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《あの人に似ている》
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だがそんな海月の優しさなど知らぬように、楓は新緑の瞳をさらに鋭くさせた。
「なによっ、供物の分際で! あたしは木の神イチ隷属のしかもっ、右腕なのよ? あんたみたいな正体不明な奴の下僕になんかなりたくないわ!」
海月は肩を落とす。「えー……。でも、支配下に置かないと俺を供物にするんじゃないですか」
「当たり前でしょ、そんなことっ! 供物として生きて死ぬのが本望じゃない。そんなことも知らずにのうのうと生きていてなんだと思ってんの?」
「おい、女。くだらねぇこと言うな、馬鹿」
「あんたは口を挟まないでよ、この茶髪馬鹿!」
「なんだと……?」
「二人ともやめなよ~」
フォローをしようとしてくれた三重のツリ目がさらに吊り上がり、女相手でも容赦しねぇぞというような雰囲気を醸し出している。
さすがに甲斐が止めに掛かるが、モグラが息を漏らした。「海月。仕方がないけれど、火実を人間の姿に戻して」命令を下したのだ。
海月はげんなりした。モグラだからこそ素直になれるのである。
「えっ、……火実さんの人間の姿ってむさ苦しいじゃないですか。それに襲われたら嫌ですし」
「俺はむさ苦しくないぞ!」
「まぁまぁ。海月の支配下にあるし、ちゃんと襲わないようにって命令を下せば食べられることはないから。……ちなみに性的な意味でも通じるよ?」
「俺を変態にするなっ、アホモグラ!」
ひそかに罵倒するモグラではあるが意味が通じていない純粋な海月は彼の言った通りにした。
「火実、俺を襲わないで。――元の姿に戻ってください」
ニワトリが瞬いたかと思えば、呆気に取られている双子の前に大男が顕現した。鮮やかな赤い髪と色黒で筋肉質な肌を魅せつけるような露出のある着流しを着た男――火実こと火の神が再び人間の姿になれたのだ。
「ふぅ。やっと元に戻れたか」
「なっ、なっ、あっ……火の神さま!???」
楓は瞳を瞬かせて急いで火実の前に跪く。「申し訳ありませんでした!」そう謝罪をしたのち弁明を図った。
「あの……、まさか火の神さまがニワトリになっているとは思わなかったんです! あんな滑稽で神らしくない、うるさい鳥だなと思ってしまって……本当に申し訳ありませんでした!」
「……娘。お前、密かに侮辱しているよな?」
「まぁまぁいいじゃん火実~。お前、本当にうっさいニワトリだしさ」
「馬鹿なモグラには言われたくなどない」
「うるさいおっさんに言われたくないね」
火花が飛び散り火実はモグラの胸倉を掴み上げようとすれば、モグラはしたたかに微笑んだ。火実は首を傾けた。
「なに笑っている?」
「なんでって……、海月。――火実をニワトリに戻して」
「あ、はい」
「あ、待て、おいっ!??」
海月がしれっとした顔で火実をニワトリの姿として言い渡せば、情けないニワトリの姿になってしまった。
すると鳴き声を上げてモグラにライダーキックをかましまくるので、モグラはニヤつきながら火実を掴み上げて三重と甲斐の元に戻す。双子は同時に大輪の花のように笑った。
「やっぱり火実はこの姿じゃないとな!」
「そうだよ~。火実さんはこの姿の方が可愛いです。あんなむさ苦しいおじさんの姿より、こっちの方がかっこよくて可愛いですよ~」
「そう思うよな、甲斐?」
「うん、兄さん」
「……二人で納得するなっ!!!」
だが双子にモフられて内心では安心している様子の火実であった。
「なっ、なっ、……なんなのよぉ?」
火実がニワトリだったとわかり、当惑するばかりの楓であるが、ふと爽やかに微笑んでいるモグラを見た。じっと凝視をする姿にモグラは振り向いた。「なんか付いてる?」するとモグラは自身の頬をさして双子に撫でられいる火実へ向ける。
「火実にフン付けられたかな~? やめてよ、俺の顔に付けるの」
「付け取らんわ!!!」
だが楓はそれでもじっと見つめた。「……似てる。あの人に」
「ん? あの人って?」
楓が息を呑み込んだ。「海の……神さまに」
「――えっ」
今度は海月が当惑した。海の神は自分が供物として捧げるはずの相手だ。それが助けてくれたモグラと似ているなんてにわかに信じられない。
「モ、モグラ……さん……に?」
「それはまっったくの別人だよ。俺に似ているなんて根拠があるの?」
「あたしは下界に降りる前に海の神さまへ言葉を掛けられたわ。あの方の方が神々しいし、もっと端正な顔立ちだし、穏やかだけれど俺様感あるし……」
「じゃあ違うんじゃないの?」
でも……と続けて楓は再びモグラを凝視した。
「やっぱり似ている、というよりそっくり……。どういうこと?」
楓の言葉を海月は疑った。自分を助けて本当の子供のように育ててくれた恩師が、自分の命を狙う神と酷似しているなんて思いもしなかった。
「モグラさん、――どういうことですか」
真剣な表情を見せる海月ではあるがモグラは一瞬だけ悲哀を漂わせる表情を見せてから、彼の頭をポンと優しく触れた。
「大丈夫だよ。なにも関係がないから」
「関係がないって……」
「それよりも三重と甲斐にはお礼をしないとだね~。助けてくれたんだもん。このお礼は果たさないとね」
また軽く微笑んで話を逸らすモグラに海月は文句を募らせるが、押し黙った。
(どうしてなにも言わないんですか。モグラさん)
モグラは軽快に笑いながら火実を抱いている三重と甲斐に話を振っていたのであった。
「なによっ、供物の分際で! あたしは木の神イチ隷属のしかもっ、右腕なのよ? あんたみたいな正体不明な奴の下僕になんかなりたくないわ!」
海月は肩を落とす。「えー……。でも、支配下に置かないと俺を供物にするんじゃないですか」
「当たり前でしょ、そんなことっ! 供物として生きて死ぬのが本望じゃない。そんなことも知らずにのうのうと生きていてなんだと思ってんの?」
「おい、女。くだらねぇこと言うな、馬鹿」
「あんたは口を挟まないでよ、この茶髪馬鹿!」
「なんだと……?」
「二人ともやめなよ~」
フォローをしようとしてくれた三重のツリ目がさらに吊り上がり、女相手でも容赦しねぇぞというような雰囲気を醸し出している。
さすがに甲斐が止めに掛かるが、モグラが息を漏らした。「海月。仕方がないけれど、火実を人間の姿に戻して」命令を下したのだ。
海月はげんなりした。モグラだからこそ素直になれるのである。
「えっ、……火実さんの人間の姿ってむさ苦しいじゃないですか。それに襲われたら嫌ですし」
「俺はむさ苦しくないぞ!」
「まぁまぁ。海月の支配下にあるし、ちゃんと襲わないようにって命令を下せば食べられることはないから。……ちなみに性的な意味でも通じるよ?」
「俺を変態にするなっ、アホモグラ!」
ひそかに罵倒するモグラではあるが意味が通じていない純粋な海月は彼の言った通りにした。
「火実、俺を襲わないで。――元の姿に戻ってください」
ニワトリが瞬いたかと思えば、呆気に取られている双子の前に大男が顕現した。鮮やかな赤い髪と色黒で筋肉質な肌を魅せつけるような露出のある着流しを着た男――火実こと火の神が再び人間の姿になれたのだ。
「ふぅ。やっと元に戻れたか」
「なっ、なっ、あっ……火の神さま!???」
楓は瞳を瞬かせて急いで火実の前に跪く。「申し訳ありませんでした!」そう謝罪をしたのち弁明を図った。
「あの……、まさか火の神さまがニワトリになっているとは思わなかったんです! あんな滑稽で神らしくない、うるさい鳥だなと思ってしまって……本当に申し訳ありませんでした!」
「……娘。お前、密かに侮辱しているよな?」
「まぁまぁいいじゃん火実~。お前、本当にうっさいニワトリだしさ」
「馬鹿なモグラには言われたくなどない」
「うるさいおっさんに言われたくないね」
火花が飛び散り火実はモグラの胸倉を掴み上げようとすれば、モグラはしたたかに微笑んだ。火実は首を傾けた。
「なに笑っている?」
「なんでって……、海月。――火実をニワトリに戻して」
「あ、はい」
「あ、待て、おいっ!??」
海月がしれっとした顔で火実をニワトリの姿として言い渡せば、情けないニワトリの姿になってしまった。
すると鳴き声を上げてモグラにライダーキックをかましまくるので、モグラはニヤつきながら火実を掴み上げて三重と甲斐の元に戻す。双子は同時に大輪の花のように笑った。
「やっぱり火実はこの姿じゃないとな!」
「そうだよ~。火実さんはこの姿の方が可愛いです。あんなむさ苦しいおじさんの姿より、こっちの方がかっこよくて可愛いですよ~」
「そう思うよな、甲斐?」
「うん、兄さん」
「……二人で納得するなっ!!!」
だが双子にモフられて内心では安心している様子の火実であった。
「なっ、なっ、……なんなのよぉ?」
火実がニワトリだったとわかり、当惑するばかりの楓であるが、ふと爽やかに微笑んでいるモグラを見た。じっと凝視をする姿にモグラは振り向いた。「なんか付いてる?」するとモグラは自身の頬をさして双子に撫でられいる火実へ向ける。
「火実にフン付けられたかな~? やめてよ、俺の顔に付けるの」
「付け取らんわ!!!」
だが楓はそれでもじっと見つめた。「……似てる。あの人に」
「ん? あの人って?」
楓が息を呑み込んだ。「海の……神さまに」
「――えっ」
今度は海月が当惑した。海の神は自分が供物として捧げるはずの相手だ。それが助けてくれたモグラと似ているなんてにわかに信じられない。
「モ、モグラ……さん……に?」
「それはまっったくの別人だよ。俺に似ているなんて根拠があるの?」
「あたしは下界に降りる前に海の神さまへ言葉を掛けられたわ。あの方の方が神々しいし、もっと端正な顔立ちだし、穏やかだけれど俺様感あるし……」
「じゃあ違うんじゃないの?」
でも……と続けて楓は再びモグラを凝視した。
「やっぱり似ている、というよりそっくり……。どういうこと?」
楓の言葉を海月は疑った。自分を助けて本当の子供のように育ててくれた恩師が、自分の命を狙う神と酷似しているなんて思いもしなかった。
「モグラさん、――どういうことですか」
真剣な表情を見せる海月ではあるがモグラは一瞬だけ悲哀を漂わせる表情を見せてから、彼の頭をポンと優しく触れた。
「大丈夫だよ。なにも関係がないから」
「関係がないって……」
「それよりも三重と甲斐にはお礼をしないとだね~。助けてくれたんだもん。このお礼は果たさないとね」
また軽く微笑んで話を逸らすモグラに海月は文句を募らせるが、押し黙った。
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モグラは軽快に笑いながら火実を抱いている三重と甲斐に話を振っていたのであった。
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