た。
モグラは海月の暗い顔立ちをしかと見つめ常連客との話を切り上げて外を窺う。――すると色黒でまるでスポーツをしているかのような筋骨隆々の逞しい男が現れた。モグラはその存在をまるで知っていたかのようだ。その人物を来ることを予知していたかのようだ。
「よぉ、おでましかい」
「ふんっ、モグラなどに用はない」
男は席にどっかり座り込み、モグラを睨み上げた。するとモグラもニヒルに微笑んでいる。いつの間にか客たちは去っていた。モグラが『休憩中』という看板を出しておいたからだ。男が話を振る。
「ここに居るんだろう。海の供物はよ?」
「……ノーコメント」
静かにモグラは反撃をした。男はさらに舌打ちをする。普段は客に茶を出すモグラがもてなしをしないのは今日で最後かもしれない。
海月はベンチに腰かけていた。占いの本店はビル街にあるが歩けば海が近いので海月は海を眺めている。海は広くて雄大で、だが、ときに恐ろしさを感じる。自然の偉大さと言えば良いのだろうか。
「俺ってなんなんだよ。……生きていて良いのかよ?」
一人呟きため息を吐いて空を見上げた。空は夕日色に染まっており、学生であれば下校時間になるであろう。空と同様に海も赤く染まっていた。
海月はなんとなく商売道具のカードを見つめ占ってみた。カードをシャッフルし、ベンチに置いて掻き混ぜ三枚のカードを引き抜く。カードには双子の正十字とスペードの12と鳥の逆十字であった。
「スペードの12か……。スペードって勉強とか学問も司っているけれど――死ぬ運命も司っているんだよな」
火の神が近づいているのかもしれないと供物として仕方のないことなのかもしれないなと思うことにした。
海月は希死念慮というのはそこまではないが、自分は生きても良いのかと思う癖がある。本来ならば名前も顔も知らぬが海の供物として捧げられ、自分は居ない存在として世界は回っていたのだ。
どうして供物が必要なのかはわからない。昔、興味本位でモグラへ聞いてことがあったが彼はひどく冷めた表情で「人間と神のエゴだよ」と言って高校生くらいの海月を強く抱き締めてくれた。あのぬくもりも、モグラの悲哀に満ちた顔も今でも忘れていない。
自分に希死念慮があまりないのは、モグラが浴びるほど愛情を注いでくれたからだと思う。しかし逆に、死ぬ運命だった人間にそこまで優しくしないで欲しい自分も居た。しかしそんなことを言ったらモグラは泣くだろうと思っていつも黙っている。モグラが泣く姿など、初めて助けてもらったときから見ていない。もしかしたら自分がモグラを泣かせたくなかったのかもしれない。……あんな辛そうなモグラを、二度と見たくなかったから。
カードを見つめ双子の正十字と鳥の逆十字を見つめる。……その時ふと思い出した。あのとき、あの場所で占ったときだ。仁田の家族の前で占ったときのことを瞬時に想起した。
「まさか……あの双子、三重くんと甲斐くんが俺のせいで火の鳥に襲われるんじゃ……」
自分だけならまだ良い。だが人を巻き込むのは言語道断だ。
「モグラさんに知らせなくちゃっ!」
海月はベンチに置いたカードをすべて仕舞い込み立ち上がる。そんなときにだ。
「あ、海月じゃん! こんなところにいた!」
「海月さ~ん、占い見てもらいたくて来ましたっ」
振り向けば、海月を探していた様子の三重と丁寧にお辞儀をする甲斐が居るではないか。驚いた海月は学校帰りで立ち寄ろうとした二人の手を取り、走り出した。
「ちょっ、どうしたんだよ急に! 占いしてくれんだろ!」
「占いはするけどここじゃ危ないっていうのが出たんだ。……君たちを巻き込むかもしれない!」
「はぁっ? なに言ってんだよ急に」
三重のツリ目が上がるが気にせずに海月は本店へと走りだし、到着した。
「モグラさん!! さっき占いで嫌なことが起きるって……」
口を噤んだのはモグラが大男と対峙していたからだ。厳しそうな顔つきで真紅の髪を振り乱し、肉体美を露わにした浴衣姿の男は海月を見て、したり顔をして笑った。
「いるじゃねぇか海のモグラよ。ここに絶品に育った供物が」
海月はわかった。火の神だと脳が言っていた。だがそれでも負けずに海月はなにも知らない様子の双子の前に出た。
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