書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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44.俺はあなた達とは戦えない。

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 枢要の罪に囲まれ豊は恐怖心を抱いてはいるものの、リィナと意思疎通リンクしているおかげでなんとか平静を保てられた。やはり相棒パートナーの存在は大きい。そんな彼にリィナは心配をするように声を掛ける。

『どうする? このままの状態じゃ、枢要の罪と協定を結ぶなんて不可能だぞ?』

『……』

『志郎?』

 気に掛けるリィナに豊は返答せずに驚くべき行動に出た。
 ―なんとデータベースからリィナを人間の姿に戻したのである。

「…志郎!??」

 驚いている様子のリィナに彼は敵視されている枢要の罪…特にアリディルに向けて両手を挙げた。…降参のポーズかと普通は思うが、彼は違う。これは彼が…豊が革命を起こそうとしている契機であった。

「俺はあなた達と戦うつもりはまったくありません。…というより、俺はあなた達には勝てないでしょう。…戦うにしても、そしたら俺は何度も死んで…それでリィナを苦しめるだけですし。…それに、あなた達と分かつことなく朽ち果てるだけだろうから」

「…なるほど。ジェシー、いや。ルークさんから聞いている通り変わった青年ですね。”書物”に気を遣うなんて…本当に変わった方なんですね。あなたは」

 そしてアリディルは勝ち誇ったように微笑んで豊に尋ねた。

「…じゃあ戦うのではなく、降参しに来たと。…だから協定を結ぶわけでは無く、僕達に屈すると?」

 しかし彼はその言葉に上書きするように自身の願望を添えたのである。…その言葉は、普段であれば滅多に怒ることのないルークの恩師が憤りを感じてしまうほど。
 ―その甘ったれた正義を振りかざして。

「それは違います。司書官から伝えられておりませんか? …俺はあなた達と”協定”を結びに来ました。利害関係だけの、ただの協定ではありません」

「…はい?」

 何を言っているのだと顔に出すアリディルに、豊は断言した。…自身の望んでいる世界の為に。

「…”書物”と”人間”がような、そんな平和協定を結ぶ為に、俺はここに来たんです」

 という言葉にアリディルことディルは苦痛に耐えられぬほどの怒りを表した。その表情は彼とよく一緒に居るチオロサアドことアドでさえも驚愕してしまうほどだ。だから彼は怒りに震え、自分の仲間である書物のライグンを抱き締めるディルに気を遣うように声掛けをする。

「ディル、どうした? ライグンを昏睡させたコイツが悪いのも分かるけど…お前らしくな―」

「アドは黙って。…僕はルークさんから聞いている、この可笑おかしな人間に尋ねたいんですよ。…そんな簡単なことが言える馬鹿な人間にね」

「……ディル?」

 普段よりも顔の表情が強張っているディルは少々怯えてはいるが自身の意見を屈しない豊に向けて指差した。…差された先は眠っているのかのか不明の少女…小夜。だから豊は彼に問い掛けた。

「…小夜は生きているんですか? 俺があなたを怒らせておいて図々しいのは承知ですが、小夜は―」

「安心して下さい。彼女は生きてます。

?」

「えぇ。なぜなら…”指数”が生きていないと、僕達はここに居ませんから。…いいえ。彼女が生きていなければ、あなたの相棒パートナーである”反魂”の書や他の”書物”でさえも生きては居ないでしょうね。…ただ利用をされるとしては生きてるでしょうけど」

「…ですか?」

 豊の疑問にディルは怪訝な表情をした。そこまで言わせるかと憎悪に塗れた顔つきに豊は喉元から声を出してしまう。だがそれでも彼は説明をした。

「そうです。…だから身勝手な人間は僕達枢要の罪を恐れるのですよ。…”指数”が現れた時、僕達が再び、完全体として復活をすれば、また”戦争”が起きると危惧されていますからね」

 …どうしてそんなことに? なぜ戦争に発展するんだ?

 しかしその答えはディルが怒鳴るような声で叫んでいた。まるで人間の身勝手さを謳うように。その悲痛さは豊を圧倒させてしまうほどにはちょうど良いものであった。

「人間が身勝手だからですよ! ”書物”の力の欲しさに嫉み、疎み…さらには”意志”を持ってしまえばとしては扱いにくいですからね。…だから身勝手な人間は、僕達…”書物”の力だけを使う為だけに。利用する為だけに!!! 僕達を何度も何度も、酷いじゃ済まされないくらいの行為をしてきたんです!!!! …それを許せというんですか?」

 温和で優しいディルらしくない怒り方にアドは戸惑い、マリーは首を傾げ…リッチは可笑しそうに嘲笑う。だがそんな普段の彼を知らない豊は恐れ多いが誤解を解こうとするが…。

「…それはその、酷いとは思いますが、俺はそんなんじゃなく―」

「言ったでしょう? じゃ済まされないほどの行為を、まるで奴隷のような扱いをされたのを」

「だからその為に平和協定を結ぼうと―」

「…何も分かっていらっしゃらないあなたと、協定を結ぶつもりはありません。…ジェシーが何度も通信をしてきた時には、何度もをしてきた時には、僅かな希望を感じましたが…残念ですよ」

 怒り慣れていないのあろう。疲れた様子のディルは怒鳴りつけた相手の豊へすさむ様な視線を送った。
 ―だがそれでも彼は諦めない。

「…どうすれば、あなたの心を癒せますか。どう配慮をして”書物”と向き合えれば…あなた達は、平和協定を結んで頂けますか?」

 そして彼は疲弊しているディルへ近づきながら問い掛ける。どんなに怒鳴られても豊の気持ちは変わらない。
 ―自分の気持ちを、”書物”という存在と向き合う為。彼は協定を結びたいから。

「俺は本当に”書物”と分かち合いたいんです。だからリィナを武器にしないと誓えます」

「……」

「お願いします。俺は本当に”書物”と向き合う為に―」

 そう言いかけた豊にディルは疲れ切った顔をしたまま彼に手を向けた。すると今まで黙っていたリィナが悪寒を感じたので、豊からその場を離れるように言おうとした…その瞬間。

「…Dream sleep眠れ、そして…Blood tear`s mirror血の涙の鏡を、かの者に与えよ」

 か細い声の中に憎悪が入り交ざるようなディルの悪意ある魔術により、豊は彼と握手をしようとしていた右手が零れ落ちては崩れた。

 ―――ドサッ…。

「志郎? シロウ…!!!?」

 すぐさま駆け寄っては自分よりも重たい豊を何とか抱き上げるリィナ。しかし不思議と彼の身体は酷く冷たく、まるで死人のように動かないのだ。

「志郎に何をした!!! 返答次第では…志郎には……、には悪いが救援を呼ばせてもらう」

「えぇ。構いませんよ。…そしたら救援を呼ばれる前に―」

 ―あなたには新たな”指数”になってもらいます。

「…な!??」

 驚く様子のリィナに今度はリッチが突然、彼女の両脇を抱えてはいやらしげに笑っていた。しかしリィナだって抵抗は出来る。

「はなっ…せ!!」

 暴れては彼の拘束を解き、自身が嵌めている金の腕時計へ応援を要請したのだ。
 ―豊が死んだかもしれない!!
 …そう悲痛な声で叫んだ。
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